「体験を商品に具体化するマネジメントとは?」でも取り上げた「巣ごもり需要」が伸びているように、予期せぬことが起きたときに、これまで考えてもいなかった商品・サービスの売上が伸びることがあります。
◆イノベーションの機会~予期せぬ成功~
専門職大学院に通っていた時にマネジメントの発明者であるP.F.ドラッカーという経営学者を知って以降、ドラッカーの著書を読む機会が増えたのですが、ドラッカーは「イノベーションと企業家精神」(P.F.ドラッカー著、ダイヤモンド社(2009))において、イノベーションの機会を7つ挙げています。
それが、
①予期せぬことの生起(予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事)
②ギャップの存在
③ニーズの存在
④産業構造の変化
⑤人口構造の変化
⑥認識の変化
⑦新しい知識の出現
です。
これらの中でも、ドラッカーは、『予期せぬ成功程、イノベーションの機会となるものはない。これほどリスクが小さく苦労の少ないイノベーションはない。しかるに予期せぬ成功はほとんど無視される。困ったことには存在さえ否定される』と指摘しています(上記書籍の18頁)。
◆予期せぬ成功の例~ネジザウルスGT~
実はヒット商品の中には、この「予期せぬ成功」をうまく活用したと考えられる事例があります。
それが、弁理士会の「PATENT Attorney Vol.75」に紹介されている、株式会社エンジニアの「ネジザウルスGT」という、頭がつぶれてしまったねじや、錆びたネジでもつかんで回せるプライヤという工具です。
上記記事によると、初代のネジザウルスを発売して一定の評価が得られていたものの、ヒット商品には至っていませんでした。
そういった状況下で『4代目に向けた改良点を探る中で、ネジザウルス購入者から送られてきた「愛用者カード」の内容を洗い出し』ました。そして『グリップの改良など上位の要望に続く5番目に、頭部の低いトラスネジを回せるようにしてほしい、という声があった』そうです。
当時は『リーマンショックによる景気悪化の危機感もあり』『1000枚のカードのうち7枚にすぎなかった、トラスネジを回せる機能を付加するかには、社内でも否定的な意見もあった』とのこと。
しかし、『2か月ほど後に、社員がトラスネジを回せる試作品を作り、この機能を備える』プライヤを発売したところ、急激に売り上げが伸び、ヒット商品につながりました。
◆なぜ、ネジザウルスGTはヒットしたのか?
株式会社エンジニアは『マーケティング(M)、パテント(P)、デザイン(D)、プロモーション(P)のすべてが揃って、ヒット商品が生まれる』と考えているとのことですが、別の観点からは、「予期せぬ事態をきちんとすくい上げる仕組みがあった」ことが大きいのではないかと考えます。
ドラッカーは、予期せぬ成功が最もリスクが低いと言っていますが、それは、想定していなかったことを(たとえ、これまでの自分たちのやり方を否定されるような気がするという抵抗感があるとしても)単に認めればよいだけだからです。しかも、予期せぬ成功(予期せぬ事態)、というものは既に起こっている現実です。現実に対応するのですから、失敗するリスクはかなり低いと言えます。
それでは、予期しないことが起こった時に、なぜ、多くの人はそれをうまく活用できないのでしょうか?
ドラッカーは、予期せぬ成功は『報告することさえ』されず、『気づか』ないし、『予期せぬ成功を認めることは容易ではない』と指摘しています。
というのも、『長く続いたものが正常』と思い込む心理が働いており、予期せぬ成功を活用するためには、『現実を直視する姿勢と』『間違っていたと率直に認めるだけの謙虚さ』が必要であるからとしています。更に、予期せぬ成功を活用しようとすると、それまで主力製品を担当していた人々にとって、たまたま市場に出した商品・サービスが売れたとなれば、非常に不愉快にもなるとも指摘しています。
要するに、人は、過去の成功体験の延長線上で物事を考えてしまいがちであるということです。そのため「謙虚に実際に起こっている事実を直視する」ということが重要になります。
株式会社エンジニアの例では、
・「愛用者カード」の内容を洗い出す
・1000枚のカードのうち7枚にすぎなかった要望も取り上げる
・否定的な意見があっても、実際に作ってみる
ということ等が行われました。
つまり、予期せぬことに気づき、社内で共有し、過去の成功体験に固執することなく(社内に否定的な人がいたとしても)実際に試作品を作ってみたというように、まさに「謙虚に実際に起こった事実を直視」していますし、しかも、実際に手を動かしています。その結果が、ヒット商品につながったといえます。
なお、2008年のリーマンショックの時期にユーザニーズの掘り起こしと「ネジザウルスGT」の開発が行われています。どことなく、2020年の3月の現在に似た状況です。新型コロナ対策で確かに経済面の不安は払しょくできませんが、逆に、この時期だからこそできることもあると思います。先は見えないとはいえ、不安が解消されたときに一気に進めるように、事業の土台固めに力を注いでもよいかもしれません。
◆まとめ
予期せぬ成功を活用するためには、予想外のこと(上記ネジザウルスの例では、予想外のニーズ)が来たときに、それを謙虚に受け入れることができるかどうか?がポイントになります。
ただし、何でもかんでも受け入れるのではなく、自分たちの技術蓄積であれば役立つはず、と考えられることも重要です。いくら予想外で儲かりそうな話があったとしても、自分たちがこれまで蓄積してきた技術(あるいは、販路等)を活用できないのであれば、安易に先に進むべきではないからです(かえって失敗してしまいがちです)。
結局、
・ある機会が、自社がこれまで蓄積してきた技術等の知財と、自社の能力に合致していること
・外部の予期せぬ変化であっても、既存能力の新たな展開として捉えること
というように、いま自分がいる所と地続きであれば、予期せぬ成功をうまく活用しやすいのだろうと思います。
by KOIP
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