山田風太郎さんの明治エンタメ小説。
江藤新平が描かれている『首の座』が読みたくて入手しましたが、他の短編も面白かった!明治小説全集は何巻も出ていて膨大なので、ちょっとずつ読んでいきたいなと思いました。
まずは、お目当て作品から。
●『首の座』
江藤新平が
「余は母の胎内を出でてよりいまだかつてかくのごとき苦痛に遭遇せしことあらず」
と悲痛なコメントをしたという、佐賀の乱中の逃亡の日々から始まります。相当キツかったんだろうなあ、と想像できますが・・・
江藤新平は主人公ではなくて、なんだろう・・・象徴?みたいな描き方なのかな、と思いました。
っていうかこの話、エロかったな・・・
(江藤新平がエロいわけではない)
このお話は、佐賀の「葉隠」に言及していて、哲学的な深い話になってるなと思いました。「葉隠」は、死ぬことを美化しているように誤解されるけれど、違うんですってね。この作品では人間は最後の最後まで生きたい本能を持っている、っていう解釈をしていました。
だから最後の最後まで江藤新平が抵抗し逃亡した日々を人生礼賛として読ませるラストは、清々しいと思いましたよ!
こういうお話、好きだな。
エロかったけど。(しつこいぞ)
●『東京南町奉行』
明治の世に解き放たれたかつての南町奉行・鳥居耀蔵のお話です。
この人が現役の時は江戸の街を恐怖に陥れ、その後失脚して幽閉されても明治の世になるまで生き延びたというしぶとさ。
このお話では、福沢諭吉と勝海舟のバチバチバトルが面白い。ほんとにこの二人、なんでこんなに仲が悪かったんでしょうねえ。
二人ともアッサリと旧習を捨てて次の世を見据える慧眼があったと思うけど、ここに出てくる二人の口論を聞いていると、福沢さんの方を応援したくなりますね。「痩我慢の説」ってやつですか。
わたしは、福沢さんってなんでも「科学的か、非科学的か」でブッタ切るちょっと鼻持ちならない奴、っていうイメージでいたのですが、むしろ勝さんの方が薄情で冷酷な気がしてきたな。
この二人の中に割って入るのが江戸時代の亡霊というか妖怪みたいな鳥居耀蔵なので、様々な価値観がまぜこぜです。変わるもの、変わらないもの、色々と考えさせられました。
●『おれは不知火』
佐久間象山の息子、佐久間恪二郎が父の仇討ちをするお話。
この人、新選組にも入ってたんですね。これは、佐久間象山の弟子であった会津藩の山本覚馬からの口利き。近藤さんに紹介してくれたみたいです。
でもこのお話で感銘を受けたのは、新選組よりも、、
河上彦斎、
かっこいいな!
河上彦斎って、「るろうに剣心」のモデルだったっけ?
佐久間象山を暗殺した犯人で、恪二郎の仇討ち相手です。
本当かどうか知りませんがこの物語では我流の「不知火」という剣術を使います。右足を前にグッと踏み出して前屈みになり、右手一本で鋭い突きを放つ。
「人斬り彦斎」と呼ばれて長州の奇兵隊に入ったりしたけど、明治になってからは故郷の熊本に戻り、すっかりおとなしくなって「斬らずの彦斎」と呼ばれました。
ついに恪二郎と彦斎が邂逅したのは刑場で、処刑人と罪人という立場になっていました。・・・
河上彦斎が何を考えて剣を振るっていて、そして何故あるときから剣を振るわなくなったのか、謎が多くてワクワクする物語でした。
恪二郎の最期は、あっけないです。諸行無常
〜おまけ〜
長岡紀行。
北越戊辰戦争で西軍が長岡城攻めのために上陸した地にある記念碑です。信濃川のすぐそばにあります。
今ここは、東軍・西軍共に分け隔てなく戦死者を祀る墓になってるんですね。
これ、山縣有朋(この時は山縣狂介)の陣中歌。
あた(仇)守る砦のかがり影ふけて
なつも身にしむこしの山風
北越戊辰戦争は100年に一度の大雨ということで、天候メチャクチャなんですね。両軍とも、こんな中で泥試合みたいな戦争するの、ほんとに嫌だっただろうなと想像します。
特にあったかい地域から来た兵士は、そうとう寒くて心細かったでしょうなあ・・・山縣狂介、不安いっぱいだろ。
ザ・背脂!みたいな安福亭のラーメンです。