「おーい、どうした!?」
騒ぎは事務所まで聞こえたらしい。
「うわ!」
「なんだ!?」
男性講師が生徒の脚にしがみつき、奇声を発しているのを見て、慌てて数人が駆けつけてくれた。
無事に救出されたヨウスは、ヤーフェ講師から距離を置こうと後退する。
さり気なくルフェランが背中に庇ってくれた。
その様子は、怯える女生徒とそれを庇う男生徒だったが、当人たちはいつものことなので気付いていない。
端から見ていた講師たちは、女生徒(に見えるヨウス)に狼藉した同僚を叱りつけ、引き摺って行ってしまった。
その手際の良さから、恐らくヤーフェ講師の奇行は日常茶飯なのだろう。
一人の講師がやれやれまたかよー、なんて顔で肩を揉みながら、呆然とする三人に向けて
「君たちも早く部屋に戻りなさい」
何事もなかったかのように言い捨て去ってしまった。
残された生徒三人。
しばらく賑やかな声のする事務所を見ていたが、
「帰ろっかぁ」
ルフェランの言葉に頷いて、その場を後にした。
何だか今日は疲れたなー、とヨウスは溜め息した。
* *
明日には試験だというのに、ヨウスがやって来た。
「どうした?
今度は何があった?」
先日のこともあり、ティセットは冗談半分に聞いた。
額のかさぶたは取れ、傷跡も近付かなければわからない。
もともと自分の顔に興味がないヨウスは気にしていないようだが、大事に至らなくて良かった。
店の開店前に合わせるため、最後の授業には出なかったようだ。
からかわれたことにも気付かないのか、いつにも増して表情が固い。
これでニコニコと笑っていればもっとモテるのに。
なかなか口を開かないヨウスを見て、ふと、ティセットは仕込みの手を止めた。
「その本、何?
ずいぶん古そうだな」
言われてやっと本を持っていることに気付いたのか、ヨウスはハッとした。
実は……と話しだす。
「へー。
で、それが例の?」
「うん。……それが」
ヤーフェ講師に呼び出された晩、話を聞きはしたものの、受けるかどうかの返事もせず……いや、できず。
件の本も預かってこなかったのだという。
すっかりヤーフェ講師に毒気を抜かれてしまったらしい。
しかし、外見や人柄はともかく、研究に向ける情熱は並々ならぬものらしい。
今朝、ヨウスが寮室の扉を開けた途端、ヤーフェ講師が廊下に立っていた。
鳥の巣頭を下げ、解読を改めて依頼してきたのだ。
『ビックリしたよ、女子寮にいないから!』
余計な一言とともに。
「試験のあとは、発表までこれをしようと思って」
「へー。どんなの?」
ヨウスは依頼の本をティセットに向けて開いて見せた。
挽き肉で塗れた手を休め、ティセットは開かれた頁を見る。
険しい顔で唸り、
「何の記号?」
「ガラスト語だよ。
主に戦乱時代中期のことが書かれているみたいだ」
言われても、ティセットには子どもの暗号にしか見えなかった。
仕込みを再開させながら、ヨウスを上から下まで見る。
「意外、ていうか何て言うか……。
よくそんなの知ってたな?」
「カザーカ国立図書館は、他大陸の資料が多いんだ。
西大陸で一番、他国入が多いせいだろうな」
粘り気が出た肉を、こぶし半分くらいに丸めていく。
三つを一つの串に刺し、大きな皿に乗せていく。
ニッチの食堂名物、串焼きのひとつだ。
この肉串だけで三百本は用意しなければならない。
騒ぎは事務所まで聞こえたらしい。
「うわ!」
「なんだ!?」
男性講師が生徒の脚にしがみつき、奇声を発しているのを見て、慌てて数人が駆けつけてくれた。
無事に救出されたヨウスは、ヤーフェ講師から距離を置こうと後退する。
さり気なくルフェランが背中に庇ってくれた。
その様子は、怯える女生徒とそれを庇う男生徒だったが、当人たちはいつものことなので気付いていない。
端から見ていた講師たちは、女生徒(に見えるヨウス)に狼藉した同僚を叱りつけ、引き摺って行ってしまった。
その手際の良さから、恐らくヤーフェ講師の奇行は日常茶飯なのだろう。
一人の講師がやれやれまたかよー、なんて顔で肩を揉みながら、呆然とする三人に向けて
「君たちも早く部屋に戻りなさい」
何事もなかったかのように言い捨て去ってしまった。
残された生徒三人。
しばらく賑やかな声のする事務所を見ていたが、
「帰ろっかぁ」
ルフェランの言葉に頷いて、その場を後にした。
何だか今日は疲れたなー、とヨウスは溜め息した。
* *
明日には試験だというのに、ヨウスがやって来た。
「どうした?
今度は何があった?」
先日のこともあり、ティセットは冗談半分に聞いた。
額のかさぶたは取れ、傷跡も近付かなければわからない。
もともと自分の顔に興味がないヨウスは気にしていないようだが、大事に至らなくて良かった。
店の開店前に合わせるため、最後の授業には出なかったようだ。
からかわれたことにも気付かないのか、いつにも増して表情が固い。
これでニコニコと笑っていればもっとモテるのに。
なかなか口を開かないヨウスを見て、ふと、ティセットは仕込みの手を止めた。
「その本、何?
ずいぶん古そうだな」
言われてやっと本を持っていることに気付いたのか、ヨウスはハッとした。
実は……と話しだす。
「へー。
で、それが例の?」
「うん。……それが」
ヤーフェ講師に呼び出された晩、話を聞きはしたものの、受けるかどうかの返事もせず……いや、できず。
件の本も預かってこなかったのだという。
すっかりヤーフェ講師に毒気を抜かれてしまったらしい。
しかし、外見や人柄はともかく、研究に向ける情熱は並々ならぬものらしい。
今朝、ヨウスが寮室の扉を開けた途端、ヤーフェ講師が廊下に立っていた。
鳥の巣頭を下げ、解読を改めて依頼してきたのだ。
『ビックリしたよ、女子寮にいないから!』
余計な一言とともに。
「試験のあとは、発表までこれをしようと思って」
「へー。どんなの?」
ヨウスは依頼の本をティセットに向けて開いて見せた。
挽き肉で塗れた手を休め、ティセットは開かれた頁を見る。
険しい顔で唸り、
「何の記号?」
「ガラスト語だよ。
主に戦乱時代中期のことが書かれているみたいだ」
言われても、ティセットには子どもの暗号にしか見えなかった。
仕込みを再開させながら、ヨウスを上から下まで見る。
「意外、ていうか何て言うか……。
よくそんなの知ってたな?」
「カザーカ国立図書館は、他大陸の資料が多いんだ。
西大陸で一番、他国入が多いせいだろうな」
粘り気が出た肉を、こぶし半分くらいに丸めていく。
三つを一つの串に刺し、大きな皿に乗せていく。
ニッチの食堂名物、串焼きのひとつだ。
この肉串だけで三百本は用意しなければならない。