不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その42
本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。
予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号28021945)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示なし)。
大阪地判平6・5・31〔カブト事件・第一審〕平5(ワ)3039(大阪高判平7・7・18〔同・控訴審〕平6(ネ)1560、最三小判平10・1・27〔同・上告審〕平7(オ)2335
原告 カブト工業株式会社(代表取締役 K.C.)
被告 H.E.
被告 株式会社カブトテツク(代表取締役 K.A.)
■事案の概要等
本件は、原告(被控訴人,被上告人)の取締役であった被告(控訴人,上告人)が、原告の取締役であった当時、原告の商標権「カブト」について、被告H.E.のために,共有を原因とした一部移転登録をし,その後、原告と競合関係にある被告会社を設立し,被告会社が本件商標権を使用していたことから,原告が,被告らに対し,本件商標権の一部移転登録の抹消登録請求等を請求したところ,第一審は原告の請求を一部認容し、控訴審は被告らの控訴を棄却したため、被告らが上告した事案です。
本ブログでは、第一審を見ていきます。
◆前提となる事実関係
1 原告の営業、商号及び製造販売商品(争いがない)
原告は、亡K.N.が、昭和三一年一二月一八日、目的を美術工芸品の製造及び販売、精密機械工具の製造及び販売、空調機器の設計、施行及び販売等とし設立し、昭和四二年八月一〇日「カブト工業株式会社」(以下「原告商号」)に商号変更した会社であり、主たる営業所を兵庫県川西市平野一丁目五番一三号に置き、同所を本拠として事業活動を営んでおり、昭和三九年から亡K.N.の考案した工作機械塔載用旋盤工作工具の先端取替式回転センター(商品名「カブトセンター」、以下「原告製品」)等を製造販売。全売上額の約八〇%を原告製品と円筒精密研磨加工用クリッパー(商品名「カブトクリッパー」)の売上が占める。
2.被告会社の営業、商号及び製造販売商品(特に証拠を掲記した部分以外は、争いがない。)
被告H.E.は亡K.N.の長女、H.M.は同被告の夫、K.A.は亡K.N.の次男で、後記の職務執行停止決定によりその職務の執行を停止されるまでの間、被告H.E.及びH.M.は原告の取締役、K.A.は原告の代表取締役であった。
被告株式会社カブトテツク(以下「被告会社」)は、平成五年三月一二日、右三名の前取締役らによって、目的を金属加工機械部分品の製造及び販売、空気調整機器の設置工事及び販売、鋳物製美術工芸品の製造及び販売等、商号を「株式会社カブトテツク」(以下「被告商号」)とし、本店を兵庫県川西市多田桜木二丁目一〇番三七号(原告の主たる営業所の所在地から直線距離で約三〇〇メートルの至近距離。)に置いて設立され、被告H.E.及びH.M.が取締役、K.A.が代表取締役に就任。
被告会社は、設立以来、原告製品と同種の工作機械塔載用旋盤工作工具の先端取替式回転センター(商品名「ライブセンター」〔この種商品に慣用されている普通名称と認められる。甲四七の1~3、弁論の全趣旨〕、以下「被告製品」)を製造販売し、原告とは競業関係にある。被告製品は、その価格表(甲三八)で、「ライブセンター」の商品名に続く括弧書きで「先端取替式」「回転センター」の表示をしている点及びサイズ番号の表示の仕方の点などで原告製品と共通し、実際の製品も、一見して直ちに識別できない程に商品形態が酷似。また、被告製品の卸価格及び希望小売価格は、原告製品の卸価格及び希望小売価格と同額に設定(甲三七、三八、四九、弁論の全趣旨)。被告製品の売上額は、被告会社の全売上額の大半を占める(弁論の全趣旨)。
3 原告の有する商標権及び本件商標家の一部移転登録の存在
(1)原告は、別紙商標登録目録記載の商標権の設定登録を得た。
(2)特許庁平成四年一〇月一二日受付で、本件商標権について当時原告の取締役であった被告H.E.のために、同年五月八日共有を原因とする本権の一部移転登録(以下「本件一部移転登録」といい、その原因とされている原告と同被告との間の同日付本件商標権の一部移転契約を「本件一部移転契約」という。但し、本件一部移転契約の締結に関する原告の取締役会の承認決議を記載した議事録は存在しない。)が経由されている。
5 原告の商号や商標等の使用態様(争いがない)
(1)原告は、原告製品の発売開始当初から昭和四二年八月頃までの間、原告の旧商号(日本精研工業株式会社)及び別紙第三目録記載の標章(以下「原告旧商標」という。)を、横書きした「KABUTO LIVE CENTER」(カブトライブセンター)の文字と共に原告製品の包装箱に明記し、あるいは原告旧商標を「TRADE MARK」の文字と共に原告製品の金属表面に刻印表示して使用し、昭和39年原告旧商標について商標登録出願(商願昭39‐54183号)をし、同商標は昭和41年1月20日登録査定された。
(2)原告は、昭和42年8月10日商号を原告商号(カブト工業株式会社)に変更したことに伴い、その頃から原告旧商標の使用を中止し「原告現商標」を横書きした「KABUTO LIVE CENTER」(カブトライブセンター)の文字と共に原告製品の包装箱に明記し、あるいは原告現商標を「TRADE MARK」の文字と共に原告製品の金属表面に刻印表示して使用するようになり、現在まで使用状態継続。一般に、回転センター等の機械工具は、包装箱及び製品本体に表示された商標及び製造メーカー名により、出所・品質が識別されており、エンドユーザーもそれらを基準として商品を選択しているのが、精密機械工具業界の取引の実情。
6 原告の宣伝広告態様(甲二〇、二一、三九の1~4、弁論の全趣旨)
原告は、原告製品(カブトセンター)の製造販売を開始した昭和39年以降現在までの間、商工経済新聞、全国工業新聞…等の精密機械工具の業界紙に原告商号、原告商標、原告の業務内容、原告製品を含む原告商品を宣伝する広告を継続的に掲載。いずれも、原告製品の製造元として原告商号を明記、原告商標を掲載し、「先端取替式」「回転センター」「カブトセンター」「センター界の革命」など原告製品の商品名と共に、機能や新規性・独創性を表現する広告文言を記載。この間右各業界紙には原告及び原告製品に関する好意的な紹介記事が度々掲載。原告は、原告の業務内容や原告製品を含む原告商品の詳細な仕様等を記載した「先端取替式センターカタログ」(甲二一)を作成して全国の精密機械工具販売代理店や小売店等に多数配布。長年にわたる販売実績とともに、このように原告が宣伝広告に力を注ぎ、業界紙にも度々紹介された結果、原告及び原告製品を含む原告商品は、ライブセンター(回転センター)の取扱者である全国の金属加工業者及び機械工具流通業者の間において、原告商号(カブト工業株式会社)や原告製品の商品名(カブトセンター)の略称で、かつ、原告商標の形状から直ちに連想され、商標中にも「KABUTO」と、「カブト」の名称で取引者・需要者から称呼され、それで通用するようになり、原告商号及び原告現商標は原告の営業表示及び商品表示として取引者及び顧客の間に広く認識されるに至っている。
7 原告商号及び原告現商標の被告会社による使用(争いがない)
被告会社は、平成5年5月14日頃、原告使用と同一の硬質段ボール製包装箱に原告商号及び原告現商標を横書した「KABUTO LIVE CENTER」(カブトライブセンター)の文字と共に表示し、原告現商標を「TRADE MARK」の文字と共に製品の金属表面に刻印表示した被告製品二〇個と末尾の原告商号の記載を被告商号の記載に変更しただけで、他は原告説明書と全く同文の説明書を右包装箱に一緒に収納して訴外N社を通じてO社に納品し、原告商号及び原告現商標を使用したが、それ以降、使用中止。
8 原告商標の製作経緯(特に証拠を掲記した部分以外は、争いがない。)
(1)亡K.N.は、商標出願に際し、いくつかの案が調査で否定又は出願後拒絶等されたため、昭和39年の初夏頃、家族及び原告社員に原告の商標図案(マーク)を募集し、これに応じて思い思いに提案されてきた図案(マーク)の中から、被告H.E.が「うち(原告)の頭(先端)を取り替える商品にピッタリである」旨説明して提案した甲胄の兜の図を採用。しかし、いざ具体的にどのような形状の兜の図にするかという段になって、亡K.N.と被告H.E.はその選択に苦慮した結果、亡K.N.と緊密に相談しながら、被告H.E.が、個人の好みに関係なく、しかも図案化もし易い折り紙細工の兜を図案化し、中央部の真向部の形状を、折り紙細工の兜の三角形状ではなくて、大きく強調した半円形状とし、その中に亡K.N.のローマ字表記のイニシャルの「N」の文字を配し、下部の横長の逆台形状台座部分の中に、当時の原告の商号「日本精研工業株式会社」のうちの「日本精研」部分のローマ字表記「NIHON-SEIKEN」の文字を配した「原告旧商標図案」を完成。亡K.N.は、当時、社員の技術上の考案・提言等に対して、その功績を讃えるため、賞品を授与し、短冊に考案者の氏名を書いて原告事務所に掲げるのを常としていたが、被告H.E.の右商標図案の提案についても、「賞 片原恵美子 商標考案の件」と記載した短冊を掲げるとともに、同被告に対し、褒美として、「これは五つしか作っていないもので、永年勤続者しか持っていない。お父ちゃんのを記念にやる。」と言って、歯車形状の中に「Super」の文字を彫った金製バッジを与えるとともに、女性用腕時計を一つ買い与えた。(乙三、被告恵美子本人)
(2)商標出願に際し、「KABUTO」の文字部分が、登録商標「KAPT」に称呼上類似するなどの理由で拒絶査定されたため、原告は、図案横長の逆台形状台座部分中を「KABUTOMFG」に修正した商標図案(以下「本件商標図案」)を製作し、これについて商標登録出願し、登録査定された(「原告現商標」)。
9 K一族間の紛争と職務執行停止決定前後の被告らの行為
(1)K一族間の紛争(甲四~一九、二七、四四の1・2、証人勲、被告H.E.本人、弁論の全趣旨)
原告は、亡K.N.及び同人の妻K.C.と両名間の四人の子(長女・被告H.E.、長男K.I.、次男K.A.、三男K.M.)及びその家族が全株式を所有し、亡K.N.の存命中は、子らも学校卒業ないし中退と同時に原告に入社し従業員となって家業に勤しむという、典型的な同族会社の経営形態をとり、同人の技術力と経営手腕に全面的に依存してその指示命令の下に運営され、同人が会社支配の全権を握っていた。被告H.E.は、昭和40年に原告の取引先の営業社員であったH.M.と結婚し、原告工場敷地内に居住し、原告の経理を担当していたが、被告H.E.夫婦は昭和51年頃原告を退社し他地で住むようになった。ところが、亡K.N.が昭和52年7月28日急逝したため、同年9月被告H.E.夫婦は原告に復帰し、原告の代表取締役にはK.I.が就任。原告は、亡K.N.の死亡後も順調にその業績を維持していたが、次第に営業及び経理面を担当する被告H.E.夫婦の社内での影響力が強くなり、昭和56年にはK.A.がK.I.に代って原告代表取締役に就任。その後、原告は専ら被告H.E.夫婦の経営判断で運営され、K.I.及びK.M.の原告会社内における地位ないし発言力が低下し…同人らはこれに反発し、昭和59年6月に原告からの独立の意思を表明し紛争が表面化、以後姉弟間で何度か話合いの機会が持たれたが、結局は決裂し、原告は、同年12月末日付でK.I.及びK.M.に解雇通知を発した。このことに端を発して、それ以降K一族間には長年にわたり紛争が続き、原告の会社組織に係るものだけでも、左記の裁判が提起された。
(2)ア)解雇通知を受けたK.I.及びK.M.は、原告に対し従業員たる地位の確認と賃金仮払を求める仮処分を神戸地裁伊丹支部に申立て申立認容の決定(甲一三)を得た。同時に原告に対し従業員地位確認等請求訴訟を提起し請求認容の判決(甲一四)を得、原告からの控訴及び上告を棄却され一審判決が確定した。イ)K.M.及び被告H.E.がK.I.及びK.M.が主張する原告会社株式の持株数を争ったため、両名は原告に株主地位確認・取締役地位確認請求訴訟を提起し(取締役地位確認請求についてはK.I.の請求は棄却されたが、株主地位確認請求についてはK.I.が原告の5250株の、K.M.が同3950株の株主であることを確認する旨の判決(甲五)が言渡)原告からの控訴・上告も棄却され一審判決が確定。ウ)原告が昭和62年6月3日を払込期日とし、K.M.及び被告H.E.ら当時の原告の取締役及びその一族のみが引受人となって2万株の新株発行をしたため、K.I.及びK.M.らは、原告に対し右新株発行の無効確認請求訴訟を提起し請求認容の判決を得、原告からの控訴は棄却され、上告は原告の取下(甲一〇)により一審判決確定。エ)平成2年3月31日開催の原告の株主総会で、K.A.、K.M.及び被告H.E.を取締役に選任する旨の決議がされたため、K.I.及びK.M.は、原告に右株主総会決議取消請求訴訟を提起し、平成3年にはK.C.、K.T.(K.I.の妻)及びK.N子(K.I.の長女)から原告に株主地位確認等請求訴訟が提起され、これらの各事件は併合審理され、上記K.I.、K.M.らの請求を全面的に認容する旨の判決が言渡されたが、K.A.らは、同判決につき控訴。オ)原告は、平成2年に2回の新株発行をしたが、その都度勲及びK.M.から原告に差止を求める仮処分申立があり、いずれも新株発行の差止を仮に命ずる旨の仮処分決定があった。右仮処分決定については原告から異議が出されたが、原決定認可の判決があり、控訴されたが控訴は取り下げられた。カ)H.M.、H.H.(H.M.と被告H.E.の子)及びH.T.は、K.I.及びK.M.が提起した従業員地位確認等請求訴訟について、原告の上告を棄却する旨の判決があったことから、両名が原告に復帰すれば原告の従業員が全員退職し、原告の倒産が必至であることを理由に、平成四年二月二〇日原告に対し会社解散請求訴訟を当庁に提起し(甲四四の1)、代表取締役及び監査特例法上の代表者をK.A.とする原告は、請求原因事実を全部自白した(甲四四の2)。キ)平成4年3月21日開催の原告の定時株主総会で、K.A.、H.M.及び被告H.E.を取締役に、Bを監査役に選任する旨の決議がされたため、K.I.、K.M.、K.C.、K.T.及びK.N子は、同年4月22日原告に右株主総会決議取消請求訴訟を提起。ク)原告は、K.T.及びK.M.を再度懲戒解雇したため、同人らは、同年、原告に対し地位保全及び賃金仮払を求める仮処分を神戸地裁伊丹支部に申し立て、申立認容仮処分決定(甲一七)を得た。原告は、右仮処分決定に対し異議を申し立てが、同支部は、右仮処分決定を認可する旨の決定をした。ケ)K.T.、K.M.及びK.C.が原告、K.A.、H.M.、被告H.E.及びBに、原告の取締役及び監査役としての職務執行停止及び職務代行者選任を求めて申し立てていた、当庁平成四年(ヨ)第一五二三号職務執行停止仮処分申請事件の審理が終結に近付き、同年一〇月二日の審尋期日において、担当裁判官から提示されていた、K.A.、H.M.、被告H.E.及びBら原告の当時の取締役及び監査役が一億円の解決金を原告から受領して原告を退陣する旨の和解案の受諾を同人らが最終的に拒絶する旨の意思を表明し、その結果、当事者の話し合いによる同事件の解決が困難であることが明確になった。そして、同事件の平成五年二月九日付決定(甲四、職務執行停止決定)により、K.A.、H.M.及び被告H.E.は原告の取締役・代表取締役としての職務の執行を停止され、弁護士熊谷が取締役・代表取締役職務代行者に、弁護士中川及び同石井が取締役職務代行者に選任された。右職務代行者らは、直ちにその職務執行に着手し、平成5年2月25日開催の原告の臨時株主総会においてK.C.、K.I.及びK.M.の三名が取締役に選任され、総会後の取締役会でK.C.が代表取締役に選任され、同年3月5日、右三名の現取締役に対する事務引継が完了し、以後原告は同人らによって運営されている。
(3)被告らは、職務執行停止決定の前後に、左記の行為をした。
(a)被告H.E.及びH.M.ら原告の当時の取締役は、平成4年11月から12月までの間に原告の主要な取引先である株式会社内藤及びシミヅ産業株式会社に対し、普通の値引率よりも大幅な値引率で通常月の六か月ないし一〇か月分の在庫に相当する商品を値引販売した(甲三三、証人勲)。(b)右当時の取締役が職務代行者に対し事務引継をした際、引継書類の中に原告の製品の設計図面の原図が存在せず…H.M.は、平成四年末頃焼却した旨説明した(甲五〇)。(c)H.E.及びH.M.ら原告の前取締役は、職務代行者に事務引継をすると同時に被告会社を設立したが、原告の取引先に対し、「仮営業所開設のご案内」と題して、「……カブト工業株式会社におきましては八年余に亘り、労働訴訟がありました。その結果、私達前取締役を始として全従業員らが新取締役らを嫌い、平成五年三月四日をもちまして全従業員らと共々退社し、リストラクチャリングを兼ねて分離独立をして、再起を図る運びと相成りました。……この度、お蔭様で下記に仮営業所を開設することができましたので、取急ぎご報告申し上げます。仮住所:… 新社名:株式会社カブトテック……」と記載した書面をファックス送信した(甲二三)。(d)H.M.は、平成5年3月18日頃、株式会社ブレーンセンターに対し、原告が使用していた製品カタログの版下(原画)を被告会社用のものに修正して右カタログを増刷した場合の製作費用の見積を依頼した(甲二二)。(e)右前取締役は、取引先に対し、「カブト工業がカブトテツクに社名変更した。」、「カブト工業は社員が全員退社して製品が作れない。」などと説明して被告会社の営業活動をした(甲四一、証人K.I.)。(f)そのため原告は本件訴えを提起し、商号使用禁止及び商標使用禁止を求める仮処分を申し立て、右仮処分申立事件について、本訴判決確定まで、被告らが本件登録商標及び原告現商標を使用しない旨の内容で裁判上の和解成立。(g)被告会社のカタログ(甲三八)は、原告使用のカタログ(甲三七)とその体裁が酷似しており、製品サイズの表示等も酷似しているだけでなく、被告会社は平成五年三月一二日に設立したばかりであるにもかかわらず、「昭和六三年一一月二一日実施〔表紙〕」、「旧・単体仕様」、「『セット仕様』は廃止しました。廃止の理由は、……昭和五八年度を以て輸出を廃止して以来、一〇年が経過しましたことと、……廃止させて戴きました。」…などと、被告会社と原告との法人としての連続性を前提としない限り、およそ理解し得ない記載を随所にしている(甲三七、三八、証人K.I.)。(h)原告の有力な販売代理店であった株式会社内藤は、現取締役と前取締役との間に折り合いがつかなければ、同社としては取引を被告会社一本に集約せざるを得ない旨通告した。そのため、原告は、同年九月七日到達の内容証明郵便で同社の本社(東京都北区所在)及び大阪支店に対し、被告らが上記のような不正な営業活動をしており、そのため本件訴訟を提起したが、同社の営業社員も「カブト工業にいた人を全員揃えて、カブトと同じ取替式センターで品質は変わらない。」とのセールストークをしており、被告会社と原告の商号及び価格表の類似性から、両社の間に混同を生じるので、原被告商品が別個であることを営業社員に周知徹底されたい旨要請したが、同社から回答はなかった。(甲二四、三四の1~3、弁論の全趣旨)。(i)原告は、平成五年九月一〇日頃、北海道室蘭市所在の株式会社NaITO室蘭事務所に対し、同社が「カブト工業がカブトテツクに社名変更した。」、「カブト工業は社員が全員退社して製品が作れない。」などと説明して営業活動をしている事実を原告が確認したとして文書で警告した(甲三五)。(j)原告は、一向に事態が改善されず、被告会社の発注した原材料が原告の営業所に誤配されたり、被告会社に対する商品注文書が原告の営業所にファックス送信されるなどの混同事例が生じたため、平成五年一〇月頃、被告会社が原告と無関係である旨説明したダイレクトメールを取引先に対し送付するとともに、平成六年二月一八日発行の日本機工新聞に「最近、弊社の商号と類似した『株式会社カブトテック』が弊社製品と類似した製品を販売しており、営業上多大な迷惑を被っております。弊社としましては長年の信頼を守るべく、法的手段に訴えております。同社及び同社製品はカブト工業とは一切関係がございません。お得意様各位におかれましては、御購入の際にはカブト工業製品であることを今一度、御確認頂きますようお願い致します。」と記載した社告を掲載した(甲三六、四一、四六の2、乙一四、証人K.I.)。
◆主な争点
1 本件商標権は被告H.E.に一部移転されたか。
2 被告会社が将来本件登録商標及び原告現商標を使用するおそれがあるか。
3 原告現商標及び原告商号がいわゆる周知性を取得したか。
4 本件登録商標図案及び原告現商標図案は,被告H.E.が著作権を有する著作物か。被告会社は本件登録商標等につき通常使用権を有するか。
5 被告商号が原告商号に類似し、被告会社による被告商号の使用により、原告の商品又は営業と混同を生じるか。また、右使用により原告の営業上の利益が害されるおそれがあるか。
6 被告会社は被告商号を「不正競争の目的」で使用しているか。
7 被告らの行為が不正競争行為に該当する場合、被告らに故意又は過失があったか。また、原告は営業上の利益を害されたか。それらが肯定された場合、被告らが賠償すべき原告に生じた損害の金額。
Ⅰ.争点1(本件商標権は被告恵美子に一部移転されたか)
裁判所は、原告・被告の主張及び認定事実に基づき以下のように判断しました。
(1)判断基準
「K.A.の締結した本件一部移転契約は、外形上、原告の職務についてなされたものと認められるが、株式会社の代表取締役が表面上会社の代表者として法律行為をしたとしても、それが代表取締役個人の利益をはかるため、その権限を濫用してされたものであり、かつ、相手方が右代表取締役の真意を知り又は知りうべきであったときは、右法律行為は、会社につき効力を生じないと解するのが相当である(最高裁昭和三八年九月五日第一小法廷判決・民集一七巻八号九〇九頁)」。
(2)本件に関する判断
「本件一部移転契約が原告にとって、営業活動を営む上で極めて重要な経済的価値を有する本件商標権の処分行為であるにも拘らず、これに承認を与える件に関して取締役会議事録が作成されていないこと、K.A.、H.M.及び被告H.E.ら原告の前取締役は、K一族間に紛争関係が生じて以後、K.I.、K.M.及びK.C.ら原告の現取締役を原告会社から排除し、自分達が原告の経営権を掌握するためにあらゆる法的手段を駆使してきた」。「本件一部移転契約締結当時も職務代行者選任仮処分申立事件の審理が煮詰まり、…前取締役は、そうした自分達の劣勢を打破するため、最後の策として原告に対する解散請求訴訟を提起する一方で、自分達が原告会社外に放逐された場合の生き残りを賭けて被告会社の設立と原告事業と同種事業の継続を画策しており、将来被告会社の取引上不可欠になる商号や商標等の営業表示及び商品表示については、これまで業界で名声と信用を獲得してきた原告事業と被告会社事業との連続性を対外的に示すためにも、原告使用のもの、あるいはそれに極めて類似するものを出来る限り利用しようとしていたと認められる」。「本件一部移転契約の締結は、K.A.の個人的利益(ひいては、それが雅晴及び被告恵美子らその余の前取締役の利益ともなる。)のために行われたものと推認せざるを得ず、かつ、被告H.E.においても同じ前取締役の一員として当然これを知り得たものと認められる」。「本件一部移転契約は原告につき効力を生じない」。
また、本件一部移転契約は商法二六五条所定の取締役会の承認を受ける必要がある取引に該当するにもかかわらず、取締役会の承諾を受けた事実を認め」られず、「効力を生じない」。「本件商標権に基づき、被告H.E.に対し、本件一部移転登録の抹消登録手続を求める原告の請求は理由がある」。
2.争点2(被告会社が原告現商標及び本件登録商標を使用するおそれがあるか)
裁判所は、「被告会社は、平成5年5月14日頃、原告が使用しているのと同一の硬質段ボール製包装箱に、原告商号及び原告現商標を、横書きした「KABUTO LIVE CENTER」(カブトライブセンター)の文字と共に表示し、これに原告現商標を「TRADE MARK」の文字と共に製品の金属表面に刻印表示した被告製品二〇個を収納して」、訴外会社に納品したが、「それ以降はそれらの使用を差し控え」、現在一応これを使用していない。「しかし、被告会社は、本件商標権を原告と被告H.E.が共有している旨及び被告会社は…通常使用権を有している旨現在も主張し」、「現在はただ無用な紛議を避け、本件訴訟の結果いかん等を考慮すべくその使用を差し控えている」と認められ、被告会社は原告現商標等を使用し、原告の本件商標権を侵害するおそれがある。
3.争点3(原告現商標及び原告商号がいわゆる周知性を取得したか)
裁判所は、「遅くとも被告会社の設立時である平成5年3月12日までに、ライブセンター(回転センター)の取扱者である全国の金属加工業者及び機械工具流通業者の間において、原告現商標は、原告製品の「先端取替式」の特色と共に広く認識されるに至っており、同時に、「カブト」の外観・称呼・観念を生じる原告現商標を付した原告製品の製造販売業者の営業表示として、原告商号も広く認識されるに至っており、それは現在も同様である」と認めました。(下線筆者)
4.争点4(原告は被告会社に対し本件商標権に基づく差止請求権を行使できないか)
裁判所は以下のように認定し、判断しました。
「原告旧商標図案製作当時原告が亡K.N.とその親族及び家族のみを株主とする、典型的な同族会社の経営形態をとり…存命中は同人の技術力と経営手腕に全面的に依存してその指示命令の下に運営され、同人が会社支配の全権を握」り、「原告旧商標図案の作成は同人の発意に基づ」き、「その作成過程において度々その内容について容喙し、被告H.E.も積極的に亡K.N.に相談しその指示を受入れて図案を製作完成していたこと」、「同被告は、原告旧商標図案の完成に関して亡K.N.から表彰を受け、褒美として腕時計を買い与えられていること」などの事実に照らすと、「当初の折り紙細工の兜の図の採用が被告H.E.のアイデアに由来」しても、「原告旧商標図案の製作過程を全体として観察すれば、亡K.N.は、被告H.E.を意のままに動かし、あたかもその手足のように使って原告旧商標図案を完成した」と認められ、「仮に原告旧商標図案に著作物性を認め得るとしても、亡K.N.の指示どおりに著作物(原告旧商標図案)の作成に従事した被告H.E.は…著作者の補助者にすぎ」ず、「右製作過程の実態に最も合致し、被告H.E.も、原告が使用する原告の商標として亡K.N.の意に最も適うものを作成する目的で原告旧商標図案の製作事務に携った」と認められる。認定事実によれば、「原告旧商標図案の著作者は、右製作事務の帰属主体たる原告であり、その著作権は、原告が原始的に取得した」。そうでないとしても「製作に携った亡K.N.及び被告H.E.との黙示の契約により、図案完成と同時に原告に譲渡された」と認められる。また「被告会社が本件登録商標等につき通常使用権を有する旨の主張のうち…同被告が共有者と認められ」ず、「原告が使用許諾を受けた旨の主張は、主張事実を認めるに足りる証拠がないから、結局すべて採用できない。
「したがって、本件商標権及び周知性を取得した原告現商標を有する原告がその侵害予防として被告に対し本件登録商標及び原告現商標の使用停止を求める原告の請求は理由がある」。
5.争点5(商号の類似性、混同及び営業上の利益侵害のおそれ)
裁判所は以下のように認定し、判断しました。
1 商号の類似性
原告商号と被告商号の相違部分もあるが、「両商号に共通する「カブト」の部分からは、これを見る者や聞く者に直ちに「頭部を保護するためのかぶりもの」である「兜」(広辞苑第四版五二三頁)の観念を想起させ、特に「原告現商標及び原告商号は、遅くとも被告会社の設立時点において、ライブセンター(回転センター)の取扱者である全国の金属加工業者及び機械工具流通業者の間において、原告製品の「先端取替式」の特色と共に、原告商号のフルネームばかりでなく、原告商号及び原告現商標の外観・称呼・観念から生じる「カブト」の略称は原告の営業表示としても原告の商品表示としてもいわゆる周知性を取得しているから、右各関係業者との関係では、原告製品を含む原告商品及びその販売主体である原告を強く連想させ、印象づけるものと推認される」。「したがって、国内における取引に際しては、両商号は「テツク」又は「工業」の部分が省略されて単に「カブト」と称呼される可能性が高いと認められる。そして、右「カブト」の周知性に鑑みると、被告商号を見る者や聞く者は、被告商号のうちの「カブト」の部分の外観、称呼及び観念に強く影響され、「カブトテツク」を「カブト工業」と全体的に類似のものとして受け取るおそれが高」く、「原告と被告会社は、同種の商品(先端取替式回転センター)を製造販売しており、原告商品と被告商品は、その取引ルートにおいても競合する場面が多」い。「しかも、商品自体も一見しただけでは判然とは識別できない程にその商品形態が酷似していること、さらに、原告の主たる営業所の所在地と被告会社の本店所在地が地理的に極めて近接し…両商号の混同に起因するとみられる事例が既に現実に発生している」。「総合勘案すると、被告商号は原告商号に類似する」。
2 混同及び営業上の利益侵害のおそれ
「原告と被告会社の営業がともに機械工具の製造販売業であり、商品形態の酷似する同種の商品を取り扱っていること、全国の金属加工業者及び機械工具流通業者の間」で、「原告商号が広く認識され、その要部ないし略称たる「カブト」の部分は、単に原告の営業表示としてのみならず、原告製品を含む原告商品の商品表示としても広く認識されていることを併せ考えると、被告会社が被告商号を被告製品を含む被告商品の製造販売の事業に使用することは、原告の商品又は営業と混同を生じさせる不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号)に該当する」。「また、そのような混同が生じると、原告の売上が減少するおそれや、混同に起因する営業活動の混乱等により、原告の営業上の利益が害されるおそれがある」。
争点6(不正競争の目的)
裁判所は以下のように認定し、判断しました。
「原告が被告会社の本店所在地と地理的に極めて近接する兵庫県川西市内に主要な営業所を有し(両者の直線距離は約三〇〇メートル)、そこで長年にわたり原告商号を使用して営業していること及び原告現商標が周知性を取得し」、「被告会社は設立した被告H.E.、H.M.及びH.A.は原告の前取締役であったから、被告会社の設立時にそのことを十分認識していたこと」ことに加え、認定の被告ら行為を併せ考えると「被告会社は、自己の営業を既登記商号たる原告商号の使用者である原告の商品又は営業と混同させ、原告の商品又は営業が有する信用ないし経済的価値を自己の商品又は営業に利用する意図を有し、かつ、取引者・需要者から「川西市」の「カブト」と称呼認識される意図を持って被告商号を選定し」、その設立の当初から商法二〇条所定の不正競争の目的があったものと推認せざるを得ない」。
7.争点7(被告らの故意・過失、損害金額等)
省略
■結論
裁判所は「被告H.E.は原告に対し、別紙商標登録目録記載の商標権について、本権の一部移転登録の抹消登録手続」を命じられ、被告株式会社に対し、「別紙第一目録記載の商標及び別紙第二目録記載の標章」及び「株式会社カブトテツクの商号」の使用の差止及び損害賠償請求等を認めました。
■BLM感想等
前回、赤坂三田ビル藤会館事件について、BLM私見として、「三田Cは子供たちに対し影響力のある方だったような印象を受けますが、その方が亡くなられると、いっきに求心力がなくなり争いが起こるというのはありそうな話」と述べましたが、本件も、求心力のある父が亡くなったことで、争いが勃発し、激化していったように見受けられます。
実際、裁判所は、「原告旧商標図案製作当時原告が亡K.N.とその親族及び家族のみを株主とする、典型的な同族会社の経営形態をとり…存命中は同人の技術力と経営手腕に全面的に依存してその指示命令の下に運営され、同人が会社支配の全権を握」っていたと認定しています。かかる状況を前提に、「仮に原告旧商標図案に著作物性を認め得るとしても、亡K.N.の指示どおりに著作物(原告旧商標図案)の作成に従事した被告H.E.は…著作者の補助者にすぎ」ず、「右製作過程の実態に最も合致し、被告H.E.も、原告が使用する原告の商標として亡K.N.の意に最も適うものを作成する目的で原告旧商標図案の製作事務に携った」などと認めました。被告H.E.としては、「原告旧商標図案の作成は同人の発意に基づ」き、「その作成過程において度々その内容について容喙し、被告H.E.も積極的に亡K.N.に相談しその指示を受入れて図案を製作完成していた」というのが、自慢でもあったでしょう。商標というのは市場において商品、営業又はサービスに使用してこそ価値があるため、せっかくの会社の財産を、自己のものと主張してしまうのは、財産の価値を減らす行為であると気づきを与える代理人がいなかったのだろうか…と本件を読みながら、つくづく、なんでここまで紛争になってしまったのか、疑問が残ります。被告H.E.は発想が豊かで行動力のある方のように見受けられ、かかる能力を会社の開発の方に投じ、裁判費用も同様に技術開発や人材の確保にあてればどれだけよかったかと思わずにはいられません。
この裁判例は、とりあえず読みました、という状況になってしまっているので、もう少しまとめて、再構成してブログにアップしたいと思います。今日はこの辺で
By BLM
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