「……上級、いけるかもな」
「え?」
「それが読めるんなら、古語の上級受かるかもな」
 しかしヨウスは首を振った。

「ガラスト語が完璧にできても、それを判定する講師がいない。
 ラディンネル国の古語上級規定は、ラディンネル国の古語だ。
 そっちは一から覚えないとならない」
「……そうだな。

 あーでも、惜しいなぁ。
 古語なら上等生も夢じゃないのに」
 かつて、というほど昔ではないが、ティセットも期待された一般人からの上等生。

 トルクのような貴族ではなく、ルフェランのような裕福層でもない、一般層。
 この一般層から上等生がでることは奇跡に近い。
 素質と学費、そして努力……忍耐。

 とりあえず学費は、ティセットのように上級生でなくても必須だ。
 素質は仕方ないが、努力しなければ学力は上らない。
 そして忍耐。
 高飛車な令息令嬢らと渡っていける度胸も必要かもしれない。

 チラリ、とヨウスを見る。
 ティセットと変わらない背丈。
 頭は良いかもしれない。
 内気なことを除けば人柄に問題はない。

 問題を起こすとすれば、無駄にきれいな顔だろう。
 東寮でもたびたび騒ぎの原因になるくらいだ。
 西寮では……想像できない。

 せめてトルクが、上級生という肩書きに見合う頭を持っていてくれたら良かったのに。



 ティセットはため息をついた。
「……仕事、慣れた?」
 いつの間にか肉串作りを手伝ってくれているヨウスがぽつりと尋ねた。
「んーまぁ、働く時間が長くなっただけだし。
 最初は立ちっ放しがキツかったけど、今は慣れた」

 黙々と肉串を作るヨウス。
 そういえば、酒場で働いていたときに、料理を覚えたと言っていた。
 手際もいいし、美味しいものを作りそうだ。
 ルリに見習ってほしいものだ。

「何かあった?」
 ティセットが学舎を止めてそんなに長くはないのに、ヨウスは何かあるとやって来た。
 こんなことがあった、あんなことを言われたなどと、仕込みの手伝いをしながら話すのだ。
 自棄酒に来るトルクとは大違い。



 ヨウスはしばらく考えるふりをした。
「実は……皇都の学舎に、奨学金制度っていうのがあって。
 貴族とか裕福層の人から学費を借りて、働きだしてから返す仕組みなんだけど」
「うん。で?」

「ランに話したんだ。
 そしたら、ランが父親に相談してくれるって」
「え?
 ランが学費に困ってるのか?」
 何かシドル氏を怒らせることでもしたのだろうか。

「いいや、ティスのことだ」
「…………」
 ティセットはおもわず手を止め、ヨウスの横顔を見た。
「……俺の……ため?」
 コクリと、頷くヨウス。

「ティスがいないだけで、みんな妙に空元気なんだ。
わざとティスの話をしなかったり。
 って思ったら、ティスのことで盛り上がって。
 今までティスに話しかけて来てた生徒が、俺に声をかけるようになって」
 後者は恐らく確信犯だと思われる。

「……みんな、ティスに戻って来てほしいんだ。
 俺も、寮室に一人でいるのに今でも慣れなくて。
 ティスがいたときはって、口癖になりそうだ」

「…………」
 顔を上げないヨウスの横で、ティセットはこっそり目元を拭った。
 嬉しくて涙が出ないわけがない。
「おーい、どうした!?」
 騒ぎは事務所まで聞こえたらしい。
「うわ!」
「なんだ!?」
 男性講師が生徒の脚にしがみつき、奇声を発しているのを見て、慌てて数人が駆けつけてくれた。

 無事に救出されたヨウスは、ヤーフェ講師から距離を置こうと後退する。
 さり気なくルフェランが背中に庇ってくれた。
 その様子は、怯える女生徒とそれを庇う男生徒だったが、当人たちはいつものことなので気付いていない。

 端から見ていた講師たちは、女生徒(に見えるヨウス)に狼藉した同僚を叱りつけ、引き摺って行ってしまった。
 その手際の良さから、恐らくヤーフェ講師の奇行は日常茶飯なのだろう。

 一人の講師がやれやれまたかよー、なんて顔で肩を揉みながら、呆然とする三人に向けて
「君たちも早く部屋に戻りなさい」
 何事もなかったかのように言い捨て去ってしまった。



 残された生徒三人。
 しばらく賑やかな声のする事務所を見ていたが、
「帰ろっかぁ」
 ルフェランの言葉に頷いて、その場を後にした。

 何だか今日は疲れたなー、とヨウスは溜め息した。


   *  *


 明日には試験だというのに、ヨウスがやって来た。
「どうした?
 今度は何があった?」
 先日のこともあり、ティセットは冗談半分に聞いた。

 額のかさぶたは取れ、傷跡も近付かなければわからない。
 もともと自分の顔に興味がないヨウスは気にしていないようだが、大事に至らなくて良かった。



 店の開店前に合わせるため、最後の授業には出なかったようだ。
 からかわれたことにも気付かないのか、いつにも増して表情が固い。
 これでニコニコと笑っていればもっとモテるのに。

 なかなか口を開かないヨウスを見て、ふと、ティセットは仕込みの手を止めた。
「その本、何?
 ずいぶん古そうだな」
 言われてやっと本を持っていることに気付いたのか、ヨウスはハッとした。

 実は……と話しだす。

「へー。
 で、それが例の?」
「うん。……それが」
 ヤーフェ講師に呼び出された晩、話を聞きはしたものの、受けるかどうかの返事もせず……いや、できず。
 件の本も預かってこなかったのだという。
 すっかりヤーフェ講師に毒気を抜かれてしまったらしい。

 しかし、外見や人柄はともかく、研究に向ける情熱は並々ならぬものらしい。
 今朝、ヨウスが寮室の扉を開けた途端、ヤーフェ講師が廊下に立っていた。
 鳥の巣頭を下げ、解読を改めて依頼してきたのだ。
『ビックリしたよ、女子寮にいないから!』
 余計な一言とともに。



「試験のあとは、発表までこれをしようと思って」
「へー。どんなの?」
 ヨウスは依頼の本をティセットに向けて開いて見せた。

 挽き肉で塗れた手を休め、ティセットは開かれた頁を見る。
 険しい顔で唸り、
「何の記号?」
「ガラスト語だよ。
 主に戦乱時代中期のことが書かれているみたいだ」
 言われても、ティセットには子どもの暗号にしか見えなかった。

 仕込みを再開させながら、ヨウスを上から下まで見る。
「意外、ていうか何て言うか……。
 よくそんなの知ってたな?」
「カザーカ国立図書館は、他大陸の資料が多いんだ。
 西大陸で一番、他国入が多いせいだろうな」

 粘り気が出た肉を、こぶし半分くらいに丸めていく。
 三つを一つの串に刺し、大きな皿に乗せていく。
 ニッチの食堂名物、串焼きのひとつだ。
 この肉串だけで三百本は用意しなければならない。
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ごちそうさまでした、自分。
結局自分で作りました、自分。

11時まで待ってた自分て何?
みたいな。

「明日パスタ作っちゃる!」

そう言われてはしかたない。



じゃがいも、ニンジンを小さめに乱切り。
タマネギは大きめに。
彩り良くピーマン追加。

バターを塗ったアルミホイルに野菜を敷く。
鮭、設置。

白ワインなぞないので料理酒で匂い消し&柔らか効果。
これであなたのお肌も10歳若返るなんてことなんてないよ。

最後にバターをたっぷり乗せ。
アルミホイルをかぶせ。

点火!

15~20分くらいで完成。
醤油やポン酢をかけて召し上がれ!

わたしは寝る!
寝るんだ!



こんな時間に食べたら寝れないじゃん(´・ω・`)