ワンス・アポン・ア・タイム | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


ショーン・ダフィ・シリーズ四作目。



ベルファストに住む新興ブックメーカーの富豪夫妻が、射殺される事件が発生。容疑者と目されていた息子が崖下で死体となって発見される。現場には遺書も残され、家庭内の争いによる単純な事件かと思われた。しかし、息子のガールフレンドが排ガス自殺に見せかけ殺されたことが明らかになり、事件は連続殺人と断定。おなじみクラビーや新米ローソン刑事とともにダフィは真相を追い始める。

折しも北アイルランドでは不穏な事件が続発。外からの武器の密輸が横行、地元の兵器企業<ショート・ブラザーズ>の在庫から対戦車ミサイルシステムが盗まれ、アングロ=アイリッシュ合意の調印に反発する小競り合いがあちこちで起きていた。

暴動鎮圧任務に忙殺されながらも、事件が<ショート・ブラザーズ>の盗難と武器売買を巡るもので、謎のアメリカ人が関わっていることをつきとめる。



このシリーズでは現代史の本当にあった事件の裏側でショーン・ダフィが関わっていました、というお約束の展開がある。今回も著者のあとがきにもある通り色々詰め込まれていて面白い。中でもレーガン政権時代最大のスキャンダルと実際に兵器企業で起きた盗難事件を結びつけてしまう点は感心した。一作目ならこの「おとなしいアメリカ人」をふん捕まえてやろうとしただろうが、自分の手の届かない物事を追うのに疲れた「成熟した人間」は事件ファイルを閉じたままにする。



本書の最大の見せ場はダフィの成長と身の振りだろう。

前三作でキャリアのジェットコースターを経験したダフィは、いままでのスタンドプレーの数々を反省し今回は比較的大人しく振舞う。部下や後進を育成し、特別部の捜査員と仲良く事件を捜査する。さらに前二作で登場したMI5の支部長ケイトからMI5へのオファーがかかる。刑事一筋で頑張ってきたが、警察上層部は彼の存在を煙たがってこれからのキャリアも見込がない。オックスフォードに出張した時には、犯罪捜査に加え暴動鎮圧までさせられ、運転中にRPGを撃ち込まれたりする身の上とモース主任警部の世界そのままの平和ボケしたテムズ・バレー署とに落差を感じる。自分の能力を認めてくれるMI5に転向したほうがいいのではないか? 揺れ動く身の振りの行方は、最後に衝撃の結末を迎えることになる。



シリーズは今のところ2023年で七作目まで書かれているので半分まで来たことになる。翻訳者のあとがきを読むと翻訳続行は期待しても良さそうだが、まだまだ油断はできない。マッキンティを再び作家廃業に追い込む訳には行かないので、できる限り新刊を購入して応援しようと思っている。がんばれ、武藤さん。負けるなマッキンティ。