不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その94

 本日も、製造業者・販売業者の関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25446209)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地裁平26・1・20〔FUKI事件〕平25(ワ)3832

原告 株式会社フキ
被告 株式会社後藤製作所(代表者A)

 

■事案の概要等  

 本件は,原告が,別紙原告標章目録記載の標章1ないし3(「本件標章1」などという。)は原告の販売する鍵,錠前,キーホルダー,鍵加工機械装置等…錠前修理保守サービスを表示する商品等表示として周知であるから,
被告が,本件標章と同一又は類似の標章である別紙被告標章目録記載の標章1ないし7(以下,それぞれ「被告標章1」)を鍵,錠前,キーホルダー,鍵加工機械装置等に付すなどする行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するため、それらの使用の差止めを求める事案です。

 

◆前提事実

(1)当事者等

ア)原告は,合鍵製作用のキーブランクを含む鍵,合鍵複製機…の販売取付け及び施工並びに合鍵複製を業とする。
イ)被告は,合鍵製作用のキーブランクを含む鍵,合鍵複製機の製造,販売及び輸出等を業とする。
ウ)原告代表者Aと、被告の前代表者B(以下「被告創業者」)は兄弟。被告の現代表者C(以下「被告代表者」)は被告創業者の子。
===<ブログ筆者注>=================
          原告代表者A ↓
            ↕(兄弟) ↑(紛争)
被告創業者(被告の前代表者B)→創業者の子(被告代表者C)
============================
(2)本件標章と被告標章

・本件標章1:鍵頭を右…にして横向きに置いた黒色の鍵母材の図形の中に,白抜きの欧大文字で「FUKI」と横書きしてなる標章。
・本件標章2:片仮名で「フキ」と横書きしてなる標章。 
・本件標章3:ゴシック体の欧大文字で「FUKI」と横書きしてなる標章。

   ↓

・被告標章1:本件標章1と同一の標章(以下,本件標章1と被告標章1を併せて「本件標章1」)。
・被告標章2、被告標章3ないし5:省略。
・被告標章6:本件標章2と同一の標章(以下,本件標章2と被告標章6を併せて「本件標章2」)。
・被告標章7:本件標章3と同一の標章(以下,本件標章3と被告標章7を併せて「本件標章3」)。

 

(3)本件標章についての商標登録
①被告創業者:昭和38年9月11日本件標章3の出願を行い、登録(登録番号0660152号)。(以下「本件商標権3」)。

筆者J-PlatPatより抜粋

  商標権目録3登録第0660152号 (本件標章3)(本件商標権3)

  登録日:昭和39(1964)年 12月 1日

登録商標:


②被告創業者:昭和46年6月25日,本件標章1,2等について、本件商標権3の連合商標として出願を行い昭和50年から51年に登録。


ア)本件標章1に係る商標権(以下,a及びbを併せて「本件商標権1」という。)
 a)登録1183493号本件標章1
 登録日 :  昭和51(1976)年 2月 5日
 登録商標:

 

 b)登録1191200号本件標章1
 登録日 :  昭和51(1976)年 3月 25日
 登録商標:

 

イ)登録第1105386号(本件商標権2)(本件標章2
登録日:昭和50(1975)年 2月 3日
登録商標:
 

ウ)登録第1183492号(商標権2) 
登録日:昭和51(1976)年 2月 5日
登録商標: 

 

 

③被告代表者(創業者の子)は,被告創業者から本件商標権の承継を受けその登録済み


◆争点
(1)本件標章は被告にとって「他人の商品等表示」に当たるか。
(2)本件標章の周知性
(3)被告による原告元販売店に対する本件標章1及び2の使用許諾の有無
(4)混同のおそれの有無
(5)被告による本件標章の使用は,商標権者による登録商標の使用として適法なものか。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

 

ブログ筆者:FUKI事件については「こちら」「こちら」などで見ているので、今回は重要と思われる部分だけ以下見ていきます。

 

争点(1)(本件標章は被告にとって「他人の商品等表示」に当たるか。)
(1)判断基準

(1)ゆーみん事件では、不正競争防止法2条1項1号の趣旨を述べた上、同号に規定する「他人」とは、とし、

自らの判断と責任において主体的に,当該表示の付された商品を市場に置き,あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて需要者の間において当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと解するのが相当である」との判断基準を示しました。

 本件で裁判所は、上記事件と同様の趣旨を述べたあと、上記事件のような1号の「他人」の文言解釈ではなく、”同号における商品等表示の帰属主体とは”とし、結果として、1号の「他人」の文言解釈にとどまらず、

新たに「帰属主体」の定義を定立しているように思われます。

すなわち、下記(a’)商品等の出所、品質等について信用を蓄積し(a’)部分は、上記ゆーみん事件にはありません。

   ↓

同号の「商品等表示の帰属主体とは、

自らの判断と責任において主体的に、当該表示を付された商品を市場に置き、あるいは営業活動を行うなどの活動を通じて(a)

当該表示につき、商品等の出所、品質等について信用を蓄積し(a’)

当該商品の取引者・需要者の間において、当該表示に化体された信用の主体として認識されるに至った者をいう(b)

と解するのが相当である。

   ↓

そして、上記意味での「商品等表示の帰属主体」について以下のように説明を加えています。

「ある者が、同号における商品等表示の帰属主体に当たるか否か(当該商品等表示が誰に帰属するものであるか)(c)は、

   ↓

当該商品の性質、流通形態、当該商品等表示の内容や態様、当該商品の宣伝広告の規模や内容等を考慮した上で、

当該商品等の出所、品質等について信用を蓄積してきた主体は誰であるかという観点(e)と、

当該商品の取引者・需要者において、当該表示が何人のものとして認識されているかという観点(f)

を併せて検討するのが相当である」と示し、本件について以下のように判断していっています。

(以上、下線及び(a)乃至(f)は筆者)

 

(2)本件に関する判断

本件標章3についての検討
ア 裁判所は、事案の内容に鑑み,本件標章3から検討するとし、以下のように認定し判断しました。

 (筆者注:登録第0660152号 (本件標章3)(本件商標権3)「FUKI」)

 

 「本件標章3は,主としてキーブランクに刻印されて使用されてきた」点を認定しましたが、

「本件標章3が補助錠等に付されたことがあったものと認められるが,その数はごくわずかなものにとどまる」とし、「このような商品における本件標章3の使用が,本件標章3に係る信用の蓄積や取引者・需要者の認識に影響するものとは考え難い」と判示しています。そして

①「FUKI印キーブランクは,原告設立以前は,被告から,原告の前身であるゴトウ社のほか,加賀商会にも相当数が販売されていたものであり,ゴトウ社及び加賀商会が,それぞれの代理店や中間卸売業者に卸売りし又は小売店等に直接販売した上で,最終的には小売店等において合鍵に加工され,販売され」、

②「昭和46年6月の原告の設立後,本件紛争までの間においては,

②⁻1)FUKI印キーブランクは,被告から原告に納入され原告から,その販売代理店又は当該販売代理店の傘下にある小売店(合鍵複製業者)に卸売されて,合鍵に加工され,顧客に交付され」、「原告は,FUKI印キーブランクを市場に置くとともに,そのキーブック,チラシ,定期刊行物等に掲載し,これらを上記小売店等に頒布するなどし」、「FUKI印キーブランク…の販売を促進…活動を行」い、「FUKI印キーブランクを長期間にわたり単独で卸売販売し,営業活動を行うことにより,本件標章3について,販売者としての信用を蓄積」、…(ブログ筆者:原告側の営業努力(周知性への貢献)の話か?)

また

②⁻2)「キーブランクの,合鍵作製用の鍵母材という商品の性質や,卸売業者から中間卸売業者又は販売代理店に卸売され,又は小売店に直接販売された上で,最終的に合鍵に加工されて販売されるものという流通経路に加え

原告のカタログ,チラシ,定期刊行物等が,その内容から,いずれも小売店(合鍵複製業者)を対象とした」点に照らせば、

キーブランクの需要者としては,小売店(合鍵複製業者)を想定するのが適切であると解され」、

上記需要者は,原告の頒布するキーブックやチラシ等に掲載されるキーブランクの多くに本件標章3が刻印されていることや,原告以外からFUKI印キーブランクを入手できない状況が,30年以上の長きにわたり続いたことなどから,FUKI印キーブランクの販売者は原告であるとの認識を有するに至っている」と判断しました。…(ブログ筆者:需要者の認識の話か?)

 

イ 裁判所は、上記のような原告の使用状況の一方で、

「被告は、昭和38年頃までに,その妻の名にちなんで本件標章3を考案し,FUKI印キーブランクの製造販売を開始し」、「昭和46年頃までは,原告の前身であるゴトウ社のほか,加賀商会にも,FUKI印キーブランクを相当数販売して」おり、

「原告設立後には,FUKI印キーブランクの納入先を原告に一本化したものの,被告は,商品の製造業者として原告とは独立した地位にあ」り

被告は,製造業者として,FUKI印キーブランクを自らの判断と責任において主体的に市場に置いてきた者と評価するのが相当であ」り

FUKI印キーブランクの製造業者は被告のみであったものと認められるのであるから,被告は,その製造業者として,FUKI印キーブランクの品質等についての信用を蓄積してきた」と認定しました

加えて「被告は,国内最大手のキーブランク製造業者で」、「キーブックの他社品番対照表…からは,キーブランクに刻印される標章のうち,流通量の多いものは,本件標章3のほか,「G.S.S」(被告製造)やクローバー印,「MMJ」など限られ」「その製造業者も限られ」る点に照らせば、「キーブランクの需要者である合鍵製造業者」は,「被告がFUKI印キーブランクの製造業者であることを認識している可能性が高」く、

「仮に、上記需要者が被告の名称までを認識していないとしても,当該表示がある者の商品等表示に当たる」には、

「当該表示がある特定の者の商品等を他の者の商品等から識別するものとして知られていれば足り,それ以上に識別された商品の主体の名称までが需要者に知られている必要はな」く、「本件標章3がキーブランクの鍵頭に刻印され」、「上記刻印は,通常は製造時に付されるものであること,本件標章3が,かつては加賀商会が販売するキーブランクにも付されていたことに照らせば」、「キーブランクの需要者において,本件標章3を,キーブランクの製造業者を識別するものとして認識している」と判断しました。

 

ウ そうすると、本件標章3は「原告は販売業者として,被告は製造業者として,それぞれの信用を蓄積し」、昭和46年から30年以上にわたり,被告のみが製造し,原告のみが販売する状況が続いたこと」で、需要者において,原告及び被告の双方が,その信用を蓄積してきた主体(製造業者及び販売業者)として認識されるに至」り「本件標章3の商品等表示としての帰属主体は,原告及び被告であると解するのが相当である」。
 

(ア)裁判所は、被告は「その妻の名にちなんで本件標章3を考案し,キーブランクに刻印して,最初に市場に置いた者であり,その販売先も,平成46年頃まではゴトウ社に限られ」ず、「同年時点での被告のFUKI印キーブランクの販売量は,既に30ないし40万本にも及」び,「原告設立後は,上記納入先を原告に限定したにすぎ」ず、「原告の設立をもって,被告がFUKI印キーブランクを主体的に市場に置くものではなくなったとみるのは相当ではない」。加えて「原告は,原被告間で商品開発会議等が開かれたことがない旨の主張をしているところ,本件紛争の経緯において原被告間でやり取りされた書面の内容…からは,商品の開発等は,むしろ被告において行われていたことがうかがわれ」、「被告が,単に原告からの依頼に基づき商品を製造し,納入するものと評価」できないとし、「被告は,FUKI印キーブランクの製造業者として,FUKI印キーブランクを主体的に市場に置き,その信用を蓄積してきたものと評価すべきものであ」ると判断しました。

 

(イ)裁判所は、「キーブランクの商品としての性質,流通経路,FUKI印キーブランクの宣伝広告の内容等に照らし,FUKI印キーブランクの需要者としては,小売店(合鍵製造業者)を想定することが適切であ」り合鍵複製の依頼者(一般顧客)を需要者とみることができるとしても,上記依頼者は,本件標章3が,加工済みの合鍵に刻印されているものであることから,上記標章を,合鍵製作用の材料(キーブランク)の製造業者又は合鍵複製を行う主体のいずれか又は両方を示すものと認識するものと解され」、「本件標章3が,およそ製造業者の標章と認識され得ないものであるとの原告の主張は採用」きないとし、また「合鍵複製を行う主体である専門店は,その名称に必ずしも「フキ」を含むものではな」く、「称呼の同一を理由とする原告の主張も採用」できないなどと判断しました。


(ウ)裁判所は、原告は「原告と被告は一体事業を構成する関係になかったから,本件標章3が原告と被告の双方に帰属することはあり得ないとも主張する」が、「原告及び被告は,被告において,既に30ないし40万本という販売実績のあるFUKI印キーブランクの納入先を,原告の設立を契機に原告のみとし,その後30年以上の長きにわたり,被告は,FUKI印キーブランクを原告のみに納入し,原告も,キーブランクとしてはFUKI印のものをメインに取扱い,積極的に営業活動を行ってその販売を伸ばすという関係にあ」り、「需要者が,本件標章3を,被告が製造し原告が販売する商品を表示するものと認識するに至ったものと評価」でき、「原告と被告の役員関係に重複がないことや株の持ち合いがないことなどによって、需要者の上記認識が左右されるものではない」とし、原告の主張を採用しませんでした。


(3)裁判所は「本件標章3は,原告及び被告の双方に帰属する」と認定しましたが、「本件標章3が,原告及び被告の双方に帰属するものと認められるのは,原告と被告が,被告において,主として原告のみにFUKI印キーブランクを納入し,原告においてFUKI印キーブランクをメインに取扱い,積極的に営業活動を行うという協力関係を前提と」し、「原告と被告は,上記のような協力関係を既に解消しているものと認められるため、上記協力関係を解消済みである現時点において,本件標章3が原告のみに帰属するものであると評価できるかどうか」以下認定し判断しました

 

イ 裁判所は、「原告,原告代表者,被告及び被告創業者は,昭和48年12月25日に本件契約を締結し」、「本件契約が,被告創業者から原告及び原告代表者に本件商標権3の使用を許諾する旨のもので」、「原告及び原告代表者は,本件標章3を被告又は被告創業者の製造したキーブランク以外に付してはならず,又は被告又は被告創業者以外からキーブランクを購入してはならない旨の条項や,原告代表者が原告の代表取締役たる地位を失った場合に本件商標権3の使用権を失う旨の条項,さらには,被告創業者が,一定の場合に本件契約を解除することができる旨の条項を含むものである」ことを考慮すれば、原告と被告との間において,上記アでみた協力関係が解消された場合に,本件標章3が原告のみに帰属することになるものとみることはできない」としました。


ウ 裁判所は、「原告は,本件標章3の周知性の獲得は,専ら原告の行為に基づ」き、「その信用も原告に集中的に帰属する」から、「被告が原告の許諾なく本件標章3を使用することは,原告の上記信用に対するただ乗り」すると主張するが、原告代表者が原告を創業しその売り上げを順調に伸ばすことができたのは,被告創業者が,原告代表者に技術指導等を行い,設備を提供するなどして合鍵複製業を営むことができるよう環境を整えた上原告代表者の営む「新橋キーセンター」やゴトウ社等に,継続的にキーブランク等の商品を大量に供給してきたこと」、「被告が,野村商会に代償金支払と引き換えに中間卸売業者に対するキーブランクの卸売を中止させ,当該中間卸売業者に対するキーブランクの卸売をゴトウ社に行わせたこと」、昭和45,6年頃には,他社に対しても本件標章3を付したキーブランクを相当数納入していたにもかかわらず(…原告設立後は,上記キーブランクの納入先を原告のみとするに至ったこと(争いがない),被告創業者が,既に月当たり30ないし40万本の納入実績を有するに至っていたFUKI印キーブランクの刻印である本件標章3について,本件契約により,原告及び原告代表者に無償で使用許諾したこと…),被告が中間卸売業者として介在していたキーマシンについて,原告が製造業者と直接取引ができるよう取り計らったこと…などによるところも大きい」と解しました。加えて「被告は,FUKI印キーブランクの製造業者として、一定の品質を有するFUKI印キーブランクを継続的に原告に納入することにより,その信用の構築に寄与してきた」とみることができるから、「被告が本件標章3を使用することが,原告の構築した信用にただ乗りするものに当たると評価できるものではない」。…(ブログ筆者:原告側の営業努力(周知性への貢献)の話か?)


エ 「以上によれば,本件標章3が,現時点において原告のみに帰属する商品等表示であるとは認められない」。 
 

(4)小括
裁判所は、以上により「本件標章3は,被告にとって「他人の商品等表示」に当たらないから,本件標章3と同一の標章である被告標章7に関する原告の請求は,その余の点について検討するまでもなくいずれも理由がない」と判断しました。

 

(以下省略)

 

 

By BLM

 

 

 

 

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