不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その23

 本日も、元従業員と、その所属先であった会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  知財高判平29・9・27うどん店に係る営業方法事件〕平29(ネ)10032 

 

控訴人(甲事件及び丙事件1審原告) 有限会社横瀬 
控訴人(乙事件1審原告)有限会社田舎っぺ  
被控訴人(甲事件1審被告) Y1、 Y2、 Y3、 Y4 

 

■事案の概

 本件は、埼玉県内で「田舎っぺ」という名称を使用してうどん店を経営していた控訴人有限会社横瀬が、被控訴人Y1、Y4は、いずれも控訴人横瀬の元従業員で、被控訴人Y1は,埼玉県内において「めんこや」という名称のうどん店を経営し,被控訴人Y4は,埼玉県内で「名代 四方吉うどん」という名称のうどん店を経営することとなったため、同控訴人の上記店舗に係る営業方法全体が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するところ、被控訴人Y1及びY4の上記各うどん店の営業方法が本件営業方法と類似すると主張し、被控訴人Y1に対し、主位的には不正競争防止法4条に基づく損害賠償として,予備的には不法行為に基づく損害賠償等求めました。また、被控訴人Y4に対し、主位的には不正競争防止法4条に基づく損害賠償として,予備的には不法行為に基づく損害賠償等求めました。
 さらに、控訴人横瀬の代表者Aが代表取締役を務め、埼玉県内でうどん店を経営する控訴人有限会社田舎っぺが、被控訴人Y1において控訴人田舎っぺと締結した営業譲渡契約に違反して控訴人らのノウハウを利用した上記うどん店を営業し、控訴人田舎っぺが損害を被ったとし、当該営業譲渡契約に係る被控訴人Y1の連帯保証人であって同人の両親・被控訴人Y2及びY3に連帯保証契約に基づき、上記損害の一部等求めました。

 原審は,本件営業方法が自他識別能力を有すること、被控訴人Y1及び被控訴人Y4の営業方法が公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法であること、両名の利得が法律上の原因を欠くこと、控訴人横瀬と被控訴人Y1との間で同人が入社時又は平成17年1月中旬頃に類似のうどん店の営業を禁止する旨の合意が成立したこと、被控訴人Y4は控訴人横瀬の営業上の機密を漏洩したこと、営業譲渡契約は一部解除されたことは、いずれも認められず、他方、その後の全部解除は有効であるなどとして,控訴人らの請求をいずれも棄却しました。控訴人らがこれを不服として控訴したのが本事案です。

 

 

■当裁判所の判断

1.不正競争防止法2条1項1号の趣旨・判断基準
 「不正競争防止法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ、その趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、事業者間の公正な競争を確保することにある。そして、同号は、「商品等表示」を「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と規定するところ、需要者にとって営業の出所を表示する機能を有するものは、本来的には名称、商号等であるから、営業方法は、営業に関する個別具体的な内容を示すにとどまり、通常、需要者にとって出所を表示する機能を有するものとはいえない。したがって、営業方法は、客観的に他の営業方法とは異なる顕著な特徴を有しており、特定の事業者の出所を表示するものとして需要者に周知になっていると認められるなど特段の事情がない限り,同号にいう「商品等表示」に該当しないと解するのが相当である。」

 

2.本件に関する判断

 本件について「本件営業方法の一部又は全部は,客観的に他の営業方法とは異なる顕著な特徴を有するものとはいえず,そもそも控訴人横瀬の営業の出所を表示するものとはいえない。したがって,本件営業方法は,法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するものと認めることはできない。」と判断しました。

 

3.当審における控訴人らの補充主張に対する判断

 裁判所は以下のように認定・判断しました。

 

(1)商品等表示該当性について
 「控訴人横瀬は,本件営業方法をとることが可能であるのは創業一族のみであり、本件営業方法は、外部に表示され需要者の間で広く認識されているから、商品等表示に該当すると主張する」のに対し、以下のように判断しました。

 「本件営業方法の一部又は全部は、控訴人横瀬の営業の内容を具体的に示すにとどまり、それ自体が出所を表示する機能を有するといえるほど顕著な特徴を有するものとはいえない。そもそも被控訴人Y1又は被控訴人Y4は、控訴人横瀬と明らかに異なる名称を付して営業を行っているのであるから、営業の内容が一定程度類似していたとしても、このことが控訴人横瀬の営業と被控訴人Y1又は被控訴人Y4の営業との間に出所の混同を生じさせるものとは認められない。」(下線筆者)

 

(2)不法行為の成否、及び、不当利得の成否について
 「控訴人横瀬は、本件営業方法が全体としてみれば他には見られない極めて特徴的なもので…「田舎っぺ」と「めんこや」又は「名代四方吉うどん」を混同する需要者も多数存在するなどと主張する」のに対し、「そもそも控訴人横瀬が主張する法律上保護される利益とは、
結局のところ,不正競争防止法2条1項1号が規律の対象とする営業上の信用に帰するものであって,当該利益が保護されない」。「そうすると…営業方法が同号所定の商品等表示に該当しない場合、営業方法に係る商品等表示としての営業上の信用は、不法行為上も法的保護の対象とはならない」。「上記営業上の信用が法的保護の対象となることを前提に不法行為をいう控訴人横瀬の主張は、失当というほかない。」(下線筆者)

 不当利得返還請求に対しても上記と同旨の理由で失当としました。

 

(4)債務不履行の成否について
 「控訴人横瀬は…被控訴人Y1との間では,類似のうどん店をやってはいけないという合意が入社時及び平成17年1月中旬に成立したと認められ,他方,被控訴人Y4との間では,田舎っぺの門外不出の秘密を漏洩してはならないとの合意が成立し」たなどと主張するのに対し、以下のように判断しました。

 「被控訴人Y1にあっては,上記のような重要な事項に係る各合意につき,入社契約書その他の書面においてその合意を確認したことすら認めることができず」、「被控訴人Y4にあっては,本件営業方法と被控訴人Y4経営に係る名代四方吉うどんの営業方法が類似すると抽象的に主張するにとどまり,上記にいう門外不出の秘密自体が具体的に明らかでなく,これを漏洩したことを認めるに足りないというべきである。」
 

(5)その他

 連帯保証契約に基づく履行請求権の有無や、その他の主張又は裁判所の判断については、省略。

 

4.結論

 以上により、裁判所は、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当とし、控訴人の請求をいずれも棄却しました。

 

■BLM感想等
 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。本件では控訴人が営業方法を不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」として争いました。営業方法は目に見えないものではないか?とも思いますが、例えば、本ブログ4月5日投稿した「東京地判昭61・1・24〔伝票式会計伝票事件〕昭53(ワ)11905」のような事例がこれに該当するかもしれません。すなわち、同事件における周知性の判断で、裁判所は「本件伝票の、いずれも統一されたシステムを構成する…各特徴を含むその全体的形態は、その永年にわたり伝票会計用伝票の販売市場をほぼ独占し、大量に販売されてきた実績、永年にわたり継続的に宣伝広告がなされてきたことに加え、他の伝票会計用伝票に比して一見して明らかな特色ある全体的形態である」点を認め、かかる周知性への貢献は原告にあるとし、原告を商品等表示の主体と認めました。

 したがって、うどん店の「営業方法」について、統一されたシステム(製造(例えば国産原料調達等)から、お客さんへの提供(又は通信販売等で全国各地に発送できる仕組み))で必ず一度は需要者が目にするような、サービス提供時の食べ物の外観や、通販で発送されるパッケージの形状等が、「一見して明らかな特色ある全体的形態」と認められ、それが永年にわたり継続的に宣伝広告され販売されるといった事実があれば「商品等表示」該当性が認められる可能性はありそうです。もっとも、本件でもんだいとなったうどんは、「武蔵野うどん」なる地域に根差した食べ物でもあるため、その特徴は除外した上で、さらに一私人に独占できる形状等を把握する必要はありそうです。飲食物は地域性のあるもの(美味しいものほど)も多いと思うので、やはり、営業方法を不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」として認められるためのハードルはかなり高そうですね。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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