特許庁のHPには「口頭審理・証拠調べ・巡回審判期日」というページがあり、無効審判の口頭審理が行われる審判期日が公開されています。KOIPは時々、どんな事件があるのか?を見るため、このページを参照することがあります。

 たまたま令和2年5月分を見ていたところ、無効2019-800078という特許無効審判事件があり、その請求人がファーストリテイリングでした。被請求人はアスタリスクという企業です。

 少し気になったので、対象特許(特許6469758)を見てみました。


 (特許6469758の特許公報の図1を引用)

 上記特許の請求項1を見てみます。

『【請求項1】
  物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
  前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
  前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
  前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。』

 これは、かなりシンプル!な構成です。

 従来は電波干渉を避けるためにシールドで密閉された空間にRFタグ付き商品を入れなければならなかったところ、この特許ではシールド部を工夫して密閉することを要さず、かつ、RFタグからどのように情報を読み取るかを規定することで電波干渉の影響を低減しているようです。

 おそらく、こういった読取装置のプロが見れば、こんな簡単なものが特許になるなんて、と思うかもしれません。しかし、後から見て簡単なものでも、実際にその簡単なものまでたどり着くことは容易ではない場合もあります。そして、シンプルなものほど潰しにくかったりします。

 それはともかく、この読取装置を使えば、RFタグが付いた商品を所定の場所に置くだけで、RFタグに記録された情報を読み取ることができます。これなら特に操作説明を受けなくても容易に会計ができそうです。

 つまり、セルフレジに活用できる技術についての特許ですね。 

◆無効審判→異議申立→差止等請求訴訟→無効審判!
 さて、上記特許に関する係争経過の概要は以下の通りです。

 2019年5月22日:特許無効審判請求(請求人:ファーストリテイリング)
 2019年8月6日:特許異議申立(申立人:自然人、及び他企業)
   ※この特許異議申立は、上記無効審判を先に審理することになったため、手続は中止されています(再開時期は未定)。
 2019年9月24日:東京地方裁判所に特許権侵害行為差止仮処分命令申立(原告:アスタリスク)

   ※アスタリスク社のプレスリリースはこちら
 2019年10月8日:特許無効審判請求(請求人:ファーストリテイリング)

 どうやら、この特許の特許権者であるアスタリスクは、もともとファーストリテイリングの下請け的な立場だったようです。そして、ダイヤモンド社の記事(→記事はこちら。『』は引用)によると、アスタリスクが特許についてファーストリテイリングと交渉していたそうですが、ファーストリテイリングから『ゼロ円でライセンスを要求された』とか『この特許は金を払うに値しない』と言われたとか穏やかではない文言がガーン。。。 

 KOIPは当事者ではなく、両社の内情も全く知りませんのでこれ以上は特に何もありませんが、少なくともファーストリテイリングが必死になってこの特許をつぶしにきている(ように見える)ところを見ると、仮に特許権侵害ではなかったとしても、少なくともファーストリテイリングの事業にとって厄介な特許が成立したのだろうと思われます。

 今後、無効審判や訴訟がどう進むのか?興味深いですねキョロキョロ
 
◆交渉も係争も権利があってこそ
 上記アスタリスク社の例では、同社が特許出願していたからこそ大企業との交渉に臨むことができ、また、特許権を取得していたことで、致し方なくだとは思いますが、係争という手段をとることができたと言えます。

 納入先が大企業であり、自社が下請け的立場の企業だと、どうしても「いまの製品の納入を拒否されたら?」等々を考え、いくら自分たちが開発した技術であっても、また、自分たちが特許権を取得したとしても相手方に対し、強く出ることができない場合があります。

 しかし、公正取引委員会や経産省が、大企業が自身の有利な立場を利用して、スタートアップや中小企業の知財をないがしろにするようなことを抑制する取り組みを始めていることから分かるように、今後は、下請けの立場であったとしても一方的に大企業にやられる時代ではなくなっていくのだろうと思います(→関連記事はこちらこちら)。

 とはいえ、最も重要なのは、「顧客の創造」により、大企業から攻撃を受けても生きていく戦略を構築しておくことだろうと考えています。

 そのためには顧客が誰かを考えて下請け以外でも生き残れるビジネスモデルを模索・構築し、その顧客に向けて自分たち独自の製品・サービスを開発し、その開発内容について特許権や商標権等の知財権を取得すること。そして、外部に出さないノウハウ等の適切な取り扱いを実行し、自社が機動的に立ち回ることのできる販路等の確保や人材の育成等をコツコツと積み上げていくこと。これらが必要になるのだろうと思います。

 ここで、特許権、意匠権、商標権等の知財権は、実際に大企業に法的に対抗できる現実的なツールであり、また、係争しなくても権利があれば、権利がない場合に比べて交渉でも優位に立ち回ることも可能なツールです。

 もちろん、大企業が中小企業を「軽く」見てないがしろにし、結局、係争になることも無きにしも非ずです。が、上記のように公正取引委員会や経産省も対策に乗り出し始めているようですので、どうやら大企業が一方的に有利である時代が変わるタイミングが来ている(来つつある)ようですキョロキョロ

 力に限りのある中小企業等にとって、やはり、知財権というのは、他社(特に大企業)との交渉や係争にとってなくてはならない大事なツールであると共に、ツールであるがゆえに使い方・使いどころを常に考えておかなければならないものであると思います。

by KOIP
 

 

 

 

 

 

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