6月17日の記事で、茶園成樹先生の「欧州商標法における商標の機能 ―周知・著名商標の保護の検討のために―」(パテントVol. 72 No. 4(別冊 No.21,2019)の『3.』の『欧州司法裁判所が言及する,保護される商標の機能』(174-176頁)について見ていった。
その中で、茶園先生が 『裁判例には品質保証機能について詳しく論じるものはない』が、『Jacobs 法務官は,Dior事件において,以前の裁判例が説示した,「企業は,その商品及び役務の質によって顧客を保持することができる立場にいなければならず,それは,その商品及び役務を顧客が特定することができるようにする識別的な商標がある場合にのみ可能とな』り、『商標がこの役割を果たす』ためには、『その商標を用いるすべての商品が,その品質に責任を負う単一の企業のコントロールの下に生産されているという保証を提供しなければならない」』を引用し、『「この商標の側面(『品質又は保証機能』と呼ばれることがある)は,出所機能の一部と考えることができる」と述べている』と指摘する。(太字:BLM)
品質保証機能は、日本の商標法が認める“商標の機能”の境界線のような気がする。品質を重んじる日本(かつての日本?)にとって、この機能は受け入れやすいのではないかと思う。商標権者は、需要者の期待を裏切って品質を変えても、商標法は何も関与しない!というのでは、商標法自体の存在意義も薄れてしまうような気がする…。
米国商標法制度から見る品質保証機能
1.なぜ米国商標法を見ていくのか
ということで、商標の品質保証機能について考える。今日は、米国の裁判例を、玉井克哉先生の「商標権の品質保証機能と並行輸入-アメリカ商標法を素材とする比較法的考察-」(パテントVol.58 No.11(2005)を勉強していこうと思う。BLMの任意解釈により進めていくので、解釈に誤りがある点ご了承戴きたい。だいぶ前に書かれたものだが、考え方について勉強になる論文だと思うので、原本にあたって欲しい。(『』内引用。太字、着色、下線: BLM)
玉井先生の問題の所在から確認しよう。『(1)「消尽」と並行輸入」』の中で、商標を付した商品が、Aさん⇒Bさん⇒Cさんと転々流通する中で、形式的には商標の使用に該当するが、『販売した時点でその商標権はいわば使い尽くされ』、商標権侵害とならないのが原則であるところ、商品の改造や小分けする場合、一定の場合は『商標権を侵害したとされる』。いかなる場合に、消尽し、いかなる場合に消尽しないのか、又は消尽した権利が復活するのか、という『実質的な問題』を扱うことを前提に、特に、国境を越えた、いわゆる国際消尽論について扱うのが本稿の目的であるとする。
以前、BLMが4月1日の記事 で、真正商品の並行輸入の問題を取り扱った。この記事で掲載した図が参考になるかもしれない。
国際消尽論において、『三つの立場を想定』できるとし、
「完全阻止モデル」(厳格な国際消尽否定論)と、
「無制限モデル」(『まったくの「海賊商品」の輸入を認める立場』『と境を接する範囲まで「消尽」の範囲を拡大するもの』)、そして、
その間の「制限阻止モデル」を挙げる。
制限阻止モデルについては、『XとX′の間に同一またはそれに近い関係を厳格に要求し,Yの輸入する商品とXが販売する商品が同一またはそれに近い関係に立つことを要求すれば,制限阻止モデルは完全阻止モデルに近づく。逆に,両者をごく緩く認めれば,無制限モデルに近くなる。その二つの要件を,本稿では,「内外権利者の同一性」及び「内外商品の同一性」と呼』ぶ。(11頁)
この点、『かつてのわが国においては,「無制限モデル」に近い制限阻止モデルが裁判例の一般的な傾向であった』(例えば、ラコステ事件)ところ、フレッドペリー事件(最高裁第一小法廷平成15年2月27日・平成14年(受)第1100号民集57巻2号125頁)(BLM:4月1日の記事)のような判例が出された。
玉井先生は、『わが最高裁判決は何を変え,何を変えなかったのか。』『判旨の射程はどこまで及ぶのか』、今後の事案にどう影響するのか分析しようとされる。そして、『いずれも商標法の基本に関わる問題である。そうした基本問題の考察を抜きに並行輸入についてのみ検討を進めてみても,適切な解を得ることは難しい』という。一方、同判例からの分析のみでは足りない。
そこで『本稿は,アメリカ商標法に材を取』っている。欧州連合については『1989年商標指令により,加盟各国の商標法についても一律に「完全阻止モデル」を採用し,それは1998年の欧州裁判所判決』で確認されたという。『かつてわが国の裁判例が採用した無制限モデルに近い立場との間には,あまりにも大きな隔たりがある』という。
なるほど、並行輸入の問題一つとっても、欧州と日本では考え方が異なるということか
米国商標法で、並行輸入の問題は、『この四半世紀ほどの間に,非常に大きな進展があ』り、『「制限阻止モデル」の枠内での発展で』,『商標権の「品質保証機能」に対する透徹した理解こそがその発展の原動力となった』という。本稿は『各巡回区を所管する13の控訴裁判所(courts of appeals)』と、『地区裁判所(district courts)の判決』から、『最近のものを中心に,先例的価値の高いものを選んで検討する』という。本稿は以下の構成よりなるという。
・『アメリカ商標法における並行輸入の取扱いについて,基本的な構造と考え方を摘示』し、
『その考え方から導かれるさまざまな応用例を挙げ』る。
・『商標権の品質保証機能こそが今日のアメリカ商標法を理解するための鍵となる概念の一つ
であること,それが単に並行輸入問題を超えて極めて一般的な射程を有することを検討』する。
・『わが国商標法への示唆を議論』する。
2.連邦商標法(ランハム法)32条等
連邦商標法32条
以下の条項がまず重要である。『国内で流通が完結する場合も含んだ規定であるが,並行輸入事件においても多用される』という。
『「次の者は,登録商標権者の民事上の訴えにより,〔本法において〕後に定める責に問われる(liable for the remedies)ものとする。
(a)業として(in commerce)登録商標権者の許諾なく登録商標を商品又は役務の販売,販売の申出,頒布又は広告宣伝に関して再生(reproduction)し,模造(counterfeit)し,模倣(copy)し又は偽造(colorable imitation)し,もって混同(confusion)の虞れを生じさせ,若しくは誤解を惹起し,又は欺罔した者」(24)。
連邦商標法42 条
輸入をめぐっては以下が重要である。『この条項は税関による輸入許可について定めるが,商標権者の権利を保護する条文であることに異論はなく,現にしばしば請求の原因とされる』という。
『「次の商品は,合衆国の税関により輸入を許可されてはならないものとする。 合衆国の商品(merchandise)名又は製造者若しくは販売者(trader)(条約,協定その他の取極によって合衆国国民と同一の権利を与えられている者を含む。)の名前と同一又は類似の名前を使用した製品。本法の規定に従って登録された商標と同一若しくは類似の〔ものを使用した〕製品又は公衆をして当該製品が合衆国で製造され,若しくは現実に製造された国若しくは地域と異なる国若しくは地域で製造されたものと誤信せしめるような名称若しくは標識を帯びた商品」』
合衆国関税法526条
上記に加え、輸入禁止措置に関する以下規定が重要である。
『「合衆国国民又は合衆国内で設立され若しくは創立された会社若しくは団体が有し,特許商標庁に登録された商標を使用した外国製品(製品のラベル,表示,カタログ,包装,包袋若しくは容器に当該商標を使用する場合を含む。)を合衆国に輸入することは……輸入の時点で商標保有者の書面による同意がない限り,違法とする」』
日本の関税定率法は、『「水際措置」を専ら税関長に委ねる』が、本規定は『合衆国関税法税関(U.S. Custom)が権限を発動する要件を定めるだけでなく,差止や損害賠償を求める訴権を商標権者に与えて』おり、『その執行(enforcement)は,権限の発動を税関当局に求める訴えの形式によることもあれば,輸入者を被告として輸入の差止を求める訴えの形式によることもある』という。『上記規定に反して輸入された商品に関して,商品そのものの廃棄を含む賠償請求の対象となる』という。なお、『ランハム法と関税法526条により与えられる請求権は相互に独立して行使され,一方による訴えの成否が直接的に他方の消長をもたらすことはない』という。
関税法526条について、『税関当局に申立を行うこと』についての記載があるが省略する。同条、及び、上記連邦商標法による訴えについて、『商標権者が輸入者等を相手取って訴えを提起する場合は,各地域ごとの合衆国地方裁判所が管轄を有』し、『最高裁の判決は少ないので,地域的巡回区ごとに分かれて判例が形成される』。『ニューヨーク州を管轄する第2巡回区控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the Second Circuit)所管下の裁判所が,最も多くの判決例を提供』する等、判例形成に関し本項に記載がある。関税法337条に関する記載もここでは省略。(21頁参照)
ふう、やっと5頁目まで読めた。次回は、『関税法526条とランハム法のそれぞれにつき,並行輸入の許容性を左右する要件を検討する』というところから読み進める。
by BLM
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