身もこがれつつ | あだちたろうのパラノイアな本棚

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読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 

 

なんだか雅な雰囲気に浸りたくなって読んでみたこの本、うん、確かに雅だったが・・・予想の上を行きすごかった。

 

和歌 × BL × 承久の乱

そしてちょっぴりホラー

 

ちょっと何言ってるかわかんなくなっちゃったけど、盛りだくさんで濃厚でした。

たいへん面白かったです!

 

主人公は藤原定家。

新古今和歌集の選者などで有名な歌人。

この本のメインテーマは、小倉百人一首です。

 

来ぬ人を待つほの裏の夕凪に

焼くや藻塩の身もこがれつつ(定家)

 

さらに、主要キャラで登場するのがイケメン・藤原家隆。

彼は定家の親友であり、恋人でもあるのですキラキラ

 

風そよぐ楢の小川の夕暮は

禊ぞ夏のしるしなりける(家隆)

 

二人の青春時代から晩年に至るまでの長い長い物語が紡がれたのち、最後にこの二首の深い意味がわかるのです。

微笑ましい友情だったり、なんだか危ないラブシーンだったり。

せっかく幸せになったと思ったら二人の仲を引き裂かれて、哀しい別れになっちゃいました。

 

和歌の話だけなら雅な世界で終わったかもしれませんが、途中から登場する後鳥羽上皇が嵐を巻き起こすのです。

この頃の時代は全然平和じゃなかったんですね。むしろ、日本史的には貴族から武士に政権が移る一大変革期だったのか。

 

切ない片思いを経て、恋が成就してラブラブカップルになった二人だったのにな・・・定家と家隆の間に、後鳥羽上皇が土足で踏み込んでくる。そして、暴力的に奪っていくのでした。

いくら上皇さまでもムカつくな〜〜めちゃくちゃお邪魔虫!

 

けれども後鳥羽上皇にも生まれながらにコンプレックスがあったのでした。それは、三種の神器を継承して皇位についたのではないという引け目です。

三種の神器の一つである剣は、壇ノ浦で平家が海に沈めたまま行方不明です。このことが、後鳥羽上皇の胸に突き刺さって抜けない棘なんですね。

 

後鳥羽上皇はよく兄の夢を見ます。

安徳天皇は幼くして海に身投げをした悲劇の幼帝というイメージでしたけど、この本では帝位を奪った弟・後鳥羽上皇に付き纏い続ける海の底の亡霊です。

こんなホラーな安徳天皇は初めて見た。怖い・・・ガーン

 

ずうっとコンプレックスと孤独から逃れられなかった後鳥羽上皇は、ちょっと気の毒です。

同じく、鎌倉の三代将軍にして親とですら心を通わせられない源実朝もかなり可哀想です。彼も周りに利用されまくった挙句に無惨に死んでいきましたね・・・ガーン

 

 

和歌とBLから始まったこの物語は、中盤で政治的ドロドロの世界に様変わりしてしまいました。鎌倉で着々と独自政権を確立していく武家どもを、イラつく心で眺めざるを得ない京の朝廷。

京の側から見たら、本当に坂東武者は何考えてるかわからんですね。あの恐れを知らない振る舞い、何?

 

憎悪と焦燥感で心を病んでいった後鳥羽上皇は、ついに・・・

そして定家と家隆の運命も巻き込まれてしまい、二人はお互いを失うことになります。

 

 

全部終わってみて、いったい幸せになったのは、誰だったのかな・・・何もかも移り変わって、ただ一つ残ったのは歌だったというオチかな?

 

意外と定家は太々しく逞しいが、こういう逞しい生き方は、わたしは好きです。


 

 

〜おまけ〜

 

 

道の駅いいでのランチ。

芋煮が超絶ウマかったです。