Roger Daltrey  『As Long As I Have You』 | Music and others

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さて、ロジャー・ダルトリーRoger Daltrey)と言えば、ザ・フーのフロントマンではあるけれど、あまりソロ・アーティストと言う捉え方をしたことがありません。 事実、彼のソロアルバムを聴くのは、73年にリリースされた第1作目、『Daltrey』以来になります。
 
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ザ・フーのデヴュー当初は、最年長で、且つ、リード・ヴォーカリストという立場から、リーダー格的存在だった訳です。 しなしながら、オリジナル曲の作曲にサウンド面での新機軸の打ち出し、あるいは、ロック・オペラのアイデアや制作に手腕を発揮した、ギタリストのピート・タウンゼントPete Townshend)がリーダー然と見られるように変わりましたよね・・・・・。
前作である、2014年リリースのウィルコ・ジョンスンWilko Johnson)とのコラボレーション・アルバム、『Going Back Home』は英国では大ヒット作となりました。 但し、どちらかと言えばゲスト・ヴォーカリストの様な立ち位置であり、純然たるソロ・アルバムとは言えない印象を受けました
 
この6月1日にリリースされた本アルバム、9枚目になる『As Long As I Have You』は久々にいい感じに心に響きました。
 
本人のインタヴューによると、
     「これは他ならぬ原点への回帰だ。 ピートがオリジナルの曲を書き始める以前、10代の僕たちがバンドを組んで、教会のホールでわずかな観客を前にソウル・ミュージックをやっていた時代への。(後略)
 
彼のヴォーカルと言えば、柔軟性を併せ持つ技巧派ではなく、硬質でストレート(悪く言えば不器用)な印象を受けます。
 
本アルバムのプロデュースは、デイヴ・エリンガ(David James Eringa)が担当しています。彼は、マニック・ストリート・プリーチャーズ(Manic Street Preachers)のアルバム制作において長年に亘り、プロダクション、エンジニアリング、ミキシングを一手に引き受けて来ました。
 
そして、上述したウィルコ・ジョンスン(Wilko Johnson)とのコラボレーション・アルバム、『Going Back Home』もプロデュースしており、この時の貢献度が高い評価を得て、今回の依頼に繋がったようです。
本アルバムの制作は、英国でゴールドディスクとなった上述の『Going Back Home』のリリース後に開始され、ザ・フー結成50周年記念ツアー、”The Who Hits 50”の合間にも続けられました。
しかし、彼自身の闘病(髄膜炎)の為に6ヶ月間の中断が入りました。復帰後にアルバムのレコーディング内容を聴き直してみたところ、非常に落胆してしまいお蔵入りさせようと考えます。 しかしながら、レコード・レーベルとマネージメントはこっそりこのソースをピート・タウンゼントに送り届けて、感想とコメントを求めたのです。
 
思惑どおり??!、ピートは電話をかけて来て、「良いじゃないか、最後まで続けて完成させないとダメだ!」と励ましたそうです。 そして、ギターでアディショナル・レコーディングに参加してもらうことを快諾したのです。
 
 
全体的な印象は、良くあるカヴァーアルバムとは一線を画するもので、楽曲の端々にブリティッシュ・ロックのエッセンスが滲み出ています。 ちょうど今交互に聴いている、ボズ・スキャッグスBoz Scaggs)のルーツ探訪3部作の最終章、『Out of the Blues』と比べるとその違いがよく分かります。
 
 
以前ブログで取り上げた、ピート・タウンシェンドの参加しているアルバムに繋がる音なんですね・・・・・。
         正にブリティッシュ・ロック! 『ラフ・ミックス』  2015年6月(ブログはこちら↓↑
 
□ Tracking List *****
1."Garnet Mimms i"    Bob Elgin & Jerry Ragovoy  
    performed by Garnet Mimms in 1964
2."How Far"    Stephen Stills  
    performed by Manassas from "Manassas" in 1972
3."Where Is a Man to Go? "
 (original title: "Where Is a Woman to Go?")  Jerry Gillespie & K. T. Oslin
    performed by Dusty Springfield from "A Very Fine Love" 1n 1995
4."Get On Out of the Rain (original title: "Come In Out of the Rain")"
    Ruth Copeland & Clyde Wilson  
    performed by the Parliament  from "Osmium"in 1970
5."I've Got Your Love"    Boz Scaggs  
    performed by Boz Scaggs from  "Come On Home"  in 1997
6."Into My Arms"    Nick Cave  
    performed by Nick Cave & the Bad Seeds from "The Boatman's Call" in 1997
7."You Haven't Done Nothing"    Stevie Wonder  
    performed by Stevie Wonder "Fulfillingness' First Finalein 1974
8."Out of Sight, Out of Mind"    Clyde Otis & Ivy Jo Hunter  
    performed by the Five Keys in 1956
9."Certified Rose"    Roger Daltrey & Gerard McMahon
10."The Love You Save"    Joe Tex 
    performed by Joe Tex in 1966
11."Always Heading Home"    Roger Daltrey & Nigel Hinton
 
先ずはアルバム・タイトルとなっている1曲目、”As Long As I Have You”はアメリカのR&Bシンガーであったガーネット・ミムズ(Garnet Mimms)が1964年にレコーディングした曲ですが、全く聴いたことがありませんでした。 自らのグループ、ザ・フーの前身であったハイ・ナンバーズthe High Numbers)時代に取り上げていた楽曲のようですね。 オリジナル曲と聴き比べてみると、ほとんどヒネリのない忠実なカヴァーでした。
□   As Long As I Have You"  from 『As Long As I Have you』

 

 

 

 

2曲目、”How Far″は何とスティーヴン・スティルスStephen Stills)が結成していたマナサスManassas)の2枚組のデヴュー・アルバム の中の曲です。 良く知られた名曲、”It Doesn't Matter”と同じサイドに収められたラテン風味あふれるフォーク・ロック風の曲ですが、全く違うテイスト、ザ・フーのオリジナル曲のようなアレンジで別の曲に生まれ変わっています。 オリジナルにあったアコギの活かし方こそ踏襲しておりますが、ドラムスとベースは完全にキース・ムーンKeith Moon)とジョン・エントウィッスルJohn Entwistle)の二人そのものです(笑)。
 
□ "How Far"  by Roger Daltrey from 『As Long As I Have you』

 

 

 
 
 
 
3曲目はとても意外なカヴァー曲です、何とあのダスティー・スプリングフィールドDusty Springfield)の95年リリースのアルバム、『A Very Fine Love』に収められた”Where Is a Woman to Go?” を取り上げています。 ブルーアイド・ソウルの女王と言われますが、過小評価されたまま59歳で亡くなった彼女のこともっと評価してほしいものです。
 
□ "Where Is a Man to Go? "  by Roger Daltrey from 『As Long As I Have you』

 

 

□ "Where Is a Woman to Go? "  by Dusty Springfield from Later with Jools Holland on Jun. 1995

 

 

不必要な程にドライヴするベースには苦笑してしまいますが、どこまでもハードなサウンドがロジャーの心意気でしょうか? このアルバムのベスト・トラックだと思います。 オリジナルタイトルの内woman man に変えていますが、リフレインの“dooda-dooda-dooda-ay” の部分が彼のために書かれたように聴こえて仕方ありません。 それでも、原曲の良さがあらためて心に沁みますね!!
 
 
 
 
曲目ですが、7曲目以上に意外過ぎるカヴァー曲で、何とあのファンク集団、パーラメントPaliament)のデヴュー・アルバム、『Osmiumからの選曲です。 オリジナル・アルバムには収録されていなかった曲ですから、一体どうやってこの曲を知ったのか訊いてみたいと思います。 でも、雰囲気は近いのですが、オリジナルのファンク&ソウル風味は思い切り薄まっていますが、仕方ないでしょうね・・・・・。 ギターのサウンドがもうザ・フーになっています(笑)!
 
5曲目に至っては、現在同時に聴いているボズ・スキャッグスBoz Scaggs)の95年リリースのルーツ回帰作である、『Come On Home』に収められた楽曲です。ボズ自身もまだ全体的に力みを感じる歌い方の頃で、あまりしっくりとは来ていません。でも、楽曲自体は良い感じですね。ハイ・サウンドをイメージしたサウンドの筈ですが、どちらかと言えば、このロジャーのカヴァーの方がより近い雰囲気を感じさせるのは、不思議な感じを覚えます。
 
 
そして、もう一つのハイライトと呼ぶべき曲、ニック・ケイヴNick Cave)の渋いラヴソング、97年リリースの“Into My Arms“です。 二人の恋人との別離、特にP.J. ハーヴェイP.J. Harvey)とのことが背景にある、メランコリックな歌です。
 
□ ”Into My Arms "  by Roger Daltrey from 『As Long As I Have you』

 

 

 
 
□ ”Into My Arms "  by Nick Cave & The Bad Seeeds from  "The Boatman's Call" (with lyrics) in 97

 

 

 
 
 
 
そして、7曲目が意外性のあるあるカヴァーなのですが、オリジナルの趣きが殆ど感じられない、天才、スティーヴィ―・ワンダー(Stevie Wonder)の3部作の最終作である、『Fulfillingness' First Finale』からのセレクトです。邦題は何と”悪夢”でしたが、そんなファンク風味は何処えやらというアレンジで別の楽曲に仕上げています。
 
少しこういう路線はミスフィットではないでしょうかネ?
 
□ ”You Haven't Done Nothing"  by Roger Daltrey from 『As Long As I Have you』

 

 

□ ”You Haven't Done Nothing"  by Stevie Wonder from  Fulfillingness' First Finale in 74

 

 

 
 
 
そして、続いては50年代のドゥーワップのヴォーカル・グループのファイヴ・キーズ(The Five-Keys)のナンバー、”Out of Sight, Out of Mind”を取り上げています。ヴォーカルの持ち味が硬質で柔軟性に欠けるので、オリジナルの雰囲気とは違うテーストになってしまいます、この辺りが限界なのでしょうか?
 
 
更に、次に続く曲がオリジナルで自身の娘の名前を付けた曲、”Certified Rose ”ですが、アレンジと言い相似形の曲になります。失礼な言い方ですが、収録しなくてもよかったような気がします(仕方ないですけど??)。
 
10曲目で、66年のR&B、ジョー・テックス(Joe Tex)の"The Love You Save" が朗々と歌われます。この渋い、通好みの選曲で彼のこと見直しました。本当にこう言ったソウル・ナンバーをカヴァーしていたのですネ、微笑ましい限りです。
 
最後の曲は、オリジナル曲であるソウルフルなバラッド、”Always Heading Home”で幕を閉じます。エンディングにはふさわしい曲調ですが、”Home”ってやはりダブル・ミーニングでThe Who”のことも指しているように思います・・・・・・。
 
 
ピート・タウンゼントはこうコメントしています、ちょっとヨイショし過ぎかもですが・・・・・・。
       「これはロジャーのヴォーカリストとしての力が頂点に達していることを示すものだ!!
 
でも、面白かったのは、これだけ素晴らしいアルバムを創り上げたにも拘らず、ロジャー本人曰く、
  「自分のソロ・キャリアはただの”趣味”(hobby)みたいなものであり、ザ・フーが自身のいるべき場所なのだ!
 
 
 
やはり、2人になってしまっても、帰るべき場所はそこしかないとは素晴らしき一徹ぶりですね。
このアルバムをじっくり聴けば、ロジャー・ダルトリー < ザ・フー と言うことがあらためて分りますネ。