不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その14

 本日も、原告の元従業員が絡み紛争となった事例を見ていきます。

 

  東京地判平11・12・27〔高島易断事件〕平6(ワ)11157(東京高判平12・12・13〔同〕平12(ネ)1203)

原告 株式会社高島易断総本部(代表取締役 O.S.)
被告 S.S.

 

■事案の概要等 

 本件は、営業において「東京高島易断運命鑑定」又は「高島易断洗心館総本部」の表示を使用する被告の行為が、主位的には、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、予備的には、原告、被告間で締結された契約に違反すると主張して、原告が被告に対し、上記表示の使用の差止と損害賠償を請求した事案です。

 

◆前提となる事実

 原告代表者は、昭和58年頃から高島易断総本部発真会なる団体を設立し高島易断を含む表示を用いて易占業務を行っており、原告は、平成2年に有限会社高島易断総本部として設立され、平成4年に株式会社に組織変更され、「高島易断総本部」の名称で、「高島易断運命鑑定」の表示を用いて、高島易断による易占業務を行っています。

 被告は、研修生として原告に入社し、平成3年3月18日及び同月28日付けで、原告に(書面上は高島易断総本部発真会宛)、原告を退社した場合には、「高島易断」及び「高島」の号名は一切使用しない旨の本件誓約書を提出しました。その後、被告は平成5年2月14日頃、原告を退職後、高島易断を含む表示を用いた易占業務を営む東京高島易断大慈会総本部に加入し、高島翔山又は高島翔龍と称しました。被告は、その後、金沢市内のホテルで連日相談会を開催し、その直前ころに、「商標登録正統易学・気学・運命学の最高権威東京高島易断運命鑑定」「東京高島易断大慈会総本部」等と表示した広告チラシを大量に作成して配布した。その後も幾度か広告チラシを大量に配布し相談会を開催しました。また、被告は、平成7年ころ、仲間とともに高島易断洗心館総本部なる名称の団体を共同設立し、その主宰者となり、高島易断洗心館総本部は、「高島易断運命鑑定」の表示を用いて、易占業務を行っています。(下線筆者)

 

■当裁判所の判断

1.争点1(周知な商品等表示)について
 裁判所は、上記事案の概要で述べた原告代表者及び原告の表示の使用に関する認定のほか、以下の事実を認定しました。
 (1)「高島嘉右衛門は、明治時代に、易経を研究して著書「高島易断」を著し、独自の易占を創案し」、「高島易断」の名称は、同人が創案した易を示すものとして使用されたが、その没後「高島(高嶋)の名を名乗り、高島易断の名称を含む表示を用いて、易占業を行う者が現れるに至った」。「高島嘉右衛門の縁者ないしは門下生はいない」。昭和20年代「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」の名称を使用する易者が、多数存在するようにな」り、「当時、「高島易断総本部」という名称の団体も存在し、また、「高島易断所本部神宮館」という名称の団体が毎年高島暦を発行していた」。


(2)「原告代表者は、昭和58年、高島易断総本部発真会を設立し」、そのころまでには「高嶋易断所総本部」「全日本高嶋易断總本部」「高島易断紫雲閣総本部」「東京高島易断神相館本部」「本家高嶋聖易断総本部」…等、「高島(高嶋)」「高島易断(高嶋易断)」を含む名称を付し、「高島(高嶋)」姓を名乗る易占業者が多数存在し、現在も「「高島(高嶋)」「高島易断(高嶋易断)」を含む名称で易占業を営み、「高島(高嶋)」の姓を名乗る易占業者が多数存在する。


(3)「高島(高嶋)」「高島易断(高嶋易断)」が含まれた登録商標も多数ある。


(4)原告は、平成4年、「高嶋易断」「東京高島易断」の各文字からなる各商標について、占い業・易業を指定役務として登録出願をしたが、指定役務に使用する場合の識別力はないとの理由で、拒絶理由通知が出された。、また「指定役務を易とし、「高島易断総本部」の文字からなる登録商標(商標権者:原告)に対する無効審判において、需要者をして,何人の業務に係る役務であるのかを識別できないため、商標法3条1項6号に該当するとして、登録無効審決が出され確定している。

 
2 以上から、裁判所は「高島嘉右衛門は、「高島易断」を著し、「高島易断」と称する易占を創案したが、同人の没後ころから、同人の縁者ないし門下生ではないにもかかわらず、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含んだ名称を使用し、また、右各名称とともに、「総本部」ないしは「本部」付して、易占業を行う者が、多く存在するようになった事実経緯に照らすと、「高島(高嶋)」ないし「高島易断(高嶋易断)」は、易占業そのもの、ないし易占業の組織、団体を指す一般的な語であり、また、「総本部」ないし「本部」も、組織、団体の中心的機関という一般的な語であり、いずれも、特別な意味はないと解するのが相当である」とし、「したがって、原告の使用に係る「高島易断総本部」及び「高島易断運命鑑定」は、いずれも、一般的意味を有する言葉である「高島易断」と「総本部」ないし「運命鑑定」とを組み合わせたに過ぎないものであり、一般利用者に対して、その役務の出所を表示する機能はない」と判断しました。

 裁判所は、「原告は、「高島易断総本部」の表示を使用して、新聞に折込広告を入れたり、新聞、電話帳等に広告を掲載したりするなどの宣伝活動を行い、高島暦を発行するなどし、また、雑誌等に原告の記事が掲載されたりした」と認めましたが、「高島易断」が広く一般の易占業において使用されている経緯に照らすと、右のような原告の営業活動をもっても、「高島易断総本部」が原告の周知な商品等表示であると解することは到底できないとし、不正競争の成立を否定しました。


2.争点3(契約違反)について
 被告は、原告に入社し、「原告を退社した場合には、「高島易断」及び「高島」の号名は一切使用しない旨の本件誓約書を提出したことが認められる」が、「原告代表者が高島易断総本部発真会及び原告を設立した当時、既に多数の易占業者が、その営業に「高島易断」を含む表示を使用し、また、多くの易占業者が、「高島」の姓を使用していたこと」、「「高島易断」は、易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的な名称であると解されること」等の経緯に鑑みれば、「「高島易断」及び「高島」を含む表示、姓を、一切(期限の定めもなく)使用しないと約したものと理解される本件誓約は、被告に対して著しく不合理な内容の義務を負わせるものといえるから、原告、被告間の右名称不使用に関する右合意は、公序良俗に反し、無効である」と判断し、契約違反を理由とする原告の請求を認めませんでした。。

 

■BLM感想等
 明治時代に高島嘉右衛門が易経を研究して著書「高島易断」を著し、独自の易占を創案したのですから、その独自の易占を、一つのまとまりのあるサービスとして確立し、「高島易断」等の名称の下で易占業及びそのサービスが一つの出所によりコントロールされ、一定の者に承継されていき、現代に伝承されていれば、周知表示として不正競争防止法2条1項1号の行為規制による保護もあり得たと思います。結局、本件の原告は自身なりに、「高島易断」というある種の業界中では独自性を確立していたように思われるので、いわばサブブランド的に、「高島易断」に独自性のある言葉を付加して一体として使用していれば、その言葉自体が出所識別標識として機能した可能性があり、「その言葉自体」と同一又は類似で出所混同が生じ得る状態にあれば、元従業員のみならず、第三者にも差止請求等が可能であったように思います。もっとも、全く関連のない第三者が複数「高島(高島易断)◎◎◎」を使用し、権利者の異なる複数の商標登録も併存していたわけなので、その類似性の範囲は極めて狭いものと言え、ほぼ同一の表示の使用でないと、同号の不正競争にはならないと考えます。

 また、このような状況で、従業員に対し、「「高島易断」及び「高島」を含む表示、姓を、一切(期限の定めもなく)使用しないと約したものと理解される本件誓約は無効と判断されても仕方のない事例であったと考えます。

 近年は、良くも悪くも人材の流動性が高まっています。ですので、従業員はいつか辞めるかもしれない点を前提にした無形資産の管理をする必要があるでしょう。結局何が自社の重要かつ独占できる無形資産であるか否かを見極める必要がありそうです。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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