3月30日に、国境を超えた人や物そして情報の移動について考えた。今日はこの続き。
とても、身近な例で、かつ、ちょっと唐突だとは思うが、「半蔵門線と田園都市線は繋がっている方がいいか?」と考えてみる。
どうも田園都市線の遅延が半蔵門線の遅延に影響しているように思う(逆ももちろんあるだろうが)。BLMの経験で、表参道から渋谷を経由して田園都市線のとある駅までいくのに、一度、お客さんとの打合せで1時間早めに出たのに、遅延でギリギリに到着したことがある。
昔は、繋がってなかったよね? 東急電鉄HPによれば、田園都市線は『2003年3月19日からは帝都高速度交通営団(現:東京メトロ)半蔵門線・東武伊勢崎線・日光線と相互直通運転を開始、全長約100kmとなる首都圏ネットワークが誕生しました』とされる。あぁそうか、結構前に、田園都市線と半蔵門線は繋がってたのか
歳を取る訳だ。
東急沿線でも、高い田舎度を誇る池上線の沿線で育った私は、この一定程度閉鎖された路線の生活環境が好きだ。つまり、池上線は、五反田から蒲田を行ったり来たりする三両編成の電車で、こちらの沿線に用がない人は乗車しない、と思う。洗足池の桜が有名なので、その時期は混むが、たかが知れている。人々の暮らしも、どこか長閑で平和な感じがする。
以上は、あまり説得力のない例だが、小さな単位で地域ごとに区切って、生活圏や仕事圏等が形作られる方がいいか? それとも、大きな生活圏や仕事圏等が形成された方が、いいか? と自問自答。ケースバイケースで問われる問題だ。
《商標権の効力は各国限りで、商標権の取得手続や効力内容も各国法による》
今日、国境を超えた人や物そして情報が、一部の地域を除いて原則として、自由に移動する。知的財産法分野で考えると、例えば、原材料の調達先、加工する場所、販売する場所、商品やサービス等を企画する場所、販売地域、広告地域等が、世界各国に分散されている状況では、一国で商標権(もちろん特許権でも同じことが言える)を取得すれば、それで事足りる制度であっても良いとも考え得る。
それでも、以下のように、3月30日に考えたように、国境が大きな役割を果たす。
前提として、ある事業者が、ある商標をある商品に使用しようとする場合で、その事業者が、商標権を取得しない場合、第三者は、原則として、それと同じような商標を、同じような商品に使用し、自由にこれを販売できる。(不正競争防止法による保護はここでは考えない。)
反対に、商標権を取得すれば、そのある事業者は、ある商標をある商品に使用し・かかる商品を販売する自由なルートを確保することができる一方、第三者の商品の販売の自由は、その限りで制限される。
但し、例えば、日・米国で取得された各商標権は、たとえ同じ権利者、同じ商標、同じ指定商品に関するものであっても、独立したものとされる「商標権独立の原則」(パリ条約6条(3))と、「属地主義の原則」、すなわち『各国の商標権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、商標権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる』(髙部眞規子「実務詳説 商標関係訴訟」金融財政事情研究会143頁)という原則により、3月30日の例(図:2020年3月29日 BLM作成を参照。)で言えば、商標KOIPを付した商品を第三者が日本で販売しても、米国の商標権の効力は、日本には及ばないので、日本の法律に従い、Aさんは、日本の商標権を取得する必要がある。
《商標権の「消尽」と、真正商品の「並行輸入」とは何か?》
今日は、ここから新しい話。知的財産法分野では、商標権の「消尽」という問題がある。「消尽」とは、『商標権の対象たる商品の販売が正当に行われた後は、商標権が目的を果たしたものとなり、もはや同一物につき再び商標権を主張することはできないことをいう』(髙部眞規子「実務詳説 商標関係訴訟」金融財政事情研究会92頁)等と説明される。
つまり、下記の例で言えば、米国で、Aさんが市場に流通させたKOIPの商標を付した商品を、Bさんが正当な店舗で正当対価を払い購入した場合、これをさらに転売しても、原則として、Aさんはその転売に対してストップをかけられない。但しこれにはかなりの例外がある。中でも真正商品の並行輸入は、最高裁でその判断基準が示されている。これを基に、どこまで認められ、どこまで認められないのか、個別具体的に判断する必要がある。
では、真正商品の「並行輸入」とは何か? 髙部先生によれば、並行輸入とは『外国で製造された商品を輸入するに際し、我が国における総代理店等によって国内に輸入するという流通経路を通らずに、外国で販売された商品を現地で購入した上、総代理店を通さずに総代理店以外の者が別ルートで輸入することをいう」とされる(「実務詳説 商標関係訴訟」90-91頁)。
つまり、下記の例で言えば、米国で、Aさんが市場に流通させたKOIPの商標を付した商品を、Bさんが正当な店舗で正当対価を払い購入した場合で、日本に在住のCさんが、これをBさんから輸入することをいう。
この場合、米国の商標権の効力は、日本のCさんの行為に及ばない。上述の属地主義の原則等から説明できる。日本の商標権の効力の問題となる。そして、以下の最高裁判決で「真正商品」に該当すれば違法性は阻却され、商標権侵害とはならないと判断され、かつ、どのような場合に「真正商品」に該当するかが示された。
図:2020年3月30日 BLM作成
《最高裁第一小法廷平成15年2月27日・平成14年(受)第1100号民集57巻2号125頁》
いわゆるフレッドペリー事件では、真正商品の並行輸入を許容するに当たり、以下のような判断基準が示された。以下は、最高裁HPの裁判要旨から引用したものである。(改行はBLM)
『1 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,
(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,
(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,
(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には,
いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く。
2 外国における商標権者から商標の使用許諾を受けた者により我が国における登録商標と同一の商標を付された商品を輸入することは,被許諾者が,製造等を許諾する国を制限し商標権者の同意のない下請製造を制限する旨の使用許諾契約に定められた条項に違反して,商標権者の同意なく,許諾されていない国にある工場に下請製造させ商標を付したなど判示の事情の下においては,いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害としての違法性を欠く場合に当たらない。』
同判決が出される前の一部判決の立場について、髙部先生によれば『品質の差異があっても並行輸入を許容するもので、品質の異なる商品について原則として並行輸入を認めない欧米の先進国の立場と異なり、商標権の保護よりも取引の自由を、品質保証機能よりも出所表示機能を、重視しているという印象を受ける』と述べている。(「実務詳説 商標関係訴訟」153頁)
かかる判断を、封じ込めるような判断が、上記最高裁の判断だったということか?
つまり、商標権に関する並行輸入の論点では、国境を超えた人や物そして情報の自由な移動を無制限には認めない、という流れになった、ということと解する。
今日はここまで。
By BLM
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