復讐の女神は誰に微笑む?  | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


ダニエル・ホーソーンシリーズ三作目。



『メインテーマは殺人』の刊行まであと3ヵ月。ホロヴィッツさんはプロモーションとして、ダニエル・ホーソーンと文芸フェスティバルに参加することを出版社に勧められる。気難しいホーソーンが文芸フェスに参加するとは思えないホロヴィッツさんだったが、ホーソーンは意外に乗り気で、二人は文芸フェスの開催地、チャンネル諸島のオルダニー島を訪れる。
催しは滞りなく進行するが、ホロヴィッツさんは不穏なものを感じ取る。のどかで自然豊かなオルダニー島は島の電力会社の送電線建設を巡り、島民たちが対立。さらに島にはホーソーンが在職中に怪我させた(かもしれない)小児性愛者の元受刑者がいた。
やがて文芸フェスの資金提供していた島の有力者で実業家のチャールズ・ル・メジュラーが、トーチカを改造した隠れ家でおびただしい血の海の中で発見される。
かつて第二次大戦中、ナチスの占領により強制収容所が建てられ、多くの人が死んだ悲劇的な歴史があるオルダニー島だがその後凶悪犯罪が起きたことはなく、島にはまともな捜査機関もない。そのためホーソーンが駆り出されることになる。残された手がかりをふるいにかけ、次々と殺人とは無関係な事実をふるい落とし、犯人を絞っていく。


いつも通り謎や手がかりの見せ方が上手く、楽しませる。また、物語の舞台も中身もクリスティへのオマージュになっている。
右手以外は拘束し、頸部をナイフで突き立てる処刑風の殺害方法、トランプ、コインといった小道具は過去の戦争が絡んだ復讐を匂わせるが、単なる個人的な意趣返しなのかもしれず最後まで惑わされた。
意外な人間関係を示す手がかりの見せ方も感心する。一つ一つは伏線としては弱いが、いくつか重ねることで説得力が生まれてくる。
そして、なんと言ってもクリスティっぽいのが、視線の方向だ。『死との約束』『カリブ海の秘密』などこの手が使われていましたね。旅先で事件に巻き込まれそうな時は誰が何を見ているのか、ちゃんとよく見ましょう。


ホーソーンの息子に秘密があることが明らかになって、シリーズの行方がますます気になる。