俯いたティセットの肩が震えだす。
 声はない。

 自分の髪を掴んで堪える。
 夜の静けさに泣き声を響かせまいと、全身を固くする。



「…………」
 ヨウスはそっと、ティセットの肩を撫でた。
 痩せた肩は手の平に骨の固さを伝えた。

 ルフェランやトルクからすれば小柄なティセットは、本当に小さいわけではない。
 二人が大きすぎるだけで、他の学生と並べば見劣りしない。

 だが、触れてみてわかる。
 ティセットは痩せた。
 出会った頃と比べれば、骨が浮き出ている。

 元々、太っていたわけでもないから、仕事量を増やせば自然に痩せる。
 食べる量は変えられないのだから。

 生活費と学費のために節約し、毎日働いて。
(……キツかっただろうな)
 授業も真面目に受けていた。
 学生生活に不慣れなヨウスを気遣ってくれた。

 なのに、辞めなければならない。

 唇を噛みしめるほど悔しいだろう。
 言葉にならないほど複雑だろう。
 勧められて何となく入ったヨウスはまだいるのに。

 替わってやれるものなら替わってやりたい。
 でもティセットは、自分に対してそれは許さないだろう。
 人を頼り過ぎては、いつか足下を掬われる。
 そんなことくらい知っているだろう。



 肩を撫でていた手はいつしか髪を撫でていた。
 すんっ、と鼻を啜る音がして、ティセットの涙目が微かに覗く。

(……悔しいんだ)
 諦めたくないのに、諦めなければならないから。


――諦めたくなかったんだ


 笑いながら言った男の顔が脳裏に浮かんだ。
 良い思い出ではないのに、肩の傷を撫でながら懐かしそうな顔をしていた。

 諦めなかったから生き残った。
 諦めていたら生きていなかった。

 これは生死を分ける岐路ではない。
 どちらを選んでもティセットは生き残る。

 ただ、心が折れる――

 それだけだ。
 生きていける。

 でも、心の一部を切り落とさなければならない。
 肉体は再生しても心は欠けたまま。
 欠けたまま、ティセットは生きていく。

 それが、夢を諦めるということだ。



 どんなに足掻いても埋めることのできないものが、目の前に横たわっている。



 ティセットに触れていた手で痩せた肩を引き寄せる。
 首の下にもう片方の手を滑り込ませる。

 背中を撫でる手にしがみついたティセットの爪が食い込む。
 顎の下にティセットの頭を挟んで呻いた。

 くやしい。





 夜はただ流れ。

 泣き疲れたティセットの頬が乾き。
 ヨウスの濡れそぼった袖も冷え。

 無理やり飲み込んだ眠りだけが優しかった。