不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その7

 本日も、原告の元従業員が新たに会社を設立し、原告と同種の業務を行ったことにより紛争となった事例を見ていきます。もっとも、当初、被告の設立は、原告製品の販売・輸出を目的とし、表示の使用も許諾されていた事例であり、元従業員か否かに影響されない事例ではあります。製造業者と販売業者の関係解消事例の一つと捉えた方がいいかもしれません。

 

  名古屋地判昭51・4・27〔モノフィラメント製造装置事件〕昭47(ワ)847  

 

原告 株式会社中部化学機械製作所
被告 中部機械商事株式会社

 

■事案の概要

 原告がプラスチック成形機械とくにモノフィラメント製造装置の製造販売に力を注いで昭和44年頃には国内では日商岩井など有名商社およびプラスチック加工業者らと、また海外では東南アジア方面のプラスチック加工業者らと取引を結び、原告製品および原告営業の表示として「CHUBU KAGAKU KIKAI SEISAKUSHO CO.,LTD.」、「MONOFILAMENT MANUFACTURING EQUIPMENT TYPE:CM TN-50A」「株式会社中部化学機械製作所」等が製品のネームプレート、カタログ等に使用されていたところ(当事者間に争いなし)、当初原告の製品を販売・輸出する事業を行うべく設立された原告の元従業員を代表とする被告が、競合製品を扱うようになったため、原告は被告に対し、旧不正競争防止法1条1項1,2号(現行法2条1項1号)に基づき、モノフィラメント製造装置又はその部品の製造販売につき「中部機械商事株式会社」の商号もしくは「CHUBU」・「中部」の表示の使用、これらを使用した商品の販売・輸出等の差止、商号の抹消登記手続等を求めた事案です。本件では同号に係る事項をみていきます。

 

■当裁判所の判断

Ⅰ.原告の商号・製品及び営業表示の周知性
1 原告は事案の概要であげたような表示の使用状況があったことを前提に、裁判所は、「原告の商号は、原告製品たるモノフィラメント製造装置等のプラスチック成形機械の製造販売の取引上、この取引に関与する商社等の取引者ならびにプラスチック加工業者ら需要者との間で、いわゆるフルネームで通用していたものでなく、たんに「ちゅうぶ」「ちゅうぶきかい」或いは「ちゅうぶかがくきかい」と呼称され、「株式会社中部化学機械製作所」の商号およびその略称または通称である「中部」、「CHUBU」等の表示が原告の商品または営業を示すものとして」、昭和44年当時周知性を獲得していたと判断しました。


Ⅱ.被告会社の商号選定のいきさつ
 裁判所は、「被告代表者Iが以前原告会社の大阪出張所の従業員であったこと、右Iが原告製品の関西以西における販売および海外向け輸出を一手に引受けてこれを原告から独立して行なうべく被告会社を設立したこと、その代表取締役をTとしたこと」等は当事者間で争いがなく、証拠によれば、「被告会社は原告会社の製品と競合しない商品(たとえば印刷機械など)については他社の製品も取扱うが、プラスチック成形機械については原告製品のみ取扱い」、上記のような販売や輸出業務を一手に行なうとの旨の話合のもとに、「原告の商事部門ないし販売会社という趣旨でその商号を「中部機械商事株式会社」と定めて設立され」、「被告の商号中の「中部」の字句は原告会社との関連性を示すためのものであ」り、「当初原告代表者Tを被告の代表取締役に迎えたのは…原告会社の信用を利用し、原、被告両会社の緊密性を対外的に明らかにするためであった」等の事実を認めました。

 

Ⅲ(1).原・被告の商号の類似性について
 裁判所は、原告の商号「株式会社中部化学機械製作所」は、「中部」「中部機械」等として広く認識等され、主要部が同一である被告商号「中部機械商事株式会社」は、原告表示と類似すると判断しました。被告は、原、被告の商号は、会社の種類を示す部分「株式会社」、会社の業種業態を示す部分「化学機械製作所」「機械商事」、営業地域を示す部分「中部」にそれぞれ分解でき、両商号とも主要部分はなく全体的に比較観察すれば判然と区別しうる旨主張しましたが、裁判所は「原告の商号は「中部」、「中部機械」ないし「中部化学機械」なる略称または通称により呼称されていたのであるから、右部分が地域性あるいは業種性をもあわせ示しているからといって、原告商号の主要部分を構成しえないわけではなく、これと被告商号中の「中部機械商事」…とを比較観察(…離隔観察…)すれば、被告商号は取引上一般人をして原告商号との誤認混同を生ぜしめるおそれが十分にあ」り、「現に、南ベトナム、インドネシア等海外で原、被告の製品、営業について誤認混同を生じ、それが取引商社を通じて国内においても原、被告の製品、営業について誤認混同を生じた」事実があるとし、類似性を肯定しました。

 

Ⅲ(2).原・被告の製品・営業表示の同一性、類似性について
 裁判所は、原告製品・営業表示について、原告の商号をそのまま或いはローマ字または英訳して表示するなど、すなわち「株式会社中部化学機械製作所」、「CHUBU KAGAKU KIKAI SEISAKUSHO CO.,LTD.」、「MONOFILAMENT MANUFACTURING EQUIPMENT TYPE:CM TN-50」、および「中部」「CHUBU」が使用され、一方、被告製品・営業表示は、その商号をそのまま或いはローマ字または英訳して表示するなど、すなわち、「中部機械商事株式会社」、「CHUBU MACHINERY CO.,LTD.」、「“CMC”Nylon Monofilament Making Apparatus」が使用され、また、「CHUBU」「CHUBU KIKAI」が使用され、被告において被告の商品・営業表示として「中部」なる表示をも使用したと推認することができるところ、原・被告の「中部」「CHUBU」は同一の表示ということができると判断しました。

 

Ⅳ.原・被告の製品および営業の混同について

 裁判所は、被告が原告と取引条件が折り合わず、昭和43年6月頃から別会社を使用してモノフィラメント製造装置を製造するようになり、以後、製品を商社を通じて東南アジア諸国に対する輸出を開始し、被告は被告製品の輸出を開始したころ、被告のカタログに原告製品の写真を被告製品の写真として掲載したことがあること、被告が昭和43,4年ころ使用したカタログに「CHUBU」と独立して表示したことがあること、海外に輸出した被告製品には当初故障が多くそのため被告製品を購入した南ベトナムの会社から、原告の製造にかかるものと誤認して、原告にクレームが寄せられたこと、原告製品を輸出する国内商社及び海外需要者の間では商品をたんに「CHUBU」ブランドのモノフィラメント製造装置というだけで取引が行なわれている等の事実が認められ、被告が被告製品の販売輸出について、中部(CHUBU)又は中部(CHUBU)を主要部分とする表示を使用することにより、被告の商品・営業を原告の商品・営業であるかのように一般需要者に混同させ又はそのおそれがあると判断しました。

 なお、裁判所は、従来から「中部」「CHUBU」の表示を商品・営業に使用していたのは原告だけで、業界・需要者の間では「中部」「CHUBU」の表示等は原告の商品・営業を指示するものとして通用していたこと、被告はモノフィラメント製造装置の製造を始めるまでは原告のこの種の製品の販売輸出業務を行なっていたこと、従来原告製品を海外に輸出していた国内商社が、海外で起った被告製品に対するクレームを原告宛に寄せていたこと、などの事実をあわせ考えれば、商品・営業の誤認混同があったが故に被告製品に対するクレームが原告に寄せられたのであり、右誤認混同は国内外で生じていたというほかなく、被告主張のように、現地需要者の不注意にのみ起因するものではないと判断しました。

 

Ⅴ.差止請求に関する結論

 以上を総合し、裁判所は、被告による被告製品の製造、販売、輸出の各行為により、原告の営業上の利益が害されるおそれのあることを肯認するに十分であるとし、不正競争防止法第一条第一項に基づき、被告に対しその商号および「CHUBU」、「中部」の表示の使用差止ならびにその商号につき商号登記の抹消登記手続を求める原告の請求は理由があると判断しました。

 

Ⅵ.その他

 裁判所は、差止請求のほか、逸失利益の損害賠償請求等を認めました。今回は、損害賠償請求についてふれませんが、原・被告の従前の関係を加味し、被告の過失を認定しているため、この点について以下見ます。

 裁判所は被告の過失を次のように認めました。すなわち、被告の出所混同行為を前提に、「中部」「CHUBU」等の表示が原告の商品・営業を示すものとして遅くとも昭和44年には取引者・需要者の間で広く認識され、業界ではたんに「CHUBU」ブランドのモノフィラメント製造装置との呼称により原告商品を特定して取引が行なわれていたこと、一方、被告代表者Iは昭和38年までは原告会社の従業員であり、原告製品の販売に従事していたものであるところ、原告製品の販売会社という趣旨で被告会社を設立したものであること、以上を総合すれば「被告において自らモノフィラメント製造装置の製造、販売、輸出を開始した時点において、原告商品および営業との誤認混同を防止するため「中部」(「CHUBU」)そのもの或いは「中部」(「CHUBU」)を主要部分とする表示を使用することを避止しあるいは使用するとしても原告商品および営業と誤認混同を生ぜしめないような方策をとるべきであったというべきである。しかるに、被告はこれを怠り、…被告製品に「中部」(「CHUBU」)そのもの或いは「中部」(CHUBU」)を主要部分とする表示を使用して被告製品の製造、販売、輸出を行ない、ために、取引商社および需要者の間に原告商品または原告営業との誤認混同を生ぜしめてしまったのであるから、被告には少くとも過失があった」。

 

■BLM感想等

 今回みた裁判例は、原告の請求をほぼ認めており、被告が悪いといった印象を与えますが、原告として、被告が将来的に同種商品を製造・販売するリスクを想定すべき事案であったとも考えます。当初、原告の代表者が被告の代表を兼ねていたというのであるから、子会社化まではせずとも、何らかのコントロールをきかせるのがよかったのだろうと思います。この点、現行不正競争防止法2条1項1号の周知表示として認められた商標につき、商標権を取得して、商標使用許諾によるコントロールが有効であった可能性はあります。

 なお、被告は、原告と取引条件が合わなかったので別会社に下請させてモノフィラメント製造装置の製造を始め、その製品を国内商社を通じて東南アジア諸国に向けて輸出をはじめたことにつき、「原告が原告製品の原価を不当につり上げるので再三にわたって原告に対して原価を下げるように要求したのであるが、そのたびに断わられ、遂には、被告の主張するような値段で製造が可能なら被告自身で製造するようにいわれ、被告もたまりかねて原告とは取引を行なわないことを決意し、前記三井鉄工所を使ってモノフィラメント製造装置の製造を始めた」(下線筆者)と反論しています。「この製造につき被告は、右三井鉄工所が保管している原告製品の設計図面や木型を使用した事実は絶対にない。設計図面や木型は被告において新たに作成したものを使用したのである。」とも主張しています。また、「そもそも海外市場は被告の努力により開拓したもので、なんら原告の商号や標章に依存したものではない。被告の商品表示または営業表示には「“CMC” Nylon Monofilament Making Apparatus」「CHUBU MACHINERY CO.,LTD.」(商標登録済)、又は被告の商号等を使用している」こと、「被告において日綿実業、日商岩井等国内一流商社を通じて海外の販路を拡張し、その売上高も増加の一途をたど」り、「当初インドネシアから寄せられたクレームというのも、被告製品の使用方法の不慣れに起因するものであり、被告は直ちに技術者を現地に送って解決して」いるなどを主張しています。

 本件の裏の事情はわかりませんが、一般論として、製造業者と販売業者の間で、以上の被告のような主張が事実である場合も多いでしょう。本件の場合、元従業員ということで、一定の気心の知れた関係であれば、口喧嘩の中で、上記下線部のような言葉を出してしまうこともあり得ないではないでしょう。被告としては、自社の商号を使用して営業努力をしただけなのに、何が悪い、との気持ちかもしれません。しかし、裁判所としては、被告の商号が選択された当初の趣旨に照らして、不正競争成立を判断したものと考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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