不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その36

 本日も、元従業員と会社との間で紛争となった事例を見ていきます。これまで見てきた裁判例より人間関係とブランドの立ち上げ等の経緯が複雑になってきますので、この点も留意してみていきます。

 

  東京地判平11・2・26〔ラブラドールリトリーバー事件〕平8(ワ)21790、平9(ワ)17664、平9(ワ)17665、平8(ワ)22428

・平成8(ワ)21790事件原告・平成8(ワ)22428事件原告・平成9(ワ)17664事件被告・平成9(ワ)17665事件被告 N.S.

 (以下「原告N.S.」)

・平成9(ワ)17664事件被告被告 N.Y.(以下「被告N.Y.」) 

・平成8(ワ)21790事件被告・平成9(ワ)17664事件原告・平成9(ワ)17665事件原告 株式会社ラブラドールリトリーバー(以下「被告会社」)(代表者K(※BLMコメント:N.Y.の実父、N.S.の義父))

・平成八8(ワ)22428事件被告 LR こと A.H.(以下「被告A.H.」)
 

■事案の概要等  

 本件は、原告N.Sが、商標権の帰属を主張し、被告らの使用行為対する差止等求めた一方、被告会社は、本件商標は、被告会社の商品表示として広く知られていたと主張し、原告N.Sは、被告会社の取締役を辞任する一か月前ころから、被告会社に秘して、自己の用に供するために、被告会社の所有する織ネームやボタンを流用し、被告会社の取引先に、本件商標が付された被告会社が販売していた商品を発注して製造させ、原告N.Sは、被告会社の取締役辞任後、右の商品を被告会社の卸先に販売し、被告会社の商品との混同を生じさせたと主張し、これにより被告会社は、営業上の利益を侵害されたとして、不正競争防止法2条1項1号に基づき損害賠償を請求した事案です。

 

◆当事者

(平成八(ワ)21790事件)
(1)原告N.S.:被告会社設立当時取締役で、その後代表取締役になったが、その後解任され、取締役を辞任し、被告会社とは別に登録商標(「本件商標権」)を付した衣料品等を販売している。被告N.Y.(旧姓K)は原告N.S.の妻。

原告N.S.は妻の父Kから被告会社の代表取締役の解任を通知されて、出社を拒否され、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に冠よすることができなくなった。
(2)被告会社(昭和62年5月11日設立):衣料品の販売、損害保険代理業等を目的とし、当初の商号は有限会社ツインズであったが、平成元年12月10日、有限会社ラブラドールリトリーバーに商号変更し、平成6年10月5日、株式会社に組織変更。被告会社代表取締役Kは、被告N.Y.の父で、Kとその妻K.C.との間の子は、被告N.Y.とその兄のK.H.(長男)、K.N.(次男)。Kは、不動産の仲介、売買等を主たる目的とする有限会社日東不動産の代表取締役として不動産業にも従事。

(3)上記本件商標権の帰属:原告N.S.は本件商標権を有していると主張。この点争いあり(被告会社が有すると主張)。

(4)被告会社は、被告標章(一)を付した被服、帽子、履物、包装紙、包装容器及び包装袋を譲渡等している。
 

◆被告会社立ち上げ時~被告会社から原告退職前後の経緯

(1)原告N.S.は、B社で衣料品の輸入関係の仕事に従事していたが、昭和61年6月3日、株式会社ビギに、カジュアルウエアのデザイナーとして入社し、洋服の企画、生産に関する仕事に従事。同人は、将来、衣料品店を経営することを望み「そのときに使う標章を作成しようと思い、昭和61年7月ころ、株式会社ビギに勤めていた某氏に、横を向いている犬の図形と「Labrador Retriever」の文字が重なった標章のラフスケッチを示し、本件商標の原形となる標章のデザインを依頼。某氏は、何点かのデザインを作成して、書体の選択、文字や図形のバランス等を原告N.S.と協議し、原告N.S.は、本件商標と同文字及び犬の形態が同じであり、犬の向きが右向きである点のみが異なる標章(以下「原形標章」という。)を最終案とした。
 原告N.S.は、同年11月11日、被告N.Y.(旧姓K)と婚姻。被告N.Y.の家族構成は上記「◆当事者」の通り。父Kは、不動産の仲介、売買等を主たる目的とする有限会社日東不動産の代表取締役として不動産業に従事。

 

(2)昭和62年5月11日、K.H.、K.N.が保険関係の事業を主として行うために、父Kの援助で、被告会社設立。当時、被告会社の商号は、双子にちなんで「有限会社ツインズ」とされ、その社員、取締役は、いずれもK.H.父K、原告N.S.、K.N.、K.C.の五名で、N.H.が代表取締役。本店所在地は、日東不動産の所有するマンションの一室。父Kは、衣料品店を経営することを望んでいた原告N.S.及び被告N.Y.に、同人らが、K.H.(長男)、K.N.(次男)と協力して被告会社の事業として衣料品等の販売を行うことを提案し、当事者4名はこれに同意。4名で相談し、店の名前を、原告N.S.が提案した「ラブラドールリトリバー」とした。父K、N.H.らは同月ころ、「Labrador Retriever」と図形の組合せによる出願をすることにした。父Kが調査費用を支出、N.C.の指摘を受け、犬が左向きの本件商標を出願することにした。出願費用の宛先を被告会社とした請求書を発行・支払いを受けた。

 

(3)原告N.S.は、実父N.K.の援助を受け、米国に赴き、古着、ディスプレイ用品、人形など約二〇〇万円の商品を購入した。織ネームのトレースを某氏に依頼し、本件商標を付した織ネームを株式会社中村織ネームに発注した。原告N.S.は、本件商標を付した値札の発注もした。原告N.S.は株式会社ビギの勤務があり、不動産業者や現地を回って探したのは、被告N.Y.とN.H.で、渋谷区神宮前に一年間の一時使用という条件の木造二階建ての物件(後に一号店)を見つけ、原告N.S.が気に入ったので、右物件で開店。被告会社は不動産業者に右物件の預り金として一か月の賃料相当の三五万円を支払い、被告会社を賃借人として賃貸借契約を締結し、礼金、敷金を支払った。預り金の支払などの手続は、N.H.が行った。

(4)昭和63年6月29日、原告N.S.が被告会社の代表取締役に就任し、原告N.S.とN.H.が被告会社の代表取締役になった。父Kは、同日、被告会社の取締役を辞任し、自己の有していた被告会社の持分を原告N.S.に譲渡。株式会社ビギ退職後、米国に赴いて商品の仕入れを行い、旅費は、被告会社が負担。実父N.Kは被告会社に400万円送金、被告会社は返済していない。日東不動産は被告会社に対して600万円送金、被告会社は同月20日、父Kの日東不動産に返済。被告会社は資金の借入れのため、父Kの手配により、日東不動産の取引先であった北海道拓殖銀行西永福支店と融資契約を締結し、その担保として、実父N.K.の株券が差し入れられた。一号店の開店に向け、原告N.S.は米国へ商品の仕入れに赴き、商品の仕入れの手配等を行い、N.C.は、商品とする衣料品に織ネームや値札を付けたりし、K.H.,K..N.も、その他の仕事を行った。店舗の内装工事は、被告会社が父Kの知合いの大工に請け負わせ、原告N.S.の意見も採り入れて工事が行われ、その代金は、一年の猶予を得た後、被告会社が支払った。原告N.S.は、商品を、自宅、一号店の二階、日東不動産の事務所に保管し、商品の輸送には、被告会社の自動車を使った。商品に付する織ネームや値札の製作代金は、被告会社が支出。


(5)被告会社は、昭和63年9月3日、渋谷区神宮前六丁目二九番二号に一号店を開店。原告N.S.が発注した本件商標を付したタートルネックのTシャツ、原告N.S.が米国で仕入れたギリシャ製のシャツに本件商標又は「Labrador Retriever」のみの織ネームを縫いつけたもの、カジュアルウエアの古着等に本件商標又は「Labrador Retriever」という文字のみの織ネームを縫いつけたもの、スニーカーなどであった。一号店の売上げは,同月は380万円、同年10月及び11月は各月600万円以上、12月は800万円以上、平成元年一月は1000万円以上、予想を上回った。


(6)一号店は、昭和六三年一二月から平成元年二月にかけて、雑誌に取り上げられた。雑誌ananには、一号店の写真と共に、「ラブラドールリトリーバー」は…輸入品を扱う洋服屋で、店内には主に米国西海岸から仕入れた洋服が置かれ、「人間味のある、あたたかいものがやりたかったのでニューヨークではなく西海岸の方を回った」旨の原告N.S.の発言などが書かれていた。雑誌oliveには、オーナーが直接米国から買い付けてきたものばかりが並んでいる店の記載、雑誌BE―PALの同月一〇日号には、オーナーが自分の趣味のままに作った店舗で、商品はベーシックなものが多いがブランドにはこだわっていることなどが書かれる等していた。


(7)本件商標については、平成元年2年8日付けで出願公告決定、右出願公告の成功謝金の請求書を原告N.S.宛に発行され、被告会社が支払った。


(8)被告会社の代表取締役は、平成元年2月、代表取締役のN.S.とK.H.のうち後者が辞任し、代わりに妻の父Kが代表取締役になる。被告会社は、同年3月、渋谷区渋谷一丁目二三番二六号に渋谷本店を開店し、その二階を本店の事務所とした。その後、一号店を閉店してその賃貸借契約を終了。父Kは、渋谷本店を開店するときの資金の手当てや内装の手配をした。被告会社の店舗においては、被告会社の資金によって仕入れた商品の他に、原告N.S.の私費等により購入した商品を販売しており、同一店舗内の商品でありながら顧客に対する会計を別にするなどしていたが、同年九月、被告会社は、原告N.S.の所有する商品をすべて買い取った。被告会社は、同年ころから従業員を雇い、従業員の数は、後記の神宮前店を開店したときは一〇名を超え、S店を開店したときには、約二〇名となっていた。被告会社において、原告N.S.は、「社長」と呼ばれ、K.H.は「Kさん」と呼ばれ、被告N.Y.は、「社長の奥さん」と呼ばれ、妻の父Kは「日東の社長」と呼ばれていた。被告会社は、同年12月10日、有限会社ツインズから有限会社ラブラドールリトリーバーに商号を変更。被告会社は、その後、有限会社から株式会社に組織変更した。


(9)被告会社は、平成4年9月18日、渋谷区神宮前六丁目一六番一七号に神宮前店を開店し、平成6年9月、渋谷区神宮前六丁目一八番一六号にS店を開店した。また、被告会社は、地方の小売店に卸売をしていた。一号店、渋谷本店、神宮前店、S店の経理は、すべて被告会社の経理として処理。被告会社の売上げは、開業以来、営業年度第五期までは毎年伸びていたが、平成3年10月1日から平成4年9月40日までの営業年度第六期の売上げは前年比三〇パーセント減少。それまで、被告会社が販売していた商品は輸入品が中心であったが、輸入品は、他の店が同じ商品を仕入れると売上げが少なくなるので、原告N.S.、K.H.らは、原告N.S.がデザインし、本件商標を付したオリジナル商品の販売に力を入れることにした。これが売れたため、その後、売上げは増え、平成6年10月1日から平成7年7月31日までの営業年度第九期の売上げは、6億4000万円。オリジナル商品のうち最も売れたのは、白地に本件商標をプリントしたTシャツ。若者向けのトレーナー、セーター、パーカー、ワンピース、布製のバッグ、髪飾り、ステッカー、傘、帽子、スカーフ等があった。


(10)被告会社において、原告N.S.は、オリジナル商品については、デザインをし、生地やプリント等の手配、製造業者への手配、卸先への納品等を行った。輸入品は、主に原告N.S.が米国で実際に商品を見て仕入れを行った。原告N.S.は、広告等も担当していた。被告会社において、妻の父Kは、税理士に依頼するなどして帳簿の作成、税金の処理などの経理を行い、日東不動産の経営によって得た金融機関に対する信用を生かして、資金の調達を行った。被告会社の借入れには、父Kが保証人となった。原告N.S.は、一日の売上げの現金をK.H.に渡し、K.H.はこれを父Kに渡し、父Kがこれを銀行に入金。取引先への送金は、原告N.S.が父Kに電話で振込先を指示し、その指示通りに送金。K.H.は、開業当初は、店舗において客の応対をしていたが、後に、被告会社の規模が大きくなると、渋谷本店の二階の事務室でファクシミリにより父Kに送金を指示したり、伝票の整理をしたりすることが多くなった。K.N.信夫は、被告会社の伝票の整理などをしていたが、日東不動産の仕事に専念するために被告会社を退いた。


(11)被告会社は、「Labrador」という商標の商標調査を依頼し、杉浦弁理士に対し、その費用四万六五〇〇円を支払った。被告会社は、同月三〇日ころ、杉浦弁理士を代理人として、第二五類に「Labrador Retriever」という文字のみからなる商標及び「Golden Retriever」という文字のみからなる商標を出願し、第一八類に本件商標と同じ商標を出願した。これらの出願書類には、被告会社の代表取締役の肩書きを付した原告中曽根信一の記名と被告会社の代表取締役印の押印のある杉浦弁理士に対する委任状が添付されていた。原告中曽根信一は、当時、被告会社の代表取締役印を★に預けていたが、右出願については、秀夫から説明を受けて了解していた。


(12)被告会社は、原告N.S.の発案で、フリーマーケットと称して、渋谷本店の前で、地面に段ボールを敷いて原告N.S.や店員の着古したものを客の目の前に並べ、その中に売れ残りの商品などかなりの種類の商品を混ぜ、定価二八〇〇円のTシャツを五〇〇円程度の価格で販売した。
 

(13)平成6年末ころから、原告N.S.とK.H.に性格の不一致があったこと、原告N.S.が妻の父Kの言動を不審に思ったことなどが原因で、原告N.S.とK.H.、父Kとの間に不信感が生じ、原告N.S.とK.H.、父Kとの関係が悪化し、父Kは、平成7年9月21日、原告N.S.に対し、代表取締役を解任したこと、原告N.S.との以後の交渉は被告会社代理人弁護士を通じて行うこと、原告N.S.の被告会社への出社を拒否することなどを伝えた。同月22日、原告N.S.が被告会社の代表取締役を解任された旨の商業登記。原告N.S.は、同年10月、被告会社の取締役を辞任。原告N.S.は、父Kからの被告会社の代表取締役の解任通知後、被告会社が倒産すると思い、被告会社の取引先に対し、被告会社にデザインをする者がいないから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の話をした。原告N.S.は、平成7年10月末、原告N.S.個人の名義で、オリジナル商品の製造業者にトレーナー等を発注し、できあがった商品に被告会社の所有に係る織ネームや値札を付けて自らのために販売した。(下線筆者)
 

(14)原告N.S.は、平成7年10月24日、被告会社に対し、本件商標の使用中止を申入れた。また、原告N.S.は、同年11月20日、被告会社に対し本件商標の使用差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て、同裁判所は、平成8年5月13日、右仮処分の申立てを却下する旨の決定をし、原告N.S.は、東京高等裁判所に即時抗告をしたが右仮処分の申立てを取下げ、平成八年(ワ)第二一七九〇号事件の訴えを提起した。被告会社は、これらの事件において、被告会社が本件商標の商標権者であると主張している。

 

(15)原告N.S.の取締役辞任後、被告会社は、輸入品とオリジナル商品につき、卸売と渋谷本店、神宮前店、S店における小売を続けた。被告会社は、原告N.S.が取締役の辞任後も、従前と同じ製縫工場で製作されたオリジナル商品を販売。被告会社は、オリジナル商品のTシャツに、原告N.S.在籍当時と同じ米国ヘインズ社のTシャツを使用。また、被告会社は、原告N.S.在籍当時に販売していたトレーナー、セーター、パーカー、ワンピース、布製のバッグ、髪飾り、ステッカー、帽子、スカーフ等の販売を継続するほか、トレーナー、セーター、パーカー、ブラウス、帽子、バッグ、タオル、傘などに新たな種類のオリジナル商品を加えて、販売。いずれのオリジナル商品も、若者向けのカジュアルウエアであるか又はカジュアルウエアと共に用いるようなもの。被告会社は、神宮前店でオリジナル商品を主に扱い、渋谷本店で男性向けの輸入衣料品を主に扱い、S店で女性向けの輸入衣料品を主に扱っている。被告会社は、原告N.S.が取締役辞任後、四、五〇社あった卸先の多くから取引を打ち切られたが、新たに、エルアール、ノイズ、エーブル、ブルーウェイ、生活倉庫といった店のほか、ロードジェムという卸業者やジャスコ、ユニーといった大規模店舗にも商品を卸すようになった。また、神戸及び大阪のファッションビルに被告会社の商品を扱う店が開店した。平成10年4月ころ、被告会社は、大分市に小売店を開店し、現在、小売店は四店舗である。被告会社の小売と卸売の割合は約六対四であり、卸売も含めた全売上げ中にオリジナル商品の売上げが占める割合は、約八割である。被告会社は、卸売において、色、サイズ、型が異なる商品をまとめて普通よりも安い価格で販売する、いわゆるアソート売りを行うことがある。また、数年前に販売した商品と同じデザインの商品を販売することもあった。
 

(16)被告会社は、毎年正月に安売りのセールを行うが、オリジナル商品の安売りは、正月のセールのときのみに行っている。被告会社は、平成九年一月四日から同月一五日まで及び平成一〇年一月三日から同月一五日までセールを行った。平成九年のセールのときには、五万円相当の品の入った福袋を一万円で五〇個販売するとチラシに記載し、平成一〇年のセールのときには、平成九年末に案内のはがきを顧客等に送付し、セールに際しては、店内で販売する商品を補充するために、店先の脇に段ボール箱を積んだ。セールのときの値引きの幅は、商品の種類によって、平常価格の二〇ないし八〇パーセント引き、三〇ないし四〇パーセント引き、五〇ないし七〇パーセント引きなどであった。被告会社は、平成九年五月、フリーマーケットと称し、渋谷本店において、輸入品の安売りを行った。


(17)被告会社は、「ラブラドールリトリーバーは下記の3店舗です」、「ラブラドールリトリーバーは、都内で3店舗の展開しております。弊社のオリジナル商品は、一部例外を除き、弊社のみでしか購入できません。ご注意下さい。」と記載されたチラシを配布したことがあり、取引先と交わす「取引に関する確認書」には、本件商標と共に「右記ロゴ、マーク等を、有うする商品については、貴社と取引し、他社とは取引致しません(貴社以外の同様な商品による市場の混乱を避る為)」という条項が記載されている。

 

(18)被告会社には、ABCマートという会社から関誠が入社し、被告会社は、「I.T.C(ABCマート)からラブラドールリトリーバーへ移り、バイイング、企画、プレスの方を担当させて頂くことになりました。今秋冬は今迄にない新鮮なラブラドールを打出し、新しいスタートを切るつもりです。ややモードよりの斬新なデザインのヨーロッパ物から、スニーカー、シューズ、バッグ、小物類、今までのラブラドールの良き品々からオリジナル・ブランド迄、大幅な充実をはかります。お貸出し、取材等の際は、ぜひお気軽に声を掛けて下さい。惜しみのない協力をするつもりです。よろしくお願い申し上げます。尚、秋冬物は、8月末~9月に続々と入荷の予定です。」という文面に関誠の記名の入ったチラシをスタイリスト等に送付した。
 

(19)被告会社は、平成一〇年三月ころ、いわゆる同性愛者の集団であるMASAKI`s FAMILY及びSGCの福島雅樹から、イベントを開催し、その収益金をエイズ撲滅に役立てるので協力してほしい旨の申入れを受け、エイズ撲滅に協力する趣旨で、「SGC」という文字、犬の図形及び「Labrador Retriever」という文字の入ったTシャツ、うちわを製作してこれをSGCに無償で寄付し、これらのTシャツ、うちわは、同年五月三日のSGCのイベントの際に配布された。…同年四月ころ、男性の裸体写真と共に「続々と新商品の発売が決定していますが、次回の目玉商品はコレ!ラブラドール・レトリーバー Tシャツ、スウェットなどの定番商品はもちろん、キャップ、バッグおよび雑貨、ほとんど入手不可能といわれるオリジナルの『傘』やプレミアム商品等々、MASAKI`s FAMILY通販桔梗屋なら手に入ります!」という文言を記載した広告をインターネットのMASAKI`s FAMILYのホームページに掲載した。


(20)原告N.S.は、同年四月、福島に対して、右Tシャツに使用されていた、犬の図形の下に「Labrador Retriever」という文字の書かれた標章の使用差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て、同裁判所は、同年五月一日、福島に対して右標章の使用差止めを命じる仮処分を発令した。被告会社はSGCの年間スポンサーになったことはなく、SGCに対してTシャツとうちわを寄付しただけであり、前記のようにMASAKI`s FAMILYやSGCの関係する雑誌に年間スポンサーになったなどという記事を掲載されたり、男性の裸体写真と共にインターネットに広告を掲載されることは、被告会社の意思に反することであったので、秀夫は、同月三一日ころ、福島と面談し、再び右のような雑誌やインターネットへ被告会社の名前などを掲載しないように申し入れた。福島は、秀夫に対し、口頭で謝罪等した。


(21)被告会社は、原告N.S.が被告会社に在籍していた当時から、被服、帽子及び履物に関するカタログその他の広告、定価表及び取引書類に本件商標又は本件商標と類似する被告標章(二)若しくは(三)を付したものを展示、頒布し、本件商標を、渋谷本店、神宮前店、S店の看板、テントに使用している。原告N.S.は、被告会社の取締役を辞任した後、本件商標を使用した衣料品等の卸売をしていたが、平成八年四月二六日、渋谷区神宮前六丁目二三番二号に小売店を開店した。原告中曽根信一が取締役を辞任した後、被告会社との取引を打ち切った取引先は、原告N.S.と取引をしている。原告N.S.の現在の小売と卸売の割合は、約二対八である。被告会社は、原告N.S.に対し、本件商標の使用料を支払ったことはなく、原告N.S.からその支払を請求されたこともない。

 

■当裁判所の判断
1.本件商標権の帰属

(平成八年(ワ)第二一七九〇号事件)
 裁判所は「商標権は、設定の登録によって発生する権利であるから、商標登録出願をして、登録を受けた者に帰属する」とし、認定事実に照らし、原告N.S.に帰属すると認定しました。そして被告会社が使用する被告標章(一)は本件商標と同一で、被告標章(二)は、本件商標を構成する「Labrador Retriever」の文字を大文字にしたもので称呼は同一で全体として類似し、また、被告標章(三)は、文字のとおり「ラブラドールリトリーバー」の称呼を生じ称呼同一で全体として類似する旨争いがない点認定しました。また、本件商標権の指定商品は、「被服、その他本類に属する商品」と認定しました。なお、履物は、本件商標権の指定商品に該当しないと認定されました。


(1)「本件商標登録の出願やその前提となる調査は、被告会社において衣料品等の販売を行うこととなり、店名を本件商標の称呼と同一の「ラブラドールリトリーバー」とすることに決めた後にされていること、本件商標登録に要する費用を被告会社が支出していること、本件商標の登録出願の手続に、N.H.らが関与しており、本件商標の犬の向きは、N.C.の意見によって決まったこと、以上の事実が認められ、これらの事実によると、本件商標の登録は、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売を予定してされたものであると認められる」。原告N.S.が商標権者となっているのは「その原形となる標章を原告N.S.がデザイナーに依頼して作成させたことや原告N.S.が中心となって衣料品等の販売を行うことが想定されていたため」と認めれ、「商標権者である原告N.S.は、本件商標の登録が、被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売を予定してされることを認識し、そのことを容認していたものというべきである」。


(2)また「被告会社は、一号店の開業以来、本件商標を使用しており、殊に、本件商標を付したオリジナル商品は、被告会社の主力商品として欠かせないものとなっているほか、原告N.S.が被告会社に在籍していた当時から、本件商標に類似する被告標章(二)及び(三)を使用していると認められ、これらの標章、殊に本件商標の使用なくしては、被告会社の営業は成り立たないものと推認される。原告N.S.は、被告会社の代表取締役であったから、これらの事実を自ら作出したものというべきである」。
 さらに「被告会社における本件商標を使用した衣料品等の販売は、特に期間を限定して始められたものではなく、原告N.S.を含め、被告会社の役員、関係者は、右販売を継続して行うものと認識していたものと認められる。

 

(3)そうすると「原告N.S.と被告会社の間には、本件商標並びに本件商標に類似する被告標章(二)及び(三)につき、黙示の使用許諾契約が成立していたものと認められる」。そして「右使用許諾契約の内容は、対価を無償とし、存続期間を、被告会社がこれらの標章を衣料品等の製造販売に使用する期間とするものであったと認められる」。(下線筆者)

 なお、原告N.S.と被告会社の間に明示又は黙示の専用使用権設定契約又は独占的通常使用権許諾契約、若しくは、明示の非独占的通常使用権許諾契約が締結された事実を認めるに足りる証拠はない。


(4)「原告N.S.は、本件商標を付した商品は、被告会社の商品としてではなく、原告N.S.の個性等を反映した商品として認識されており、原告N.S.イコールラブラドールリトリーバーであるという認識が需要者間に定着していると主張する」ことに対し、裁判所は以下のように判断しました。

 「確かに…原告N.S.は、被告会社の代表取締役であり、オリジナル商品のデザインは同原告が行っていたほか、商品の仕入れ等も、同原告が主に行っていた」。しかし「被告会社はN.S.の活動のみで経営されていたものではなく、被告会社が会社としての実体を有していたことは明らかで」、「このような被告会社が本件商標を使用して衣料品等の販売を行っていたのであるから、被告会社による本件商標の使用を原告N.S.による本件商標の使用と同一視することはできず、被告会社とN.S.との間には…使用許諾契約の成立を認めることができ、その存続期間を、原告N.S.が被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができる期間に限定すべき理由もない」等(以下省略)。
 

(5)次に使用許諾契約が解除されたかどうかについて、裁判所は以下のように認定・判断しました。
 「原告N.S.から本件商標等の使用を許諾された被告会社は、信義則上、その商標使用に関して原告N.S.にとって不利益な行為を行わないなどの義務を負」い、「被告会社にそれらの義務の不履行があり、両者の信頼関係が破壊された場合には、原告N.S.は右使用許諾契約を解除することができる」。「原告N.S.は、被告会社が、仮処分事件、その即時抗告事件、本訴において、一貫して被告会社が本件商標の商標権者であると主張していることをもって、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であると主張する」が、「被告会社は…本件商標権について商標権者ではないから、本件商標権について自らが商標権者であると主張することは、その行為が、原告N.S.に対する関係で、信義則に反する行為であると評価されてもやむを得ない面がある」。「しかし、原告N.S.は…被告会社が本件商標等を使用…できるにもかかわらず…、被告会社に対し、本件商標の使用中止を申入れ、…本件商標の使用差止めの仮処分を申し立て、…平成八(ワ)21790事件の訴えを提起し…、被告会社は、原告N.S.の右の使用中止等の主張に対抗するために、被告会社が本件商標の商標権者である旨を主張したものと解される」。そして「被告会社が本件商標を使用してきた経緯を合わせて考えると、被告会社が本件商標権について自らが商標権者であると主張したことをもって…信頼関係を破壊するもので、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であるとすることはできない」。(下線筆者)


(6)原告中曽根信一は、被告会社が、「ラブラドールリトリーバーは下記の3店舗です」、「ラブラドールリトリーバーは、都内で3店舗の展開しております。弊社のオリジナル商品は、一部例外を除き、弊社のみでしか購入できません。ご注意下さい。」と記載されたチラシを配布していることなどに対し、裁判所は「右チラシの文言は、真実に反するとは認められないし、それが直ちに原告N.S.の名誉や信用を毀損するということもできない」とし、「被告会社が、顧客及び取引先に対して、自らの商品と原告N.S.の商品の混同を避けるための措置を講じることを、あながち不当」ともいえないとし、「右確認書を取引先と交わしたことについて、本件商標の使用許諾契約における信義則上の義務に違反する」とはいえず、右使用許諾契約の解除は認められないとしました。このほか、原告N.S.の店に来た顧客の話として「被告会社の店の店員が、顧客から問われて原告N.S.の店のことを「全く関係のない偽物をおいてある店だ」と言ったという趣旨の記載がある」が、裁判所は「伝聞であって、店員がその言葉のとおりの発言をしたと直ちに認められ」ないとしました。その他主張がされましたが、裁判所は「被告会社が、原告N.S.の店舗は偽物を販売している店であるなどと流布していることを認めるに足りる証拠はない」としました。


(7)原告中曽根信一は、被告会社が本件商標のブランドイメージを損なう行為を行ったと主張し、それが、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由に当たると主張したが、「このブランドイメージと言われているものは、極めて漠然としており、その内容が不明確である」などとして、裁判所はこれを認めませんでした。

 また、「被告会社が本件商標を付した商品をファッションビルの一角の販売店に販売し、数年前の商品をリピートした商品を販売していること、被告会社がアソート売りを行っていることが、本件商標のブランドイメージを損なう行為であると主張する」も、裁判所は「被告会社は、原告N.S.の在籍当時から、古着や、サイズ、柄が統一されていない安価な手袋などを積極的に販売していたことが認められ」、「フリーマーケットと称するセールを行っていた」などと認定し、認定事実に鑑みると「原告N.S.が被告会社に在籍した当時から現在に至るまで、本件商標が、限定された対面販売の衣料品店やデパートのような高級店のみで販売されている安売りをしない商品というイメージを有していたと認めることはできず、これに反する原告中曽根信一本人尋問の結果は採用」できず、「被告会社の本件商標を付した商品がファッションビルにある販売店や大規模店舗で販売されており、被告会社がアソート売りを行うことがあり、また、数年前に販売した商品と同じデザインの商品を販売することがあったとしても、それが直ちに本件商標のブランドイメージを損なう行為であるということはできない」と判断しました。


(8)裁判所は「そもそも、被告会社にとって、原告N.S.が在籍していた当時に形成された本件商標に対する信頼を維持することが利益になることは明らかであるから、被告会社が積極的にそのブランドイメージを損なう行為を行うとは考え難く」「被告会社は、原告N.S.が在籍していた当時と同様の商品を販売するよう努めているものと認められる」。

(9) 裁判所は、原告N.S.は、父Kから被告会社の代表取締役を解任した旨及び以後の出社を拒否する旨を言い渡され、被告会社による本件商標を付した商品の製造販売に関与することができなくなり、原告N.S.と被告会社の間の信頼関係が破壊されたことをもって、本件商標の使用許諾契約の解除を認めるべき事由であると主張する」が、そのことが「被告会社に使用許諾契約における義務違反が存するわけではなく、その他、この事実をもって原告中曽根信一が使用許諾契約を解除することができる事由が存するということはできない」と判断しました。

 

 以上によると、原告中曽根信一の請求は、いずれも理由がないとされました。

 

(平成八年(ワ)第二二四二八号事件)

(本ブログでは省略)

 

1.不正競争防止法上の主張

(平成九年(ワ)第一七六六四号事件)

 被告会社は、本件商標は、被告会社の商品表示として広く知られていたと主張し「原告N.Sは、被告会社の取締役を辞任する平成7年10月24日の一か月前ころから、被告会社に秘して、自己の用に供するために、被告会社の所有する織ネームやボタンを流用し、被告会社の取引先である株式会社MOMOYAに、本件商標が付された被告会社が販売していた商品を発注して製造させた。原告N.Sは、被告会社の取締役を辞任した後、右の商品を、別紙卸先一覧表記載の被告会社の卸先に販売し、被告会社の商品との混同を生じさせたと主張し、これにより被告会社は、営業上の利益を侵害されたとして、不正競争防止法2条1項1号に基づき損害賠償を請求した事例です。

 

(1)裁判所は、認定事実に基づき、「本件商標は、遅くとも平成7年10月末ころには、被告会社の商品表示として広く知られていたものと認められる」と判断しました。

 

(2)裁判所は、以下の認定により、「被告会社が卸先から取引を打ち切られ、その取引によって得べかりし利益を喪失したとは認められない」と判断しました。

 「認定のとおり、原告N.S.は、平成7年10月末、原告N.S.個人の名義で、オリジナル商品の製造業者にトレーナー等を発注し、できあがった商品に被告会社の所有に係る織ネームや値札を付けて自らのために販売したことが認められる」が、「原告N.S.が右商品を別紙卸先一覧表記載の卸先に販売したことを認めるに足りる証拠はな」く、「また、仮に、原告N.S.が右商品を被告会社の卸先に販売したとしても」、認定の事実によると「被告会社は、原告N.S.が代表取締役として中心となって経営してきた会社で、オリジナル商品のデザインは同原告が行っていたほか,商品の仕入れ等も主に同原告が行ってきたところ、オリジナル商品のデザインや商品の仕入れは、被告会社の経営に欠くことのできない重要なものであると認められ、卸先はこれらの事実を知っていたものと推認することができるから、卸先が、原告N.S.の在籍しない被告会社の商品供給能力に不安を抱いて取引を打ち切り、原告N.S.と取引をするのは当然のことであると考えられる。そうすると、原告N.S.が…商品を販売しなかったとしても、被告会社が…商品と同種の商品を卸先に販売することができたとまでは認められず、ましてや、その後、被告会社と卸先との取引が継続されたとは認められない」。

(3)裁判所は、認定事実のとおり、原告N.Sは、妻の父Kから被告会社の代表取締役の解任を通知された後、「被告会社が倒産すると思い、被告会社の取引先に対し、被告会社にはデザインをする者がいないから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の話をしたことが認められる」が、「認定の事実以外の事実を認めるに足りる証拠はない」としました。
 また、裁判所は、認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると「被告会社には、原告N.S以外にデザインをする者がいなかったことは真実であると認められ、また…被告会社においては、オリジナル商品が重要な取引商品であったから、これから被告会社の商品がどうなるか分からない旨の発言も必ずしも真実に反するものではない。しかも、これらの事実はかなりの程度取引先にも知られていたものと推認される。そうすると、原告中曽根信一が被告会社の取引先に対して右の発言をしたことが直ちに不法行為であるということはできず、他にこの発言を不法行為であるとすべき事情は認められない」としました。


(平成九年(ワ)第一七六六五号事件)
 省略


■結論
 
以上によると、原告N.S.の請求及び被告会社の請求は、いずれも理由がないと判断しました。


■BLM感想等

 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の商品と同種の商品を製造・販売等する場合、元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。本件では、原告となったのは元従業員です。従業員というよりは、代表取締役N.S.ですが、資金調達等の支援はN.S.の妻の父Kの支援があり、原告N.S.と妻の父Kとその息子との関係が悪化し、代表取締役を解任され、いうなれば追い出された立場で、実質的な経営権は妻の父Kが握っていたと考えます。もっともアイデアやデザイン、商品のコンセプトのこだわりは原告N.S.が作り上げたものです。被告会社の下で、原告N.S.のデザイン、ブランド化能力が発揮されたと考えられます。いわば、経営(売上経理や不動産管理等の基盤面含む)と、価値提案の中身(商品のアイデアやコンセプトづくり)が分離した場合、ブランドは誰のものか? 本裁判例は、原告N.S.と被告会社(代表取締役は妻の父K)のいずれの請求も否定しました。結局、どちらも商標を使用できるということでしょう。周知性を獲得した以後は、不正競争の目的がない限り、各自が発展させることができる、という判断になるのかなと思います。本件は、事実認定が長すぎて、BLMとしても消化しきれていません。今後、この裁判所はもう少しかみ砕いて、さらに検討したいと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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