6月20日の記事で、米国の裁判例を、玉井克哉先生の商標権の品質保証機能と並行輸入-アメリカ商標法を素材とする比較法的考察-」(パテントVol.58 No.11(2005)を、その頁を順番に追い、商標の品質保証機能を論じる事例として、「並行輸入」の問題を扱うにあたり、米国においては、主に国内商標権者の保護を目的とする関税法526条と、商標権の一般的な効力を定める合衆国商標法(ランハム法)がある点、そしてこれらの下でどのような判例が形成されているか等、その概要を勉強した。今日はその続き)。(①②等の付番、太字文字の着色、改行等はBLMの任意。以下『』内は、同論文から引用。部分的に引用し、文章を並べ替えている部分もある。くれぐれも興味がある方は原本にあたって欲しい。)

 

『商標権の品質保証機能』25頁(9頁目)

Iberia Foods Corp. v. Romeo, 150 F.3d(注62及び82)

『石鹸や洗剤などの日用品について並行輸入が商標権侵害となることを否定した判決』

第3巡回区控訴裁判所は、「実質的差異の基準を立てる目的」を、いわゆる「業務上の信用(good will)」が毀損される危険性を判断することにあるとし、『疑義侵害者の販売する物品と商標権者の物品が同一の標識を備えているにもかかわらず内実が実質上相違するときは,その品質や性状について需用者が混同する危険が高」く、『「商標権者の商品と異なる疑義侵害商品の性質は,商標権者の物品に関する需用者の選好に影響する可能性が高い』。『そうした場合,疑義侵害物品は商標の『顧客吸引力(commercial magnetism)』を損ない,ひいては商標権者を害することになる」』としたという。

 BLMは、「業務上の信用(good will)」と商標の『顧客吸引力(commercial magnetism)』の関係が今一つ整理できないがうーんはてなマーク、“good will”が形成されて、“顧客吸引力”が発揮されると、いったん理解しようと思うにやりひらめき電球

 

 玉井先生は、『スペインの高級陶器リヤドロ(LLADRO)の並行輸入が商標権を侵害しないとした判決』(Weil Ceramics & Glass v. Dash, 878 F.2d(注52及び83)等も紹介し、『このように裁判所が述べる背景』として、下記①②の品質に関わる商標の機能の『二つの側面』を指摘する。

①『コーラを飲む者は,常に同じ,自らの舌になじんだ味を期待する。』(省略)『購入しなければ確認しようがない』。『店頭の商品に「ペプシ」のマークがついていれば,そのような事態に遭遇しないことを,かなり高い確率で期待できる』という、『商標の付された商品に対する需用者の期待を損なわない』という商標の機能の側面。

②かかる状況の実現は、商標を安定的に使用することが、good will構築に寄与し、結果、商標権者の利益となるからとする。すなわち『古典的意義での消尽論やファースト・セール・ドクトリンが想定しているような,卸売業者に販売した時点で「能事畢る」といった態度』ではなく、『流通の末端に至るまで品質や鮮度が維持されることに気を配る』、商標権者の努力は、『消費者が安定した品質や性状を商品に期待し,それによって競合商品に優る選好を与えることによって報いられる』等、とする。

 BLMとしては、商標権者の投資へのインセンティブに着目しているようにも見えるが、『投資』が直接的な保護対象となりうるかは解らないうーんはてなマーク

 ①②の側面の相互の循環、『即ち流通の末端に至るまでの品質を保証する商標権者の努力と,それに対する需要者の信頼の間の好循環こそが,商標の「品質保証機能」と呼ばれるものの内実だと考えられる』(注62及び85:Davidoff & Cie, S.A. v. PLD Int'l Corp., 263 F.3d)とする。従って、『消費者が手にする商品がまったく同一(identical)』なら、商標の機能は害されない』。 例えば、「高級陶器「リヤドロ」の並行品と正規品の間に何ら実質的な差異の認められ』ず(注86:Weil Ceramics & Glass, 878 F.2d at 668 n.11.)、他にも注87『NEC Electronics v. CAL Circuit Abco, 810 F.2d 1506, 1508-09 (9th Cir. 1987).』、注88『Am. Circuit Breaker, 406 F.3d at 578, 580.』、注89『SKF USA Inc. v. ITC, 423 F.3d at 1315.』等を挙げ、『内外の商品がまったく同一(identical)と認められたケースでは,並行輸入が許容されるべきであり,商標権侵害とはならないとされた』と指摘する。

 

『国境を越える取引と商標権の品質保証機能』25頁(9頁目)

 玉井先生は、『品質保証機能を商標権の中核的な機能と認めることは,商標法の解釈にとって大きな意味がある』とし、商標権者の品質の『管理の及ばない物品が並行輸入され,独自に流通したのでは,商標の機能は害される』とし、例えば、以下を挙げる。

 

Societe Des Produits Nestle, S.A. v. Casa Helvetia, Inc., 982 F.2d(注27、90等)

 チョコレートの『正規品が本国イタリアから冷蔵コンテナで運搬され,上陸後直ちに検査を経て冷蔵倉庫に搬入され,製造日を検査したうえ不良とされた製品を廃棄し,良品のみを冷涼な早朝に販売店へ配送するという品質管理体制を敷いていた』。一方、

『並行輸入品がヴェネズエラから普通貨物便で運搬され,午後の時間帯に冷蔵倉庫に移し,溶けていないかを翌日ランダムに検査するのみで,製造日を確認したこともなかった』、といった点お指摘し,『裁判所は,「Xが商品が消費者に届くまでの全期間を通じてその品質を監視することができないということこそ,ランハム法違反があるか否かを考慮する上で決定的に重要である」とした』。

 

Ahava (USA) Inc. v. JWG Ltd., 250 F.Supp.(注49、91等)

 『ヘルス・ケア製品や美容品に関する事例でも,すべての製品を検査する「厳格な品質管理プログラム」によって商標権者が国内の品質を水準通り維持しようとしている場合に,その枠外に立つ並行輸入品を流通させることは,商標に関する品質保証の所在(sponsorship)を混乱させるから商標権侵害にあたるとされ,タバコに関する事例でも同様の判断がなされている』。

 

Bell & Howell : Mamiya Co. v. Masel Supply Co., 548 F. Supp. 1063, 1079 (E.D.N.Y. 1982), vacated on other grounds, 719 F.2d 42 (2d Cir. 1983)(注92等)

 『需用者の手に渡るまでの段階に限らず,商品を供給した後のアフター・サービスについても,同様に妥当する。プロ級カメラマンを顧客とする高級カメラについて,保証や修理といったアフター・サービスを専ら正規品の輸入者が提供しているとき,並行輸入を野放しにするとそうした保証抜きの流通をもたらし,国内商標権者独自の業務上の信用を損うことになるので,商標権侵害にあたるとされた』。

 

 同旨の例として、電子辞書について、『ユーザ・サポートのため技術者を養成し正規販売店に配置』されていた前提があり、『何らのサポート体制を敷かずに並行品を販売したことは商標権侵害にあた』るとされた事例(注93:Goldic Elec., Inc. v. Loto Corp., 2000 U.S. Dist. LEXIS 18594, **15-17 (S.D.N.Y. Dec. 27, 2000))、『万年筆など高級筆記具に関して,シリアル番号などを除去した商品は不良品が出た場合の回収などが困難であるから正規品と「実質的差異」があるとされた』事例(注94Montblanc-Simplo GmbH v. Staples, Inc., 172 F. Supp. 2d)が挙げられ、『このように,商標権者が厳格な品質保証システムを構築しているとき,それを潜脱(circumvent)する並行品の流通は,商標権侵害となる。』とする。

 そして『正規品と並行品の間に現実に品質の差異があることまでは要求されない』点が重要とする。

 

Iberia Foods Corp. v. Romeo, 150 F.3d(注62、95等)

 『第3巡回区控訴裁判所は,石鹸や洗剤など日用品に関する判決で,「品質管理体制によってもたらされる品質の差異が微妙(subtle)で,数値的に計測するのが困難だということもありうるが,それでもその差異は消費者にとって重要かもしれない。したがって,検査対象となった商品の品質がそうでない商品と比較して計測可能なほどに高いということを,商標権者が裁判の場で証明する必要はない」という』。

 『なぜなら,一般に,「ランハム法の与える保護の中で最も重要で価値があるものの一つは,権利者の商標を付して製造販売される商品の品質をコントロールすることにほかならない」からで』、そうすると、『「商品の実際の品質を問うことには大きな意味がない」』ということになるようだ。『並行輸入に関しては微妙な(subtle)違いでも「実質的差異」にあたるとか,その閾値(threshold)が常に低いとかいった一般的な説示には,そうした意味も含まれている』とされる。


 『このことは,並行輸入行為が権利侵害になるかどうかは,輸入者自身の行為態様のみならず,商標権者の品質保証体制いかんによっても左右される,ということをも意味している』という。

 BLMとしては、この視点から商標保護を見ることは重要だおーっ!ビックリマークと強く思う。商標権者は商標権行使をすることよりも、品質保証体制を構築することの方が、どれだけ事業に役立つかしれない。そういう体制を整え事業を営業するからこそ、権利行使する意味がある言えるとも思うおーっ!ひらめき電球

 

 どの程度の管理が必要か、と言えば『外箱を見て損傷の明らかな商品をあえて供給しないといった程度では,商品に差異をもたらす品質保証システムがあるとは言え』ず、 『たとえば,並行輸入されたタバコが商標権者の品質保証システムを潜脱し,そのゆえに正規品と実質的な差異があるというためには,少なくとも,検品の頻度と程度,また種々の商品ごとの消費期限について事実認定が必要である(注101:R. J. Reynolds Tobacco Co. v. Premium Tobacco Stores Inc., 2000 U.S. Dist. LEXIS 19546)とする。
 『両者の「実質的差異」は,品質保証システムの整備やそれに対する需用者の期待といった,市場参加者の心理を踏まえた実情に応じて,異なることになる』とされる。『顧客の必要に適切に応えるよう払った多大の努力が並行品の流入により無になる場合(注65、102等:Helene Curtis, Inc. v. National Wholesale Liquidators, 890 F. Supp.)や,品質管理上不可欠な製品管理コード(batch code)が除去されるなどした場合(注103:103)John Paul Mitchell Sys. v. Pete-N-Larry's, 862 F. Supp. 1020, 1026-27 (W.D.N.Y. 1994))には,非正規品の販売は商標権侵害となる』等とされる。

 

土曜のおやつはイオンの豆大福。豆がたっぷり入って美味しかったビックリマーク 

 

 さて、頭を休めてもうひと頑張りにやりお茶

 

市場の具体的状況と商標権の機能27頁(11頁目)
 『国ごとに市場が異なる以上は,たとえ物理的には同じ商品であり,なおかつ販売後の品質管理に関して有意な差がなくとも,国内市場で独特のイメージを確立した商品については,それをも「業務上の信用(good will)」として扱うべきである,ということになろう。』

 

Martin's  Herend  Imports  v.  Diamond  &  Gem  Trading  USA, 112  F.3d(注62及び105)
 『高級陶器「ヘレンド(Herend)」をめぐる事件で』『並行輸入品の中にアメリカ国内では未発売の絵柄や描画パタンの施された陶器が混入していた』。第5巡回区控訴裁判所は…省略…『「こうした〔贅沢〕品のマーケティングをこの国で成功させるには,……理論(science)ではなく,技能(skill)が必要である』。『何らかの客観的あるいは理論的な意義での『品質』が商品に備わっているだけでは足りない。そうした品物が稀少で,収集の対象となり,エレガントでシックで,何にせよ持つのがとても素晴らしいものだという考え方を,国内の顧客に植え付ける能力を要する。……ほかならぬヘレンドにとっても,商標に結び着いた業務上の信用(goodwill)を維持することは商品を販売する店〔の構えや雰囲気〕,広告宣伝活動,さらには数千種もの陶器の中からこの国の市場に適した品物を選択すること,その他諸々のファクターにかかっているということがありうる」』。

 BLMとしても、確かに『「ヘレンド」陶器の品質そのものが物理的に異なるとは考えにくい』

 上述の「リヤドロ」陶器事案では『「消費者は,自分が購入しようとしたまさにそのものを手にする」のだとして非侵害となったうーん!? しかし、玉井先生は、『商標権者の業務上の信用(goodwill)という観点からは問題である。国内で販売されていないはずの商品が出回ることは,商標権者の統一的なイメージ戦略を損う。「ヘレンド」に関して裁判所はそのように考えた』。『それこそが「リヤドロ」の並行輸入を認めた判決との分水嶺であった』という。

 

Ferrero  U.S.A.,  Inc.  v.  Ozak  Trading,  Inc.,  753  F.  Supp. (注67及び108)
 『アメリカ国内で流通しているミント・キャンディ(breath mint)が1.5カロリーしか含有していないのに対し,英国向けが2カロリーであるから両者は実質的な差異があるとした判断』。
 『裁判所は,Xが70年代の末に子供向けのマーケティングをやめて大人向けに転換し,砂糖が入っているのに1.5カロリーしかないとして,砂糖を使わぬ競合製品より優れていることを前面に押し出す戦略で成功したことを指摘している』。『そうした戦略で商標権者が業務上の信用(good will)を構築したことに照らせば,その差を無視することはできない。少しでもカロリーの高い商品が同じようなパッケージで流通することは,成功したマーケティングの努力を損う可能性がある』等と判断されたという。


 玉井先生は、『このように,並行輸入を阻止しうる要件としての内外商品の「実質的差異」には,国内の需用者に合わせたマーケティング要素についての相違を含む。そして,これもまた,アメリカ商標法における一般的な考え方と合致する』とする。

 

Davidoff  &  Cie,  S.A.  v.  PLD  Int'l  Corp.,  263  F.3d(注62及び109)

 スイス製の香水が対象となった事件で『香水のマーケティングにおいては,売手は,単に瓶の中身だけを売るのではなく,それと同時に,香水瓶に付着した商標の『顧客吸引力(commercial magnetism)』を売っている」とし、『商標と結び着いた製品の外見こそ,そうしたイメージを確立するために重要で』、『香水瓶の外見は,消費者の購買決定〔を左右するほど〕に実質的〔に重要〕である」』としたという。
 玉井先生は『この考え方の背景にあるのは,商品というものは単なる物理的存在ではなく社会的意味を帯びた存在であり,購買の対象となるのも単なる裸の商品ではなく,そうした意味の束(bundle of special characteristics)にほかならない,という発想である』という(注110:Nestle,  982  F.2d  at  636;  Davidoff,  263  F.3d  at  1301; Montblanc-Simplo,  172  F.  Supp.  2d  at  235;  Helene  Curtis,  890 F.  Supp.  at  158)。

 

Lever  Bros.  Co.  v.  United States,  877  F.2d  101,  106-08 (D.C.  Cir.  1989)(Lever  I).(注6及び111)

 上記の流れから、『そして、社会的に定着した商標は,そのような意味の束を表象する。』という。

 『DC巡回区の表現を借りれば,英国で“beer”を注文すると“bitter”と呼ばれる種類が出てきて,アメリカ人の期待は外れる。』『英国で飲もうと思えば,“lager”を注文せねばならない』らしいうーんビックリマーク『同様に,英国で真正品として通用している商品をアメリカに持ち込んでも,商標が示す意味は異なっている』。玉井先生は『社会的意味を異にする商品,即ち「実質的差異」がある商品に同じ商標を付することを許容すれば,顧客には意味の混乱を,商標権者には構築した業務上の信用(goodwill)の毀損をもたらすそのような結果を回避することこそ,商標権の主要な機能の一つだというわけである。』という。

 

 玉井先生の論文を公開で勉強するには、ここまでとしたい。すべて引用するのは憚られる。何より。これ以上長くなると、BLMが、この論文に出会って、衝撃をうけた点がかすれる。つまり、商標法で問題となる「商品の“品質”とは何か?」又はストレートに、「商品とは何か?」という考えへの示唆だ。これは並行輸入だけの問題ではないだろう。ちょっと、ここから示唆を受け、BLMとしては、日々淡々是練してみよう。

 

by BLM

 

 

 

 

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