つれない夜と友達になる | 読んだらすぐに忘れる

読んだらすぐに忘れる

とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


デニス・ルヘインはどんなジャンルを書いても「ルヘインの小説」になる。本書もあらすじだけ読めば、ポーラ・ホーキンズなどその筋の女流ミステリ作家が得意とする巻き込まれヒロインのニューロティックスリラーの雰囲気を漂わせるが、最終的には紛うことない「ルヘインの小説」になっている。





物語は三部構成になっている。

第一部は、己のルーツを探る旅の物語である。

父親を知らないヒロイン、レイチェルは自分の出生に悩み、成長していく。知的ではあったが、母親は決して父親の存在を明かさず、女手一つでレイチェルを育ててきた。彼女はなぜ父親の存在を語らないのか、その事について喧嘩も絶えなかったが、母の死を契機にレイチェルは自分の父親を捜し始める。

最初は探偵に依頼するも手がかりがなさ過ぎて断念、しかしジャーナリストとなり顔が広くなったことで、当時、母親が付き合っていた男性を見つけ出す。しかし、すでに別の家庭をもっている男性は血のつながりのない「父親」であること知る。ようやく誰かと「つながり」を持てることを期待していたレイチェルは失望するも、あたらしい「父親」とは友人のような関係になり、また結婚を通して、落ち着きを得るのだが、「父親」が脳梗塞で倒れ、過酷な取材現場に足を運ぶうちに死と隣り合わせになることで、もともとのパニック障害に拍車がかかり、築き上げた地位も結婚生活も失ってしまう。




ここで描かれるレイチェルの孤独は、ルヘイン作品によく描かれるものだ。孤独に陥れることで絶望させ自死に至らしめる作品もあるくらいだ。レイチェルも不安定な状態であったが、昔からの知りあいであった探偵ブライアン・ドラクロワと再会、再婚することで居場所と心の平安を得る。しかし、読者は彼女がプロローグで夫を撃っているのを知っている。




第二部は幸せな夫婦となったのになぜ、レイチェルは夫を銃で撃つことになったのか。そして、第三部は、さらにレイチェルを「夜の世界」へと誘う危険が迫る。

引きこもりやパニック障害なんて起こしている暇はレイチェルにはない、しっかり目を開いて行動しないとすぐ死んでしまう。面白いことに、この異常な状況で彼女は生気を取り戻すのだ。




敵を倒したレイチェルは、その敵に「がんばれ」と励まされ「夜の世界」へと旅立つ。自分の人生を誰かの掌の上で転がされてきた彼女が、危険であっても自分の足で茨の道を歩く決意するラストの文章に心打たれる。



「世界に残っているのが夜だけで、そこから這い出る方法がなかったとしたら? そのときには、夜とともだちになろう。」



映画化の話は全然進んでいないようだが、そうこうするうちに2023年、待望の新作"small mercies"が出た。翻訳は来年だろうか。楽しみでしかたがない。