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 当家のブルーベリーです。

 昨年の秋に植えたんです。
 冬にすんげー寒にやられまして、一時危篤状態でした。

 あぁもうこれはダメかも……。

 でもまだ葉っぱはあるし……。



 等々。
 心配かけやがったブルーベリーさん。
 二月には新芽が!(_ _ )(・ ・ )(・∀・)( T∀T)v

 これはいけるかも!
 と、かいがいしく(自画自賛)診ていたら、このとおり元気になりました。

 結局一本、枝を切り落とすことになりましたが、一安心です。
 あとは花のあと、実がなってからがまた勝負所です。



 昼行灯さんに食べられないよう、見張っておかねば(`・ω・´)
 俯いたティセットの肩が震えだす。
 声はない。

 自分の髪を掴んで堪える。
 夜の静けさに泣き声を響かせまいと、全身を固くする。



「…………」
 ヨウスはそっと、ティセットの肩を撫でた。
 痩せた肩は手の平に骨の固さを伝えた。

 ルフェランやトルクからすれば小柄なティセットは、本当に小さいわけではない。
 二人が大きすぎるだけで、他の学生と並べば見劣りしない。

 だが、触れてみてわかる。
 ティセットは痩せた。
 出会った頃と比べれば、骨が浮き出ている。

 元々、太っていたわけでもないから、仕事量を増やせば自然に痩せる。
 食べる量は変えられないのだから。

 生活費と学費のために節約し、毎日働いて。
(……キツかっただろうな)
 授業も真面目に受けていた。
 学生生活に不慣れなヨウスを気遣ってくれた。

 なのに、辞めなければならない。

 唇を噛みしめるほど悔しいだろう。
 言葉にならないほど複雑だろう。
 勧められて何となく入ったヨウスはまだいるのに。

 替わってやれるものなら替わってやりたい。
 でもティセットは、自分に対してそれは許さないだろう。
 人を頼り過ぎては、いつか足下を掬われる。
 そんなことくらい知っているだろう。



 肩を撫でていた手はいつしか髪を撫でていた。
 すんっ、と鼻を啜る音がして、ティセットの涙目が微かに覗く。

(……悔しいんだ)
 諦めたくないのに、諦めなければならないから。


――諦めたくなかったんだ


 笑いながら言った男の顔が脳裏に浮かんだ。
 良い思い出ではないのに、肩の傷を撫でながら懐かしそうな顔をしていた。

 諦めなかったから生き残った。
 諦めていたら生きていなかった。

 これは生死を分ける岐路ではない。
 どちらを選んでもティセットは生き残る。

 ただ、心が折れる――

 それだけだ。
 生きていける。

 でも、心の一部を切り落とさなければならない。
 肉体は再生しても心は欠けたまま。
 欠けたまま、ティセットは生きていく。

 それが、夢を諦めるということだ。



 どんなに足掻いても埋めることのできないものが、目の前に横たわっている。



 ティセットに触れていた手で痩せた肩を引き寄せる。
 首の下にもう片方の手を滑り込ませる。

 背中を撫でる手にしがみついたティセットの爪が食い込む。
 顎の下にティセットの頭を挟んで呻いた。

 くやしい。





 夜はただ流れ。

 泣き疲れたティセットの頬が乾き。
 ヨウスの濡れそぼった袖も冷え。

 無理やり飲み込んだ眠りだけが優しかった。
 いろんなことを諦めたつもりだった。
 学舎に入ることは、ティセットのような一般人には大変なことだ。

 時間の合間を縫って稼ぐだけでは生活できない。
 よほどのことがないと上等生にはなれない。
 寝る間を惜しんで勉強しても、高官には就けない。

 それでもティセットは学舎に入った。
 叔父の脛を囓った。
 恋も、半ばで諦めた。

 何もかも、一生泥に塗れて生きたくないという、わがままで。



 実家の田畑は荒れていないだろうか。
 両親はまだ畑仕事をしているだろうか。
 弟は跡を継いだのだろうか。

 まだ、厳しい徴税は続いているのだろうか。

 高官には成れなくてもいい。
 せめて地方官になれば、厳しい取り立ても二重徴税も止めさせられる。

 手元に葉っぱしか残らないような生活から助けてやれる。



 悔しいなぁ。
 ティセットは呟いた。

 ヨウスは向かいの寝台で、ただじっと話を聞いていた。
 顔はティセットのほうを向いているが、視線はどこか遠い。

 二人部屋は広くはないが、やけにヨウスを遠くに感じる。
 開けられたままの窓から差し込む月明りが冷たい。



「……ヨウス」


   *  *


「そっち、行っていい?」

 ティセットの声に、焦点が現実に戻ってくる。
「……狭いよ」
 うん、と頷きながら立ち上がって、枕を持ったティセットが近付いてくる。

 俯せから横になって場所を空けてやる。
 ティセットも横寝だが、それでも男二人にはやはり狭い。
 互いの呼吸音が聞こえる。

 持ち込んだ枕の下に片手を差し込むティセット。
 折り曲げて胸のあたりに置いたヨウスの手を、ただジッと見ている。
 表情はないのに、今にも叫び出しそうな空気を纏って。

 賢明に大人であろうとする子供の目で。


「ルリに…………言ったんだ。
 まだ、好きだ……って。
 だから、どうなるって、わけじゃない……」
 伝えておきたかったんだ。

 ティセットは目を閉じた。
 明日が来るのを恐れてか、眉間にシワを寄せる。

「あした……引越して。
 朝から、市場に行くんだ。
 ……寒いだろうな。
 起きれるかな。

 でも、朝の賄い旨いんだ。
 授業がない日は朝から、それ目当てに行ったなぁ……。
 ルリも誘ったこと、あったな。
 うまいって、あいつ、喜んでた。

 親父さん、顔コワイけど、料理の腕は良いんだ。
 西区でも、けっこう繁盛してるほうでさ。

 店の裏手に、弟夫婦が宿屋やってて……。
 弟さん、ぜんっぜん似てないの。

 屋根裏が物置なんだけど……とりあえず、そこ貸してくれるって。
 荷物と一緒だけど、ここより広そうだし。

 明日から、そこで……」
 一人で寝るのだ。

 同室生の寝息も寝言も聞こえない。
 静かで孤独な夜。
 どれだけ繰り返すのだろう。

 いつ、終わるのか。