『技術開発結果は権利化しておくべきだと思う。特に、中小、ベンチャー、スタートアップは。』でたまたまアパレル系の事件を取り上げました。そこでは『RFタグが付いた商品を所定の場所に置くだけで、RFタグに記録された情報を読み取ることができます。これなら特に操作説明を受けなくても容易に会計ができそうです。つまり、セルフレジに活用できる技術についての特許ですね。』と述べました。

 上記記事ではファーストリテイリングが出てきましたが、ファーストリテイリングはユニクロを展開していることから衣料系の特許が多いと思いますが、実際どうなのでしょうキョロキョロ?ちょっと見てみましょう。

◆ファーストリテイリングの特許出願
 以下のパテントマップの出願年ごとの特許出願件数を見てみると、ファーストリテイリングの特許出願は2001~2009年ごろまでちょこちょことあり、2014年以降に出願が復活しています。ここ数年は継続的に特許出願しているようです。なお、東芝テック、慶應義塾、倉敷紡績は共同出願人です。


(2020年5月17日、KOIP作成。)

 では、特許出願の中身はどうなっているでしょうか?

 以下の横軸にFターム、縦軸に出願年をとったマップを作ってみました。「Fターム」とは、特許庁が先行技術調査の機械検索用に開発した検索インデックスのことで、所定技術分野毎に様々な技術観点から決定されています。


(2020年5月17日、KOIP作成。)

 上記マップを見てみると、2016年より前は衣類Tシャツや繊維等の特許出願ばかりだったものの、2016年以降には赤で囲った「端末システム」パソコン等のシステム系の出願が出てきていることが分かります。詳しく見てみるとRFタグを使ったPOS装置に関する特許出願などがありました(例えば、特願2016-124699号等。東芝テックとの共願)。

 この様に衣料系だけではなく販売システムに関するところまで(他社技術を活用していたとしても)開発をしていることが分かります。セルフレジが日本に導入されたのはかなり前のようですが(納入先は分かりませんが、2003年に日本NCRが日本初のセルフレジの納入を開始したようです→記事はこちら、普及が進み始めたのは、おそらく電子マネーの普及とも関連しているため、ここ4~5年のことではないでしょうか。例えば、ファミリーマートは2015年からセルフレジの導入を開始し、2018年以降、さらに増やすとのニュースもありました(→記事はこちら)。

 こうした流れを見てみると、ファーストリテイリングもセルフレジへの流れ(省人化の流れ)へ遅れてはならないと考えたとしてもおかしくはありません。 

◆自分たちが顧客に提供する価値がどこから出てくるのか?考えてみる
 これまでの事業とは全く異なる(ように見える)ことにまで技術開発しているように見えるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?例えば、リアル店舗の顧客の動線、そして顧客が体験することはどういったものであるかを考えてみると、これまでの事業と全く異なる、ということは全くないことが分かります。

 例えば、小売店であれば、顧客がリアル店舗に入店し、商品を見る・探す行動をし、実際に商品を手に取り、(衣服なら)試着し、(気に入ったら)レジに持って行って支払い手続をして帰っていく、という一連の流れがありますこの流れの中で顧客にどのような体験をしてもらいたいのか、あるいはしてもらいたくないのかを考えると、実は、まだまだ改善・改良の余地が随所にあることに気が付くことがあります。

 支払い手続のシーンを想像してみましょう。

 顧客の立場に立ってみると、①支払い手続であまり待ちたくないとか、②自分が購入しようとする衣服(下着等含む)を従業員に見られたくないとか、③後ろに人が待っていると落ち着かないとか、いろいろと想定できます。こういったことを解消し、顧客にストレスを感じさせないという価値を提供するためにはどうしたらよいか?をデザインすることが、新たな技術開発・サービス開発へとつながります。セルフレジを導入すると、①と②を解決できそうです。


 その上で、開発結果について自社実施できる道を確保したり、他社の模倣を防止したいというのであれば、開発結果の知財権化を検討することが必要になります。

 このように、顧客がどのような流れでどのようなことを体験するのかに目を移すと、ファーストリテイリングのように衣服だけでなく販売システムに関係するところも技術開発していることも理解できると思います。つまり、自社の技術について自ら枠を設定するのではなく、その枠を超えたところに顧客が望む価値の源泉があり得るといえます。

◆顧客の「体験」を考えると開発ネタはたくさんある
 上記のように顧客の体験に視点を移せば、価値提供の仕方が世の中の流れとともに変わっていくことが想定されます。今回の新型コロナの影響でセルフレジの導入がより進むかもしれませんし、顧客や従業員が密にならない店舗デザイン開発が活発になるかもしれません。また、リアル店舗から仮想店舗への移行が望まれるかもしれず、その場合、リアル店舗では容易である商品の実物を顧客が仮想店舗でどうやって確かめるか?(衣服であれば、五感で把握できるようなものをどう確かめるか等)等、解決する課題が様々出てくるでしょう。

 リアル店舗で言えば、今後、「三密」を回避するための店舗デザイン開発は避けられないと思います。そうすると、改正意匠法で導入された建築物の意匠の出願も増えるかもしれません。

 要するに、現在行っている事業が何であれ、顧客がどのようなことを体験するのかを考えると、自社事業の垣根を越えた技術開発や商品開発、あるいはサービス開発をする必要性がますます大きくなるのではないかと思います。顧客に提供する体験の価値の多様化が進むと、その「価値」をいかにして自社が自在に提供できる状態を確保するかがポイントになるのだろうと思います。

 

 その確保において価値提供を自社でコントロールしたいのであれば、やはり、知的財産権が大きな役割を果たすことになります。

 

by KOIP

 

 

 

 

 

  (^u^)コーヒー ====================================

知的財産-技術、デザイン、ブランド-の“複合戦略”なら、

ビーエルエム弁理士事務所の弁理士BLM

今知的財産事務所の弁理士KOIP

========================================コーヒー (^u^)