優等生の憂鬱、あるいは名探偵の苦悩 | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


 

Z世代の名探偵ピッパ・フィッツ゠アモービの成長と苦悩を描く『自由研究には向かない殺人』の続編。前作に引き続き大人が楽しめるYAミステリの名作だ。




殺人事件を解決した事で一躍、時の人となったピップはボーイフレンドのラヴィとの交際も順調。充実した学生生活を送る。しかし、悲劇の現場に立ち会った辛い思いを引きずっていたため、探偵の真似事は二度と手を出さないと心に決める。
そんな中、友人のコナーから失踪した兄の行方を探してくれと依頼される。大学を中退しアルバイトしながら実家に住んでる兄ジェイミーは2週間ほど前から様子がおかしかったと言う。
ピップは最初は断るも、成人男性の失踪を重大に考えない警察の対応に苛立ち、自分が調査すると決意。コナーの希望で、ポッドキャストで失踪事件調査の進捗を配信し始める。
リスナーから寄せられる情報、関係者へのインタビュー、SNSなどを丹念に調べることで、ジェイミーの不可解な行動や彼がSNSで知りあった謎の女性の存在などが少しずつ明らかになっていく。
果たしてジェイミーは生きているのか? それとも……。



続編ということもあり、前作のネタばらしも多く順番に読むのが吉。リトル・キルトンのシャーロックの名声を得てしまった彼女は、本書でえらく苦労することになる。
善意で始めた調査がヤラセだと当て擦られたり、嘘の情報に踊らされたり、被害女性のためにした怒りの告発が無惨に踏みにじられたりする。
理不尽な扱いや正義がなされないことにイライラが募り、クールなピップも思わず暴力や破壊的な行動に出てしまう訳だが、これが天に唾吐く行為になろうとは思ってもみない。



ピップたちの調査はやがて意外な方向に進む。
単なる失踪人探しが「操り」テーマのミステリに変わり、思いもよらぬ悲劇を生むことになる件は、度肝抜かれる。
悪意のある人物にまんまと利用されてしまった名探偵ピップは、自分が何もしなければ悲劇は起きなかったとひどく落ち込む。そして、その人物から自分の正義とピップの正義は同じだと告げられ、具の音もでない程、打ちのめされるのだ。



彼女は、この辛い経験を乗り越えられるのか? 次の最終作が気になるところだ。伏線が前作にあったりしたので、本書で未回収の物が次作で回収されるかもしれない。