もうこれで何度めかになるかという最強戦士『梟』氏の強制退会であったが、普段とはいささか異なる状況であるらしい事は、何時間も前に彼から来ていたメッセージの内容から推察された。
アメーバの運営に『組織』の息のかかった者がいるのではないか・・・
彼のこの一言を裏付けるように、これまではものの数時間で復活していた梟氏だったが、今回に限ってはまるで音沙汰がない。
帰る道すがら、彼が立ち寄りそうなブログを片っ端から見てみたが、どこにも復活したという報せは来ていないようだ。
畑違いの戦士ではあるが、かつては彼の盟友であった『ローンウルフ』も「今度もまた蒼い彗星群、ムルチコ、キムタク、どうせそのあたりの界隈だろう」と語るのみで、他に心当たりもないようだった。
しかし梟氏本人の考え通りであれば、古くからの付き合いのブロガーですら予測できない事態が起こっているのだ。
俺はあのつまらなかった飲み会からの足で真っ直ぐに帰宅した。
「あっ、お帰り、モモンガちゃん。
ちょっとパソコン借りてるよ。
奥さんとオトメちゃんなら、もう寝てるから・・・あっ、ちょっと、どうしたの!?」
俺は帰るなり、家に1台しかないパソコン端末を使っていたエル子を押しのけ、さっそく自分のアカウントでアメブロへログインした。
「エル子さん、すいません、ちょっと緊急なんで・・・梟氏のブログがまた強制退会になったみたいなんです」
「えっ、梟さんが?
でもそれって、いつもの事なんじゃ・・・」
強制退会が日常茶飯事というのも考えてみれば酷い話だが、エル子も言うように、今までが今までだったので、必ず復活するものと皆信じているのだろう。
それにしたって、こんな言論封殺をいつまでも容認していてはいけない。
たとえいつも通りの事だとしても、抗議ぐらいはすべきだろう。
それに、俺には何となく今度ばかりはダメなんじゃないか、という嫌な予感があった。
この予感が外れていてくれればいいのだが・・・
「よしっ、じゃあ、まず奴のところだな・・・」
「ねえ、どうしようって言うの?
何かするならするでいいけど、お風呂ぐらい入ってからにしたら?」
ただならぬ雰囲気に、ネット上ではつるまないと言っていたはずのエル子もついて来ていた。
俺は彼女に言葉を返す時間も惜しいとばかりに、装備の確認をして、キムタクのアジトに向かった。
「あっ、ちょっと、ロレーヌさんは連れてかなくていいの!?」
スタスタと歩いて行く俺を呼びとめたエルコの声で、帰り際の約束を思い出した俺は、面倒くせーなと思いつつも、ロレーヌのブログに立ち寄り、「帰宅なう♪」などとやっていた彼女を引きずり出した。
「ちょっ、か、係長!?
私クシ、今帰ったばかりで・・・あーれー」
「誤解されそうな声出さないでくださいよ・・・今からキムタクのところに攻め込みますが、用意はいいですか?」
あからさまに嫌そうな顔をしたロレーヌに、俺は『集団的自衛剣』を渡して、
「ホラ、武器です。
コイツで反日連中をぶった斬ってやってくださいよ。
日本の国防など、どうでもいいと言わんばかりの奴ばっかりですからね、ソイツでよく切れるはずです」
と言うと、彼女は戸惑って、
「えぇっ、私クシ、そもそも集団的自衛権の如くは反対の立場で・・・あっ、待っておくんなまし!」
と述べつつも、エル子と一緒に後をついて来た。
「ねえ、キムタクさんのところの『李承晩ライン』はどうするの?
何なら私が・・・」
キムタクのアジトの前でバリアーを破る構えを見せたエル子よりも先に、俺は建物に向かってスマホをかざし、
「『プロパガンダバスター』!!」
と叫んだ。
画面に表示したのは、
朝鮮総連の幹部がマツタケの密輸入で逮捕された
旨の記事である。
しばらく待ってみると、建物内から数人による苦悶の叫び声があがり、目に見えぬバリアーも解けたと確信した俺は、階段へ向けて走り抜け、李承晩ラインの境界を突破し、一気に階段を駆け上がって扉を蹴破った。
中にいたキムタクを含む数人は、俺の姿を見るなり、
「何しに来たニカ、お前は!?」
「ちょうどいい、この前の狼藉の報いをここで受けるがいい!」
「よくも俺の頭にパンツなんか被せてくれたね、覚悟っ!!」
などと口ぐちに喚き出し、今やリンク無しの黒文字の人となった『3Pボカン』がいきなり鋭い飛び蹴りを繰り出して来た。
「『ウインドニードル』!!」
いつもの3倍増しで風刺を利かせた俺の風を操った攻撃が、全員の股間という股間に炸裂し、中でも直撃した3Pを含む3人ほどが股を押さえてうずくまった。
「ま、マァ、お下劣なこと・・・」
目を覆って呟くロレーヌに、『ブルーチンカス』が「うへへへへ」と笑いながら手を伸ばしたところを、俺の『馬鹿を斬る刀』が捉えた。
「うぎゃあああああああ」
この斬撃でブルーチンカスの手はチョン切れたようだが、奴は所詮幽霊のような実態を持たないカスなので問題ないだろう。
「も、モモンガちゃん、ちょっとやり過ぎじゃない?」
エル子が困惑するのもよそに、俺はキムタクに向かって真っすぐ飛びかかったが、日本人の物好きな親友である『ハル』が投げたブーメランが俺が手にした刀に命中し、『馬鹿を斬る刀』とハルのブーメランが音を立てて同時に床に転がった。
「いい加減にしろよ、テメーら・・・卑怯な事ばっかりしやがって!
『ハル』さん、あんたは、こいつらの異常さに気付かないんですか!?」
「MoGaさん、俺は直接彼らと会った事ありますけど、別に異常でも何でもない良い人達でしたよ?
もういい加減、ネットだけでやり取りしたって、彼らの事はわかりませんて。
少しは理解する努力も必要ですよ?」
一見真っ当になだめようとしてきたハルに、ロレーヌとエル子が後ろでウンウンと頷いていたが、頭に血が上っていた俺の耳には入らなかった。
「フン、そんなに仲がいいなら、彼らの本音ももう全部聞き出してるんですよね?」
「ウリ達の本音とはナニか?」
「日本が大っ嫌いって事だよ!
お前らは祖国の批判を全然しない癖に、日本にはケチばっか付けてやがるじゃねーか。
外国人のくせに、どういうつもりだ?
そんなにこの国が気に入らねーなら、祖国へ帰りゃーいいだろうが!」
キムタクに向かって言い放った俺の言葉は、味方であるはずのロレーヌとエル子もドン引きさせたが、下手な事を言うべきでないと思っているのだろう、特に口を挟んでくる様子はなかった。
「あぁ、在日は帰れだぁ?
そんな事言う奴は、死ねよ。
人に死ね、っつってんだから、お前が死ね。
なぁ、早く死ねよ!」
代わりに『アホのトタン屋』がローション使いの『ロッテ性感』、ヤブ医者『金朴李』、9.11をヤラセと言って憚らない『ヤラセ119番』を伴って、俺の周りをグルリと取り囲んだ。
ロッテ性感がぶっかけようとしたローションは、俺がのけぞってかわすと金にかかり、彼の全身はいつでもそういうプレイができる状態になった。
ついでとばかりに俺の『ネトネトネット』を他の3人にも浴びせて身動きを取れなくして、トタン屋以外の3人の反日精神を『参政剣』で1人1人丁寧に一刀両断にした。
なすすべもなく崩れ落ちた3人の姿に、トタン屋は身震いしつつも、
「お、おい、そこまで在日に文句あるなら、リアルで直接話そうじゃないか。
お前のモットーは、話せばわかるじゃなかったのか?
ネットでしかデカイ顔できねーとかじゃねえんなら、なあ、話し合おうじゃないか、ねえ、MoGa君、いや、MoGaさん?
ナニ怖い顔してんの、ねえ?」
などと、命乞いか何なのかよくわからないセリフを並べ立てた。
「お前、さっき俺に死ねとか言ってたじゃねえか」
「在日にとって、帰れと言うのは、死ねと言うのと同じだ!
どっちも存在を否定してるからだろ、そんなに在日が嫌なら、お前が日本から出てけよ、さもなきゃ死ね、死ねよぉっ!」
俺のツッコミにますます見苦しく喚くトタン屋を見かねて、ハルがブーメランを投げて助けようとしたが、当たると痛いブーメランは俺の目の前で大きく孤を描いて軌道を変えた。
そして、目の前のトタン屋の脳天にサクッと刺さると、彼は意識を失いガックリとうなだれ、その場に膝をついて動かなくなった。
「ああっ、すいません、トタン屋のアニキさん!」
「まあモモンガちゃんの存在を否定したからねえ・・・」
「ブーメランも返って来ますワね、コレは」
エル子とロレーヌのツッコミを無視して慌てて駆け寄るハルが哀れなトタン屋を抱き起したが、彼の全身にまとわりつく俺のネトネトネットが手についたのが気になったのか、指先を鼻に近づけて臭いを嗅ぎ、怪訝そうな顔をしていた。
断っておくが、ネトネトネットは一応、無味無臭無毒である。
「これがモモンガちゃんなの?
強い、強すぎる・・・!」
「た、確かに動きが普段の3倍くらい速いですワね。
飲み会の後にしてこの動きの良さは一体・・・?
係長はお酒が苦手だったハズ・・・」
疑問を述べるエル子とロレーヌに、俺は
「そりゃいつもはスマホですからね。
パソコンならブログでもコメントでも3倍くらいの速さで打てるんですよ」
と種明かししてから、その他の侮部下達に守られるように囲まれているキムタクの方に向き直り、
「通報したのはテメーらか、デブ?」
と尋ねた。
「ウリィッ、ウリがデブなら相撲取りの10割はデブニダァッ!
梟のブログの事なら、ウリは知らんセヨ。
奴のブログが消えるなんて、いつもの事ではないニカ?
ヘイトスピーチは犯罪ニダ。
従って、ネトウヨも犯罪者ニダ」
「じゃあ、お前らの中で刺青を入れてる奴、出て来い」
キムタクが通報の件をとぼけると、俺は別件の方を追及してみる事にした。
ちょうどエル子もいるので、黒い龍の刺青のある者をこの場で特定できれば、『組織』とやらの核心に一歩近づく事にもなるのだ。
ところが、俺の剣幕に恐れをなしたのか、後ろに控えたエル子の方を恐れているのか、彼らは尻ごみして誰一人として刺青を見せびらかすような事はして来なかった。
在特会とかには、しょっちゅうやってる癖に・・・
「・・・チッ、ヘタレばかりかよ。
ラチが明かないんで、もう行きましょう。
次は『蒼い彗星群』に向かいます」
弱気な彼らを前に激しく戦意が削がれた俺は、エル子達を促してキムタクブログを後にしようとした。
「待つニダ。
お前とはプロレスで決着をつける約束ニダ。
このまま逃げるのニカ?
あっ、女は相手にしないニダ、特にそこのエルコ・マスカラスとかいう女子プロの人には遠慮してもらうニダ」
呼び止めてプロレス死合を所望したキムタクは、エル子が例のプロレスラーのマスクを取り出してかぶろうとしたのを見て、慌てて付け足していた。
もう相手にするのも面倒くさくなってきた俺は、
「ああ、もう俺の負けでいいですから、逃げたとでも何でも勝手に言っててくださいよ。
あんたらの卑怯さは、よーくわかりましたから。
なんか文句あるなら、俺のブログに来てもいいですよ。
ヒマな時に相手してやりますから」
と言い残し、エル子を連れてキムタクブログから出て行った。
立ち位置が微妙なロレーヌは出て行く機会を逃して、しばらくその後の様子を見ていたらしいが、俺が出て行ったすぐ後で、
「MoGaが尻尾巻いて逃げたニダァッー!!」
「誰が汚物だらけの汚物ブログに行くかっ!
呼ばれてもいないのに勝手に来た癖しやがって!」
「ネトウヨって、いっつもこうなんですよねえー」
などと、しばし勝ち誇っていたという。
だが、本当の修羅場はむしろこの後だったらしい。
「・・・俺達は日本でちゃんと税金おさめてるんだ。
政治に口出したっていいはずだろ!
口出すなと言うんなら、俺はもう税金なんか払わん!
ビタ一文払わん!」
ハルのブーメランでダメージを受けたアホのトタン屋が堂々と脱税宣言をして、他の取り巻き連中が同調する中、キムタクは言った。
「ウリは別に参政権は要らんニダ。
外国人が日本の政治に口出すのはいかんセヨ」
場の空気が凍りつき、『クーフン』が
「ふー、キムタクさん、外国人参政権の獲得が悲願の人もいるふーから・・・」
と嗜めようとしたところ、キムタクがテーブルをドンと叩いて、
「要らんモンは要らんニダァッ!
そんなモンを欲しがるのは、南の連中だけニダァッ!!」
と叫び出し、そこから始まった血で血を洗う乱闘騒ぎから、ロレーヌは命からがら逃げ出して来たという。
アメーバの運営に『組織』の息のかかった者がいるのではないか・・・
彼のこの一言を裏付けるように、これまではものの数時間で復活していた梟氏だったが、今回に限ってはまるで音沙汰がない。
帰る道すがら、彼が立ち寄りそうなブログを片っ端から見てみたが、どこにも復活したという報せは来ていないようだ。
畑違いの戦士ではあるが、かつては彼の盟友であった『ローンウルフ』も「今度もまた蒼い彗星群、ムルチコ、キムタク、どうせそのあたりの界隈だろう」と語るのみで、他に心当たりもないようだった。
しかし梟氏本人の考え通りであれば、古くからの付き合いのブロガーですら予測できない事態が起こっているのだ。
俺はあのつまらなかった飲み会からの足で真っ直ぐに帰宅した。
「あっ、お帰り、モモンガちゃん。
ちょっとパソコン借りてるよ。
奥さんとオトメちゃんなら、もう寝てるから・・・あっ、ちょっと、どうしたの!?」
俺は帰るなり、家に1台しかないパソコン端末を使っていたエル子を押しのけ、さっそく自分のアカウントでアメブロへログインした。
「エル子さん、すいません、ちょっと緊急なんで・・・梟氏のブログがまた強制退会になったみたいなんです」
「えっ、梟さんが?
でもそれって、いつもの事なんじゃ・・・」
強制退会が日常茶飯事というのも考えてみれば酷い話だが、エル子も言うように、今までが今までだったので、必ず復活するものと皆信じているのだろう。
それにしたって、こんな言論封殺をいつまでも容認していてはいけない。
たとえいつも通りの事だとしても、抗議ぐらいはすべきだろう。
それに、俺には何となく今度ばかりはダメなんじゃないか、という嫌な予感があった。
この予感が外れていてくれればいいのだが・・・
「よしっ、じゃあ、まず奴のところだな・・・」
「ねえ、どうしようって言うの?
何かするならするでいいけど、お風呂ぐらい入ってからにしたら?」
ただならぬ雰囲気に、ネット上ではつるまないと言っていたはずのエル子もついて来ていた。
俺は彼女に言葉を返す時間も惜しいとばかりに、装備の確認をして、キムタクのアジトに向かった。
「あっ、ちょっと、ロレーヌさんは連れてかなくていいの!?」
スタスタと歩いて行く俺を呼びとめたエルコの声で、帰り際の約束を思い出した俺は、面倒くせーなと思いつつも、ロレーヌのブログに立ち寄り、「帰宅なう♪」などとやっていた彼女を引きずり出した。
「ちょっ、か、係長!?
私クシ、今帰ったばかりで・・・あーれー」
「誤解されそうな声出さないでくださいよ・・・今からキムタクのところに攻め込みますが、用意はいいですか?」
あからさまに嫌そうな顔をしたロレーヌに、俺は『集団的自衛剣』を渡して、
「ホラ、武器です。
コイツで反日連中をぶった斬ってやってくださいよ。
日本の国防など、どうでもいいと言わんばかりの奴ばっかりですからね、ソイツでよく切れるはずです」
と言うと、彼女は戸惑って、
「えぇっ、私クシ、そもそも集団的自衛権の如くは反対の立場で・・・あっ、待っておくんなまし!」
と述べつつも、エル子と一緒に後をついて来た。
「ねえ、キムタクさんのところの『李承晩ライン』はどうするの?
何なら私が・・・」
キムタクのアジトの前でバリアーを破る構えを見せたエル子よりも先に、俺は建物に向かってスマホをかざし、
「『プロパガンダバスター』!!」
と叫んだ。
画面に表示したのは、
朝鮮総連の幹部がマツタケの密輸入で逮捕された
旨の記事である。
しばらく待ってみると、建物内から数人による苦悶の叫び声があがり、目に見えぬバリアーも解けたと確信した俺は、階段へ向けて走り抜け、李承晩ラインの境界を突破し、一気に階段を駆け上がって扉を蹴破った。
中にいたキムタクを含む数人は、俺の姿を見るなり、
「何しに来たニカ、お前は!?」
「ちょうどいい、この前の狼藉の報いをここで受けるがいい!」
「よくも俺の頭にパンツなんか被せてくれたね、覚悟っ!!」
などと口ぐちに喚き出し、今やリンク無しの黒文字の人となった『3Pボカン』がいきなり鋭い飛び蹴りを繰り出して来た。
「『ウインドニードル』!!」
いつもの3倍増しで風刺を利かせた俺の風を操った攻撃が、全員の股間という股間に炸裂し、中でも直撃した3Pを含む3人ほどが股を押さえてうずくまった。
「ま、マァ、お下劣なこと・・・」
目を覆って呟くロレーヌに、『ブルーチンカス』が「うへへへへ」と笑いながら手を伸ばしたところを、俺の『馬鹿を斬る刀』が捉えた。
「うぎゃあああああああ」
この斬撃でブルーチンカスの手はチョン切れたようだが、奴は所詮幽霊のような実態を持たないカスなので問題ないだろう。
「も、モモンガちゃん、ちょっとやり過ぎじゃない?」
エル子が困惑するのもよそに、俺はキムタクに向かって真っすぐ飛びかかったが、日本人の物好きな親友である『ハル』が投げたブーメランが俺が手にした刀に命中し、『馬鹿を斬る刀』とハルのブーメランが音を立てて同時に床に転がった。
「いい加減にしろよ、テメーら・・・卑怯な事ばっかりしやがって!
『ハル』さん、あんたは、こいつらの異常さに気付かないんですか!?」
「MoGaさん、俺は直接彼らと会った事ありますけど、別に異常でも何でもない良い人達でしたよ?
もういい加減、ネットだけでやり取りしたって、彼らの事はわかりませんて。
少しは理解する努力も必要ですよ?」
一見真っ当になだめようとしてきたハルに、ロレーヌとエル子が後ろでウンウンと頷いていたが、頭に血が上っていた俺の耳には入らなかった。
「フン、そんなに仲がいいなら、彼らの本音ももう全部聞き出してるんですよね?」
「ウリ達の本音とはナニか?」
「日本が大っ嫌いって事だよ!
お前らは祖国の批判を全然しない癖に、日本にはケチばっか付けてやがるじゃねーか。
外国人のくせに、どういうつもりだ?
そんなにこの国が気に入らねーなら、祖国へ帰りゃーいいだろうが!」
キムタクに向かって言い放った俺の言葉は、味方であるはずのロレーヌとエル子もドン引きさせたが、下手な事を言うべきでないと思っているのだろう、特に口を挟んでくる様子はなかった。
「あぁ、在日は帰れだぁ?
そんな事言う奴は、死ねよ。
人に死ね、っつってんだから、お前が死ね。
なぁ、早く死ねよ!」
代わりに『アホのトタン屋』がローション使いの『ロッテ性感』、ヤブ医者『金朴李』、9.11をヤラセと言って憚らない『ヤラセ119番』を伴って、俺の周りをグルリと取り囲んだ。
ロッテ性感がぶっかけようとしたローションは、俺がのけぞってかわすと金にかかり、彼の全身はいつでもそういうプレイができる状態になった。
ついでとばかりに俺の『ネトネトネット』を他の3人にも浴びせて身動きを取れなくして、トタン屋以外の3人の反日精神を『参政剣』で1人1人丁寧に一刀両断にした。
なすすべもなく崩れ落ちた3人の姿に、トタン屋は身震いしつつも、
「お、おい、そこまで在日に文句あるなら、リアルで直接話そうじゃないか。
お前のモットーは、話せばわかるじゃなかったのか?
ネットでしかデカイ顔できねーとかじゃねえんなら、なあ、話し合おうじゃないか、ねえ、MoGa君、いや、MoGaさん?
ナニ怖い顔してんの、ねえ?」
などと、命乞いか何なのかよくわからないセリフを並べ立てた。
「お前、さっき俺に死ねとか言ってたじゃねえか」
「在日にとって、帰れと言うのは、死ねと言うのと同じだ!
どっちも存在を否定してるからだろ、そんなに在日が嫌なら、お前が日本から出てけよ、さもなきゃ死ね、死ねよぉっ!」
俺のツッコミにますます見苦しく喚くトタン屋を見かねて、ハルがブーメランを投げて助けようとしたが、当たると痛いブーメランは俺の目の前で大きく孤を描いて軌道を変えた。
そして、目の前のトタン屋の脳天にサクッと刺さると、彼は意識を失いガックリとうなだれ、その場に膝をついて動かなくなった。
「ああっ、すいません、トタン屋のアニキさん!」
「まあモモンガちゃんの存在を否定したからねえ・・・」
「ブーメランも返って来ますワね、コレは」
エル子とロレーヌのツッコミを無視して慌てて駆け寄るハルが哀れなトタン屋を抱き起したが、彼の全身にまとわりつく俺のネトネトネットが手についたのが気になったのか、指先を鼻に近づけて臭いを嗅ぎ、怪訝そうな顔をしていた。
断っておくが、ネトネトネットは一応、無味無臭無毒である。
「これがモモンガちゃんなの?
強い、強すぎる・・・!」
「た、確かに動きが普段の3倍くらい速いですワね。
飲み会の後にしてこの動きの良さは一体・・・?
係長はお酒が苦手だったハズ・・・」
疑問を述べるエル子とロレーヌに、俺は
「そりゃいつもはスマホですからね。
パソコンならブログでもコメントでも3倍くらいの速さで打てるんですよ」
と種明かししてから、その他の侮部下達に守られるように囲まれているキムタクの方に向き直り、
「通報したのはテメーらか、デブ?」
と尋ねた。
「ウリィッ、ウリがデブなら相撲取りの10割はデブニダァッ!
梟のブログの事なら、ウリは知らんセヨ。
奴のブログが消えるなんて、いつもの事ではないニカ?
ヘイトスピーチは犯罪ニダ。
従って、ネトウヨも犯罪者ニダ」
「じゃあ、お前らの中で刺青を入れてる奴、出て来い」
キムタクが通報の件をとぼけると、俺は別件の方を追及してみる事にした。
ちょうどエル子もいるので、黒い龍の刺青のある者をこの場で特定できれば、『組織』とやらの核心に一歩近づく事にもなるのだ。
ところが、俺の剣幕に恐れをなしたのか、後ろに控えたエル子の方を恐れているのか、彼らは尻ごみして誰一人として刺青を見せびらかすような事はして来なかった。
在特会とかには、しょっちゅうやってる癖に・・・
「・・・チッ、ヘタレばかりかよ。
ラチが明かないんで、もう行きましょう。
次は『蒼い彗星群』に向かいます」
弱気な彼らを前に激しく戦意が削がれた俺は、エル子達を促してキムタクブログを後にしようとした。
「待つニダ。
お前とはプロレスで決着をつける約束ニダ。
このまま逃げるのニカ?
あっ、女は相手にしないニダ、特にそこのエルコ・マスカラスとかいう女子プロの人には遠慮してもらうニダ」
呼び止めてプロレス死合を所望したキムタクは、エル子が例のプロレスラーのマスクを取り出してかぶろうとしたのを見て、慌てて付け足していた。
もう相手にするのも面倒くさくなってきた俺は、
「ああ、もう俺の負けでいいですから、逃げたとでも何でも勝手に言っててくださいよ。
あんたらの卑怯さは、よーくわかりましたから。
なんか文句あるなら、俺のブログに来てもいいですよ。
ヒマな時に相手してやりますから」
と言い残し、エル子を連れてキムタクブログから出て行った。
立ち位置が微妙なロレーヌは出て行く機会を逃して、しばらくその後の様子を見ていたらしいが、俺が出て行ったすぐ後で、
「MoGaが尻尾巻いて逃げたニダァッー!!」
「誰が汚物だらけの汚物ブログに行くかっ!
呼ばれてもいないのに勝手に来た癖しやがって!」
「ネトウヨって、いっつもこうなんですよねえー」
などと、しばし勝ち誇っていたという。
だが、本当の修羅場はむしろこの後だったらしい。
「・・・俺達は日本でちゃんと税金おさめてるんだ。
政治に口出したっていいはずだろ!
口出すなと言うんなら、俺はもう税金なんか払わん!
ビタ一文払わん!」
ハルのブーメランでダメージを受けたアホのトタン屋が堂々と脱税宣言をして、他の取り巻き連中が同調する中、キムタクは言った。
「ウリは別に参政権は要らんニダ。
外国人が日本の政治に口出すのはいかんセヨ」
場の空気が凍りつき、『クーフン』が
「ふー、キムタクさん、外国人参政権の獲得が悲願の人もいるふーから・・・」
と嗜めようとしたところ、キムタクがテーブルをドンと叩いて、
「要らんモンは要らんニダァッ!
そんなモンを欲しがるのは、南の連中だけニダァッ!!」
と叫び出し、そこから始まった血で血を洗う乱闘騒ぎから、ロレーヌは命からがら逃げ出して来たという。