ヨーロッパのとある北の国で会計事務所ではたらく女性リズ。平凡なアラサー女子の彼女はある計画のため、会社を休み、とある南の国へ海外旅行へ出かける。チンドン屋みたいな服を着て練り歩き、パスポートをわざとタクシーに置いていき、店員や通行人、警察官に絡んで自分の臭跡をのこしていくことで、まわりの人々に自分を印象付けていく。それはやがて起こる悲劇の伏線となる。
ヘンテコな話だ。物語の前半部分でリズの旅が片道切符であると予告される。しかも、リズは自分が殺されることを知っているのだ。物語はリズが旅の途中で知りあった男に殺されるまでの顛末を描いていく。不気味なことに彼女は、自分を殺してくれそうな男を最初から探していて、目をつけた男に手当り次第に相応しい男か確認していくのだ。リズの計画に乗らされた男は加害者になるのだが、悪女に引っかかった被害者なので可哀想になる。
作中「嬰q長調のホワイダニット」という単語がでてくるが、この物語の最大の謎はやはり、なぜ彼女は自ら進んで殺されたのか? ということだろう。
ミステリファン的な発想だが、もしかしたら彼女は殺されたかったというより、自殺に見られたくなかったのではないだろうか?
だから、わざわざまわりの人にアピールをし、殺人計画に無理やり引っ張り込んだ男性に対して手足を縛ることまで要求したのではないか。あくまで、殺人だと印象付けるために。
では、なぜリズは自殺と見られたくなかったのか? そのヒントは作者のミュリエル・スパークがカトリック信者であったところにあるように思う。カトリックでは自殺は罪だ。リズが殺人にこだわった理由は、彼女がカトリックだったからではないか? 衆人さらには神を欺き、自殺という罪を隠すために殺人計画を編み出したのではないか?
見当違いかもしれないけどホワイダニットに対する解釈は、これがしっくりくると思う。