Bruce Johnston 『Going Public』 | Music and others

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 たまたま本屋で見かけた、雑誌『BRUTUS』と山下達郎氏のラジオ番組『Sunday Songbook』とのコラボ企画を手にしてから、特集されたアーティストのアルバムをあらためて聴きなおしています。
 
久し振りですが、「何年経っても良いものはイイ」、そんな感じです。
 
このアルバム、『Going Public』(歌の贈りもの)は1977年のリリースでした。
 
 


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私は、2006年に紙ジャケ仕様で限定発売された時に何とか手に入れました。今は廃盤ですが、中古盤が流通しています。  
 
今更ながらですが、ブルース・ジョンストンBruce Johnston)はザ・ビーチ・ボーイズのメンバーとしてお馴染みです。 ブライアン・ウィルスンBrian Wilson)が隠遁生活を送り始めてから、音楽面でバンドを支えていた一人であることは疑う余地がない事実ですね。 
 
才能と環境が功を奏したのか、高校時代よりインディ・レーベルから楽曲を発表して、サーフフィン・ホットロッド・シーンで活動していました。
 
よく言われているように、ロスアンゼルスに移り住んでから進学した、ユニヴァーシティ・ハイスクールで後のカリフォルニアのロックシーンを彩る同世代の仲間と巡り合い、いくつかのバンドを組みセミプロのような活動を行いました。 
 
それが縁で、18歳でインディ・レーベルのデルファイ・レコードに職を得ます。 そこで、何と全米7位のヒット曲、黒人シンガーのロン・ホールデン(Ron Holden)による”Love you So”を手掛けたのです。
 
UCLAに進学してからソロアルバム、『Surfin' 'Round The World』をリリースしますが、内容的には??と言う感じでした。 どちらかと言えば、コレクターズ・アイテムと言えるアルバムです。 
 
この後、ドリス・デイ(Doris Day)の一人息子であり、長年に亘ってコンビを組むことになるテリー・メルチャーTerry Melcher)と出会います。
 
この二人は、その時代の音楽の趨勢を見極めて、アーティストを巧くプロデュースして行く才覚があったと言われています。
バーズ(Byrds)の『Byrdmaniax』や、デヴィッド・キャシディー(David Cassidy)のアイドル脱皮を目指すソロ作品、『The Higher They Climb、バリー・マン(Barry Mann)の『Survivor』、などを制作しました。
 
でも、これらのアルバム、バリー・マン以外は酷評されており、セールス的にも低調でした。 特に、ジャケットは非常に印象に残っていますが、楽曲が全く思い浮かばないバーズは残念でしたネ。
 
 
さて、ビーチ・ボーイズにおいては、最初は65年頃より、ブライアンに代わるツアーでの代役としてメンバーとなりました。 その後は、レコーディングにおいても正式にクレジットされるようになりました。
 
やがて、彼の作曲能力、その時代の旬なサウンドを消化し取り込む能力に長けていたことが、ビーチ・ボーイズの70年前半の低迷期のサウンドに大きく貢献をして行くことになります。
 
 
70年リリースの『Sunflower』での”Deirdre”と”Tears in the Morning”、71年の『Surf's Up』では、ブライアンも絶賛する渾身の名曲、”Disney Girls”を産み出しています。 
 
当時、西海岸で一つの音楽の潮流であった、バーバンク・サウンドBurbank Sound)、産み出したのはりプリーズ・レコーズ(Reprise Records)のレニー・ワーロンカーLenny Waronker)、を巧く取り込んだ曲創りでした。
 
ただ、マネジャーとして頭角をあらわしてきた、ジャック・ライリーJack Leiley)とそりが合わずグループを脱退します。
 
さて、コロンビア・レコーズより77年にリリースされた本アルバムですが、懐かしさと新鮮さとが同居したようなサウンドで、とても心地良い作品に仕上がっています。 本当にブルースの集大成の様なアルバムですね。
 
  ※)バーバンク・サウンドの特徴は、編曲や録音の手法は極めて斬新で実験的なものであるにもかかわらず、使われる楽器やモチーフとなる楽曲は当時の先進的なロックに背を向けた懐古的なものであるところにあると言われています。
 
 
 
□ Track listing*****;
1. "I Write the Songs" (Bruce Johnston) 
2. "Deirdre" (Johnston, Brian Wilson) 
3. "Thank You, Baby" (Johnston) 
4. "Rendezvous" (Johnston, Bill Hudson, Brett Hudson, Mark Hudson) 
5. "Won't Somebody Dance with Me" (Lynsey De Paul)
6. "Disney Girls" (Johnston) 
7. "Rock and Roll Survivor" (Johnston) 
8. "Don't Be Scared" (Johnston) 
9. "Pipeline" (Brian Carman, Bob Spickard) 
 
□ Personne *****;
   Bruce Johnston - Lead Vocals, Piano, Keyboards, Bass and Guitar
 
   Michael Anthony - Acoustic Guitar
   Caleb Quaye ,Chad Stuart,Richie Zito,Ed Carter - Guitar
   John Hobbs - Guitar and Piano
   Gary Mallaber - Drums, Backing Vocals
   Joe Chemay - Bass and Backing Vocals
   Bob Alcivar - Horn and String Arrangements.
   Kathy Dragon - Flute
   Curt Becher,Jim Haas,Diana Lee,Gary Puckett,Cindy Bullens - Backing Vocals
   California Boys Choir - Backing Vocal
   Igor Horoshevsky,Jon Joyce - Cello
   Harry Betts - String Arrangements
 
   Gary Usher - Produce
 
 
 
1970年代には、ヒット曲の作り手で裏方であったはずのコンポーザーを表舞台のシンガーとしてデビューさせることが、一種のトレンドとなりました。 コロンビア・レコーズによるブルースとの契約も、そうした流れの一環だと言えます。
 
 
このアルバムのプロデュースを担当しているのは、かつてのコンビ、ブルース&テリー、とサーフ・ミュージックのプロデュース手腕を競い合っていたゲイリー・アッシャー(Gary Usher)です。
 
バッキング・ヴォーカルを歌い、ヴォーカル・アレンジも担当しているのは、サジタリアス(Sagitarius)名義による『Present Tense』以来の縁である、カート・ベッチャー(Curt Becher)です。 
この『Present Tense』は、覆面グループによるもので、プログレッシヴ・ソフトロックの金字塔と呼ばれているコレクターズ・アイテムです。
 
そして、ジャケット・デザインは同じ高校出身の元ジャン&ディーン(Jan and Dean)のディーン・トレンス(Dean Torrence)です。
 
 
 
サウンド全体の印象を一言で言い表せば、”ドリーミー・ポップ”になります、多くの方が述べているようにこれ以外の言葉は見つかりませんね。
 
アルバムの冒頭に収められているのは、彼の知名度を一気にポピュラーにした、グラミー賞に輝いた全米No.1ヒット曲である、”I Write The Songs”です。 
キャプテン&テニールCaptain & Tennille)に、デヴィッド・キャシディDavid Bruce Cassidy)が先に取り上げましたが、大ヒットしたのはバリー・マニロウBarry Manilow)によるカヴァーです。
 
グラミー賞において、年間最優秀楽曲(The Grammy Award for Song of the Year)に輝いたのです。
 
先ごろ亡くなってしまった、デヴィッド・キャシディのヴァージョンは印象に残っていますね。 アイドルからの脱皮にトライしたアルバム、『The Higher They Climb』はブルース・ジョンストンがプロデュースしていました。
 
□ David Bruce Cassidy - "I Write the Songs" from The Higher They Climb

 

 

 
 
 
バリーのいかにもと言うゴージャスなカヴァーに比べると、少しばかり地味にしたような仕上がりです。この後も多くのカヴァーがリリースされましたが、作者であるブルースのセルフ・カヴァーが一番しっくりと来ますね。 歌詞の内容が神々しいだけに、シンプルな伴奏と感情を抑えた歌い方が合っているように感じます。
 
□ Barry Manilow - "I Write the Songs" from Tryin’ to Get the Feeling

 

 



この曲の“I”(一人称の私)は特定の個人を表すのではなく、音楽そのものを示しています。 終盤には、聖歌隊のクワァイヤーが荘厳に被さります。
□ Bruce Johnston - "I Write the Songs" from Going Public
 

 

 


 
2曲目の”Deirdre“は、Sunflower』に収録された曲のセルフ・カヴァーとなります。ビーチ・ボーイズのオリジナルよりもアップテンポの8ビートにアレンジして、サムピックのベースラインを取り込んだ当時の流行りの音になっています。
 
□ Bruce Johnston  - "Deirdre " from Going Public

 

これは皆さんが述べている様に、オリジナルのシャッフル・ビートでコーラス・ワークが素晴らしいビーチ・ボーイズでのヴァージョンの方が数段良い出来だ因みに、この固有名詞である“Deirdre“は、アイルランド神話に登場する悲劇のヒロインです、発音は難しくて、”ディアドゥル“と云う感じです。
□ The Beach Boys  - "Deirdre " from Sunflower

 

 

 
 
 
 
 
もうひとつの”Disney Girls”はオリジナルよりもぐっとテンポを落とし、SS&W的な仕上がでですね、キャロル・キング的なニュアンスを狙っている様に聴こえます。 ビーチボーイズのオリジナル・ヴァージョンの方が魅力的だと思います。
□ Bruce Johnston - "Disney Girls" from Going Public

 

 

 
 
 
 
 
 
このアルバムの為だけに書き下ろした曲というのは、数曲しかありません。
 
その中の1曲、”Thank You Baby”は、”Disney Girls”や”I Write The Songs”などの楽曲の延長線上にある佳曲です。元々は、ブルース&テリーとして発表していたようですが、フェンダーローズの揺らぐ音がふんわりと全体を包み込むバラッドです。
 
□ Bruce Johnston - "Thank You Baby " from Going Public

 

 

 
 
 
 
続く三連のテンポアップした”Rendezvous”もいかにもサーフミュージックっぽい楽しい曲です。まるで、“Fun, Fun, Fun”を彷彿させる様な曲です。 
 

他人の曲をカヴァーしているのが、イギリスのシンガー・ソング・ライター、リンジー・ディポール(Lynsey De Paul)の曲、”Won't Somebody Dance With Me”です。 過剰なくらいにな甘目のコーラスとメロディーが目立ちますが、個人的にはかなり好きな曲です。
 
□ Bruce Johnston - "Won't Somebody Dance With MefromGoing Public

 

 

 

 

 
 
 
 
 
ラストは、近頃亡くなったノーキー・エドワーズ(Nokie Edwards)が率いたベンチャーズ(The Ventures)のサーフ・インスト・クラシックである”Pipeline”、こちらを仰々しいディスコ・ヴァージョンのアレンジした意表を突く曲で締めています。

時流とは言え、今聴くと異和感の塊です。
これは、カート・ベッチャーが持ち込んだアイデアだと言われています。
 
ソロアルバムが本作品1作のみに終わり、この後が続かなかったことが少し残念でなりません。
 
 
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