新型コロナウイルスの流行により需要が激減している業界がある一方で、通販需要が高まっていたり、オンライン飲み会サービスの需要が高まっていたり(→記事はこちら)、需要が急増している業界もあります。
ただ、通販に着目してみると、確かに各国内では需要は高まっていますが、国境をまたぐ場合、事情は別です。というのも、新型コロナウイルスの感染拡大により、国際郵便にも影響が出ているからです(→ニュースはコチラ)。感染拡大が収まるまで、この影響は続きそうです。
そして、知財において国際間取引で外せないのが並行輸入です。
『商標権に関する並行輸入の論点での国境を超えた物・情報の自由な移動はどう制限される?』でBLMさんが商標権に関する並行輸入について述べていました。
特許権に関する並行輸入の論点もありますが、商標権とは違った側面があります。
◆特許独立の原則、属地主義の原則は特許製品の並行輸入の可否は決まらない
まず、パリ条約4条の2は『同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする』と規定し、この規定は『絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない』としています。
そして、BBS並行輸入事件(最三小判平9・7・1民集51巻6号2299頁)において最高裁は、この規定は『特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けないということを定めるものであって、一定の事情のある場合に特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、同条の定めるところではない』としています。
更に最高裁は、属地主義の原則について『特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する』とし、『我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべき』としました。
つまり、特許製品の並行輸入について、パリ条約の特許独立の原則及び属地主義の原則は無関係であるとしました。
では、特許製品の並行輸入はどう考えればよいのでしょうか?
◆国際消尽は国内消尽と同じには考えられない
最高裁は、「国内での消尽」を認めた上で(特許の国内での消尽は『特許の「消尽」について』ご参照)、『我が国の特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合には、直ちに右と同列に論ずることはできない。すなわち、特許権者は、特許製品を譲渡した地の所在する国において、必ずしも我が国において有する特許権と同一の発明についての特許権(以下「対応特許権」という。)を有するとは限らないし、対応特許権を有する場合であっても、我が国において有する特許権と譲渡地の所在する国において有する対応特許権とは別個の権利であることに照らせば、特許権者が対応特許権に係る製品につき我が国において特許権に基づく権利を行使したとしても、これをもって直ちに二重の利得を得たものということはできない』としました。
つまり、国内における消尽と同じように国際間取引で消尽を扱うことはできないということです。
◆では、どう考える?
最高裁は、『国際経済取引が極めて広範囲、かつ、高度に進展しつつある』という現状を考慮すれば、特許権者が日本国外で特許製品を販売すれば、当然、その特許製品が日本に輸入されることは予想できるとし、もし特許権者が何も対策せずに国外で特許製品を販売したのであれば、たとえ特許権者が日本において特許権を有していたとしても、『我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべき』としました。
そこで、最高裁は、『我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当』としました。
つまり、例えば、ある製品についてAさんが日本と米国との双方で特許権を有している場合であっても、
・Aさんが米国で当該製品を販売等する場合に、購入者に対し、当該製品の販売先や使用地域について日本を除外することを同意すること
・購入者が更に第三者等に当該製品を販売等する場合、購入者との間で上記同意をし、同意内容を特許製品に明確に表示すること
という要件をクリアしない限り、日本において並行輸入品に対して権利行使できない、ということです。
ということは、並行輸入されても問題ないと考えて市場に商品を出す場合は特に問題はありませんが、並行輸入されては困る商品の場合は、上記最高裁が示した要件をクリアする必要があります。
並行輸入されては困る商品にはいろいろあると思いますが、例えば、地域・国ごとに異なるスペックで販売している商品が挙げられます。この場合、日本で購入者が「日本のものと同じはず」と思って買ったところ、「全然違う!」ということになります。そして、この購入者が特許権者のところに商品を持ち込んで、「品質が悪い!」等の文句を言ってくることが考えられますが、特許権者としては、そもそも日本向けの商品ではない商品を持ち込まれても困ってしまうわけです。
こういった場合は並行輸入されないように手を打つ必要がありますが、自社の市場での立ち位置をどうしたいのか?そして、自社製品をどこでどう販売するか?等をよく検討し、並行輸入を認めるのか否かを決める必要があります。
by KOIP
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