「無機ナノシート」関連の特許、その5です。

 今回は、磁気メモリや重金属イオンの吸着剤として利用可能な無機ナノシート関連の発明についての特許出願を紹介します。

◆無機ナノシートの特許出願の例
 取り上げる特許出願は、発明の名称を『機能性ナノシート、その製造方法およびそれを用いた用途』という特許出願です(特開2020-022936、出願人:国立研究開発法人物質・材料研究所)。

 請求項1のみ、見てみます。
 『酸化物またはその誘導体からなるナノシートと、
 前記ナノシート上に均一に位置する有機金属錯体からなる複数のクラスタと
 を備え、
 前記複数のクラスタのそれぞれを構成する前記有機金属錯体の少なくとも1つは、ペプチド結合を介して、前記ナノシートと結合しており、
 前記複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有する、機能性ナノシート。


 大雑把に言えば、ナノシートにペプチド結合という結合を介して有機金属錯体からなる複数のクラスタをくっつけたものが発明です(ただし、クラスタの粒径には数値限定がなされています)。

 多数のアミノ酸がペプチド結合でつながるとタンパク質になります。タンパク質は皆さんの体を構成する物でもあり、食品にも入っているものですね。そんなタンパク質を構成するアミノ酸同士を結合するのがペプチド結合です。皆さんの身の回りにもあるペプチド結合を使って、無機ナノシートと有機金属錯体とをくっつけているわけです。

 そして、上記機能性ナノシートが何に使えるかというと、上記特許の公開公報の段落[0008]に『(前略)ペプチド結合により有機金属錯体からなるクラスタからナノシートへの電子移動を可能とする。さらに、複数のクラスタのそれぞれは、粒径頻度分布において、1nm以上4nm以下の範囲に平均粒径のピークを有し、結晶性の良いクラスタを構成することにより、例えば、有機金属錯体がアミノフェロセンやフェロセンの誘導体(例えばヒドラジノカルボニルフェロセン)である場合には、有機金属錯体からナノシートへと電荷が移動して非磁性から強磁性に変化する。さらに複数のクラスタは、ナノシート上に均一に位置し、クラスタ間の距離が短くなるとクラスタ同士が強磁性的に結合してスピンの相関が強められる。このような機能性ナノシートは、クラスタが保磁力および残留磁化を有するため、磁気メモリとして有効である。さらに本発明の機能性ナノシートは、クラスタが重金属イオンを選択的に吸着できるので、吸着剤として機能し得る。』と記載されていることから分かるように、クラスタの保磁力及び残留磁化を利用した磁気メモリや重金属イオンの吸着剤として利用することができます。

 また、具体的どのような無機ナノシートを使うことができるかというと、上記公開公報の段落[0022]に『ナノシート110は、原子レベルの厚さ(例示的には、0.5nm以上10nm 以下の厚さ)を有する結晶性のシートであれば特に制限はないが、好ましくは、層状金属酸化物から単層剥離されたナノシートである金属酸化物(ここで、金属は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、および、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される)、または、酸化グラフェンである。』と記載されています。

 そして、機能性ナノシートがどういった形状なのか、概念図も公開公報に記載されているので引用します。


(上記特許の特許公報の図1を引用)

 ナノシート110の表面にペプチド結合130(O=C-NHの部分)を介して、クラスタ120が結合しています。このクラスタ120の種類をいろいろと変えることで、上記特許出願に係る発明とは異なる他の機能が発揮されるかもしれませんね

◆化学は何が起こるか分からないから面白い
 上記のように、無機ナノシートに「何をくっつけるか?」によって発現する効果が色々と変わってきます。そして、無機ナノシートにある化合物をくっつけた場合、くっつけてみて初めて分かる効果もあります。もちろん、くっつける前に理論的にこうなるだろう、と想定してくっつけて実験することがメインですが、実際に合成してみなければどのような効果が出てくるのが分からないところが化学のおもしろさかもしれません(もちろん、思っていた効果がないだけでなく、箸にも棒にもかからない結果になることも多いと思いますが。)。

 しかし、想定通りはもちろん、想定外のおもしろい効果が得られた時は、やはり、化学者としてはうれしいものだと思います(関連する話を、以前、『極端な状況も考えてみる、発想法のはなし』でも書きましたので、興味のある方はご参照ください。)。

 

 

 

 さて、今回取り上げた特許出願に係る発明は、情報を記臆するメモリとしての活用だけでなく、記録媒体の分野からはかなり遠い吸着剤としての利用も可能な無機ナノシートの応用に関する発明です。無機ナノシートはこのように、シートにくっつけるものを色々と工夫することで、様々な用途への応用が可能になります。

 

 今後も、無機ナノシートにくっつけるものによって、更に異なる物性を発揮するような発明もどんどん生まれてくるのだろうと思いますニコニコ

 


by KOIP

 

 

 

 

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