で、旧不正競争防止法1条1項1号によって規定される、いわゆる周知な商品表示と認められた、北誉製菓㈱のステンレス製のバター飴缶(本件容器)について、同社が破産した後、本件容器の意匠を、破産管財人から譲り受けたX1とX2が、同容器と似ている容器を使用した第三者に対し、旧不正競争防止法1条1項1号に基づき差止等求めたバター飴容器事件(札幌高裁昭和56年1月21日決定)を紹介しました。
清水節先生によれば、『本決定は、周知性の判断にあたって、Xらの自らの商品表示が周知性を取得しているか否かだけを検討し、別件事件において周知性を有する商品表示と認定されていた「本件容器(の意匠)」を譲り受けたことを問題としなかったもので」、
「周知性の判断にあたって、「本件容器を使用してA(BLM注 北誉製菓(株))の商品を製造販売するという事実状態若しくはグツドウイルなるものを譲受けたか否か」も意味がないと判示しており、当該商品表示だけでなく製造販売という事実状態またはグッドウィルを譲り受けた場合であっても、周知性の承継を否定するものと解すれば、前記の否定説より一層厳格な承継否定説といえる」としています。(参考・引用:周知性の承継の可否 バター飴容器事件(札幌高裁昭和56年1月31日決定)」『別冊ジュリストNo.188 商標・意匠・不正競争判例百選』138-139(2007))
そして、同解説では、「自らの商品表示が周知性を取得していない者が、不正競争防止法上の保護を受けるために、第三者の有する周知性または周知表示を承継することができるか否かについては、学説が分かれている」としています。
今日は、この学説について、上記判例百選の清水先生の整理を手掛かり(かなり頼って)、整理していきます。『』内は同解説からの引用。同解説の『』の記載は「」に変えました。
前提として
『周知性の承継に関しては、周知の商品表示を有する企業が、会社の組織変更』『や合併などの形式的な法人格の変更を行った場合に、当該周知性が新企業に承継されることには異論がない(竹田稔「知的財産権侵害要論 不正競業編「改訂版)」[2003]66頁)。』としています。商標法実務を生業とするBLMとしても同感。かかる状況も承継否定!とされたら、社会実情からかけ離れてしまいます![]()
肯定説
『周知表示の譲受人が、その使用につき固有かつ正当な利益を有する者である場合には、周知性の承継を認め、差止請求権の行使を許す見解(渋谷達紀「知的財産法講義III」[2005]49頁,小野昌延著「新・注解不正競争防止法〔新版〕(下)843頁〔南川博茂〕も同旨か)(第2版・2008年・有斐閣)57頁)である」としています。BLMの5月21日の記事で、VAN 事件(東京高裁平成10年(行ケ)第202号平成11年4月13日判決)に対する渋谷達紀先生の見解を紹介したので詳細は省略しますが、清水先生によれば、『その理由としては、周知表示が譲渡された事例において、これを冒用する第三者に対する差止請求権者を譲渡人に限ると、譲渡人には混同招来行為を防止する動機がないから、違法行為が放任されてしまうことが指摘される』と説明されます。
BLM私見では、結局、ケースバイケースで判断する必要があると思うのですが、例えばコロナ禍での破産等ように不本意に事業を続けられなくなった場合、突然、そのブランドが消滅するという事態は、ブランドのファン(需要者等)の不利益となる場合もあり、規模が小さく、緊急事態で適切な手続が十分に取れない場合でも(破産のような場合多くがそういうケースかもしれません。)、譲受人が、そのブランドを大切に維持して、事業を継続しようとする場合、この説は有効なようにも思います。
ブランドは誰のものなんでしょうか? 需要者は置き去りにされてもいいのでしょうか? 事業者が倒産したことにより、今まで価値のあったものが、模倣品の出現・放置により、価値がなくなってしまう、高価なブランドほど、修理などのメンテナンスも期待されている場合はどうか? 模倣品が出回り、ブランドを維持するインセンティブがなくなった場合、誰が混同招来行為を防止するのか?と思うと理由づけにおいても渋谷先生の説は妥当なようにも思います。
ただ、『周知表示の譲受人が、その使用につき固有かつ正当な利益を有する者』(渋谷)との要件は妥当なように思うものの、よくよく考えていくと、BLMとしては、この「固有かつ正当な利益」というのは、必ずしも承継時点で存在する(又は認めれる)訳ではなく、承継後の譲受人の使用状態を加味して決するべきとも思います。
否定説
(1)『原則として、周知の商品表示の譲受けによる周知性の承継は認めないが、営業譲渡を伴う場合や個人企業が法人成りした場合などに、例外的に承継を認める見解(中山信弘「不正競争法上の保護を受ける地位の譲渡可能性」小野昌延先生還暦記念「判例不正競業法」[1992]41頁,田村善之「不正競争法概説〔第2版〕195頁,小野編著・前掲(上)262頁〔三山〕,小松一雄編「不正競業訴訟の実務」[2005]208頁〔守山修生=山田知司〕)』
『実質的にみて周知主体の同一性が変更されない場合にのみ周知性の承継を認める見解(竹田・前掲66頁)』
『周知表示に関係した一切の営業が、グッドウィル等一体になって移転した場合に、周知性の承継を認める見解(豊崎三枝衛ごか「不正競争防止法」[1992]103頁〔松尾和子〕,小林十四雄「周知性の承継」小野昌延などがあり、多数説といえる(なお、グッドウィルとは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用などの営業権、のれんなどと解されている)。』
と清水先生は、整理しておられます。
BLM私見では、否定説にも色々な考慮によって否定をするのだなぁと思います。一筋縄では行かないような・・。むしろ肯定・否定と分けずに、個々の事例に即して考える方がいいのかもしれませんが、清水先生が上記をまとめるに、『その理由としては、当該周知表示に化体していたのは、譲渡人の事業の信用であるから、周知表示のみを譲り受けた者の従前からの事業を保護の対象とする必要がないこと、周知表示のみの譲渡を認めると、不正競争防止法には譲渡に伴う対抗要件等の規定がないから、二重譲渡された場合に混乱を生じるととともに、商標権や商号のように登録や登記により譲渡手続が規制されていることとバランスがとれないことなどが指摘される』としています。BLMの色々理由の要素があるなぁとの疑問に答えてくれるように、清水先生は、『上記否定説における、営業譲渡とは、会社法上の事業譲渡(会社467条以下)に限定されず、企業の営業部門の事実上の移転なども含むとされるから、商品表示とグッドウィル等が一体になって移転した場合と大差がなく、各見解には、実質的な差異はないと解される。』等と説明しておられます。(太字BLM)
否定説の立場からの判断と解される裁判例
「周知性の承継」に関する論点が問題となる事例として、清水先生は以下の裁判例を挙げ、『周知とされる商品表示のみの譲渡が行われた場合に、周知性の承継を認めた事例は見当たらない。』と説明されておられます。
以下は、認めもの、認めないもの混在しています。BLMが今後調べるための個人的理由からちょっと挙げておこうと思います。
・山形屋事件(東京地判昭和40・2・判時409号39頁)
・花ころも事件(東京高判昭和48・10・9無体裁集5巻2号381頁)
・公益社事件(大阪知判昭和53・6・20無体裁集10巻1号237頁)
・少林寺拳法事件(大阪地判昭和55・3・18判時969号95頁)
・アフト事件(東京地判平成15・6・27判時1839号143頁)
・アメ横事件(名古屋地判平成2・3・16判時1361号123頁)
・宇宙戦艦ヤマト事件(東京地判平成18・12・27平成17(ワ)16722号)
より一層厳格な承継否定説
清水先生は、冒頭ふれたバター飴容器事件(札幌高裁昭和56年1月31日決定)が、『周知性の判断にあたって、「本件容器を使用してAの商品を製造販売するという事実状態若しくはグッドウィルなるものを譲受けたか否か」も意味がないと判示して』いる点に着目し、厳格な否定説と位置付けされ得るとしていますが、さらに付記して、『本決定には、グッドウィルの基礎にある営業の譲渡がなされていないことを認定したうえで、グッドウィルの譲渡に意味がないと述べているのであり、営業と分離したグッドウィルの譲渡を否定しているだけであるから、営業譲渡が行われた場合に周知性の承継を認めた前記各裁判例と矛盾するものではないとする見解もある(中山・前掲54頁)』としています。
BLMとしては、中山先生の論文を読みたいところですが、手元になく![]()
本屋や図書館に行くのは不要不急か?と言われると辛いところなので、緊急事態宣言解除されたら、調べます![]()
「周知性の承継の可否」に関するBLMの見解まとめ
①「ブランドは誰のものか?」「需要者の利益保護」という観点から、譲渡人には混同招来行為を防止する動機がない等の見地から周知性の承継を認める渋谷先生の見解は傾聴に値すると思います。
②中山先生方の営業譲渡を伴う場合のみ認めるというのもその通りと思うのですが、当事者間の契約書で足りるのか、実際にブランドを保護している(VAN事件のように)という事実状態、需要者が実質的な譲渡人と認めている、という客観的な状態が必要か考える必要があると思います。
③バター飴容器事件の牛乳容器は、ステンレス製という点が特徴以外は、一般的な形状で、バター飴自体も、他の事業者が複数作っている状況なので、商品表示の独自性(創作性)という点も加味されるのではないか、という商品表示自体の問題も関係しそうな気がします。独自性がある商品表示であれば(例えば商標登録は得ていないが、出願すれば登録されるような対象や、意匠権や特許権等他の権利がある場合)、営業譲渡を伴わない場合でも、周知性を認められる余地があるのではないか?とも思います。
④竹田稔先生は、「知的財産権侵害要論 不正競業編」74頁(発明協会,2009)で、『周知性の承継は、実質的にみて周知主体の同一性が変更されない場合のみ認めるべきではなかどうか』と述べておられ、その通りだと思うものの、少なくとも我国標識法では「匿名出所」というものを認めていることからすると、「同一性が変更されない」とはどういう場合かをどう判断していいのか、BLMには解りません。
⑤松村信夫先生は、「新・不正競業訴訟の法理と実務」221頁(民事法研究会,平成26年)で、周知性の承継の論点について、『当該表示によって商品または営業を識別する機能を有すればよいのか、それともさらに進んで当該商品または営業(役務とこれを提供する特定の主体との結びつきを識別する機能を有する必要があるのかという問題に関連する』とされておられる。BLMとしては一番興味があるところで、結局、裁判所の判断や多数説は、主体まで問題とする後者の立場に立っているように思います。
松村先生は同頁で『本号による周知商品等表示の保護の目的は、究極において、企業の信用の保護にあるから、企業の主体が実質的に変更しない場合』(省略)『についてはその表示を承継することによって周知性も承継できると解する説がある(田倉=元木・実務相談〔小林〕111頁)。』とした上、『しかし、本号は、企業の信用が化体した商品や営業(役務)の識別標識としての周知商品等表示を保護するものであり、その意味では当該表示は「何人かの営業にかかる」商品または役務の同一性を識別できるものであればよく、その提供主体との結びつきまでを識別させる機能を有する必要はない(同旨=小野・新注釈(第3版)〔芹田・三山〕284頁。この立場に立てば』『相続や企業合併による組織変更に限らず営業譲渡等の原因による場合にも提供される商品または役務に関する営業形態に実質上変更がなく、事実上の営業活動に継続性があればその表示の周知性の承継を認めてよいと考えられる。』と述べておられる。
BLMもこれに同感であるが、結局、『事実上の営業活動に継続性があれば』をどのように認定するのか、という問題が残る。結局、社会における認識の問題になり、信用する需要者・取引者がどの程度いるかという問題になるのかなぁと思う。
この論点を解くには、別の論点等踏まえ、視点を変えて考察する必要がありそう![]()
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。今日はここまでにしようと思う。![]()
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by BLM
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