(183) そんなに大きいのか | MoGaの『ネトウヨ戦記』 2nd Season

MoGaの『ネトウヨ戦記』 2nd Season

一期はネトウヨ戦記という小説で、二期の現在は実際のAmeba空間で不毛な戦いを続けております。
全ての一次創作品について、著作権は私にあり、イラスト・漫画・小説の無断転載を禁止します。

週の終わりの金曜の夜、変なタイミングで行われた社の懇親会に、俺の数少ない味方である社長は不在だった。
頭は部長の九條、その他は基本的に有志の参加で、若い連中はご多分の例に漏れず付き合いが悪くて最終的な人数は20名ほどになった。
今週いっぱい、ロレーヌの機嫌がさらに悪くなり、俺には挨拶すら返さなくなってしまっていた。
その理由はこの酒席でようやく聞けたのだが、話の中身が前回の『青龍』からの除名騒動だったので、酒の力も手伝い、俺は哀れみを通り越してうっかり大笑いしてしまった。

「キエェェェェェェ!!!!!」

怒り狂ったロレーヌは、中に何が入っているのかわからない程に色々と詰め込まれていそうなハンドバッグで俺の頭をメチャクチャに叩き始めた。

「大坪さん、やめてください!」

現在の直属の部下である魔性の女子社員・桜田さんが止めに入り、どうにか収まった大坪ネネことロレーヌだったが、ゼエゼエと息を荒げながら、

「こ、この責任を、どうお取りあそばせるの、係長!?」

と、周りに誤解を与えかねない事を口にした。

「か、係長、お局様とヤっちゃったんですか?」

もう1人の直属部下である太田こと『モミジ』君が太った体を蒸気させながら訊いてくる。
コイツは一体、何を興奮してるんだ?

「ヤるわけないでしょ!
ネットのコミュニティから追い出されたのを俺のせいにしてるんですよ、この人は」

「うぅぅ・・・やっぱりネトウヨなんかに関わるとロクな事がないんですワ・・・。
私クシ、これから何を心の拠り所にして生きていけば・・・うぅ・・・」

怒り上戸から泣き上戸に移行したロレーヌは、さめざめと泣きながら、意外に面倒見の良い桜田さんに肩を抱かれてお手洗いに向かった。

俺は料理の天ぷらをまだ食っていなかった事を思い出して自分の席に戻ろうとしたが、モラハラ課長が向こうから俺を手招きしている。

「係長、係長!
いーい物が手に入ったザンスよ?
これはレア物ザンスー(笑)
見たいザンスか?
見たいザンショ?」

渋々課長の元に来た俺に、奴は懐から手帳のような物を取り出して見せつける。

「なんです、まさか九條部長のスナップ写真とかじゃないでしょうね」

「なんでボクの写真を課長がキミに見せるんですか・・・」

隣で女子社員に囲まれウーロン茶を飲んでいた九條がツッコミを入れてきたが、モラハラは

「MoGa係長にとっても憧れの人の生写真ザンスゥー(笑)
いくらまでなら出すザンスか?」

と勿体ぶったので、本当に九條の写真だと思った女子連中がガチでオークションにかかった。

「千円、千円からでいいよね?」
「えー、でもMoGaとのツーショットだったら、どうすんの?
課長―、それ、返品効きますか?」
「それでもいいから、アタシは1万円!」

少し困った顔をしながらモラハラが取り出したのは、十数枚にも及ぶキューティーの生写真だった。
俺は非難轟々の嵐に晒されるモラハラの壁になるように間に入り写真を見せてもらうと、その大半がキューティーの泣き顔であった事に驚いた。

「泣いてる・・・珍しい、何があったんですか?
というか、課長はキューティーさんとかと絡みがあったんですね」

「ミーは派閥関係無しにすべての構成員に便宜を図る偉い立場ザンスよ。
ミーの手にかかれば、愛しのキューちゃんの泣き顔の一つや二つ・・・ああ、でもこの泣いた後の笑った顔、プリチー過ぎて思わずチューしてしまいそうザンスッ!

あ、どこ行くザンスか、係長!?」

反差別の連中はアホしかいないのか?
俺は心の底から無駄な物を見たという気分になり、トボトボと自分の席に向かった。
こんな楽しくない飲み会は初めてだ。
セクハラ部長やパワハラ主任がにわかに懐かしくなった俺は、早く終わらねーかなとばかりに時計を気にしつつ、自分の席の料理に手をつけた。

「・・・・・?」

箸が空を切った事に不自然さを感じて天ぷらが盛ってあったはずの皿を見ると、空っぽで塩と天つゆしか残っていない。
ふと一つ向こうの席を見ると、モミジ君がエビ天を手づかみでムシャムシャと食っている浅ましい姿が目に入った。
彼の席の皿には、まったく同じエビ天が残っている。
つまり、彼はあろうことか係長席の天ぷらを食ってしまったのだ。

「俺の天ぷら・・・」

しかし確たる証拠もなしにモミジ君を責めるのは憚られた。
折しも、パワハラ主任が彼に対するパワハラで憂き目を見たばかりなのだ。
俺は畜生、と小さく呟きつつ、1人お手洗いに向かった。
途中でロレーヌを支えて歩く桜田さんとすれ違ったが、彼女は俺の顔を見るなり汚い物でも見るような眼で一瞥をくれながら、

「男って最低・・・」

と言って席に戻って行った。
つくづく最低の職場環境である。

「クソッ、あの『セクハラの当たり屋』め・・・ロレーヌから何を聞きやがった」

「キミの下品なブログについてではないんですか?」

ブツブツと桜田さんに対する呪詛を吐きながら小用を足して出てきた俺の前に、九條が立っていた。
彼が顎で向こうを指し示したことで、何かまた話があるという事が何となくわかり、俺は大人しく彼の後を付いて行った。

少し離れた人気のないところで、彼がまわりの様子を窺いつつ話を切り出した。

「この前言っていた、ブラックドラゴンなどについて何かわかりましたか?」

俺は彼の質問に敢えて首を振った。
余計な情報を与えても、こちらにメリットがあるとは思えない。

「先日、キミとMeGaさんことエル子さんが揉めたホームレス男性は、あの後警察に連行されました。
彼は取調べで、何も覚えていないと言い張っているそうです」

「そんな事もありましたね。
あいつはあんたらがけしかけたんじゃないんですか?」

九條は疑り深く睨む俺に、

「冗談じゃない、人を襲わせるのにホームレスを使うなどと、そんな非道な事ができるか!
いいですか、ボクらは平和、平等、博愛をスローガンにしているんですよ。
弱者を利用するなど、キミらネトウヨのような卑怯な真似はしない!」

と不快そうに言い切った。
どうやら本当に事情を知らなさそうな九條に、俺は仕方なく、

「あの男の背中に黒い龍の刺青があってですね、それを付けた張本人があんたらのボスのブラックドラゴンってわけですよ。
あのゴッドキラーにはエル子さんですら手こずりましたし、放っておけば無関係な通行人まで傷つけるところでした。
これが『組織』のやり方なんじゃないですか?
足を洗った方がいいのは九條さん、あんたの方ですよ」

などと説明してやると、彼は少なからず衝撃を受けたようで、しばらく言葉が出ないようだった。

「・・・確かに『組織』には謎の部分が多い。
あのモラハラ課長…彼の事も、ボクはどんな立場なのかよく知らないんです。
ただ、構成員は世界中、ありとあらゆる所にいると言います。
この狭い職場だけでも、ロレーヌさんと合わせて3人。

反面、キミのお仲間のネトウヨは?
いないだろう?」

言われて俺もハッと気が付いた。
敵の側はこれだけ身近なのに、考えてみたら俺のネット上の交流者は、リアルでは付き合いのない者ばかりである。

「それがネットの限界です。
多かれ少なかれ悪い事をしているから、表だって活動できない。
お互いに信用できないから、顔を合わせることもない。
匿名で大口を叩いても、リアルでは何もできないのがネトウヨです」

「違うっ、俺達はそんなんじゃない。
俺達は、俺達は・・・」

「自分が普通の日本人だとでも思いましたか?
社内にキミと同じ思想の者がどれだけいる?
どちらかと言えば、我々に賛同する者ばかりだろう。
あの社長とて、社内で堂々と保守寄りの発言はできないのだ。

闇に隠れて生きる。
キミ達はネトウヨ人なのだ。
人にブログも見せられぬ、レイシストのようなその体質!」

「早く普通人に戻りたい!」

九條に乗せられて思わず本音を口にしてしまった俺は、ハッと口をつぐんだ。
この様子に満足した様子の九條は、

「・・・まあいい、今夜の事は上司としてのキミへのアドバイスと受け止めてくれ。
『組織』とキミらとの間には、越えられない壁がある事をよく覚えておくといい。
無論、壁の向こうにはキミの想像もつかない程の広い世界が広がっている。
もっとグローバルになれ、世界は広いんだ!」

と気持ち良さそうに熱弁した。
そんな事よりも組織の実態を知りたかった俺は、

「組織、ってのは、そんなに大きいんですか?」

と彼に尋ねた。

「ああ、大きい。
非常に巨大だ。
ボクですらその全貌がわからない程にね」

「あんたらの組織はマフィアより大きいのか!?」

「そうだ、何倍も大きいぞ!」

大の男2人がトイレの傍で大きい大きいと連呼していたのが、連れ添ってお手洗いにやって来た女子社員連中にしっかりと聞かれることとなり、週明けからまたしても妙な噂が社内を飛び交うこととなった。

ともあれ、ようやく嫌な酒席が終わり帰ろうとすると、ロレーヌがうっとおしく絡んで来た。

「今夜は・・・絶対にログインしてくださいまし、係長。
私クシ、ネトウヨなどという低俗な生き物になるつもりは毛頭ありませんけども、私クシを陥れた組織にはこの手で一矢を報いなければ・・・。
私クシとて特殊能力を授かったネットワーク戦死の1人、きっとお役に立ちますワ」

「戦う前から戦死とか、縁起でもない事言わないでくださいよ・・・。

週末ですから、眠くなけりゃパソコンから何とかログインしますよ。
スマホよりは俺の動きも良くなるんです。
でも自分のブログの更新が先ですからね、最近サボるとエル子さんがうるさいんで」

手を振ってロレーヌと別れようとした俺は、後ろから

「ところで、梟のブログがまた消えてますワよ。
どなたかがまた通報してあそばせたのかしらね?」

と普通に言う彼女の言葉を聞いて背筋が凍りついた。

急いでスマホを確認すると、メッセージが1件入っている。
差出人は珍しく、最強戦士であるところの梟氏だ。
まさか、と嫌な予感がしてメッセを開いた俺は、簡潔な内容ながらも予想以上の悪い事態に戦慄した。

「件名:とりあえず連絡まで

さっきからブログにアクセスできません。
例の通報攻撃のようですが、いつもと違ってサブ垢の方も開けなくなってます。
どうも運営側に連中の息のかかった奴がいるみたいですね。
俺の方は復帰に時間がかかりそうですが、MoGaさんも気ィつけてください」