昨日、『特許の「消尽」について』でKOIPさんが特許における「消尽」の話を取り上げていた。すなわち、『特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばない』(BBS並行輸入事件(最三小判平9・7・1民集51巻6号2299頁))とされる。この点は、商標権の効力を制限する「消尽」の場合も同旨と言える。
《商標権の消尽が認められない場合》
上記KOIPさんの記事では、特許権の消尽が認められない場合として、『特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許される』(インクカートリッジ事件(最一小判平成19・11・8民集61巻8号2989頁))とされる。
この点は、商標権の場合と異なる。特許権の場合は、「特許製品が新たに製造された」又は「新たな生産行為」と解される場合であるが、商標権の場合は、以下のような場合である。
『第一譲渡の後に商品の改変を加えて当該商標を付したまま転売することは、商標の出所表示機能や品質保証機能を害するものであるから、消尽とはいえず、商標権侵害を構成する(東京地判平成17・12・20判時1932号135頁〔アフターダイヤモンド事件〕)(髙部眞規子「実務詳説 商標関係訴訟」金融財政事情研究会34頁)。
すなわち、商標権の場合は、出所表示機能や品質保証機能といった商標の機能を害するか否かが、商標権の効力を制限するか否かの判断基準となると解される。学説は、商標の機能をどこまで認めるか、出所表示機能までしか認めない等、諸説あるが、私見では、 一昨日取り上げたフレッドペリー並行輸入事件の最高裁判決や現実社会に即して考えると、品質保証機能(権利者の品質管理権限(コントロール権))の保護を認めないのは無理があるように思う。
《商標の品質保証機能を具体的事例で考える》
商標の品質保証機能の「品質」は、フレッドペリー事件に従えば、「実質的に差異がない」か否かで判断される。もっとも、同事件の判決では、実質的に差異が生じたか否かを問題とせず、『品質に対する商標権者のコントロール(品質管理)の可能性という観点を強調している』(髙部153頁)。
商標の品質保証機能(権利者の品質管理権限(コントロール権))を保護する必要性について、以下のような取り組みを挙げてみる。以下の事例で乳児用のキューブ型の食品の例が出てくるが、崩れていてもいいじゃないかと思う一方、乳児用の食品のキューブ型が崩れていると、それだけで、お母さんは、品質に対し不安に思うのではないかとも思う。
結局、「品質」とはお客さんの期待に左右される。お客さんの期待に応える取り組みは、商標で識別されるべきであり、商標の品質保証機能(権利者の品質管理権限(コントロール権))を保護するべきなのではないかと思うのだ。
〈事 例〉
キューピー株式会社が「食品の原料に不良品がないかを検査する装置にディープラーニング技術を取り入れ、低コストで確実な検品ができる「AI食品原料検査」の装置を開発した。」との記事が、日経BPの記事(2019年10月30日)(岩元直久(ITジャーナリスト、ライター)、杉山 俊幸(日経クロストレンド 特別編集委員)(敬称略)に掲載されている。
同記事では、同社が「開発・検証して自社で実用化を進め、さらに外販を推進しているAI食品原料検査装置は、ベビーフードの原料となるダイスポテトの選別で2017年から試行を続けてきた。」とされる。当時の試行錯誤に関してはこちらの記事(日経BP)が詳しい。確かに、じゃがいもを剥く際に、芽の部分を包丁でえぐり取ったりしているが、さらに商品ともなると、キューブ型が綺麗に整う必要があるのだろう。乳幼児用ともなれば、小さなキューブ。これを人の目でチェックしてきたのかと思うと、職人技に敬服する一方、確かに「技術」で手間を軽減できないか、とも思う。
同記事によれば「ダイスポテトは、どうしても品質や形で基準を満たさない不良品ができてしまう。従来は人の目で確認して良品と不良品を選別していた」という。そのような中「AI食品原料検査装置」が開発されたらしい。同記事は有料なので興味がある方は続きは有料でご拝読を(日経のまわし者ではないけど)。
思うに、AI技術は日進月歩で進化しており、品質管理の現場での導入は、かかる技術の活躍が期待できる一つの領域と考える。同記事によれば、同社の「AI食品原料検査装置の開発が最終的に目指すところ」について、国際的な競争の現場で「安価に商品を提供すると同時に、日本ブランドで勝負できるようにしなければならない。それには原料も含めた安全・安心を日本の食品メーカー全体で守っていく必要がある」等と紹介する。同社(担当部長の方)の話が興味深いのは、「AI食品原料検査装置」の技術を同社独占的に使用する発想ではなく、「同じ労力やコストを日本の他のメーカー」への提供も提案している点だ。ライセンス料がいるのだと思うが…。
いずれにしても、こちらの記事(日経BP)を読むと、じゃがいもの“良品”をAIに学習させた労力に脱帽する。これを各社がやっていたら大変だ。同記事も「こんな無駄なことはしていられない。競争領域と協調領域を分けて、協調領域を共有していかないと、人口減少時代に日本のブランド価値を継続できなくなる」」と同社(担当部長の方)の話を掲載している。
by BLM
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