7月9日の記事で、個人的話で恐縮ですが、BLMは紅茶に興味を持ち、紅茶の各産地を知り、次にその特色を知り、次に、その特色ごとに合うお菓子等があることに気づき、今度は各お菓子の特徴を知ろうとし……という経験から、ブランド作りは、そういうストーリーなり、ウンチク、又は文脈といってもいいかもしれません、そういうものをデザインすることなんでしょうかね、と述べた。
さらに、7月11日の記事で、これに加え、どのレベルの特徴を引き立たせるブランドなのか、事業者であれば、ターデットのお客様がどのレベルを求めているのか、を見極めることが重要になりそうと述べた。
今日は、紅茶を茶葉から選んだり、有名紅茶ブランドにこだわったりというターゲット層とは異なる(もちろん重複する部分もあると思うが)、より一般的な層に向けた、ペットボトル入りの紅茶ブランドと、必ずしも紅茶だけに留まらないアフタヌーンティーの世界をコンセプトにした雑貨や飲食店のブランドについて、拒絶審決に対する取消訴訟の事例を中心に考える。
東京高裁平成15年(行ケ)第499号 平成16年3月29日判決
当事者:原告 株式会社サザビー / 被告 特許庁長官
事案の概要:
原告は、下記公開公報に掲載された態様の「Afternoon Tea」からなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第30類の「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,…菓子及びパン,…等」(以下「本願指定商品」という。)として出願(商願2000-140264号)をしたが、下記の2件の登録商標を引用し(以下「引用商標A、Bという。)、商標法4条1項11号(登録商標及び指定商品と同一または類似)に該当するとして、拒絶査定を受けたので、これに対する不服審判の請求をした。
〈本願商標〉
〈引用商標A〉
公告平成2ー86014(登録第2338393号)(上段左)
現権利者:キリンホールディングス株式会社
現指定商品の区分:第30類
※登録前に公告公報が発行された時代のもの。現在は、出願後直ぐに発行される公開公報と、登録後に発行される商標公報がある。
〈引用商標B〉
現権利者:キリンホールディングス株式会社
拒絶査定不服審判時
特許庁は、同請求を不服2002-2345号事件として審理し、本願商標と、引用両商標の『それぞれより生ずる共通の「アフタヌーンティー」の称呼及び共通の「午後の紅茶」の観念において、相紛れるおそれのある、全体として類似する商標であるとし、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するものとして拒絶した原査定は妥当で、「本件審判の請求は、成り立たない」旨結論づけ、その謄本は原告に送達された。
特許庁の判断は至極もっとな印象を受けるが、一旦立ち止まってよくよく考えてみると、「午後の紅茶」と、「AFTERNOON TEA」は、本当に観念が同じなのか? 同じだとしても、こういった言葉を一私人に独占させていいのか?という疑問が生じなくはない。原告(出願人、審判請求人)はどのように主張したのか? 以下続ける。
原告の主張
原告(出願人、審判請求人)は、下記の点を挙げ、これを不服として審決取消訴訟を提起した。
取消事由1『本願商標から「午後の紅茶」の観念及び引用両商標から「午後の紅茶」の観念が生じるものと誤認して、観念の対比を誤り』
取消事由2『引用両商標から「アフタヌーンティー」の称呼が生じるものと誤認して、称呼の対比を誤り』
取消事由3『本願商標と引用両商標とが、外観上容易に区別できることを誤認して、外観の対比を誤った』結果、本願商標と引用両商標とが全体として類似する商標であると誤って判断する』
取消事由4『具体的な取引状況に基づいて、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがないことを看過した』
1 取消事由1(観念についての対比判断の誤り)
『「Afternoon Tea」の「Tea」には、もともと「午後の招待」、「お茶の会」といった意味があり、これは「昼半ば過ぎの軽い食事で、飲み物には通例紅茶を用いる」ところから来ている』が、『「午後の紅茶」というのは、昭和61年に、引用両商標の商標権者』(麒麟麦酒株式会社)『が名付けた紅茶飲料の商品名、すなわち、商標で』、『日本語にもともと存在していた言い回しではない』。『現在では、引用両商標が紅茶飲料について一定の周知性を獲得したために、あたかも、昔からそのような言い回しがあったかのように用いられることがあるが、「午後の紅茶」を英語の「Afternoon Tea」の日本語訳として用いるのは、本来、誤りである。』
一方、『昭和56年9月、東京都渋谷区に、飲食店(ティールーム)と生活雑貨の販売を合体させた新しいタイプの店を開き、その店名として「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」を採択し、『これまでの日本にはなかった新しいタイプの店として、若い女性を中心に評判を呼び、雑誌や新聞等のマスメディアにも頻繁に取り上げられ』、『昭和60年9月には、当時、全国的に人気のあった女性誌』で、『「AfternoonTea/アフタヌーンティー」自由が丘店が、「自由が丘の散歩には欠かせない」と紹介され』たという。、
『平成13年3月期の「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」店舗の喫茶部門(124億4千万円)と雑貨部門(107億3千万円)の売上げは、実に年間230億円を上回る』という。『平成14年8月、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランド設立20周年を記念し、東京都中央区銀座に、当該ブランドだけの『総合大型路面旗艦店(フラッグシップストア)を開店し、その開店時の様子は、新聞・雑誌等のマスコミで大きく報じられた』という。
『以上のとおり、本願商標は、あらゆる商品・役務について永年使用されてきており、衣・食・住にわたる幅広い分野において、既に周知な商標として社会的に認知され』、『本願指定商品に含まれる「紅茶(葉)」や「紅茶飲料」は、22年前から「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」店舗において販売・提供され』、『需要者が、これらの商品を引用両商標の商標権者又はその関連会社の商品であるかのように誤認した事実は一度もな』く、『本願商標の周知性は、他の審決取消請求事件においても認められている』という。
他方、引用両商標自体から「午後用の紅茶」「午後に飲む紅茶」の観念が生じ、明らかに区別できると主張する。
2 取消事由2(称呼についての対比判断の誤り)
『引用A商標「午後の紅茶」を付した商品(紅茶飲料。以下、引用B商標が付されたものも併せて「引用商標商品」という。)は、昭和61年に販売が開始され』、『引用商標商品の販売は、当初、引用商標権者である麒麟麦酒により行われたが、後に麒麟麦酒の子会社である訴外キリンビバレッジ株式会社に移譲され』、『引用商標商品は、発売以来、「午後ティー」の愛称で親しまれ』、『紅茶飲料というカテゴリーのトップブランドとして、常に紅茶飲料市場をリードし続けているロングセラー商品で』、『そこから「アフタヌーンティー」単独の称呼が生じている事実はない』とする。
また、『小さく表示された「AFTERNOON TEA(Afternoon Tea)」の欧文字部分のみが、特に世人の注意を引きやすいということもないし、その存在のみによって識別機能が認められることもない』と主張した。「ゴゴノコウチャ」、「ゴゴティー」、「ゴゴチャ」と称呼される一定の周知性を獲得した引用両商標と、「アフタヌーンティー」の称呼を生ずる原告の著名なハウスマーク本願商標とは称呼上も相紛れるおそれのない非類似の商標であると主張した。
なお、『引用A商標の「AFTERNOON TEA」部分及び引用B商標の「Afternoon Tea」部分は、以前に『第29類「茶」等を指定商品として出願した』が、『指定商品との関係で「識別力なし」との理由により拒絶査定となった』という事情がある。すなわち、英語の「AFTERNOON TEA」には、もともと、英国の慣習における「午後遅く出る軽い茶菓(おやつ)の儀式」、「飲み物に通例紅茶を用いる昼過ぎの軽い食事」、「午後の茶の会」といった意味があるため(甲2、3)、これらの文字を普通に用いられる方法で表示する場合、それは、商品(紅茶)の「用途」を表示するにすぎない一方で、「紅茶」以外の他の商品に使用すると品質の誤認を生ずるという絶対的拒絶理由(商標法3条1項3号、同4条1項16号)に該当』すると主張する。
さらに『引用商標権者自身、「AFTERNOON TEA」の英語に識別力がないと認識していたことは、引用A商標に含まれる英語の説明文「Afternoon Teaをとることは、19世紀初めに始まったとされる独特の慣習です。」(以下「本件説明文」という。)及び英国のティータイムの生みの親といわれるペットフォード公爵夫人の図(以下「本件夫人図」という。)からも明らか』と主張する。
3 取消事由3(外観についての対比判断の誤り)
『本願商標を構成するロゴタイプは、ニューヨーク在住の著名なグラフィックデザイナー松本高明氏に依頼して作成されたものであり、極めて特徴的な構成から成り立』ち、『識別性が高い標章』である。これに対し、『引用A商標及び引用B商標は、いくつもの異なった構成要素を複合的に配することによって成り立』ち、『本願商標と引用A商標及び引用B商標とは、文字及びその書体、構成要素等が全く異なり、一覧しただけで容易に区別することができ、外観において相紛れるおそれはない』と主張する。
4 取消事由4(出所の誤認混同についての判断の看過)
『商標法4条1項11号にいう「商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実状を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする」とする判例を前提に、『本願商標と引用両商標とでは、外観が著しく相違する上、具体的な現実の取引状況を考慮した場合、「Afternoon Tea/アフタヌーンティー」ブランドの周知性と、引用両商標の紅茶缶飲料についての周知性から、商品の出所につき、引用両商標との関係で誤認混同されるおそれはなく、本願商標が、商標法4条1項11号にいう「類似する商標」に該当しない』と主張した。
『被告の反論の要点』は省略。
当裁判所の判断
他方、引用両商標は、『最も大きく書された「午後の紅茶」の文字に対応した「午後の紅茶」の観念が生じ』、『本願商標と引用両商標とは、観念を共通にする』。
BLM感想
『「午後の紅茶」を英語の「Afternoon Tea」の日本語訳として用いるのは、本来、誤りである。』との原告の主張ももっともだと思い反面、裁判所が『日本語にもともと存在していた言い回しではないとしても、「午後の紅茶」という極めて平易な日本語が、商品名として使用されて著名となり、このことを理由に「午後の紅茶」という日本語訳が成立したと解することは何ら不自然なことではない』との主張も、なるほど一定の説得力があるように思う。しかし、特許庁の過去の判断は、「Afternoon Tea」の商標は、「紅茶」の商品について識別力はないとしてきた経緯がある。
一方『午後の紅茶』は、紅茶との関係で一般的な使い方ではなく、その識別力は当初から認めたものと考える。そこで『午後の紅茶』を出願し、使用し続け、周知となった段階で、本来識別力がなかった英語の「Afternoon Tea」にまで、『午後の紅茶』の効力を広げ、独占権を認めるのはいき過ぎではないかと思われる。このことは商標法3条2項の適用においては、使用商標と同一の商標しか適用されない。そうすると、「Afternoon Tea」が、本来識別力がないとして商標法3条2項の適用により登録されないにも関わず、「Afternoon Tea」にあたかも権利があるような効果が得られるのは不公平であるように思われた。
思うに、本件裁判所の裁判官の方々は、男性ばかりだったが、「Afternoon Tea」ブランドをよく知るようなターゲット層たる女性を代表するような裁判官が関わっていたら、何か判断に影響しただろうか、と妙な勘ぐりをしてしまう。
その後、「Afternoon Tea」ブランドでは、紅茶のティーバッグも販売されていたような気がするが…本件、その後両社の間でどう折り合いをつけたのか、未だ調べてみると必要がありそう。今日はここまでで。
by BLM
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