ファム・ファタールに翻弄される男 | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。



事務所も移転、車も買い替えた心機一転したサムスンが家庭の複雑な事情に巻き込まれるシリーズ第三作。


競馬で一日時間を潰していたサムスンのもとに変な依頼人がやってくる。脚本家だという男ウィルスンは、シカゴからインディアナポリスにきた演劇プロデューサーに自分の脚本から手を引くように脅して欲しいとサムスンに依頼。早速、実行してみると相手は屈強な私立探偵で依頼人が脚本家だということも嘘だと知らされる。依頼人になぜ嘘をついたのか、本当にして欲しい事がなんなのかを問いただすサムスンは、ある数奇な人生を歩む女性を守るため、あちこち奔走することになる。


ウィルスンが匿うメラニー・ベアは不幸な女性だった。放埒な父親のせいで恋人ウィルスンとの仲を諦め、せっかくできた子供も重い病気で死んでしまう。やがてシカゴに移住し結婚するのだが、その相手が偏執的なモラハラDV男で、生活に耐えかねて逃げだす。しかし、DV夫は金に物を言わせ執拗に追ってくるという。離婚もできず夫の影に怯えながら、昔の恋人のもとに息をひそめて暮らしているメラニーの悲痛な訴えに心を動かされ、サムスンは協力を約束。DV夫と彼の雇った探偵と渡り合うのだが、メラニーにはDV夫との間にできた二人目の子供がおり、その子を殺した疑惑がかけられていたことを知る。またしても依頼人に隠し事をされて、流石に心優しいサムスンも怒り心頭になっていく。


まわりの男が勝手にメラニーを悪女にしていく感じで、皮肉な展開と相まってユニークだ。地味な内容だが"ファム・ファタール"ものの変形といえる。
二人目の子供の存在の謎を粘り強い調査でサムスンは事実を明らかにし、メラニーの複雑な心情を初めて理解するのだが、彼女を求める男たちには理解できない。
最後に、メラニーの父親がキンゼイレポートで語ったある重要な事柄が明らかになる展開は参ってしまった。最初から取り越し苦労だったと分かっても一度心が離れたら、もとに戻ることは難しい。男二人を狂わし、子供も二人亡くしたメラニーは「悪女」の宿命を背負って孤独に旅立つ。そんなメラニーたちのギクシャクが、サムスンとガールフレンドとの仲にも影響する。サムスンもなかなか温かい巣を手に入れることが出来ない。