6月18日の記事で、米国の裁判例を、玉井克哉先生の「商標権の品質保証機能と並行輸入-アメリカ商標法を素材とする比較法的考察-」(パテントVol.58 No.11(2005)を、その頁を順番に追って勉強した。今日はその続き。(①②等の付番、改行等はBLMの任意。以下『』内は、同論文から引用。部分的に引用し、文章を並べ替えている部分もある。くれぐれも興味がある方は原本にあたって欲しい。)
関税法526条(21頁(5頁目))
この規定は、以下の①と②がぶつかった事案で『商標というものは,特許とは異なり,「それが標識となった商品の出所(origin)」を期限の定めなく表示するもので,フランスのメーカーが商品に付した商標は正しくその出所を表示し』、『それを輸入する行為は合衆国商標権の侵害とならない』(つまり②は非侵害)と判決した『1921年の控訴裁判所判決をきっかけに制定され』たという。
①『事案は,合衆国会社Xがフランスの化粧品メーカーから合衆国内での営業すべてを買収し,従前と同一の商標を用いて営業を継続』、
②『別の会社Yがフランスのメーカーから同一商標の付された商品を輸入して国内で販売』。
なお、『合衆国最高裁は,商標というものが「多大の価値を有しうる反面で非常に壊れやすいものであるから,相当の注意を払って保護せねばならない」とし,Xの商標は合衆国限りのものだという理由で差戻しを行った』が、『それを待たず,議会が立法に動いて制定した』という。『その規定には「輸入禁止措置(importation prohibited)」というタイトルが付され』、『「外国製品(merchandise of foreign manufacture)」を合衆国に輸入することについて,合衆国の市民や会社などが有する商標が付されているときは,「不法(unlawful)」であるとした。そうした経緯で「深夜の改正(midnight amendment)」と評され』るが、『1988年の合衆国最高裁判決により,基本的な内容は確定している』という。
但し、『商標権者たる合衆国会社(または合衆国民)と外国の商標権者が同一であるときは,「外国製品」とは言えないので輸入禁止措置を執らないというのが,税関当局の伝統的な取扱い』で、『合衆国商標権者が外国の商標権者の親会社や子会社であるときなど共通の所有下にある場合や,統合経営(common control)下にある場合も,やはり輸入禁止措置を執らないのが原則である』とされるが、『合衆国商標権者が外国製品に商標を使用することを許諾(authorize)したに過ぎないときは,商標権者は輸入禁止を求めることができる』という。(太字:BLM)
「統合経営(common control)」下にあるというのがいかなる場合
『関税当局の定めた行政規則』では、『「経営方針と実務に関する実効的なコントロールを指し,必ずしも共通の所有下にあることと同義ではない」とされ』、『単なるライセンス関係』『よりも緊密な取引関係があり,一個の商標に関する事業価値とリスクを恒常的に相互分担するような関係があれば足りるように見える』が、『判例の認める例外はきわめて狭い』という。
例1:『イタリアを原産国とする自転車用タイヤをめぐる事件で,外国商標権者と国内商標権者が
(1)デザイン,宣伝,販売について協力関係にあり,
(2)「どのような範囲の商品を製造するか」を共同で決定し,
(3)外国商標権者が国内需用者に製品を直接販売しており,
(4)国内商標権者の広告宣伝費の相当部分を外国商標権者が支払う一方,広告宣伝の方針についてコントロールの手段を有しており,(5)どの商品を国内で販売するかを専ら外国商標権者が決定し,
(6)顧客から寄せられたクレームに関しては外国商標権者がほとんどの費用を負担し,
(7)外国商標権者のカタログには国内商標権者が「アメリカ正規代理店(U.S. distributer)」と記載され,さらに
(8)外国商標権者のCEOが国内商標権者やその子会社の従業員について決定を行っているといった事情があるとしても,
それだけでは「統合経営」があるとは言えないとされ,並行輸入の禁止を求める訴えが認容された』という。
『それらは単に「緊密な事業上の関係」を示すに過ぎず,「統合経営」とは言えない,というのがその理由である』。
例2:『著名な腕時計“ROLEX”をめぐる事件では,
(a)製造を担当する“Manufacture des Montres Rolex S.A. Bienne”社(Bienne)が本国スイスでの“ROLEX”商標権を保有する一方,
(b)全世界での販売を担当する“Montres Rolex S.A.”社(Geneve)にロレックス・クラウンやオイスター・パーペチュアルを含む多数の商標権を保有することを許容し,
(c)“Montres Rolex S.A.”と合衆国での販売を担当する“Rolex Watch USA”社は経済的に一体であった。
しかし,裁判所は,(1)BienneとGeneveの間にほとんど資本関係がなく,(2)両社の役員構成が共通しているということもなく,(3)単に両社が共同出資した会社が保有するビルにともに入居しているに過ぎないとして,「統合経営」がないと判断した。』
『「緊密で有益な事業上の関係(close and profitable business relationship) 」があるだけでは足りない』という。
『一般に,共通の「統合経営」に服すると言えるためには』
『「親会社が子会社に対して行使し,または共通のオーナーが双方に対して行使するような」支配が』必要で、「たとえば,資本関係が希薄ではあるが,両社の役員が大幅に共通しており,実質的に一体的な経営判断がなされていることが外形的にも明らかだといった場合』があたるという。
BLMの理解だと、海外の商品が国内に入ってきた場合、国内の商標権者は、関税法526条がある程度使える、ということか しかも日本の関税定率法は、前回の記事 で確認したように水際措置は税関長に委ねられるが、米国だと、それ以外に直接裁判所に訴えを提起できるということか
その場合、『商標権者と共通の「統合経営」に服する者以外の事業者が商品に商標を付したことを要件』とし、『内外の権利者が「統合経営」下にない場合は,並行輸入された商品の品質などを問うことなく,差止を求めることができる』という。
『内外商品の実質的差異―商標法による並行輸入の禁止』(23頁(7頁目))
『関税法526条は,もともと国内の商標権者を保護する目的を有する』が、『商標権の一般的な効力を定めるのは』『合衆国商標法(ランハム法)で』、『並行輸入を論じたリーディング・ケースで』※は、『第1巡回区控訴裁判所は「一般に,商標権は,それを登録した(あるいは承認する)主権の範囲によって限界を画される」と述べる』という。
※注27(及び58)で、『Societe Des Produits Nestle, S.A. v. Casa Helvetia, Inc., 982 F.2d 633, 640 (1st Cir. 1992)を挙げ』、『「Xの主張の支点が〔ランハム法〕32条1項にあろうと42条1項(a)にあろうと,またまた43条(a)にあろうと,責任の有無は,需用者に混同を起こさせるような実質的差異がその種商品にあったか否かに帰する」と』し、結局、『「実質的差異」の有無が決め手になる,とした』とする。
『ランハム法の関係規定の文言からは明確ではないが,同法は「欺罔を根絶し消費者の混同を極小にする」ことを目的とし』、『それに照らした解釈が必要』だが、『他方,「単に外国での製造を許諾したということから,当該物品を合衆国に輸入することに同意したと直ちに推認することはでき』ず,『「無許諾での輸入は,そうでなければ『真正』な製品を『偽造』品に変える」ことがありうる』とする。即ち『制限阻止モデルが採られ』、『真正商品の並行輸入が商標権侵害となるのか」は、『「真正だが権利者の同意を得ない輸入品が,国内市場での販売について権利者から同意を得た正規の商品と実質的に差異がある(materially different)とき」』で、『ごく微妙な差異(subtle difference)で足りる』と同裁判所はいう。そして、『「〔権利侵害と判断されるための〕格差(threshold)は,常に極めて低い(quite low)」』く、『厳格な一般論は,先例のあるすべての巡回区で是認されている』という。
「実質的差異」の例1:『製品そのものの規格や品質が物理的に異なる(physically different)場合』
注2及び3:Gamut Trading Co. v. ITC, 200 F.3d 775, 779-80 (Fed. Cir. 1999)
『日本の水田用に設計されたトラクターは,大量の土や岩石を運搬し密生した下草を刈り取るようデザインされたアメリカ仕様とは,まったく異なる。』『日本で流通している中古のトラクターを購入してアメリカで販売するのを認めると,顧客の期待を損うばかりか,修理などアフター・サービスの要求にも応えられず,正規の販売事業者に酷である。』『裁判所は,輸入品が中古であることが並行輸入に関する判断に影響しないことを前提に,日本メーカー現地法人の商標権を侵害することを認めた』。
なるほど、BLMとして、トラクターは、薬や食品と違って、どの国に販売したところで、品質に差異は生じないと考えたが、その国の需要者に適切にマーケティングが考えられて、商品が製造・販売されていることも視野に入れ、物理的に異なるという点を考慮されているのかなと思う・・・。結論を出すのはまだ早い
本稿の例を読み進めよう。
注35及び64:Lever Bros. Co. v. U. S., 981 F.2d 1330 (D.C. Cir. 1993)(Lever II)
『化粧石鹸などに関わる事件で,アメリカと英国とでは消費者の嗜好が違うとして商標権者が香りや成分を変えている場合,英国向け製品を無許諾で輸入することは商標権侵害にあたる』。
注65:Helene Curtis, Inc. v. National Wholesale Liquidators, 890 F. Supp. 152, 159-60 (E.D.N.Y. 1995)
『シャンプーやヘア・スプレーなどの成分がカナダ向け製品ではアメリカ向けと異なる場合,両者は実質的な差異がある,という』。
注66:Societe Des Produits Nestle, S.A. v. Casa Helvetia, Inc., 982 F.2d 633, 640 (1st Cir. 1992)
『イタリアで生産され贈答などに使われる高級チョコレートについて,ベネズエラで現地生産された製品が使用しているカカオ豆の産地,ナッツや砂糖の質,さらにミルクの含有率も異なるときは,その並行輸入は商標権侵害にあたる』。
注67:Ferrero U.S.A., Inc. v. Ozak Trading, Inc., 753 F. Supp. 1240, 1244, 1247 (D. N.J. 1991), aff'd without opinion, 935 F.2d 1281 (3d Cir. 1991).
『外国向けミントキャンディー(breath mint)のカロリーが少し多いこと』も『「実質的差異」にあたるとされた』。
注68:Grupo Gamesa, 1996 U.S. Dist. LEXIS 13193
『外国向けクッキーがビタミン・ミネラル強化粉(enriched flour)を使用していないこと』も,『「実質的差異」にあたるとされた』。
注69:Martin's Herend, 112 F.3d at 1302
『並行輸入品と正規品が物理的に品質が異なるときはそれだけで商標権侵害となるのであり,並行品の品質が劣っていることは必要でない。伝統あるハンガリーの高級陶器「ヘレンド(Herend)」をめぐる事件で,合衆国内で流通していない絵柄や彩色の陶器を輸入する行為が商標権を侵害するとされた』。
注70:Dial Corp. v. Encina Corp., 643 F. Supp. at 954-55 (S.D. Fla. 1986)
『薬用石鹸をめぐる事件で,外国向け製品と国内向け製品との間に成分の相違があれば商標権侵害となりうるとした判決もある』。
「実質的差異」の例2:『物理的に同じ』だが『添付品や付随的サービスの相違によって「実質的差異」ありとされる』場合
注71:Original Appalachian Artworks, Inc. v. Granada Electronics, Inc., 640 F.Supp. 928, 929-30 (S.D.N.Y. 1986),aff'd, 816 F.2d at 70.
『玩具「キャベツ畑人形(CABBAGE PATCH KIDS)」をめぐるケースで,商標権者は,専門店や高級デパートに設けられた「養子縁組センター」を通じて商品を供給し』、『顧客は「出生証明書」を受け取り,「養子縁組証書」に必要事項を記入して返送すると,一年後に「バースディ・カード」が送られる仕組みで』、『それが人気を博し,事業として成功するのにその仕組が大いに貢献したと認定されている』。
注72:Original Appalachian Artworks, 816 F.2d
『他方,並行輸入品はもともとスペイン,アンドラ等で製造販売されたものであったため,「出生証明書」や説明書もスペイン語で表記されており,「養子縁組証書」の返送先もスペイン国内で』、『並行輸入品を購入した顧客は「養子縁組手続」を遂行できない。そうした事案で,裁判所は,たとえ人形そのものに物理的差異がなくても,並行輸入品の流通は商標権者の信用(good will)を毀損するとし,その間の相違はまさに「実質的」だとした』。
注65及び73:Helene Curtis, Inc. v. National Wholesale Liquidators, 890 F. Supp. 152, 159-60 (E.D.N.Y. 1995)
『法律上要求された表示や添付文書が欠けている場合』で、『シャンプーなどのヘア・ケア製品』には『連邦法によって成分表示などが義務づけられており,外国向け製品にそれが欠けるときは,「実質的差異」にあたる,とされる。違法な表示を帯びた商品が流通していると製造元に返品や回収の要求が出たり業務上の信用を失ったりすることがあるので,そうした判断そのものは首肯できるであろう』とされる。(『クッキー』(注74:Grupo Gamesa, 1996 U.S. Dist. LEXIS 13193)、『清涼飲料水』(注75:PepsiCo v. Reyes, 70 F. Supp. 2d at 1059; PepsiCo v. Pacific, 2000 U.S. Dist. LEXIS 12085 at **7-8; Pepsico v. Longmont, 1999 U.S. Dist. LEXIS 12811 at *7.)、『獣医薬品』(注76:Bayer Corp. v. Custom Sch. Frames, LLC, 259 F. Supp. 2d 503, 504-05(E.D. La. 2003); Bayer Healthcare LLC, 2004 U.S. Dist. LEXIS 19454 at *3; Novartis Animal Health US, Inc. v. Abbeyvet Exp. Ltd., 2005 U.S. Dist. LEXIS 14264, **6-8 (S.D.N.Y. July 12, 2005). いずれも,英国向け動物用ノミ取り薬(animal flea control preparations)をウェブ・サイト上でアメリカ向けに販売した事案。』も同様。)
BLMとしては、そのような並行輸入品は、いわゆる大手小売店には販売されておらず、ディスカウントストア等で、正規の販売ルートではないだろうという場所で、値段からすれば、明らかに何か正規品とは品質が落ちる可能性があると予想でき、それでも、「これでいいや」と、需要者は、商品を買うのではないかと思う。侵害にしなくてもいいのではないかとも思う。
そう思っていたら、この間、BLMの好きなお店、カルディで、外国産のハーブティーを買ったのだが、いつもここで買って失敗したことはないので、「これは明らかに並行輸入品?」と思うハーブティーでも、買ってみてしまった。そしたら、まずかった アメリカ向けの商品?!(ティーバッグに紐がついていないのはアメリカ向けなんじゃないかと推測)なのかな
品質が悪い、という訳ではないのだろうが、何か、日本人には合わないかも、という味だった。嗜好の問題なので、好きな日本人はいるかもしれないが
玉井先生は、『商品に付された表示がスペイン語であることが「実質的差異」とされるばかりか』、『アメリカ英語でなく英国式英語表記が用いられていること』『までそれにあたるとされていることは,納得が得にくいであろう。』と述べる。
ただ、BLMとしては、言語で、アメリカ向けなのか、中国向けなのか、等々購入時の判断の一つとするだろう。上記BLMの失敗は、今後の購入判断にかなり影響を与える。正直10円でも安く買いたい一方、100円でも失敗したくない!
さらに、先生は、『商標権者が自社製タバコに「マイル」を付し,累積すれば種々の景品と交換するというサービスを展開している場合に,並行品では顧客がそのような「マイル」を得られないことをもって「実質的差異」にあたる』(注79:Philip Morris v. Allen, 48 F. Supp. 2d at 848, 853)とする判断について、『いっそう納得感が少ない』とし、『タバコのような嗜好品に優待サービスをつけるのはメーカーが任意になしうる』。『それをも実質的差異だというのであれば,多くの商品について,実質的な差異を任意に与えうる』という。
各判決例を検討した同先生の指摘等
『合衆国の裁判所がしばしば用いるこうした判断基準は,おそらくそれだけを取り上げるべき』ではなく、『そこには,ほとんど常に一つの指摘が伴』い、『それは,並行輸入を放任してしまうと商標権者が品質を管理することが不可能になる,との指摘である』とする。(太字:BLM)
『メキシコ向けペプシ・コーラに関わる事件で,裁判所は,「メキシコ産〔並行〕品を輸入することには不確実性や遅延がつきものなのであるから,瓶からの漏洩,炭酸の蒸発,品質の劣化といった危険が避けられない。かくては,ペプシコ社が品質管理に払う努力が無駄になる可能性がある」と述べる(注81:PepsiCo v. Nostalgia, 1990 U.S. Dist. LEXIS 18990)。
『食品やタバコのような商品は,どうしても時を追って品質が変化する。それに対処するには,短い消費期限を設定し,その期限内の品質管理に努力を傾注する必要がある。食品関連規制法規などで要求された表示はその要請に部分的に応えるものであるし,顧客優待サービスを導入する理由の一つは,販売経路を管理下に置くためであろう。品質の管理は販売経路の管理を伴う。品質の「実質的差異」を並行輸入の可否の基準とすることは,並行品に対抗して販売経路を統制することを,商標権者に正面から認めることを意味する』とのことだ。
そして、『このことは,「実質的差異」が否定された数少ない事例を検討することによって,いっそう明らかとなるであろう』という。
今日は、とにかく裁判例を以上に挙げてみた。BLMとしては、別途、各判決にあたってみることとしたいが、ここでは、本稿を順に読んでいくことを目的とする。今日は25頁(9頁目)まで。次回は、いよいよ『(4)商標権の品質保証機能』について見て行こう
by BLM
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