アート関連特許その20は、絵画に関する特許を取り上げます。ただし、絵画の「複製」に関する技術に関する特許です。
◆どんな特許か?
『素材の製造方法及び絵画の製作方法、素材及び絵画』という発明の名称の特許(特許第4755722号、特許権者:国立大学法人東京芸術大学)が今回の特許です。東京芸大の特許ですね。
絵画を複製するといえば、模写がまず思い浮かびますが、印刷技術を用いた複製や、絵画をデジタルデータ化して複製する方法など、様々な方法があります。
しかし、これだけでは表面的に複製できたとしても厳密には複製できていない面があります。それが、この特許が重要視している「質感」です。紙に描かれた絵画であれば同様の紙を用いることで同様の質感を再現できます(といっても、全く同じ紙を用意することができればともかく、そうでない場合は厳密には同一の質感にはなりませんが)。
そういった「質感」を重視した特許として、『アート関連特許(その2)』で取り上げた壁画等の質感を再現する東京芸大の特許がありますが、今回の特許はキャンバス地等に描かれる絵画の複製に関する特許です。
特に『東洋絵画は古くより、絹に描かれているものが多く、仏教絵画や肖像画、風景画や花鳥画など様々な題材で描かれている』(上記特許の特許公報の段落[0003])そうで、そうであるならば元々絹に描かれていたものを紙に複製したとしても、全く異なる質感になってしまいます。また、絹を用いたとしても、昔の手法で絹を織って創られた支持体と、現在の手法で絹を織って創られた支持体とでは、やはり互いの質感は異なってくるのだろうと思います。
しかも、上記特許の特許公報の段落[0007]には『現在、絹本印刷(絹に印刷した)と謳っている複製画は、新絹本とよばれる化学繊維(主にナイロン)を細かく織り、より凹凸が少ないものが使用されている。しかし、その質感はオリジナルの絵画と異なるため、素材を似せただけの複製画となっており、忠実な複製には至っていない』と記載されており、質感を含めた複製はなかなか難しいようです。
そこで今回の特許が登場するわけですが、その請求項1を引用します。
『オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同様の織り目の布を支持体として用い、前記支持体の裏面に、接着剤で前記支持体が透き通る薄さの第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布する工程と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちをする工程と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程と、
を含む素材の製造方法。』
かなり具体的な内容に限定している請求項になっているのでどういった製法であるかは比較的わかりやすいと思います。この工程で出来上がる構造について上記特許の特許公報の図2を引用します。
(上記特許の特許公報の図2を引用)
(ニ)が支持体です。この支持体の裏面に第1の紙(背面裏打ち紙①)を貼り、白色顔料を塗布した後、更に第2の紙(背面裏打ち紙②)を貼ります。そして、支持体の表面に複製すべき絵画を印刷することで、複製画ができ上ります。
これにより、『紙に描かれた絵画の複製のみならず、古代から現代まで数多く描かれてきた絹本絵画の同質感再現複製が可能になった。また、インクジェット機で印刷をするため、高精細な写真データを用意することができれば、現在は消失してしまった絵画、または公開することができない絵画、移動が困難な絵画においても複製画の製作が可能』(上記特許の特許公報の段落[0018]) になりました。
◆目で見るだけでなく「体験・体感」がポイントに
『アート関連特許(その7)』でチームラボさんの特許を取り上げました。この特許はユーザ自身がアート作成のポイントになっています。つまり、ユーザが体験しつつアート作品が同時並行的につくられていくようになっているとも言えます。
今回取り上げた特許は、ユーザが創るようなものではありません。
しかし、今回の特許を紹介している東京芸術大学アートイノベーションセンターのホームページに『普段、暗い展示室のガラスケースに入った国宝や重要文化財の複製画を多くの方々がケースなしで間近に触ることができるようにな』ると記載されていることから分かるように、ユーザが実際に手に触れることを想定しています。つまり、ユーザが絵画を視覚で知覚するだけでなく、触覚で感じ取ることを想定しているということです。
美術作品やアート作品というと、どうしても静かに鑑賞するというイメージがあります。しかし、それだけでは感じ取れない「何か」もあると思います。原作品に触れることはできなくても、その忠実な複製品に触れたりニオイをかいだり等することができれば(ニオイの再現には、また別の技術が必要ですが)、その「何か」も感じ取ることができるかもしれません。そうなればアートがより身近に感じられそうです。
by KOIP
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