Doyle Bramhall ll 『Rich Man』 | Music and others

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ドイル・ブラムホール・セカンド(Doyle Bramhall II)、1968年12月テキサス州ダラス生れ左利きのギタリストです。エリック・クラプトン(Eric Clapton)のツアー、レコーディングのサポート・メンバーとして2000年位から2010年までの間、重要な役割を果たしてきました。
 
ミュージシャンとしてのデヴューは18歳で、あのジミー・ヴォーン(Jimmy Vaughan)のファビュラス・サンダーバーズ(The Fabulous Thunderbirds)のセカンド・ギタリストとして活動を始めました。 ソロ・ミュージシャンとしてはアルバムを過去に3枚リリースしてはいますが、目立った結果は残しておりません。 
 
90年初頭からは、チャーリー・セクストン(Charlie Sexton)とバンド、アーク・エンジェルス(Arc Angels)を結成して、アルバムをリリースしています。 このバンド、結構気に入っておりました。 しかしながら、大きな成功を収める事なく自然消滅してしまいます。当初から2人の異なる個性が際立つばかりで、その差が徐々に拡大してゆき、収まりが付かなくなってしまったように思います。 一説には、ドイルの麻薬依存が障害になっていたとも言われています。
 
いわゆる、ジミヘン・スタイルのギター・プレイヤーであり、サウスポーでありながら、右利き用のギターを反転させて使用しています。
 
セッション・ミュージシャンとして、幅広い活動を続けて来ました。 特に、元ピンク・フロイドのロジャー・ウォータース(Roger Waters)のツアー、"In the Fresh"ではギタリスト兼ヴォーカリストとして、デヴィッド・ギルモア(David Gilmour)の代わりの様な役割を果たしていました。 ルーツにブルーズがあるという共通点はありますが、存在感自体が違うので、ギターから出る音自体は正直比較にはならないと思います。
 
YOUTUBEなどでその演奏を耳にすると、非常に器用にデヴィッド・ギルモアの弾いたフレーズを再構築して、もう一人のギタリストであるスノーウィー・ホワイト(Snowy White)とのツィン・リードを聴かせています。 非常に巧いのですが、何か”器用貧乏”のように思えてなりません。
 
2014年から15年には、テデスキ・トラックス・バンド(Tedeschi Trucks Band)のメンバーとしてもツアー(Wheels of SoulTour )を行っています。この時、来日もしましたが本当に最高のステージでしたね!(ブログはここ↓↑
 
そんな彼が2016年9月にリリースした4枚目のアルバムになります。 当然というか、残念ながら日本での発売はされていませんので、輸入盤での購入です(iTunesなどでのダウンロードは余り好きではない、古いタイプの人間です!)。
 
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チャート・アクションを観ても、アメリカのビルボード200で187位と知名度と併せても少し淋しい結果です。 もっと多くの人に知って欲しいミュージシャン(職人)ですね!
 
特に今回のアルバムは、14年振りであるにも関わらず非常にバランスの取れた内容になっており、集大成のような出来栄えだと思います。今までの様なブルーズ・ロック寄りの内容ではなくて、よりソウル、R&Bにシフトした楽曲が中心となっています。
 
やはり、離婚と可愛い二人の娘との別離、そしてお決まりの泥沼の離婚訴訟、この試練を乗り越えて、今は新しいパートナー、オスカー女優のレネー・キャスリーン・ゼルウィガー(Renée Kathleen Zellweger )を得て充実した生活を取り戻したようです。 プライヴェートでの充足している感じが、このアルバムに満ち溢れているように感じます。
 
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□ Track listing
1)  "Mama Can't Help You (Believe It)"
2)  "November"
3)  "The Veil"
4)  "My People"
5)  "New Faith"     (featuring Norah Jones)
6)  "Keep You Dreamin'"
7)  "Hands Up"
8)  "Rich Man"
9)  "Harmony"
10)  "Cries of Ages"
11)  "Saharan Crossing"
12)  "The Samanas"
13)  "Hear My Train A Comin'"
 
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参加メンバーは多岐に亘るので、割愛しますが、彼(通称は、DBII − ”ディービーツゥ”)が今まで参加したアルバムやツアーでお馴染みの大物も参加しています(但し、控え目です)。以前のアルバムでは、元妻のスザンヌ・メルヴィン(Susannah Melvoin)人脈で、今は亡きプリンス周辺のミュージシャンが多く参加していましたけれど。
 
□  Personnel;   
   Produced by Doyle Bramhall II
   Co-produced by Woody Jackson, Andy Taub, Adam Minkoff, and Michael Harris
   Recorded at Vox Recording Studios, Los Angeles, CA and  at Brooklyn Recording Studios, Brooklyn, NY
 
全体的な印象だと、ジミヘン・フォロワーの様なギター・ワークが聴ける曲もありますが、コンポーザー&プロデューサー的な側面の方が強く出ています。カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)、ボビー・ウーマック(Bobby Womack)、或いは、レニー・クラヴィッツ(Lenny Kravitz)を挙げれば、最も近い様に思います。
 
 

 

 

オープニングは、“Mama Can’t Help You”と云う掛け声からスタートする、どこか懐かしいモータウン・ソウル調の曲です。 ここでのドラムスは、モータウンを中心にしたソウル・ミュージック界のグルーヴ・マスターである、ジェームス・ギャドスンJames Gadson であり、イントロの掛け声も彼がやっています。(オフィシャルのヴィデオにも出演しています!) あの独特の間により、心地良いグルーヴと共にファンキーさが全開となります。ベースはテデスキ・トラックス・バンド からティム・ルフェーヴル(Tim Lefebvre)が参加しています。
 
次の曲は"November"ですが、これは2011年11月に亡くなった彼の父親、ドイル・ブラムホール(通称は、Big Doyle)に捧げた曲ですね。あのスティヴィー・レイ・ヴォーンStevie Ray Vaughan)や兄のジミーと一緒にバンドを組んだりしたドラマーでもあり、DBIIの音楽キャリアに多大なる影響を与えた父親に対する想いを綴っています。
DBIIが幼少の頃から聴いてきたお気に入りのR&Bの楽曲を思い出しながら、作り上げたようです。闘病の末ではなく、62歳で急死したため、ある意味心の整理が付いていないんだろうと想います。そんな喪失感と共に、一緒に聴いたであろうスウィート・ソウル・ミュージックを思い出す様な、感傷的な詩の内容です。
 
 
"The Veil"ですが、「ヴェールの向こうに隠された人間の本性、醜い闇の部分を発見してそれを打ち破る!」ことがテーマだとは、本人の弁ではあるが、詩の内容はどう考えても別れた元妻への恨みつらみが反映されている様に感じます…。
 
続いて “My People” ですが、ここでは演奏面において大きな違いがあります。 ハーモニウム、それから、先住民族である北米インディアンの伝統楽器であるスランギ(Sarangi)、後は12弦ギターが使われています。この辺りのエスニックミュージックへのアプローチは、過去にはあまり顕著ではありませんでした。
ここ4年位前からインドや北アフリカ各地を旅した事と、毎日行なっているメディテーションからの影響かも知れません。リフレインの部分で、ヒンドゥー語やアラビア語の挨拶の言葉が加えられています。これは少しばかり余計な装飾に思えますね。
 
また、これはデレク・トラックス(Derek Trucks)からの影響もあるのかも知れませんね。パキスタンの神秘的な伝統音楽であるカッワーリーとのコラボ曲が、『Joyful Noise』(2002年リリースのデレク・トラックス・バンドによるレコーディング)にもありました。
 
 
そして、DBIIの最も良さが出ていると勝手に思っている、ミディアム・テンポのバラッドが5曲目の "New Faith"です。エリック・クラプトンに提供した、 Diamonds Made from Rain(2010年の『Clapton』に収録)と同様に良い曲です。 この曲を更に高めているのが、ハーモニー・ヴォーカルのノラ・ジョーンズNorah Jones)であり、抜群の存在感を示しています。このアルバムのベスト・トラックです。
 

 

 

 
実際に同じスタジオに一緒に入って、ライヴ・レコーディングされたそうです。 ノラ・ジョーンズのツアーに参加していた時期もある様です。
 

 

 

6曲目はもろカーティス風味満載のmellowなソウルに仕上がっています。ワウワウを利かせたギター・カッティング、良く練られていると思います。 エンディングで聴かれるギターソロには、あのエリック・クラプトン御大の手ぐせに似たフレージングに思わずニヤリとしますネ。

 

 

 

 

 

 

次にある“Hands Up”と言うこの曲は、2014年に起きた白人警官による過剰防衛とも言える無抵抗の黒人の若者の射殺に端を発した暴動の事を取り上げています。まるで、あのカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)の"Billy Jack""So  in Love"を彷彿とさせます。失礼ながら、DBIIにこう言った社会問題に言及する様な側面があるとは想像さえ出来ませんでした。 ここにも、テデスキー・トラックス・バンドからコフィー・バーブリッジ(Kofi Burbridge )がハモンド B3で参加しています。
 
 
8曲目がタイトル・トラックとなる曲ですね、本人曰く、キーワードは"Lowly"恐らくですが"Rich"との対比だと思われます。

 

 

 
10曲目からの3曲は北アフリカから地中海沿岸、中近東に掛けて旅した経験とイメージによる、イスラム圏のエスニック・ミュージックと自身のバック・グラウンドのブルーズ、ソウル、ロックとのミクスチュアとも言える楽曲が続きます。ストックがあったからか、何曲も収録するだけの意味があるのか、少々疑問に感じますけど・・・・・。
 
完全なるフェイクなのか、アラブ音楽を取り入れています。 オードの先生と共に、 DBII もオードを演奏しています。特に、10分近い長尺の"The Samanas"はジャズ・ロックのような面持ちで、60年代のサイケデリック・ロックの世界に戻ったかのようです。中盤より転調して、手数の多いドラムスがフィル・インしてからは、ジミヘンを彷彿とさせるギターがオーヴァーダブされて全く違う曲調になります。 一瞬ですが、近年のデヴィッド・ギルモア(David Gilmour)のソロ・アルバムのような展開が聴こえてきて、ロジャー・ウォーターズ(Doger Waters)のライヴ・ツアーに参加した経験が影響しているように感じました。
 
 

 

 

そんな余韻を引き摺りながら、 トッド・ラングレン(Todd Rundgren も真っ青な、ジミー・ヘンドリックスの完コピの登場です。恐らくは、今回のライヴ・ツアーでのハイライトとなる曲ですね〜。 確かに良くは出来ていますが、これはライヴだけに封印しておくべきでしょう、反則技です(笑)。
 
 
現在、DBIIはアメリカ国内でこのアルバムのプロモーションのためにツアー中です。 セットリストを観れば、彼の嗜好が分かりますね。 
カヴァー曲には、
  ミーターズとネヴィルズ(The Meters, The Neville Brothers)でお馴染みの”Africa
  カーティス・メイフィールド&インプレッションズ(Curtis Mayfield & The Impressions)の”Choice Of Colors
  クール&ザ・ギャング(Kool & The Gang)の”Funky Stuff
  ジョニー・ギター・ワトスン(Johnny “Guitar” Watson)の”Lovin' You
  それから、ビートルズ・カヴァーの”She Said She Said
と云う、「ニヤリ!」とする選曲ですね。
 
ブルーズに根ざしたロック寄り(ギタリスト的)の過去の作品よりも、よりコンポーザー&プロデューサー的な今回の内容の方がDBIIにはフィットしていると強く思います。

 

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もっと注目されてもいいミュージシャンだと思います。