ずぶ濡れの猟犬がみた雨上がりの虹 | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


ショーン・ダフィシリーズ第五弾。本作でMWA最優秀ペイパーバック賞を受賞した。今回は『アイル・ビー・ゴーン』に引き続き、クラシックな不可能犯罪を扱う。



北アイルランドにある古城、キャリクファーガス城の中庭で女性の不審な転落死体が発見される。女性はフィンランドから来た事業視察団の取材で随行していたジャーナリストだった。視察団が観光でキャリクファーガス城を訪れた時に、城に残り、管理人が施錠したあと飛び降りたと思われた。しかし、ダフィは現場に違和感を覚える。そして、検視報告書から殺人であることが明らかになり、人生二度目の密室殺人の謎解きをしなければならなくなる。
一方、ダフィの理解者であった警察高官が水銀爆弾で爆殺されたという連絡が入る。彼はIRAの手によって殺されたというが、犯行声明がない奇妙な事件だった。
ダフィを中心とするクラビー、ローソンのおなじみのメンバーは、度重なる出張、馬鹿にならぬ経費に怒られ、北アイルランドの事業誘致を妨げる捜査に怒られと、いつも通り色んな人に怒られながらも、狙った獲物を逃さない猟犬の如く事件に食らいつく。

本書は今までのシリーズを振り返る場面が多いので、順番に読むのが吉。シリーズには三つ読みどころがある。

一、ダフィという火の玉男の成熟の過程
ニ、内紛で混乱しているのに妙にすっとぼけ、でも、したたかなアイルランド人たちの会話
三、イギリス現代史、実際にあった事件を背景とする物語

三について今回、衝撃的なスキャンダルをもとにしている。BBCの人気司会者で、元プロデューサーのジミー・サヴィルの少年や少女への性的虐待は彼の死後、2014年に発覚した。こういう鬼畜が慈善家の顔をして斡旋事業をするのも不思議ではない。ダフィは女性ジャーナリストが追っていたサヴィルに関する特ダネから犯人へのヒントを掴み、密室殺人事件と高官爆殺事件に繋がりがあることをつきとめるのだが、密室の謎解きには苦戦する。

俺は頭脳明晰ではあるものの統計学的にきわめて不運なギデオン・フェル博士でもなければ、同じくらい不運なエルキュール・ポアロでもない。

と述べるダフィ。王立アルスター警察隊の警官が二度も密室殺人にぶち当たるなんてありえないと思い込み、管理人が犯人に違いないと決めつけるも、どうにもしっくりこない。トリックから犯人を探さず、動機から犯人を見つけたダフィは、やがて動かぬ証拠を手にいれる。密室物にありがちな単純なトリックだが、その可能性を一回潰しているところがいい。

狡猾な割にはお間抜けなミスだなと思ったが、その後犯人はカルロス・ゴーン並みの手際でアイルランドから脱出してしまう。いい仕事をしてもなかなか報われない、敗北の味に慣れてしまったずぶ濡れの猟犬ダフィ。しかし、そんなダフィに思いもよらぬハッピーな結末が待っている。止まない雨はないし、雨上がりには虹が出るものなのです。