不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ
個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その8
本日は、メーカーに製品を販売していた会社が倒産後、メーカーは同種製品を他の会社に依頼し、当該他の会社は、その倒産した会社の代表者であった者が別途設立した会社(元代表の会社といいます)から製品の供給を受け、継続的供給関係が形成されてきましたが、その後、元代表の会社が同種製品を別ルートで販売し、関係解消し紛争に至った事例を見ていきます。昨日のモノフィラメント製造装置事件と同様、製造業者と販売業者の関係解消事例の一つと捉えることもできるかと思います。
東京地判平14・10・22〔「JS」、「RK」流通ハンガー事件・第一審〕平10(ワ)11572
原告 株式会社大景(代表U)
被告 株式会社ラックス(代表T)、 被告 ラックス工業株式会社(代表T)
■事案の概要
本件は、株式会社三景を中心とする三景グループに属する原告が、衣料の包装資材及びハンガー等を製造販売を業とするところ、「JS」「RK」との本件表示が付された流通用ハンガーをアパレルメーカーに販売等して本件表示が周知性を獲得しているとして、同様の表示が付された流通用ハンガーを製造販売等している被告らに不正競争防止法2条1項1号に基づく差止等求めた事案です。争いのない事実として、原告が本件表示を付した流通用ハンガーを販売するに至った経緯は以下のようなものです。
なお、本ブログの関心事である元従業員との関係ですが、後述の争点(1)に関する判断で、以下のような事実が認定されています。
すなわち、昭和55年、レナウン及びレナウンルックが購入していた流通用ハンガーを製造していたヨシダハンガー株式会社が経営不振となったため,三景グループの会社である株式会社三旺に流通用ハンガーの継続的供給確保の協力を求め、三旺らは三景ハンガーを設立し、ハンガーの販売を行うこととなりました。ヨシダハンガーはその後倒産しましたが,その前月の4月、同社代表取締役Jらが中心となり被告ラックスを設立し、当初信用力も資金力もなく,独力でアパレルメーカーに販売を行うことが困難であったため、三景ハンガーが商号変更した東京ジョイナーとの間で本件供給契約を締結し、流通用ハンガーの製造は被告ラックスが、製造製品の販売は東京ジョイナーが製造販売元となって行うことが合意されました。その後、東京ジョイナー及び同社を吸収合併したサン企画は,被告ラックスに本件表示が付された流通用ハンガーを含むハンガーの製造に使用される金型を無償貸与したり、金型製造資金を前渡金として3400万円以上融資するなどの便宜を図っていました。平成8年、三景はそのサン企画取扱業務のうち、ハンガー及び包装資材関係の営業を、自社グループの原告に営業譲渡。本件供給契約における東京ジョイナーの契約上の地位(債権を含む)及び流通用ハンガーの販売は,サン企画を経て,原告に引き継がれました。その後、原告は,被告ラックスに平成9年4月16日、本件供給契約を解除する旨通知しました。
■争点
争点は4つありましたが、下記争点(1)に対する判断を主に見ていきます。第一審では、商品等表示該当性の中にア以外に、イとウが列挙され、BLMとしては違和感がありますが、そのまま掲載します。
(1)本件表示が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当するか
ア 本件表示の「JS」「RK」という記号は,商品識別機能ないし出所表示機能を有する原告の商品表示といえるか。
イ 本件表示の周知性
ウ 誤認混同のおそれの有無
■当裁判所の判断
本件表示が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当するか
1.裁判所は、以下の事実を認定しました。すなわち、被告ラックスは,本件表示を付した流通用ハンガーを製造して,本件供給契約に基づき,東京ジョイナー(サン企画)に販売する一方、原告以外の第三者に販売し、被告ラックス工業も本件表示を付した流通用ハンガーを製造し,平成7年3月以前からレナウンルック等の第三者にも販売しました。流通用ハンガーは、アパレルメーカーが製品出荷の輸送用にのみ使用するハンガーで、流通用ハンガーの大手製造販売業者は,多少の例外はあるものの,社名のイニシャル等を記号として,その記号と番号を組み合わせた表示を自社製品に付し自社商品と他社商品とを識別する表示とし、アパレルメーカーも、それらの記号と番号を目印にその流通用ハンガーの製造販売元を識別するという状況が存在していました。
流通用ハンガーの流通経路は,大きく分けると,自社で流通用ハンガーを製造している業者がアパレルメーカーに直接販売する経路と,製造業者から商品を仕入れて販売代理店として商品を販売する経路があり、流通用ハンガーの売買は,一般にその受発注において製造者名を表示することなく,ハンガーの記号・番号の表示のみで行われていました。
なお、本件表示を考案したのは,被告らの代表者Aであるが,本件表示のうち「JS」の「J」は東京ジョイナーの頭文字を表したものであり,「S」はサン企画の頭文字を表している。また,「RK」は原告の主要販売先であるレナウン喜多方工場のレナウンと喜多方工場の頭文字を表したものです。
サン企画は,大手服飾副資材の総合商社である三景の知名度と販売力を背景に,本件供給契約によって被告ラックスから供給された本件表示を付した流通用ハンガーをアパレルメーカーに販売し、被告ラックスの売上の6割から8割はサン企画に対するもので、サン企画は、被告ラックスに原告の顧客への出荷作業を委託していたため、商品の梱包用段ボールの印刷は被告ラックスにおいて行っていたが、その段ボールには、製造発売元として原告名が明記されているものの,被告らの名は全く表示されていませんでした。また、サン企画は、業界新聞にたびたび広告を掲載し、また、流通用ハンガーの販売のために大型カタログやパンフレットを作成配布して,本件表示を付した流通用ハンガーの宣伝広告に努めてきました。
2.裁判所は、「サン企画は、三景の知名度と販売力を背景に、本件表示が付されたハンガーを長年にわたって製造販売元として販売し、新聞広告をしたり、カタログを作成配布したりして宣伝広告をしてきており、その結果、サン企画を製造発売元とする本件表示を付した流通用ハンガーは、業界において一定の占有率を有していたこと、本件表示は、東京ジョイナー及びサン企画又はその取引先の名に由来するものであること、業界において、ハンガーの記号・番号が、製造発売元の識別に用いられていること、以上の事実が認められる」とし、
「以上の事実を総合すると、本件表示は、遅くとも平成6年ころには、サン企画の商品表示として」周知性を獲得し、「原告は、その地位を承継した」と認めました。そして「確かに、本件表示を発案したのはAであるが、商品表示の考案者が誰かという問題とその商品表示が誰の商品として商品識別機能ないし出所表示機能を有しているかという問題は別であるから、この事実は、上記認定を左右するものではない」とし、「サン企画(原告)のカタログには,本件表示にある「JS」「RK」以外の記号・番号が多数掲載されており、それらはサン企画(原告)が販売代理店として販売している他社製造のハンガーであって、カタログ上は自社商品と他社商品の区別は全く付けられていない」が、「それらのほとんどは業界では著名な大手製造業者の製品であるので、アパレルメーカーにとってはその記号・番号から製造業者が識別できることから特に明示されていないものと認められるから,この事実は,上記認定を左右するものではない。」と判断しました。
結果として、「流通用ハンガーの流通経路は、大きく分けると自社で流通用ハンガーを製造している業者がアパレルメーカーに直接販売する経路と、製造業者から商品を仕入れて販売代理店として商品を販売する経路があるが、いずれの場合でも、流通用ハンガーの売買は、一般にその受発注において製造者名を表示することなく、ハンガーの記号・番号の表示のみで行われているのであるから、被告らがアパレルメーカーに対し、本件表示を付した流通用ハンガーのパンフレットを配布し、このハンガーを販売することにより、販売代理店から購入する場合はもとより、被告らから直接購入する場合であっても、被告らの販売する商品が原告の商品であると誤認混同されるおそれが十分にある」と認定しました。
東京高判平16・3・31〔「JS」、「RK」流通ハンガー事件・控訴審〕平14(ネ)5718)
■当裁判所の判断
「JS」及び「RK」の表示の商品表示としての出所表示機能について
1.判断基準
裁判所は、「「JS」及び「RK」の表示は,いずれもローマ字の2字の組合せからなる、それ自体簡単な構成の標章は、取引上も商品の記号・符号等として一般に採択,使用されて、特定人の独占的使用にゆだねるのは相当でなく、「特段の事情のない限り、商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有しないか、希薄な表示というべき」とした上、「そのような表示であっても、当該表示が独特の工夫をこらすなどして需要者に特別な印象を与えるものである場合や取引の実情、使用の事実等によっては、商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するに至る場合もあり得る」としました。
2.本件に関する判断
(1)第一審で認定した事実を前提に、取引の実情等も加え、裁判所は以下のように判断しました。
「我が国においては、ハンガーメーカーは、比較的大手のものだけでも十数社が存在し、それぞれ多数の流通用ハンガーを製造・販売しているが、その需要者であるアパレルメーカーが流通用ハンガーを採用する場合、〔1〕アパレルメーカーがハンガーメーカーを含む出入りの業者の商品カタログから当該既製服に合うハンガーを選択し、〔2〕選択したハンガーの実物をサンプルとして業者から取り寄せ、〔3〕取寄せたサンプルのハンガーを当該既製服に試用し、支障の最も少ないハンガーを選択するのが取引の実情であるところ、流通用ハンガーにおいては、ローマ字の1字ないし3字と1桁ないし4桁の数字の組合せからなる表示又は数桁の数字のみからなるハンガー表示が使用され、組み合わされるローマ字は社名と関連のないものも多く使用されるなど、当該表示に一定のルールは存在せず、しかも、上記ハンガー本体の表示は、いずれも目立たないものであるから、一般に、流通用ハンガーにおいて、各商品を特定するための記号と番号としての意味を有し、その限りでは取引上の有用性が存在するものの、商品表示としての自他商品識別機能ないし出所表示機能を果たすものとして使用されているものとは認め難い。」
「1審原告の使用するハンガー表示においても異なるところはなく,「JS」の表示は,東京ジョイナーのジョイナー(JOINNER)の頭文字「J」とサン企画の頭文字「S」に由来し,「RK」の表示は,レナウン喜多方工場に由来するものであるが,これらの由来が需要者であるアパレルメーカーに広く知られていたとは認められず,1審原告提出に係る「JS」及び「RK」の表示を使用したハンガー…においても,本体の表示は,目立たないものであり,その商品カタログ…及びパンフレット…には,「JS」及び「RK」の表示以外に,ローマ字の1字ないし3字と数字の組合せからなる表示又は数字のみからなるハンガー表示が多数掲載され,かつ,「JS」の表示が使用された広告に格別のものは認められず,「RK」の表示が使用された広告にも格別のものは認められない」。
「そうすると,「JS」及び「RK」の表示が,独特の工夫等により需要者に特別な印象を与えるものということはできず,また,自他商品識別機能ないし出所表示機能を有するに至る格別の取引の実情,使用の事実等の特段の事情も認められない」とし、
表示の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有しないか,希薄であると判断しました。その他、1審原告の上記シェアを理由とする周知性の主張は,採用し難いとし、また、商品カタログ,パンフレット及び業界新聞の広告の記載内容について、特に上記表示に焦点を当てた格別の宣伝,広告であるとはいい難い」等としました。
3 結論
裁判所は、第1審原告が主張する「JS」及び「RK」の表示の商品表示性及び周知性を肯定することはできないから,その余の点について判断するまでもなく,1審原告の1審被告らに対する請求は,いずれも理由がなく棄却すべきであるとしました。
■BLM感想等
商標権の取得の場面では、「JS」「RK」のような英文字2文字からなる商標は登録されない傾向にあります。特許庁が提供している商標審査基準(こちら)の3条第1項第5号(極めて簡単で、かつ、ありふれた標章)(PDF:207KB)で、「ローマ字の1字又は2字からなるもの」は、.「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するとしています。
控訴審の判断は、商標法の審査基準と同旨の判断であり、実質的にも取引の実情や、原告の販売時の製品への使用態様や宣伝広告の態様等加味し、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品等表示」該当性を否定したものと考えます。 そうすると、「JS」「RK」の表示を使用して被告も使用可能となりますが、被告製品の供給を受け、原告がレナウン等のメーカーに販売していたところ、同様のメーカーに被告が直接販売することも可能となり、原告の主張によれば、被告に金型を提供したり、融資をするなどしていたのに、理不尽とも解されます。しかし、例えば、被告は、「「JS」は,1審被告らがサン企画を通じて販売する一般向け商品に付した流通経路を示す記号であり,「RK」は,レナウン喜多方工場から注文を受けて同工場に販売する特注品に付したエンドユーザーを示す記号である。このように「JS」及び「RK」の表示は,いずれも商品管理のために流通経路又はエンドユーザーを示すものとして付されたものであるから,商品表示としての商品識別機能ないし出所表示機能はない。また,仮に,「JS」及び「RK」の表示が商品表示であるとしても,これを創案したのは1審被告ラックスであり,かつ,「JS」及び「RK」の表示を付したハンガーを実際に製造していたのも1審被告ラックスであるから,「JS」及び「RK」の表示は,1審被告ラックスの業務に係る商品表示であり,原告の業務に係る商品表示ではない。三景は,裏生地のメーカーとして大きなシェアを有しているが,ハンガー業者としてのシェアはわずかであり,アパレル業界においてその知名度も低く,三景グループの影響力によって「JS」及び「RK」の表示が1審原告の業務に係る商品表示としてアパレル業界に広く認識されていた事実はない。」等と主張しており、主にアパレルメーカー向けのハンガー販売というニッチな市場をよくわかっているのは被告であったのかもしれません。原告としては、「JS」の「J」が東京ジョイナー、「S」が、サン企画の意味であるなら、「JS」を上段に「JOINER & SUN」といった表記を下段にして、出所を積極的に表示し、ハンガーを自社のコントロール下におく表示を考えるのがよかったのではないかと思います。
By BLM
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