ダフィはいまも謀略の地に | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


ショーン・ダフィシリーズ第六弾。



前作でガールフレンドのベスとの間に子供が生まれ、酒もタバコも薬物も量を減らし育児と仕事をこなすダフィ。しかし、新しい家族には色々と悩みがあった。周りから「結婚」についてあれこれ言われ、ベスとは家族が住む場所や生活についての考えのズレで諍いが耐えない。
そんなあれこれから逃げるため、仕事に精を出すダフィ
。麻薬密売人が相次いでクロスボウの矢で撃たれる事件に手をつける。
一番目は生き残ったが、二番目は死に殺人事件となった案件は北アイルランドではありふれた事件のように思えた。しかし、IRAの下部組織のカソリック系自警団は麻薬密売人殺しの犯行声明を出しておらず、売人二人はみかじめ料を収めていたので、地元のプロテスタント系武装組織の見せしめとも考えにくい。一向に捜査が進まぬなか、今度は被害者のブリガリア人妻が消えてしまう。いつものように粘り強く捜査するダフィだったが、それが自分や家族をも絶対絶命のピンチにおとしめることになろうとは知る由もなかった。


今回取り上げられた近代史はジブラルタル攻撃だ。1988年3月、英領ジブラルタルに派遣されたIRAテロリストが、パレードで爆弾テロを企む。しかし、英国政府は情報を入手し、SASはフラビウス作戦により男女三人のテロリストを殺害した。これに呼応するようにイギリスの犬ダフィが男女三人のIRA暗殺者に処されそうになる。


オープニングでダフィは絶対絶命の危機に陥っているのだが、なぜそれが起こってしまったのか? ゆったりたどることになる。このゆったりを退屈に感じる人もいるだろうが、個人的にはこのゆったりが楽しかった。ダフィの音楽趣味(ライヒ、武満、ペルトが好きっていいセンスしている)、体調管理や家族・育児のエピソード、他愛もないクラビー、ロースンたちとのトークなどが楽しい。ずっと読んでいたい気分になる。こういう感覚はフランシス、ルヘイン、ブロックなど、その筆にかかれば何でも面白くなる作家たちの本を読んだ時と同じ感覚だ。私の中ではマッキンティはそういった「巨匠」と同じ土俵にたつ作家なのだ。


あまりネタバレにはならないだろうから書いてしまうが、今回は第一作目『コールド・コールド・グラウンド』を彷彿とさせる内容。読み返すと、ベスの父親がアレック・ギネスに似ている云々の件が見事。

マッキンティがまるで「俺はこれからJLCするぞ!」と宣言しているようで笑ってしまった。伏線にも遊び心があって楽しい。


しがない密売人の死がトラブルズを巡る危険な秘密に関連しているため、ダフィは消されそうになる。面白いのはダフィの対応だ。ショーン・ダフィの成長になんだか感慨深くなる。第一作目の頃のダフィなら確実に犯人を撃ち殺していただろう。しかし、艱難辛苦を乗り越え、強かな「大人」の男になり、守るべき家族ができ、パパになった彼は上手く立ち回ることを選択する。ある意味、第四作目で掴みそこねたキャリアをようやく手に入れた感じだ。


シリーズは残り三作で全九巻になる予定だ。いずれもタイトルは決まっている。


7作目 The Detective Up Late(2023)
8作目 Hang On St Christopher
9作目 The Ghosts Of Saturday Night


トム・ウェイツを聴かないから分からないが、おそらく意味のあるタイトルなのだろう。
1994年の停戦協議、1998年の完全和平までにどのようなドラマを展開してくれるのか楽しみだ。待ち遠しい。