不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その43
本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。
予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号25568602 )から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示なし)。
鹿児島地判昭63・1・21〔わきだや事件〕昭57(ワ)254(福岡高宮崎支部判昭和63・10・26〔同〕昭和63(ネ)27(最一小判平3・9・26〔同〕平1(オ)202)
原告・有限会社ストアーわきだや(代表者A)、原告 B
被告・わきだや産業株式会社(代表者C)、被告 C
■事案の概要等
本件は、営業表示(ストアーわきだや、ほか)の使用禁止及び商号(わきだや産業株式会社)の抹消登記を求めた事案です。第一審、控訴審では、第一審原告(被控訴人)の主張を認めたため、第一審被告(控訴人)が上告しましたが棄却されています。
◆前提となる事実関係
・原告会社:「衣料品、食料品、日用品小間物雑貨類の販売及びこれに関連する事業を目的として、昭和39年9月14日設立された有限会社であり、D店(本店)、E店の店舗を有するスーパーストアーであること、その権限については争いあるものの、実際には被告Cが経営に当たつている」(争いがない)。
・原告会社代表者:被告Cは、原告会社は同被告個人の会社であるとして、D店及びE店においては原告会社の代表取締役として、F店及びG店においては被告会社の代表取締役としてそれぞれ原告会社の通称名である「ストアーわきだや」、「わきだやストアー」、「わきだや」の商号を使用して各店舗を経営している。
・被告会社:裁判所は次のように認定しました。すなわち「被告Cにおいて原告会社を経営するため便宜上設立した会社で」、「被告らは右のF店及びG店は被告会社の店舗である旨主張するが「右F店は被告会社が設立される以前から原告会社の店舗としてあ」り、「G店は被告会社が設立されたころ開店された」が、いずれも「「ストアーわきだや」の店舗として「ストアーわきだや」の資金で設立され、かつ営業して」おり、「被告本人尋問の結果はにわかに措信できない」。これらの事実によると、「両店舗とも原告会社の店舗である」と認めました。
1.被告Cにおいて、原告会社を経営する権限があるか
裁判所は、以下のように認定しました。
(1)「原告会社は、Aが戦前から経営していた脇田屋呉服店を法人化したもので」、「Aは子供が多数おり…右呉服店の資産を出資して…子供達に社員権を与え、その出資口数をA300口、J245口、K100口、被告C150口、L100口、M100口、N50口と割り当て、代表取締役をA、長男である被告Cを取締役とする原始定款を作成して、昭和39年9月14日原告会社を設立し、その旨の登記がされ」、「被告Cは…右呉服店で父Aの手伝いをし」、「資産は何もなく」、「原告会社はもつぱらAの出資によつて設立された」。「被告Cは取締役として設立当時から原告会社の経営に当たつていた」が、「経営権をめぐる争いが生じ、昭和50年8月14日関係者が集まり、Aに原告会社の倉庫及び社員寮になつている土地を与え、L、Mの出資口数各100口については被告Cに譲渡するという方向で話合いがもたれていた」。
しかし「最終的な合意に至らないうち、被告CはAらの明確な同意を得ないで、同年12月20日被告Cを原告会社の代表取締役に選任する旨の決議がなされたとして、実際にはそのような決議がなされていないのに、同年12月25日代表取締役就任登記をし」、「その後適法な社員総会が開催され…被告C代表取締役の解任決議がなされ…その旨の登記がなされ…被告Cは…代表取締役解任と同時に…取締役も解任され、原告会社を経営する権限を喪失した」。
以上の「事実によると、原告会社は実質はAの個人企業であつて、もとより被告Cの個人企業ではなく、被告Cは取締役就任当時原告会社の経営を委任されていたに過ぎず…取締役及び代表取締役解任によつて原告会社経営の権限を喪失した」。
2.商号使用差止請求について
裁判所は、「被告Cが原告会社において、個人又は被告会社代表取締役の立場で、その権限がないのに原告会社の通称名である「ストアーわきだや」、「わきだやストアー」、「わきだや」という商号を使用してD店及びE店については原告会社の代表取締役として、F店及びG店については被告会社の代表取締役としてそれぞれ営業をしている」ことを前提に、以下認定しました。
「被告会社は衣料品及び食料品の販売等を目的とし(ほぼ原告会社と同一目的)、本店の所在地を鹿児島市α×丁目×番××号(ほぼ原告会社と同一場所)として、昭和51年11月1日被告Cが設立した株式会社で」、「設立の動機、目的は、原告会社の経営権の争いが激化し、被告Cの経営者としての地位が危くなつたため、原告会社を支障なく経営するためであ」る。
「同被告は被告会社を設立する当時は原告会社経営の他には、町内会の役員、福祉的な団体の役員、スーパーの団体の理事をしていただけで、他に被告会社特有の業務をして」おらず、「被告会社を設立し、F店及びG店は被告会社の店舗であるとしながらも、同店舗においても原告会社の通称名と同一の「ストアーわきだや」、「わきだやストアー」、「わきだや」の商号を使用していること、現に経営権の紛争が表面化し被告会社設立のころに開店したG店の看板も「ストアーわきだやG店」としている」。
よって「被告会社は被告Cが原告会社を経営する手段として便宜上設立した会社である」。
3.原告会社と被告会社の商号の類似性について
裁判所は、以下のように認定し判断しました。
「被告Cが前記の四店舗とも経営している」が、「同被告は、被告会社設立前から原告会社の店舗としてあつたF店を昭和54年12月に被告会社に売り渡し」、「F店のほかG店も被告会社の店舗として、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律に基づく県知事に対する届出を」し、「会社の帳簿上の処理も同様の取扱いをして」おり、F店及びG店は「被告会社の店舗として社会的に実在するようになり、そのように取引もなされているものの」、実際には、原告会社と同じ「ストアーわきだや」等という通称名の商号を使用しているため、「対外的にはいずれの会社であるか混同が生じ」、現に「差押債権取立請求事件において「わきだやストアー」という表示は有限会社ストアーわきだやを指すのか、被告Cの経営する「わきだやストアー」を指すのか明確でない」として請求棄却の判決がされ、「被告らの主張によると、D店及びE店は原告会社の店舗であり、他の二店舗は被告会社の店舗」となっているが、「被告会社は、昭和53年2月13日右四店舗とも被告会社の店舗であるとして鹿児島市長宛届出をし」、他方、「被告会社は同年12月13日ストアーわきだやはわきだや産業株式会社に社名を変更した旨鹿児島市長宛に届出をして混迷を深め」(下線部は控訴審では「営業主体の識別を困難ならしめている」に変更)、このような状況下で、被告Cは前記四店舗において「わきだや」…等の通称名を使用し、四店舗を営業していること、以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、原告会社「有限会社ストアーわきだや」、被告会社「わきだや産業株式会社」は、いずれも主要部分が「わきだや」で、「被告Cは両会社とも自己の個人会社であるとして、両会社の通称名を「わきだや」、または、「ストアーわきだや」等として使用しており、「結局、両会社は外観上、呼称上はもちろん、観念上も同一又は類似の商号である」。
以上により、原告会社は、「被告らが前記商号を使用することによつて営業上の利益を害されるおそれがあ」り、その商号差止請求権がある」。
4.商号抹消登記手続請求権について
裁判所は、「被告会社設立の動機、目的、同会社の現状は前記認定のとおりであり」、「放置しておけば原告会社は形骸化するおそれがあるから」、「原告会社は被告会社に対して商号抹消登記手続を請求する権利がある」と判断しました。
■結論
裁判所は「被告らは「ストアーわきだや」、「わきだやストアー」、「わきだや」の商号を使用してはならな」ず、「被告わきだや産業株式会社は、「わきだや産業株式会社」の商号につき商号登記の抹消登記手続をせよ」との判断がされました。
■BLM感想等
前回、赤坂三田ビル藤会館事件、カブト事件を、順に見ていますが、本日取り上げた事案含め、いずれの場合も、影響力のある始原となる者(兄弟姉妹間の争いにおける母又は父の存在)があり、その始原の下で、標識(商標・その他の表示)の価値が増したあと、兄弟姉妹の一人又は複数の者と、他の者との間で紛争となり、紛争となる際には、劣勢となった者の方が、商標登録や会社や商号登記を利用して支配する対象を自己に移して、最後の戦いに挑むような状況が作られているように感じます。また、カブト事件や本日取り上げた事案では、類似の商標・その他の表示又は商号を選択し、あたかも従前の主体とのグループ性を保持しつつ、次第に経営権等を自己に移すような作戦をとるといったことが繰り広げられているように思います。通常、当事者が、紛争当事者ではなく、協力し合う者であれば、それらの者がグループとして一つの主体と認められると考えますが、仲たがいしており、一方が商標・その他の表示又は商号を使用する権限を失っているときは、不正競争防止法2条1項1号等に基づき差止請求の対象となり、負けてしまうという流れになると考えます。もはや表示主体の一員ではないということで表示の使用が制限又は禁止されるわけです。このように、事実状態と合致しない商標権は機能せず、不正競争防止法2条1項1号(又は旧法1条1項1、2号)に基づき、表示の主体が認定され、それ以外の主体に属する者は、従前に周知又は顧客吸引力を有するに至った商標・その他の表示又は商号は使用できないわけなので、この点を踏まえて経営にあたるべきと考えます。
By BLM
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