商標出願の審査が以前より遅くなっています。以前は、6か月ぐらいで結果が見えたのですが、今は10カ月以上かかっているようです。(遅い!と文句を言うのではないですよ )
審査着手状況については、特許庁ホームページで客観的に示されています。
こちらを見てみて下さい。例えば、「食品」分野について、表を横に見ていき、
出願日が「平成31年3月」の場合、審査着手時期(目安)は「令和2年1月」といった感じ。
■なぜ商標出願の審査が遅くなると問題なのでしょう?
前提として、出願を本日行ったら(いわば、本日くさびを打ち込んでおけば)、審査が遅くなっても、その出願後から審査着手前に、どんなに他人の商標が出願されても、これらを以って、自己の商標が他人の商標と類似するとの拒絶理由が通知されることはありません。
事業の開始前に商標登録を取得して、安心して事業を開始したいと思われる事業者さんにとっては、本当に早めに出願しないと、かかる安心を手に入れることができません。
また、商標は商品が出来上がってから考えられることも多く、事業開始前ぎりぎりに商標出願することも多いのではないでしょうか。加えて、商標登録には“新規性”が要件となっていないので、商標の出願が、事業開始後ちょっと経ってからされる場合もあるのでは?
こういった場合、審査の着手やその結果が出る時期が、事業が軌道に乗り始めた時期と重なる場合もありますね。この段階で、類似する他人の先行登録があった場合、譲渡交渉をしたり、商標を変更したり、と対応が必要な場合も生じ、痛手となります。
■商標出願審査の遅延に対してどのような対応があるでしょう?
J-PlatPat(特許庁が公開している先行商標が蓄積されています)を検索して、自己の商標と似ている他人の先行商標はないか?調べてみましょう。
代理人としては、出願前に調査を行い、登録の可能性について調べます。これにより、現在公開されている先行出願や先行登録商標の範囲内ですが、特許庁が同一又は類似と言ってくるだろう(拒絶理由を通知するだろう)商標を発見することが、ある程度可能になります。
“ある程度”としたのは、商標の類似は、特許庁と代理人の意見が一致するとは限らないのですが過去の審決例等である程度は予測できるという意味です。
もっとも、調査に関しては、BLMでは、“ある程度”の客観的な回答と、これに加えた見解をお示しします。非類似でも、先行登録の権利者が「類似している!」と異議を申し立てる可能性があるので、機械的に答えが決まるものではなく、お客さんの状況、先行登録の使用状況等(特に権利者が誰か?)等、諸々の状況を観て妥当な判断をする必要があります。
つまり…
審査の結論が早く出るというニーズ、つまり、登録されるのか、登録されても他人が異議を申してくるのか?等々、色々なリスクを早く知りたいニーズは多いと思います。
そこで…
■審査遅延に対して「ファストトラック審査」制度をどう使う?
審査自体を早める方法があります。今日の本題です。
「ファストトラック審査」(令和2年2月1日から開始)というのが考えられます。この制度を利用すると、出願から約6か月で審査結果通知がなされます。
審査官側の利点は、指定商品や役務の記載が妥当か否かのチェックを審査が行う必要がなく、商標の同一類似を判断する範囲(類似群コード)を即座に確定できるということなのだと思います。
当然、出願人の利点は、審査が通常の約半分に期間で行われ、審査の結果を通常より早く知ることができる点です。
こちらのサイトに当該制度の説明があります。
同制度について、上記サイトから引用してみましょう。
ファストトラック審査(特許庁の用語ですが一般に優先審査程度の意味と解されます。)の対象となる商標出願については、
「(1)出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務(…省略…)のみを指定」し、
「(2)審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない」の2点の要件を満たす必要があるとされますが、(2)はイレギュラーなので、(1)を満たす出願をまず目指しましょう。
↓ 次に
(A)「類似商品・役務審査基準」には、指定できる商品・役務が45分類されており、各分類には指定できる商品の記載例が列挙されているので、これをコピー&ペーストして、出願書類に載せれば良いでしょう。なお、[参考]として掲載されている商品名(役務名)も、対象になります。
➕
(B)「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」は、J-PlatPatで調べることができます。
こちらの「3. 「類似商品・役務審査基準」等に掲載されている表示かどうか、どこで調べることができますか?」に説明があり、分かりやすいです。
なお、こちらのサイトに諸々対象外が規定されているので、併せて確認してください。
(以下では、上記(A)(B)を併せて「類似商品役務審査基準等」と言います。)
■「ファストトラック審査」制度の注意点
さて…上記の条件を
2020年03月16日の記事で挙げさせて頂いた登録第6052985号(※)のうち、
第30類(第29類は省略)で指定された商品の記載を例に、説明してみます。
(※ あくまで、商品の記載を参考にさせていただくだけで、すでにこの商標は登録されており、全くファストトラック審査の制度を必要としないものです。)
「茶,コーヒー,ココア,氷,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう」等の記載は、類似商品役務審査基準等の記載通りなので、対象になります。
ただ、例えば「菓子」の記載は、
類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2020版対応〕(2020年1月1日以降の出願に適用)では、「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原 料とするものを除く。)」の記載が列挙されていますので、この通りに記載するか、「和菓子」「カスタード(菓子)」等と書く必要があります。最近、運用が変わっているので、昔出願した内容をそのままコピー&ペーストするのは危険ですね
そして、以下が重要な点、つまり、ファストトラック審査の制度を利用する際の欠点です。それは、自己が使用する商品が、類似商品役務審査基準等に列挙されていない場合もあるという点です。
↓
例えば、「調理済みのスパゲッティ」を使用していた場合、これをそのまま記載したくても、類似商品役務審査基準等に列挙されていないのです。同審査基準等に「スパゲッティの麺」がある!ということで、これを記載すると、「穀物の加工品」の分類に入るものと扱われ、類似郡コードは32F03が付与されてしまいます。コンビニで売られているような、“ケチャップで味付けされたプラスチック皿に入ったすぐ食べられるスパゲティ”を想定していたなら、全く違います。
この場合、類似商品役務審査基準等には、「調理済み麺類」の記載があるので、これを記載すれば良いのだと思います。これで同制度を利用できます。
一方例えば「惣菜」はどうでしょう? 悩ましいです。上記登録第6052985号には指定されていなかったのですが、「春雨を主材とする惣菜」は、どこに入るでしょうか? 「惣菜」なので「弁当」の仲間、と思いきや、それだけでは足りません。
上記の「3. 「類似商品・役務審査基準」等に掲載されている表示かどうか、どこで調べることができますか?」に説明されていたような手順で、[データ種別]を、「
「春雨を主材とする惣菜」は、32F03, 32F06の類似郡コードが付されています。
少なくとも特許庁の審査においては、「春雨を主材とする惣菜」は、「穀物の加工品」(32F03)の分類と、「弁当」等(32F06)の2つの分類に属すると考えられています。
そうすると、ファストトラック審査の制度を利用すべく、類似商品役務審査基準等の記載に従うと、「春雨を主材とする惣菜」は、類似商品役務審査基準等には列挙されていないので、指定できません。
そこで、とりあえず「弁当」等(32F06)を指定し、
「穀物の加工品」(32F03)については指定しなかったとします。
そうすると、上記例で言えば、「カスタード(菓子)」は、「菓子」に包含されるので、「カスタード(菓子)」の使用は、「菓子」の使用となりますが、
「春雨を主材とする惣菜」の使用は、「弁当」等の使用とはなりません。使用している商品についてきちんと指定し登録することが基本(なぜか?はおいおい)である商標法の下では、不十分な登録となります。
かつ、想定される最悪な事態は、自己の商標と類似する商標について、他人が「穀物の加工品」(32F03)を指定して出願したら登録されてしまいます。
この場合、後から、自社内で「春雨を主材とする惣菜」を売っているぞ!と気がつき、不十分な登録を補うべく、別途出願しても(登録された商標に、指定商品を追加することはできません)、その他人の登録で自己の商標については登録されないことになります。
■まとめ
通常、食品関係業者の代理人なら、「穀物の加工品」は念のため指定するとは思うのですが、この例はともかく、ファストトラック審査の制度を利用すると、実際に使用している商品が含まれていない可能性は十分にあります。
この点を解った上で、新商品を世に送り出す最初の段階では、
上記の通り、審査の結論をなるべく早く得て登録されるのか、登録されても他人が異議を申してくるのか?等々、色々なリスクを早く知って、新商品が無事に旅ができるよう、ファストトラック審査の制度を利用し、
その後、その商品の売れ行きが好調で、商品のバリエーションも豊富になる等してきたら、個別具体的に別途出願をするのが良いと思います。
したがって、注意点を認識した上で、最初は、米国のような使用主義ではない我が国においては、なるべく広めに出来るだけ多く指定して(類似群コード22個までと限定しつつ、とか。)、出願するのが良いと思います。「米国出願をしたことがあり、商標出願業務は精通している」なんて過信してはダメです。我が国特有の制度をうまく活用する必要があると思います。
上記の例の場合、「弁当」等(32F06)とともに、調理済みでないものには使用しない、と思っても、念のため「穀物の加工品」(32F03)を指定しておけば、「春雨を主材とする惣菜」を販売していると分かった場合、同じ商標について、これを後で指定し出願しても、出願人(権利者)が同じであれば、原則として登録されると思います。
ちなみに、不使用取消審判とか大丈夫?等、色々さらに疑問点もあると思いますが、諸々はおいおい。今日は、このへんで
By BLM
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