不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その31

 本日も、元従業員(本件では、被告に杜氏として就職した者で原告となっています。)と会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  金沢地判令3・12・3〔農口酒造事件〕令元(ワ)250

原告 P1
被告 農口酒造株式会社
同代表者代表取締役 P2

 

■事案の概要等 

 原告(杜氏)は、自らの氏名「P1」を商標登録(登録第5979077号登録第6245133号)し(以下、原告商標権1・2)を有するところ,本件は,原告が,「P1」(以下「原告表示1」)又は「杜氏 P1」(以下「原告表示2」といい,原告表示1と一括して「原告各表示」)は原告の周知又は著名な商品等表示であり、また、被告が販売した別紙1被告商品目録記載の日本酒及び酒粕(以下,これらを一括して「被告商品」)の包装材やラベルに付し,あるいはインターネット上のホームページ等の広告宣伝物に使用した標章は,原告商標と同一又は類似の標章であるとともに,原告の周知又は著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示に該当するから,被告商品を販売し,広告宣伝物に使用するなどした被告の行為は商標権侵害(商標法37条1号)又は不正競争(不正競争防止法2条1項1号,2号)に該当すると主張して,被告に対し,次の各請求等を求めた事案です。
 (1)「P1」及び「杜氏 P1」の標章の使用差止め(商標法36条1項・不競法3条1項に基づく差止請求)
 (2)「P1」又は「杜氏 P1」の標章を使用した商品,包装材,ラベルの廃棄(商標法36条2項・不競法3条2項に基づく廃棄請求)
(3)損害賠償請求(本ブログでは省略)
(4)商標法39条又は不競法14条に基づく信用回復措置請求(本ブログでは省略)


当事者
・原告は、昭和36年に石川県所在の菊姫合資会社に就職して以来,杜氏として日本酒の製造に従事し、平成29年頃から,同県所在の株式会社P1研究所で杜氏を務めています。原告は、平成25年、被告に杜氏として就職し,平茂25年分及び平成26年分の日本酒を製造し,平成27年4月頃,被告を退職しました。
・被告は,清酒その他酒類の製造及び販売等を目的とする石川県所在の株式会社で、平成26年頃から,原告が製造した日本酒を販売しました。

 

◆経緯

(1)被告の行為等
 ・被告は,原告が平成27年4月頃に被告を退職した後,少なくとも令和元年5月頃まで、自社のホームページや,ツイッター…の自社のアカウント等の広告宣伝物において,「P1」の標章(以下「被告標章1」)及び「杜氏 P1」の標章(以下「被告標章2」、被告標章1と一括して「被告各標章」)を使用しました。
 ・被告は,原告が平成27年4月頃、被告退職後,少なくとも同年5月から令和元年5月頃まで,被告標章2(縦書き)を印刷したラベルを瓶に貼付した日本酒及び同標章を印刷した包装材を使用した酒粕を販売しました。 
 ・原告は,少なくとも被告在職中には、原告が製造した日本酒の販売・宣伝に関し,被告各標章の使用許諾をしました。
(2)原告による申入れと被告の対応
・原告は、被告に、原告退職後に製造された日本酒のうち、被告標章2を印刷したラベルを貼付した製品の回収及びホームページ等の広告宣伝物における被告標章1の削除を申入れました。
・被告は,原告に対し被告が原告退職後に製造した日本酒のラベルは,原告の氏名が表示されないように流通させている旨,広告宣伝物のうちホームページ上の表示については,ホームページを作成した業者に削除を依頼した旨回答しました。
(3)仮処分決定
 原告は,平成30年,被告を債務者として,金沢地方裁判所に対し、①商品や広告宣伝物に対する被告各標章の使用差止め及び抹消、②被告標章2を印刷した包装材を使用した商品及びその包装材につき,被告の占有を解いての執行官への引渡しを求めて,仮処分命令を申立て、同裁判所は認容決定しまし、金沢地方裁判所小松支部の執行官は、令和元年6月13日、原告の申立てにより仮処分決定に基づき,被告本店所在地で、上記②の商品につき、被告の占有を解き、執行場所において執行官保管とする保全執行をしました。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.商標権侵害該当性(原告商標と被告各標章が同一又は類似であるか(争点1)
1.判断枠組み
 「商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)」。
 また「複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)」。


2.判断枠組みに沿った本件に関する判断

(1)類否の検討(被告標章2について)
 裁判所は、以下のように認定・判断しました。

 原告商標は、標準文字で「P1(漢字4字)」からなり、上記標章における「杜氏」の文字と「P1」の文字とは,若干の間隔を設けて記載され、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると直ちには認め難い。加えて,「杜氏」とは,酒造工の最高責任者を指す一般名称である一方で,「P1」は特定の個人名…からすれば,被告標章2が付された日本酒…等に接した者は,「杜氏であるP1という氏名の者が製造した酒(又は日本酒に関連する商品)であること」を意味すると通常受け取る。「杜氏」の語は日本酒の分野では一般的な名詞で、取引者・需要者に出所識別標識として特段の印象を与えるものではない。以上、「杜氏」の文字と「P1」の文字の結合から成る被告標章2は、「P1」の文字部分が,取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える」。「被告標章2から「P1」の文字部分を要部として抽出した上で,原告商標との類否を判断するのが相当である」。「さらに進んで,被告標章2の要部は「P1」の部分であり,原告商標と同一の漢字により構成され…外観が共通し,称呼及び観念も同一であるから、…指定商品に使用された場合、その出所について誤認混同を生ずるおそれがある。被告標章2と原告商標とは,社会通念上同一のものであると認めるのが相当である」。

 

(2)類否の検討(被告標章1について)
 裁判所は、上記の検討も踏まえ「原告商標と被告標章1は,その外観・称呼・観念において同一又は社会通念上同一」と認めました。

 

(3)商標法36条1項に基づく使用差止請求及び同条2項に基づく廃棄請求について(小括)
ア 原告商標権2の指定商品には「清酒」及び「食用酒かす」が含まれるところ,被告商品はいずれも日本酒又は酒粕であるから,原告商標に係る指定商品と被告商品は同一又は類似であり,…認定判断したとおり,原告商標と被告各標章は,同一又は社会通念上同一」で、「したがって,被告が被告各標章を使用する行為は,原告の商標権を侵害する」。

(以下省略)

 

Ⅱ.不正競争該当性

1-1.原告告各表示が周知又は著名な商品等表示か(争点2ー1)
 裁判所は、認定事実に基づき、以下のように判断し、原告各表示は、不正競争防止法2条1項1号の「需要者の間に広く認識されているもの」に該当する(周知性を有する)と認めました。

 「原告は,被告に入社する平成25年以前から,全国新酒鑑評会において金賞を多数受賞し,「現代の名工」に認定され,黄綬褒章を授与されるなど,業界内外から杜氏としての業績が高く評価されており,テレビ番組でも原告を特集する企画が複数回組まれたことがある」。また「原告がP1研究所で杜氏として活動を再開した後は,新聞,雑誌,ウェブサイト及びテレビ番組等で原告が多数回紹介されているところ,その紹介記事のほとんどが,原告が杜氏として既に相当の実績・評価を有していることを前提とする内容である」。「これらの事実関係によれば,原告の氏名は,日本酒の卸売・小売等の販売に携わる取引業者や,日本酒に関心を有する一般消費者の間で,遅くとも平成28年4月21日(原告主張の不正競争に係る損害賠償額算定の始期)当時には,広く知られていたものと評価」できる。そうすると、原告の氏名である原告表示1は、上記「当時,同表示が付された日本酒が原告の製造に係る商品であることを消費者に認識させ,第三者の製造した商品と区別するに足りる自他識別力や出所表示機能を有する商品等表示として,周知性を有していたと認め」られる。また「原告表示2は、原告の氏名に、一般に酒造工の最高責任者であることを示す「杜氏」という肩書を付した表示であるところ、原告が杜氏として知名度を有していたことに照らすと、原告表示1同様、商品等表示として周知性を有していたと認め」られる。(以下省略)
 

1-2.被告が原告の周知又は著名な商品等表示と同一又は類似の表示を使用しているか(争点2-2)
 不競法2条1項にいう「使用」とは,他人の商品等表示を商品又は営業に用いることをいう。
 前記1及び(1)で述べたことに加えて,前記前提事実(3)イのとおり,被告は,原告が平成27年4月頃に被告を退職した後,少なくとも同年5月から令和元年5月頃まで,別紙1被告商品目録記載のとおり,被告標章2(縦書き)を印刷したラベルを瓶に貼付した日本酒(別紙1被告商品目録1ないし6,同8ないし11)及び同標章を印刷した包装材を使用した酒粕(別紙1被告商品目録7)を販売しているから,被告は,周知性を有する商品等表示である原告各表示を,使用等したと認められ,この認定を左右する証拠はない。

 

1ー3.被告による使用等が原告の商品又は営業と混同を生じさせるか(争点2-3)

 1.判断基準
 「混同を生じさせる行為」(不競法2条1項1号)は,現に混同を生じさせていることは必要ではなく,混同を生じさせるおそれがあれば足りる。また,「混同を生じさせる行為」には,自己と周知の営業表示の主体たる他人との間に何らかの関係が存在するものと誤信させる行為も含まれる(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。


 2.本件に関する判断

 裁判所は認定事実に基づき以下のように判断しました。

 ①「原告各表示と被告各標章は,その表示の外観・称呼・観念において少なくとも社会通念上同一であること」、②「原告の営業(杜氏として従事する経済的活動)と被告の営業は、一般消費者を対象とする日本酒の製造との点で共通すること」、③認定事実のとおり「現に一般消費者や小売店が,被告商品を原告の製造した日本酒であると誤認している例もあることが指摘でき」、「これらの点によれば,被告が日本酒の包装材やラベルに被告標章2を付して使用することは,原告の営業と混同を生じさせるおそれがある行為である」。「また、酒粕は、一般に日本酒の製造過程で生成される物であり、日本酒の製造業務と強い関連性が認められ、日本酒と酒粕の消費者層も一定程度共通すると通常考えられ」、「被告が酒粕の包装材に被告標章2を付して使用することも,原告の営業の一環であるとの混同を生じさせるおそれがある」。「さらに,被告が広告宣伝物において被告各標章を使用することも,原告の営業と混同を生じさせるおそれがある」。

 

2.不正競争該当性の小括
 裁判所は、「被告商品を販売し、広告宣伝物に使用するなどした被告の行為は,不競法2条1項1号の不正競争に該当する」と判断しました。

 

Ⅲ.営業上の利益の侵害の有無(争点3)
 裁判所は、以上のように、「原告の氏名は,日本酒の販売に携わる取引業者や日本酒に関心を有する一般消費者の間で,遅くとも平茂28年4月21日当時には,杜氏として」周知性を獲得していと評価でき、「一般消費者や小売店の間で、現に被告商品の出所について誤認混同が生じている例」にも照らすと、「被告が被告各標章を使用することは、原告がこれまでに得た業績や評価に基づく原告各表示の出所識別機能や品質保証機能,顧客吸引力を弱め」、「原告がこれまでに得た杜氏としての名声を毀損する」と認められるとし、「以上の点から…被告の不正競争によって、原告の営業上の利益が侵害された」と認めました。

 なお、原告が、「一時的に事業活動を行っていない期間があるとしても,被告の不正競争によって,それまでに形成された原告各表示の出所識別機能や品質保証機能,顧客吸引力,原告の名声等の事実上の利益が侵害されることは異な」らないとしました。
 被告は「原告製造の酒の営業及び収益は、P1研究所に帰属」し、「原告の営業上の利益侵害の根拠とならない旨主張する」が、1号は「商標登録がなくとも,標章等が周知性を具備することにより保護に値する一定の事実状態を形成している場合に保護を図」り、「保護法益は,商品・役務の出所に対する取引上の信頼に基づく利益である」ため、「原告の事実上の利益も不競法4条にいう「営業上の利益」に含まれると解するのが相当である」と判断しました。

 

Ⅳ.使用許諾の有無(争点4)
 裁判所は認定事実に基づき、「原告が被告在職中に製造した日本酒については、被告各標章の使用の許諾があったこと…も踏まえ」、平成28年4月21日以降でも「原告製造に係る日本酒の在庫が費消されるまでは,被告商品に被告各標章を使用することについて,原告の許諾があると認めるのが相当」とし、かかる「在庫が費消された時期」を以下のように認定・判断しました。
 「平成29年3月までに販売された被告商品のうち、日本酒については、原告が製造し、原告が被告各標章の使用を許諾したものと認められるから、平成28年4月21日から平成29年3月までの被告各標章の使用は不正競争に該当すると認めることができず、平成29年4月1日以降の使用に限り,不正競争に該当すると認めるのが相当である」。「他方、被告商品のうち、酒粕については、原告が被告各標章の使用を許諾したことや、使用許諾に係る在庫があることの具体的な主張立証がないから、平成28年4月21日以降の被告各標章の使用は,全て不正競争に該当すると認めるのが相当である」。


Ⅴ.使用許諾の合意解除又は撤回の有無(争点5)
 裁判所は、「原告が被告在職中に製造した日本酒について被告各標章を使用することに関し、原告の使用許諾の合意解除又は撤回があったとは認めることはできない」としました。


Ⅵ.被告の故意又は過失の有無(争点6)について
(1)「平成29年4月1日以降の被告商品のうちの日本酒に係る被告各標章の使用及び平成28年4月21日以降の被告商品のうちの酒粕に係る被告各標章の使用は,原告が被告在職中に製造した商品に対するものとはいえず,原告の使用許諾のないものとして不正競争に該当する」。そして「原告各表示と被告各標章の同一性、原告の営業と被告の営業の共通性等に加え、被告が本件回答書…により、原告の退職後に製造した商品については、原告の氏名を表示しないなどの対応を要することを前提とする回答をしたことを総合すれば、被告において、上記の被告各標章の使用が不正競争に該当することを認識し得たと認められる」。そうすると「被告は、原告の退職後に製造された被告商品に対して被告各標章を使用したから、不正競争に該当する行為をしたことについて過失があると認めるのが相当である」。


Ⅶ.不正競争による損害の有無及び額(争点7)

 裁判所は、「原告各表示は,取引業者や日本酒に関心を有する一般消費者の間では相応の知名度を有していたといえ」、認定事実により「被告の社名や被告商品の銘柄が原告の姓に由来すること,ツイッターやホームページで原告が製造した酒であると宣伝して被告商品を販売したことなど,被告の販売態様は,原告の氏名を殊更に利用するものであったと認められ,このことをも考慮すると,原告各表示は一定の顧客吸引力を有すると認められる」こと、「上記の被告の販売態様に加え,被告標章2を使用した被告商品の品目数は少なくないことからすると,被告各標章は被告の売上げに相当程度貢献していると認めるのが相当である」と判断しました。この点に関し「被告商品の売上げには「農口」という被告商標自体の顧客吸引力も少なからず影響した可能性があるが,「農口」という銘柄自体が原告の姓に由来していること」からすれば、「結局は原告の氏名の顧客吸引力を利用していると認めるのが相当であるから,この点を使用料率の算定に当たり考慮することは相当でない」としました。そして「以上の事情を総合考慮して,被告の売上げに係る使用料率は5%と認め」ました。

 

Ⅷ.その他の争点 省略

■結論

 以上のとおり,原告の請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し(なお,主文第1項及び第2項について仮執行宣言を付するのは相当でないから,これを付さないこととする。),その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文(被告は、商品及び広告宣伝物…に「P1」及び「杜氏 P1」の標章を使用してはならない。」「被告は、「P1」又は「杜氏 P1」の標章を使用した別紙1被告商品目録の商品及び包装材・ラベルを廃棄せよ」等)のとおり判決する。


■BLM感想等

 元従業員が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員が従前の会社の商品と同種の商品を製造・販売等する場合、元従業員に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。ただし、本件は、被告に、杜氏として就職した者が、原告となって、会社を訴えた事例であり、これまで見てきた裁判例とは趣を異にしています。そして、商品等表示性や周知性が認められない場合は、元従業員は自由に表示を使用することができ、周知性が認められる場合は、元従業員の表示の使用はフリーライド(不正競争)の意図が容易に認定されてしまう傾向にあったように思います。

 これに対し本件では、「平成25年、被告に杜氏として就職し、平茂25年分及び平成26年分の日本酒を製造し、平成27年4月頃、被告を退職しました」との事実が前提となっており、会社が杜氏を雇っている関係にあると言えましょう。かかる杜氏の氏名4文字からなる商標・その他の表示の顧客吸引力が認められ、周知性が認められたのです。そして被告に雇われている間、被告が原告の氏名からなる商標・その他の表示を商品(酒等)に使用する行為はどのように正当化されるのか、というと、使用許諾がされていたということになります。

 これまで見てきた裁判例、例えば、福井地裁敦賀支平8・8・5〔若狭塗箸事件〕平7(ワ)18や、東京地判平11・12・27〔高島易断事件〕平6(ワ)11157(東京高判平12・12・13〔同〕平12(ネ)1203)で、BLM感想等として、「近年は、良くも悪くも人材の流動性が高まっています。ですので、従業員はいつか辞めるかもしれない点を前提にした無形資産の管理をする必要があるでしょう。結局何が自社の重要かつ独占できる無形資産であるか否かを見極める必要がありそうです」と述べました。

 本件も、これらの裁判例と、結論は異なるものの、共通する部分も多いように思います。また、例えば、国分グループ本社株式会社の「地酒蔵元会」(こちら)のホームページによれば、「杜氏制度」とは、「季節労働者である「蔵人」と、その長「杜氏」により酒を造る制度」等と説明されており、昔から、杜氏という職業は独立性の高いものであったのかもしれません。このような独立性があり、専門性の高い職種の方々の氏名等の表示を会社が用いる場合、その方々の信用を保護する必要があります。時に会社が強い立場となる場合も考えられるところ、本件は、そういった職種の方の氏名等の信用や顧客吸引力の保護に資する、よい判断だったのではないかと思います。かかる判断があり得る点を踏まえ、会社にとっては、専門性の高い職種の人たちと良い関係を形成していくのが、結果として会社の利益になるものと考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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