不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その37

 本日も、元従業員と会社との間で紛争となった事例を見ていきます。これまでいろいろ見ていく中で、人間関係が複雑なものも出てきました。元従業員、元取締役又は元代表取締役と会社との間の関係解消事例でも、実は、その元〇〇と現会社の経営陣が親族関係である、というのが散見されます。前回の東京地判平11・2・26〔ラブラドールリトリーバー事件〕平8(ワ)21790、平9(ワ)17664、平9(ワ)17665、平8(ワ)22428では、被告会社の元代表取締役は娘婿で、被告会社の現代表取締役が娘の父という関係がありました。本日から、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。最初は複雑ではないものから。

 

  大阪地判平21・9・17〔青雲荘事件〕平20(ワ)6054

原告 株式会社青雲荘
被告 青雲産業株式会社

 

■事案の概要等  

 本件は、原告が、主位的に、被告が周知営業表示たる原告の商号(株式会社青雲荘)と類似する商号(青雲産業株式会社)を使用して原告の営業と混同を生じさせており、かかる被告の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するとして、同法3条に基づき、予備的に、被告が不正の目的をもって原告と誤認されるおそれのある商号を使用しているとして、会社法8条に基づき、被告の使用する上記商号の抹消登記手続等を求めた事案です。

 

◆当事者

(1)原告:昭和45年12月12日に設立されたビジネスホテル業,レストラン,喫茶業などの業務を行い、設立以来「株式会社青雲荘」をその商号(以下「原告商号」)としている。
(2)被告:昭和59年4月3日に設立された旅館及びビジネスホテルの経営,給食事業その他の業務を行い、設立以来「青雲産業株式会社」をその商号(以下「被告商号」)としている。
(3)原告代表者A’と被告代表者B’:兄弟(A’が三男、B’が二男)。 
(4)原告:被告設立時、被告が「青雲産業株式会社」の使用許諾した(原告主張の後記条件が付されたか争いあり)。

 

◆争点

(1)不正競争防止法3条(2条1項1号)に基づく請求-主位的請求-について(争点1)
ア 原告商号の周知性の有無(争点1-1)
イ 原告の営業との誤認混同の有無(争点1-2)
ウ 原告が被告に被告商号の使用を許諾した際に条件を付したか,被告がその条件に違反したか(争点1-3)
(2)会社法8条に基づく請求-予備的請求-について
 被告が不正の目的をもって被告商号を使用しているか(争点2)
 

■当裁判所の判断
1.原告が被告に被告商号の使用を許諾した際に条件を付したか,被告がその条件に違反したか(争点1-3)
(1)裁判所は下記の事実を認定し、「原告は,被告設立時,被告の商号を青雲産業株式会社とすることを許諾した」と認め、争点1-1(原告商号の周知性の有無)及び同1-2(原告の営業との誤認混同の有無)」を判断するまでもなく,「被告による被告商号の使用が…1号所定の不正競争行為に該当するとはいえない」とし、「原告の主位的請求には理由がない」としました。
 

 ア)C':昭和38年4月から堺市内で簡易旅館「青雲荘」の営むようになり、昭和45年12月12日に法人化し原告設立。代表取締役に就任。
 イ)A':昭和43年ころからC'経営の簡易旅館「青雲荘」の仕事に専念。原告設立後の昭和53年1月にC'とともに原告の代表取締役に就任。
 ウ)B':昭和49年7月ころから原告入社。主として地方回りの営業をし,昭和58年ころ新会社立上げを考えるようになった。
 エ)B',A',C',C'の夫G',G'・C'夫婦の四男D',長女E及びB'の妻Fは,昭和59年3月1日,被告設立のため発起人となって発起人会開催。全員一致で被告の商号を「青雲産業株式会社」(被告商号)とし,被告の事業目的を旅館及びビジネスホテルの経営,レストラン及び喫茶店の経営,給食事業,土地・建物の管理業務…の事業とすることを可決し、同じ内容の被告の定款を作成。被告の商号はC'の考えによる。上記創立総会で、B',A'及びG'が取締役に,C'が監査役にそれぞれ選任され、同日開催の被告の取締役会で,B'が代表取締役に選任。被告の発行株式の総数400株のうち100株発行し、30株をB'が,A',G',C',Dダ'らその余の発起人が各10株をそれぞれ引受けた。
 オ その後,被告が業務を行うについて原告から異議が出たことはなかった。

(2)原告は被告が被告商号を使用するにあたり、①「原告の中心業務である宿泊に関する業務」は行わない、②原告が既に営業を行っていた大阪府,兵庫県などの地域では営業活動を行わない条件が付されていたと主張するが、上記①の条件を認めるに足りる証拠はなく、かえって,原告代表者のA'も発起人として記名押印している被告設立時の発起人会議事録及び被告の定款のいずれにも,被告の事業目的について,その冒頭部分に「旅館及びビジネスホテルの経営」と明記され、仮に①の条件が付されたとすれば,被告の定款等の事業目的から宿泊に関する業務を除外すれば足りるのに、事業目的が明記されていることは,被告商号の使用許諾に当たり,設立時に①の条件が…なかったことを強く推認させる。次に,上記②の条件に関し、A'は、被告設立時、C'から「青雲荘のやってる地域では、青雲産業はしない」と聞いたと供述する。しかし、被告の営業地域を限定するという重要な内容にもかかわらず…A'の供述を裏付ける客観的な証拠はない。さらに,被告代表者のB'は,C'からは堺市内ではホテル・旅館業をしないようにという趣旨の話があったにすぎないとの供述に照らしても,A'の上記供述を直ちに採用できない。他に,原告が被告商号の使用許諾にあたって上記②の条件を付したと認められない。

 

2.被告が不正の目的をもって被告商号を使用しているか)-予備的請求-(争点2)
 裁判所は、会社法8条にいう「不正の目的」とは「他の会社の営業と誤認させるなどして、他の会社と不正に競争する目的など、不正な活動を行う積極的な意思を有することを要する」とし、原告は、被告において、被告が原告から分社したかのような,また,B'が原告の専務取締役に就任したことがあるなどの虚偽の記載をした本件経歴書を原告の取引先に配布して宿泊業の受注勧誘を行い、このような被告の営業活動は、被告の営業を原告の営業と誤認混同させようとする意図に基づき,被告が会社法上の「不正の目的」をもって被告商号を使用していると主張するのに対し、以下のように認定し、かかる主張を認めず、原告の予備的請求も理由がないとしました。

 (1)被告は、その設立時に青雲産業株式会社の商号の使用を原告から許諾され、被告において,原告の営業と誤認させる目的などの不正な活動を行う積極的な意思に基づいて被告商号の使用を開始したと認めることは到底できない。そして,原告が「不正の目的」の基礎となる本件経歴書は、B'の職歴の箇所に「平成19年4月同社相談役就任」と記載され、平成19年4月以降に作成されたことが明らかで、被告は、昭和59年4月設立時から本件経歴書が作成されるまでの20年以上もの長期間、原告の許諾に基づいて被告商号の使用を続け,不正の目的を有していたことを裏付ける事情もうかがえず,原告から被告商号の使用に異議が述べられた形跡もない。

 

(2)本件経歴書の記載内容に、確かに被告の会社沿革の箇所に「昭和38年4月青雲荘を創業。」「昭和43年12月社名を株式会社青雲荘に変更する。」,「昭和59年4月株式会社青雲荘の地方営業部門を独立させ青雲産業株式会社を設立。」などの記載があること,B'の職歴の箇所に「昭和49年7月株式会社青雲荘入社」,「昭和51年4月同社専務取締役就任」などの記載があること,表紙写真の被告の会社建物の背景に原告の会社建物が写っているなど,被告が原告の関連会社であることを示すような記載があることが認められる。しかし、被告は,B'に加え,C'やA'その他のH家の親族が発起人となり、原告から原告商号と共通する青雲の文字を含む青雲産業株式会社の商号の使用を許諾されて設立され、C'の夫のG'は青雲興産株式会社(当初の商号は太陽興産株式会社)の代表取締役を,C'の四男のD'は青雲給食株式会社の代表取締役をそれぞれ務めているように,H家の親族が代表者を務める会社の商号には「青雲」の文字が使用されている。そうすると,原告と被告との間には資本関係がないとしても,H家の親族が経営するいわば青雲グループの一員として被告が設立されたと捉えることにも合理的な理由がないとはいえず、本件経歴書に上記のような原告の設立経緯など原告と被告が関連会社であることを示すような記載があるとしても,これを虚偽記載であると断ずることはできない。したがって,本件経歴書中の上記記載をもって,被告において,原告と誤認させるなど不正な活動を行う積極的な意思に基づいて被告商号を使用していると推認できない。                (以上、下線筆者)


■BLM感想等

 これまで、元従業員が従前の会社の商品と同種の商品を製造・販売等する場合、元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースをみてきました。本日は、C'が昭和38年に立ち上げた簡易旅館「青雲荘」を始原とする原告株式会社青雲荘と、同社の代表取締役A'と兄弟であるB'が立ち上げた被告青雲産業株式会社について、同種の宿泊事業を始めたため、不正競争防止法2条1項1号により差止を求めた事案です。原告会社が被告会社に、類似の商号を被告が使用することにつき許諾を与えたとしつつ、①「原告の中心業務である宿泊に関する業務」は行わない、②原告が既に営業を行っていた大阪府,兵庫県などの地域では営業活動を行わない条件が付されていたと主張しましたが、親族が発起人となった被告会社において、発起人会議事録及び被告の定款のいずれにも事業目的に「旅館及びビジネスホテルの経営」と明記されている等して条件付きの許諾とは認められませんでした。また、会社法上の判断ですが、「原告と被告との間には資本関係がないとしても,H家の親族が経営するいわば青雲グループの一員として被告が設立されたと捉えることにも合理的な理由がないとはいえず、本件経歴書に上記のような原告の設立経緯など原告と被告が関連会社であることを示すような記載があるとしても,これを虚偽記載であると断ずることはできないと判断していますが、不正競争防止法2条1項1号の判断でも「他人」又は商品等表示の主体の判断で、グループ性は重要な視点だと思います。原告・被告らにとって、「青雲荘」なるものと同一又は類似の表示が一つのグループを形成していると判断されれば、そのグループにとって、第三者の模倣を排除することが容易になると考えます。内部分裂して、「青雲荘」に係る権利の効力(類似の範囲)を狭めないことが得策と考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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