不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その12

 本日も、原告の元従業員が絡み紛争となった事例を見ていきます。

 

  (大阪高判昭58・3・3〔サンレイ・ヤマコー事件・控訴審〕昭57(ネ)190)(最三小判昭60・4・9〔同・上告審〕昭58(オ)642(上告棄却))

控訴人 コルム貿易株式会社(代表 T.K.他1名)
被控訴人 (旧商号株式会社サンレイインターナショナル)サンレイ・ヤマコー株式会社(代表Y.R.)

 

■事案の概要等 

  被控訴会社は、昭和41年9月に設立された趣味雑貨、室内装飾品等の通信販売等を営み、控訴会社は同50年12月に設立された各種雑貨の販売等を営むところ、控訴人T.K.は、同44年9月に被控訴会社に従業員として雇用され、その後、被控訴会社の取締役に選任された(51年1月までその地位にあった)が在任中の同50年12月に控訴会社を設立し代表取締役に就任して、被控訴会社が趣味雑貨商品(諸外国から輸入した掛軸、照明器具、大理石複製美術彫刻等の商品)を通信販売していました。そこで、被控訴人は、旧不競法1条1号・2号(現行法2条1項1号)に基づく差止請求のほか、控訴人に取締役の忠実義務違反、不法行為の存在等主張した事案です。原判決は一審原告(被控訴人)の主張を認めたため、一審被告(控訴人)が控訴したのが本件です。

 

■当裁判所の判断

1.裁判所は以下の事実を認定しました。
(1)被控訴会社が通信販売で趣味雑貨商品を販売するについては、販売の効率を良くするために、多額の費用を投じ、創業当初は全国各地の高額所得者、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、医師会等の各会員名簿等に基き、200万人位にダイレクトメールの通信販売をなし、その中から注文のあった者を蓄積し、2回以上の注文者をA級、1回の注文者をB級として、昭和50年ごろには、約3万名位の顧客カードを作成…保管し、営業上の秘密として極秘扱をし」、「当時被控訴会社の商品とその営業は周知のものとなっていた」。「控訴人T.K.は昭和44年9月新聞公告による募集に応じて被控訴会社に入社し、同46年2月28日には取締役となり、同49年2月以降東京支店に勤務したが、東京における住居費用の負担の事等に端を発して被控訴会社代表者と紛争を生じ、昭和50年12月29日付で同人に対し条件付退職届を提出し、同51年1月末日までは被控訴会社の取締役の地位にあったが、取締役としての在任中の同50年12月3日、被控訴会社と全く同じ業務内容で競業関係にある控訴会社を設立し、被控訴会社の承諾なしにその代表取締役となり、同じく被控訴会社に勤務していたN.S.(同人は昭和50年末ごろ被控訴会社を退社)を控訴会社の取締役に就任させた」。

(2)「控訴会社が顧客に送付した商品のカタログは被控訴会社のそれと全く同一であるものは少いが、酷似しているものが殆んどで」、「前に被控訴会社に勤務し、控訴人T.K.の部下として共に商品発送業務に従事し、同控訴人が他の業務に配置換となった後は、商品発送業務の責任者として、前記得意先名簿にも関与していたN.S.を、控訴会社設立間なしにその取締役として迎え入れたこと、控訴会社において被控訴会社の商品カタログと殆んど同じカタログを作成」したうえ、「これを顧客にダイレクトメールの方法で次々と継続して送付し」、「被控訴会社又はその代表者との結びつきが強く、一般的な名簿に登載が考えられない被控訴会社の顧客に対してまで、控訴会社のカタログが送付されている」。「綜合考察すれば控訴人T.K.において、N.S.をして同人の被控訴会社退職前に被控訴人の営業上の秘密事項(今後の商売上の企画等)たる資料と、前記得意先名簿 約2万名分)を持出させて控訴会社の取締役に就任させ、同会社設立後、被控訴会社の商品カタログと殆んど同一の控訴会社のカタログを作ったうえ、被控訴会社から違法に入手した右得意先名簿を不当に利用して、被控訴会社と同様な趣味雑貨商品の通信販売をなしたことを推認することができる」。

(3)「控訴会社代表者である控訴人富山が控訴会社を設立し、被控訴人の商品カタログと殆んど同一の控訴会社のカタログを作成し、被控訴人から違法に入手した右得意先名簿を不当に利用して、被控訴人と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなした行為は、控訴会社の所為として被控訴人の商品ないし営業活動と控訴会社のそれとの混同、誤記を生ぜしめるものというを妨げず、このことは原審および当審における被控訴人代表者の各供述により認められる次の各事実、すなわち、控訴会社の営業開始後、被控訴会社の得意先からの再三にわたる照会や、送達不能となった控訴会社のカタログが郵便局を通じて数多く被控訴会社に返送されて来たことからも裏付けられるところであり」、「被控訴会社の行為により被控訴会社は得意先を奪われ、商品の売上が激減し、営業上の利益を害されたことを認めることができるので被控訴会社が控訴会社の右通信販売行為によって損害を蒙ったことは明らかである」。

2.裁判所は、控訴人らの責任について以下のように判断しました。
(1)「控訴人T.K.は被控訴会社の取締役としての在任中、控訴会社の設立行為や、被控訴会社との競合行為の準備の為に、被控訴会社の一切の資料と得意先名簿を奈須をして持出させており、これらの行為が競業避止義務違反の点は暫く措き取締役の忠実義務に違反することは明らかである」。「又控訴人富山の奈須を通じての前記被控訴会社の得意先名簿持出及び被控訴会社の商品カタログと殆んど同一カタログを作成して、被控訴会社から違法に入手した右名簿を利用して被控訴会社と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなすことが、不法行為を構成することは明らかであるから、控訴人T.K.は、右各所為の結果被控訴人が被った損害を賠償すべき義務がある」。

 

(2)「もとより販売方法としての通信販売やカタログ等の使用は自由であるから、特定人が物品の販売に長年にわたり右の方法を使用しても、この事実から直ちに右の使用につき排他的独占的使用権が生ずる理由はない。又他人が右の使用の自由を奪われる道理はない。しかし右の特定人の商品ないしは営業が右通信販売とカタログの記載型式で知られ、これを利用した商品を見る者が誰でも同人の商品ないしは営業と判断するに至った場合とか、右の方法が同人の商品並びに営業活動と極めて密接に結合し、出所表示の機能を果しているような特別の場合には、右の方法が、不正競争防止法一条一号、二号にいう他人の商品又は営業たることを示す表示として不正競業から保護せられるものといわなければならない。」(太字筆者)
 「これを本件についてみるに…被控訴人は長年にわたって開拓して来た全国各地の顧客に対し通信販売の方法で趣味雑貨商品を販売し、被控訴人の商品とその営業活動は周知のものとなっていたところ、控訴会社は被控訴会社の商品カタログと殆んど同一のカタログを使用し、被控訴会社から不法に入手した得意先名簿を利用して、被控訴人と同様の趣味雑貨商品の通信販売をなし、被控訴人の商品及び営業活動と混同、誤認を生ぜしめ、これによって被控訴会社において得意先を奪われ、商品の売上が激減し、営業上の利益を害されたことを認めることができ、又前示認定事実による控訴会社代表者たる控訴人T.K.に、控訴会社の前示不正競業行為が、不正競争防止法一条一、二号に該当することについて故意、少くとも過失があったものと認められるので、控訴会社は、不正競争防止法一条一号及び二号に基く同条の二の損害を賠償すべき義務がある」。

 

(3)控訴会社の不法行為責任について、「控訴会社が控訴人富山の個人的色彩の強い会社である」と認め、「控訴人T.K.の不法行為は、控訴会社の代表取締役たる控訴人T.K.の職務を行うにつきなしたる行為と解すべきで…控訴会社は、右行為につき被控訴会社が被った損害を賠償すべき義務があり、控訴会社は右のいずれの責任をも負担している」。

 

■最高裁判所判断

 控訴人はさらに上告しましたが、上告は棄却されました。その理由は以下のように示されました。

 

1.理由

 「被上告人の上告人らに対する得意先名簿の利用行為を理由とする損害賠償請求を肯認した原判決の違法を主張する点につき、原審のした認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法があるとはいえない。そうすると、被上告人の本訴請求は理由があり、その余の所論は、商品又は営業活動の混同行為に関する原審の判断の違法をいう点を含めて原判決の結論に影響を及ぼさない判示部分について違法をいうにすぎないことに帰する。結局、論旨は、いずれも採用することができない。」

 

2.裁判官長島敦の補足意見
 「法廷意見が商品又は営業活動の混同行為に関する原審の判断の違法をいう所論の点につき前記のとおり判示するにとどめたのはもとより当然のことであるが、論旨の中には、不正競争防止法の解釈適用に関する重要な論点が含まれているので、その主要なものにつき、意見を補足する」とされ、以下示されました。
 不競法1条1項1号及び2号(現行法2条1項1号)等に関する規定に関し、「これらの規定に該当するためには、単に他人の商品又は営業上の活動と混同を生じさせる行為があつただけでは足りず、その手段として、広く認識された他人の商品表示又は営業表示と同一若しくは類似のものを使用したことが要件となつている。本件では、被上告会社(以下「原告会社」という。)が通信販売に使用していた商品カタログと類似するというカタログを上告会社(以下「被告会社」という。)が使用したことが前記法条に該当するかどうかが論点となつているところ、これらのカタログには、原告会社名又は被告会社名がそれぞれ明記されており、しかも、両会社の名称の間に類似する点は全く見受けられないから、被告会社が他人の氏名と同一又は類似の氏名を使用して他人の商品又は営業活動と混同を生じさせる行為をしたことにならないことはいうまでもない。また、被告会社は、原告会社が従来取り扱つてきたのと同様の趣味雑貨商品の通信販売を営業とする(そのこと自体は、営業活動の自由として保障されている。)のであるから、そのカタログが、そこに記載されている品目において、原告会社のカタログに掲げる品物と同一であり、又はこれに類似することとなるのは当然の成り行きであり、それだけでは、そのカタログの使用が他人の商品表示又は営業表示と同一又は類似の表示を使用したことにならないこともいうまでもないそうであるとすれば、原告会社の使用していた商品カタログが、それ自体として、その型式、レイアウト、色彩、外観的印象等によつて原告会社の通信販売にかかる商品又は原告会社の通信販売の営業であることを示す表示というに足りる特徴をそなえ、しかも、そのカタログが相当期間にわたり広く通信販売に使用されてその表示が周知となつていることが、被告会社のカタログにつき、原告会社の商品表示又は営業表示と同一又は類似の表示を使用したことになるとするための必要条件というべきである
 本件においては、原告会社から右の点についてなんらの主張立証もなく、原判決も、被告会社のカタログの中に原告会社のカタログと酷似ないし類似したものが多いことを認定しただけで、たやすく、被告会社に対し、商品又は営業活動の混同行為を理由として損害賠償責任を肯認したことは、審理不尽又は不正競争防止法の解釈適用を誤つた違法があるというべきである。しかしながら、右違法が原判決の結論に影響を及ぼさないことは、法廷意見の判示するとおりである。

 

■BLM感想等
 本件は、旧法下(不正競争防止法2条1項1号が適用される以前)の事案であり、現行法上の〝他人の周知な商品等表示”の特定が不十分であり、特定したとしても非類似等を理由に不正競争の要件を欠く可能性が高い事案でした。この点、最高裁の補足意見が判決中に書かれてもおかしくなかったように思います。「不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ」という本ブログの趣旨からは、あまり参考にならないのですが、最高裁まで争っているため無視できず、補足意見をも含めて参考にするのがいい事例と思います。その場合は、他の規定で被告の責任を認めた「不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ その4」で取り上げた東京高判平15・12・25〔街路灯事件〕平15(ネ)3073、平15(ネ)4455と同旨の判断が導き得るように思います。街路灯事件では、元従業員(控訴人)Aの競業避止義務等にあると解され、当該義務を負うまでの間に、控訴人A(実際は、その指示に基づき、B,C及びD)が土手町会と原市会(顧客である商店会)に何度か営業に赴いたことにつき、同違反が認められています。街路灯自体の形状は「商品等表示性」が否定されているので、一定期間経過後、同様の街路灯を製造し販売することは認められる事案でした。もっとも、街路灯事件も今回取り上げた事案も、実際に無形資産としての価値があるのは、一審原告が開拓した顧客との関係及びこの関係を維持するビジネスシステム等の実体であろうと思います。今回取り上げた事案で、無形資産と言えるのは「被控訴会社が通信販売で趣味雑貨商品を販売する」ため、「販売の効率を良くするために、多額の費用を投じ、創業当初は全国各地の高額所得者、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、医師会等の各会員名簿等に基き、200万人位にダイレクトメールの通信販売をなし、その中から注文のあった者を蓄積し、2回以上の注文者をA級、1回の注文者をB級として、昭和50年ごろには、約3万名位の顧客カードを作成…保管し、営業上の秘密として極秘扱をし」、「当時被控訴会社の商品とその営業は周知のものとなっていた」という点にあるのだろうと思います。

 このように考えていくと、面白いのは、不正競争防止法2条1項1号や商標法を含む標識法の保護対象は、直接的には、商標・商品等表示といった出所識別標識ですが、実際のところ、価値の源泉となるのは、上記のような実体なのだと思います。今回取り上げた事案で、裁判所は、まさにこの実体を直接保護してしまった、といってもよいかもしれません。しかし、かかる実体に対する顧客の期待や信頼・信用が、当該標識に化体してはじめて保護対象となるというわけなのですよね。いやあぁ出所識別標識を保護する法律って難しい。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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