不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その46

 本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例かと思ったのですが、よくよく読んでいくと、事業承継事例における会社を買った者と会社の元経営者との紛争事例でした。元従業員と会社(新たなオーナー)との紛争事例とも言えるかもしれません。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号27412131)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

  福岡地判決57・5・31〔峰屋商号使用禁止仮処分申請事件〕昭和55年(ヨ)第981号

債権者・有限会社新天町峰屋
債務者・株式会社本家峰屋本陣

 

■事案の概要等 

 本件は、債権者は、食料品の製造販売により、その商号「有限会社新天町峰屋」及びその略称または通称である「峰屋」なる表示は、債権者の営業またはその商品を示すものとして広く消費者の間に認識されているから、その商号を「株式会社本家峰屋本陣」とし、飲食店の経営、海産物珍味及び蒲鉾の製造、販売等に使用する行為は不正競争行為に該当するとし、商法20条又は不正競争防止法第1条第1項第1,2号に基づき、債権者の商号と類似した債務者の商号の使用禁止、および「峰屋」なる表示の使用禁止、及び同商号・右表示を使用した商品の製造、販売の禁止等の本案訴訟を提起するにあたり、保全申請をしたものです。

 

◆当事者等(争いのない事実)

(1)「峰屋」の屋号による蒲鉾店:蒲鉾の製造、販売を営業とする「峰屋」の表示は、もともとK之助の父M松藤右衛門(初代藤右衛門)が明治末期、福岡市春吉において開いたことに始まる。

(2)株式会社峰屋:昭和25年頃、上記蒲鉾店を、K之助の兄M松栄一が承継し、K之助とともに個人経営を法人組織とし、福岡市中央区天神二丁目一四六号(債権者の本店に同じ)に設立。昭和38年頃倒産。

(3)債権者:昭和33年3月7日「有限会社新天町峰屋」の商号で、食料品の製造、販売を目的として設立。

(4)M松K之助:債務者会社の代表者。元債権者会社の代表取締役で、K之助が代表取締役当時の昭和45年1月6日、債権者は支払手形の決済ができず手形の不渡を出し、銀行取引停止処分を受けて福岡地方裁判所に和議手続の申請をし、その認可決定を受けて再建にとりかかつたが、再度、経営危機を招き、昭和53年11月代表取締役を辞任してM信昭にその地位を譲り、続いて同54年1月31日取締役たる地位をも辞任し、債権者会社の経営から一切手を引いた。

(5)債務者株式会社本家峰屋本陣:K之助は上記辞任の三か月後の昭和54年5月9日、飲食店の経営、海産物珍味及び蒲鉾の製造販売を目的として設立した会社。蒲鉾、天ぷらの製造販売をなしている。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.不正競争防止法に基づく請求について
1.「峰屋」「峰屋のかまぼこ」の表示の周知性及びその表示主体について
 裁判所は、認定事実により、以下のように判断しました。

(1)周知性

 「債権者会社の商号中「新天町」の部分は、もともとは、同じく初代藤右衛門の製法を承継する兄栄一の株式会社峰屋との識別のために冠せられたもので、新天町峰屋と峰屋とは独立別個の表示であつたが、昭和38年株式会社峰屋が倒産して営業を廃止し、K之助が兄の跡を継いで三代目藤右衛門を襲名してからは、殊更「新天町」を冠する必要性もなくなり…「峰屋」「峰屋のかまぼこ」の登録商標を15年余も、専ら債権者会社の営業活動や商品に使用したことにより、債権者会社の営業主体ないし営業活動は、「新天町」を冠することなく「峰屋」の呼称ででも福岡市及びその周辺における当業界、消費者に広く知られるに至つていた」。

(2)類似性

 「そうだとすると、両商号の主要部分をなす「峰屋」は双方に共通であり、債務者会社の商号は「峰屋」なる文字の前後に「本家」と「本陣」なる文字を付加してはいるが…峰屋の本店舗であることを誇示すにとどまり、債権者会社の営業と個別化しうる表示とみることはできず、商号自体だけからみても、消費者その他の取引関係者から混同誤認のおそれがある」。「債務者会社の商号は債権者会社の商号に類似する」。
 

(3)出所の混同

 「債権者会社の代表取締役であつたK之助は…認定の経緯により債権者会社の経営から手を引いたのに、その三か月後に、早くも債権者会社の商号に類似する商号の債務者会社を設立し、現在では福岡市内の債権者会社と近接した場所で、一般消費者からしてはその異同の区別が困難な態様の店頭表示のもとに同一商品を製造販売し、営業主体表示としても、商品の出所の表示としても債権者のそれと混同誤認のおそれを生ぜしめている状況であるから、債務者は債権者が峰屋ないし峰屋の蒲鉾について有する営業上の信用、商品の品質についての評価を自己の営業に利用する目的を有するものと推認するに十分というべきである」。

 このことは「「峰屋」なる商号が、債務者会社代表者たるK之助個人の先代からの未登録商号で…蒲鉾屋としての「峰屋」の表示が広く知られるに至つたのがK之助の功績によるもので」も、「K之助が「峰屋」なる表示を債権者会社の商号にとり入れて使用し、その営業表示として広く知られるに至つたものである以上…不正競争の目的を否定する根拠となし難い」。(下線筆者)

 

(4)不正競争防止法6条

 債務者は「「峰屋」並びに「峰屋のかまぼこ」なる登録商標の使用権を有するから、「峰屋」の表示を使用して商品の製造、販売、商品の展示、広告をなすのは当然の権利行使である旨主張する」が、「K之助は右商標を借用金の担保として昭和53年11月15日、M田K男に譲渡し、その移転登録をなしたが、現在債務者会社が同人から使用の許諾を受けている」。しかし、K之助が個人で「峰屋」及び「峰屋のかまぼこ」の出願をし、登録受けたのは、「「峰屋」なる文字を含む債権者の商号登記後のことで商号登記に劣後」し、右商標はK之助がその出願、登録後も、「従来どおり、専ら債権者会社の営業主体ないし商品の表示として使用されていた」から、「K之助が債権者の経営から手を引き、債権者会社と類似する商号の債務者会社を設立した現在に至つて、右商標の使用権があることを主張するのは、信義則に反する商標権の行使であり、不正競争防止法第6条にいわゆる商標法により権利の行使をする場合に当らない」。


(5)不正競争の意図

 「債務者は、不正競争の意図は全くなく、債務者の営業活動及びその製造販売にかゝる商品には、債権者の営業及び商品と一切関係がない旨周知徹底せしめる方法を施している旨主張」し、「債務者はその商品の包装紙、ラベルに、「(有)新天町峰屋と一切関係がありません」と付記し、かつ店頭において、商品買上げの来客等に「当店の営業並びに商品は(有)新天町峰屋とは一切関係は御座いません。」と印刷したチラシを配布している」が。「右のような方法を債務者が講じているからといつて、前記認定の事実関係のもと」で、「不正競争の目的を否定」できない。

 「むしろ、債務者会社の代表取締役であるK之助は、自己が債権者会社の代表取締役として永年に亘つて培つた債権者会社の商品の品質、これに対する世人の評価を知つておればこそ、「峰屋」なる表示に執着し、店舗ののれんや提灯も類似したものを用いて営業活動の混同誤認を生ぜしめているのであり、買上げた客に対し前の如きチラシを配布し、また包装紙やラベルに有限会社新天町峰屋と一切関係がない旨付記しているからといつて、債務者が、本家本陣を付加した商号や表示を使用していることに徴すれば、債務者が正真正銘の峰屋であつて、債権者会社をして「峰屋」の傍系ないしは「峰屋」の表示を不正に使用しているものであると消費者に印象ずけるおそれがあり、債権者会社から顧客を奪う結果を招来しかねない」
 

■結論

 「債務者がその営業主体の表示ないし営業活動及びその製造販売にかかる商品に、「本家峰屋本陣」又は「峰屋」なる表示を使用しているのは、不正競争の目的を以て債権者の商号と類似の商号を使用する場合に当るばかりでなく、債権者の周知商号と類似の表示を使用して債権者の営業上の施設又は活動及び商品と混同を生ぜしめる行為を行つている場合にも当る」から、債権者は債務者に対し商法第20条第1項、不正競争防止法第1条第1項1,2号により」、主文(債務者は、食料品の製造並びに販売業に関し、「株式会社本家峰屋本陣」なる商号、もしくは「峰屋」なる表示を使用し、または、右商号もしくは右表示を使用した商品を製造、販売してはならない。債務者の、右商号もしくは表示を使用した看板、店内掲示物件、包装紙、ラベル、什器備品の占有を解いて、これを債権者の委任した福岡地方裁判所執行官の保管に付する。…等)の請求をなす権利がある。

 そして、債務者は「債権者の営業活動ないし商品との混同誤認を生ぜしめる行為により、営業上重大な打撃を受けていることが推認されるところ、本案判決の確定までこれを放置するときは、債権者の受けた営業上、信用上の打撃は回復することが出来ない状態に立ち到ると思料されるので、債権者は本案確定前に保全処分を求める必要性がある」。

 

■BLM感想等

 本件は、当初、初代藤右衛門が明治末期に「峰屋」の屋号による蒲鉾店を開き、K之助の兄M松栄一が承継し、K之助とともに法人化し、株式会社峰屋を設立し「峰屋」の屋号は会社の商号に取入れられ、その後、K之助が独立して債権者たる有限会社新天町峰屋を設立し、創業家が営業を継続してきました。取引者はともかく需要者にとって、蒲鉾等の伝統的な製法による食品は、老舗というだけで価値を感じる可能性があるところ、代々続く老舗のイメージを残しながら、債権者の手に経営権を渡して、引き続き、周知表示(商標)を使っていきたいところかと思います。そうでないと、事業譲渡の対価を回収できない不都合が生じます。一方で、債務者の会社の代表取締役K之助としては、自分が周知性に貢献してきた自負もあるでしょう。

 この点、裁判所は「債務者会社の代表取締役であるK之助は、自己が債権者会社の代表取締役として永年に亘つて培つた債権者会社の商品の品質、これに対する世人の評価を知つておればこそ、「峰屋」なる表示に執着し、店舗ののれんや提灯も類似したものを用いて営業活動の混同誤認を生ぜしめている」と認定しています。「買上げた客に対し前の如きチラシを配布し、また包装紙やラベルに有限会社新天町峰屋と一切関係がない旨付記しているからといつて、債務者が、本家本陣を付加した商号や表示を使用していることに徴すれば、債務者が正真正銘の峰屋であつて、債権者会社をして「峰屋」の傍系ないしは「峰屋」の表示を不正に使用しているものであると消費者に印象ずけるおそれがあり、債権者会社から顧客を奪う結果を招来しかねない」との指摘もされており、妥当な判断と考えます。かかる状態において、K之助が商標権を有しているからといって、その行使が許されないこともまた妥当な判断と考えます。K之助さんであれば、従前の商標に執着なく、新しい商標の下で、商品・サービスを提供し、店を大きくすることもできたのではないかと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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