この本、おすすめ。
ミステリーとしても濃厚だし、女と政治っていうテーマでも深い。いやむしろわたしは、後者の女と政治っていうのが心に突き刺さりました。哀しみあり、憤りあり、そしてガンバレー!っていうエールもある。良かった。
野党第一党・民政党所属の衆議院議員・高月馨は、中堅の女性議員です。口癖は「憤慨しています!」で、そう叫ぶ様子が面白おかしくテレビで取り上げられ、”憤慨おばさん”などとあだ名されています。
この高月が、与党の衆議院議員・朝沼侑子にいつもの口調で噛み付くところからお話は始まります。
朝沼は”お嬢”と呼ばれ、代々政治家を出す家系の三世議員です。ピンクのスーツとカールした髪がいかにも良家の子女で、与党の大物らにも可愛がられている女っぽい女。
両者ともベテラン女性議員で、これくらいいつもの言い争いだったはずが・・・
翌日、お嬢が毒物を飲んで自殺したというニュースが流れる。
遺書があり、
「女に生まれてごめんなさい」
などと書いてありました。
ネットのコメント欄は大荒れで、高月は叩かれまくりです。
が・・・
高月、というか周りの近しい人間たちにはわかっているのですが、お嬢はそんなことくらいで命を断つようなヤワじゃない。むしろしたたかで、ワガママで、何が起こっても我が道を行くという手強い相手だったはず。
お嬢の死の真相を知ろうと、高月や高月の秘書、新聞記者などが動き出しますが、調査を続けるほどに出てくる不可解な事実、そして「これ以上関わるな」という脅迫すら受ける。
お嬢の自殺の謎を解きながら、女政治家を取り巻く厳しい現実が暴き出されるという構成になっています。
これ、小説だけどもちろん執筆に際して取材しているんでしょう。本当なの?あまりにヒドイ扱いに情けなくなってきます。
議員同士では迂闊なセクハラなんてないだろうけど、地元支援者の接待を兼ねた会合なんかでは何でもかんでもありまくり。普段は”憤慨おばさん”などと呼ばれる高月ですら、芸者の真似をしてお酌をしたり余興を披露したり、ご機嫌をとらなければならないのです。
高月の女性秘書は、後援会のエロ爺さんに宴会の間ずっと足を触られ、じっと耐える。とにかく耐える。
何これーーー!!
これが・・・政治・・・
選挙に落ちればタダの人である議員が、耐え忍ばなければならない屈辱?
無愛想にしていれば女らしくないと言われ、女性らしくすれば女を使っていると言われ、どっちにしてもイジられる。
こんな環境で戦っていかなければならない高月とお嬢は、政治的立場としては敵だけど、実は誰よりも相手のことが共感できる好敵手だったのです。
日本のジェンダーギャップレベルは先進国最低レベルであり、その大きな原因でもあるのが、女性政治家の少なさです。
なぜか。
それは、政治家になりたがる女性が少ないから・・・じゃないんですって。むしろ、勉強会や後援会を見てみると、政治家になりたい女性はたくさん存在するのです。
が、実際に選挙に出られる女性は少ない。
理由は、党の公認を取りづらいから、だそうです。
スタートラインは一緒のように見えますが、実際に土俵の上に立てるまで、女性は数々のハードルを飛び越えて辿り着かなければならないんですね。
そして我々有権者は、自由な選択肢の中で候補者を選んでいるわけではない。
選ばせられているんです。
固定の価値観で設定された、毎年毎年変わらないいつものメニューの中から。
そんなら無所属で出ればいいじゃん、って言われるかもしれませんが、そうするとお金も支援もなく、全部自前となると苦しい。よほどの大物がバックについてるとかじゃなければ圧倒的に選挙で勝算がないでしょう。結局は二世三世なんかに全部持ってかれてるのかな。
こういう描写を読んで「何ィ」と思っている矢先に、ミステリーの謎解きが進み、新たな死人すら出ます。おっとそうだった。濃いなあ、この本。
男性の対立候補に首相が応援演説に来ます。
「どうか加賀美君を、男にしてやってください」
現実によく聞くようなセリフですが、このセリフが後で痛烈なパンチとして戻ってくるのが流石だと思いました。
ミステリーの真相は、あらまあびっくり。(伏線を察知したので、今回はなんとなく予想できてたが)
ぜひ、みんな幸せになって欲しいですね。
セクハラジジイはどっか行け。