この土日、BLMは、部屋の掃除、特に書類の整理をしていました。
そしたら、KOIPさんの3/17の記事で紹介した『株式会社エンジニアの「ネジザウルスGT」という、頭がつぶれてしまったねじや、錆びたネジでもつかんで回せるプライヤという工具』の話が掲載された「PATENT Attorney Vol.75」が出てきて、ふむふむと読んでしまいました。
書類の整理・掃除って、ついつい読んでしまい、進みませんね・・・ ![]()
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≪○○ザウルスのネーミングについて≫
それにしても、このネーミング、「ネジザウルス」って面白い、と思います。 覚えやすいし、解りやすいのに、独創的!とも思わせます。 ただ「○○ザウルス」というネーミングは、皆が色々考えているようです。文字列だけを観ると、独創的!とまでは言えないかもしれません。以下のように、種々の商品・サービスに、異なる権利者たちが、複数登録させています。
「ポケットザウルス」(登録第2000462号)、
「ウルトラザウルス」(登録第2078204号)、
「グリーンザウルス」(登録第3043246号)、
「ミストザウルス」(登録第5271487号)、
「スマホザウルス(登録第5586846号)、
「おそうじザウルス」(登録第5690852号)、
「軽井沢ビール クラフトザウルス」(登録第6008572号)、
「ゴジラザウルス」(登録第5728120号)(←これは権利者が東宝株式会社さん)
・・・まだまだありますが省略します。(区分・権利者も省略。)
私見では、「ネジザウルス」というネーミングが、上記の「○○ザウルス」の文字列と次元を異にし「独創的!」と思わせるには、その後の事業者に対する期待や信頼等(具体的な商品情報や使用経験による満足等含む)のイメージが付着するか否かにかかっているように思います。この点が、商標法が、著作権法と法目的や保護対象等を異にする所以です。
つまり著作権の場合、「ネジザウルス」のような短い文字列等は著作権は発生し難いです。
一方、商標権では短い文字列でも保護対象となりますが、その文字列が商品又は/及び役務に使用され、出所(匿名出所)を表示する限りにおいて保護されます。登録後、商標の使用がなければ保護価値がないとして、不使用取消審判の対象となる等、保護が否定される場合もあります。
≪別件「GUZZILLA」の商標登録に係る維持審決取消訴訟≫
「○○ザウルス」のネーミングから、まったく違う事例ですが、「ゴジラ」に係る商標を巡る登録の審決取消訴訟の事件(知財高裁平成29(行ケ)10214 平成30年6月12日判決)を思い出しました。
事件の概要は、T社が、下記商標について、指定商品を第7類「鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,農業用機械器具,廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置」として商標出願をし、平成24年4月27日に登録されました。
これに対し、原告(東宝株式会社)は、同社が有する登録商標「GODZILLA」を引用して、商標法4条1項7、15、19号を理由に無効審判を請求しました(無効2017-890010号)。特許庁はこれを審理し、請求を棄却したため、原告が審決取消訴訟を提起しました。
私見では、 「GODZILLA」と「GUZZILLA」がそもそも似ているか? 東宝の「ゴジラ(GODZILLA)」は、識別力を発揮する標識(商標)と認識できるとしても、映画を中心とするコンテンツ事業等に係る商品・サービスに使用されているので、上記の第7類の商品に、「GUZZILLA」を使用しても需要者は出所を混同を生じないのではないか等、疑問が生じます。特許庁が無効審判請求を認めなかった気持ちも解ります。
でも、一方で、「ゴジラ」は東宝等の一定の会社や個人が創造した映画に登場する架空の怪獣の名称で、かかる文字を他人が商標として採用していいのか? と思う人もいるはず。
裁判所の判断について、結論から先に述べると、商標法4条1項15号を理由に無効にしました。
裁判所は、具体的に、どのような論理構成で、上記登録を無効としたのでしょうか?
まず、(ア)商標の類似性について、a) 外観は、両商標は『いずれも8文字の欧文字からなり,語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする』等とし、b) 称呼は『本件商標における「グ」と「ガ」の中間音とし、引用商標における「ゴ」と「ガ」の中間音とは,いずれも子音を共通にし,母音も近似する』等とし、c) 観念は『本件商標からは特定の観念が生じず,引用商標からは怪獣映画に登場する怪獣「ゴジラ」との観念が生じる』とし、全体として両本件商標は『称呼において相紛らわし』く、『外観においても相紛らわしい点を含む』と判断されました。
BLM私見では、商標の類似性だけで見れば、無効とするのは難しいのかもしれません。しかし、取引の事情等を総合すると、なるほど、違ってきます。以下がかかる事情等です。
(イ)引用商標の周知著名性及び独創性の程度について、『怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」は,原告によって創作され』、『昭和30年,欧文字表記として引用商標が当てられ,その後,引用商標が「ゴジラ」を示すものとして使用されるようにな』り、『遅くとも昭和32年以降,映画の広告や当該映画中に頻繁に使用され』、『遅くとも昭和58年以降,怪獣である「ゴジラ」を紹介する書籍や,これを基にした物品に多数使用』、『怪獣である「ゴジラ」の英語表記として多くの辞書にも掲載』等され、『引用商標は著名である』等と認定されました。
そして『架空の怪獣の名称において,語頭が濁音で始まり,語尾が「ラ」で終わる3文字のものが多いとしても,これらは怪獣「ゴジラ」が著名であることの影響によるもの』で、『欧文字表記において,引用商標と類似するものも見当たら』ず、『独創性の程度も高い』と判断されました。
(ウ)『商品の関連性の程度』は、本件商標の『専門的・職業的な分野において使用される機械器具』については、『性質,用途及び目的における関連性の程度は高くない』としつつも、『本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ,電動ジャッキ,チェーンブロック』…等と,『原告が引用商標の使用を許諾した玩具,雑貨等とは,ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング,テレビショッピングにおいて,一般消費者に比較的安価で販売され得」、『日常生活で,一般消費者によって使用されるなど,性質,用途又は目的において一定の関連性を有』す等とされました。
(エ)『取引者及び需要者の共通性』は、『前記油圧式ジャッキ等の,比較的小型で,操作方法も比較的単純な』商品の需要者は一般消費者である一方『原告が引用商標の使用を許諾した玩具,雑貨等の需要者は一般消費者で』、各商標の取引者は,これらの商品(器具)の製造販売や小売り等を行う者で、共通する取引者及び需要者が含まれるとされ、かつ『商品の性質,用途又は目的からすれば,これら共通する取引者及び需要者は,商品の性能や品質のみを重視する』だけでなく,『商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うと』されました。
ネーミングの独創性とはなんぞや?という視点で、この判決を考えてみます。
(オ)以上を総合的に判断して、『出所混同のおそれ』について、本件指定商品に含まれる商品の中には,本件商標を使用したときに,当該商品が原告又は原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるものが含まれる』と判断しました。
(カ)なお、判決は『被告は,引用商標が有する力強いイメージを想起させることを企図して,被告アタッチメントに,引用商標と称呼において相紛らわしく,外観においても相紛らわしい点を含む本件商標を付していた』と認定しましたが、特筆すべきは、被告が『原告が使用していた「SUPER GODZILLA」「SPACE GOZILLA」と相紛らわしい「SUPER GUZZILLA」「SPACE GUZZILLA」を使用』し、『本件商標をタオル,腕時計,手袋,帽子,Tシャツ,パーカー等に付して,広く無償配布及び販売し』、加えて、被告は『我が国における周知著名な商標と相紛らわしい「ガリガリ君」や「STUDIO GABULLI」との文字から成る商標』の出願もしている』等の行為をも勘案し、『本件指定商品に本件商標が使用されれば,引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招く結果を生じかねなかったことを間接的に裏付けるもの』と判断しています。
≪T社商標「GUZZILLA」と(株)エンジニアの商標の創作上何が違ったのか?≫
比べることに無理がある、と言われてしまいそうですが、BLM私見では、上記被告となったT社は、第7類「鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,農業用機械器具,廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置」に、みんなが知っている「ゴジラ(GODZILLA)」に近似させつつ、ちょっと異なる「GUZZILLA」を一生懸命考え、同様のノリで「ガリガリ君」や「STUDIO GABULLI」等も考えたのだろうと思います。しかし、この一生懸命考える力があれば、他のオリジナリティの言葉を考えることができたのに。勿体無い!
ネーミングの独創性とはなんぞや?という視点で考えてみます。この世には、ネーミングのプロなる方もいるので、プロレベルの話ではなく、もっと簡単な話で。
結局、すでに他人の商標や著作物等のイメージが付着した言葉やそれを連想させる言葉は採用しない事だと思います。いわば“ダジャレ体質(模倣体質よりちょっと悪気がない体質といった意味です)”を一旦捨てて、商品やサービスのコンセプトからネーミングを考える必要があると思います。
上記「PATENT Attorney Vol.75」には、(株)エンジニアの独自の「MPDP理論」というにが紹介されています。順に、マーケティング、パテント、デザイン、プロモーションの頭文字です。同理論や同社の戦略等のついては、同社社長さんのブログに詳細が掲載されています。BLMとして着目したいのは、ネーミング(商標を考える過程)の背後に、マーケティングがある事です。当たり前と言えば、当たり前なのですが、自分が提供しようとしているモノ(及びコト)は何であるか、しっかり考えて、ネーミング(商標)もその過程で考えられています。
上記のように、「○○ザウルス」の商標は結構世の中にある、あるのですが、マーケティングがしっかり考えられ実行され、一貫した価値を提供することで、その後の事業者に対する期待や信頼等のイメージが付着するように思います。商標の文字列が当初から持つ独創性と、その後に社会の人々から認識される独創性とはちょっとズレがあるかもしれません。裁判所は前者の意味で「独創性」という言葉を使っていますが。
弁理士として越権行為かもしれませんが、ネーミング(商標)を考える際は、どうか、世の中に転がっている他人の手垢に塗れた言葉ではなく、自社の提供価値(コンセプト)と一緒に考えていただきたいと思います。
by BLM
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