ブレア時代のイギリス
- 山口 二郎
- ブレア時代のイギリス
タイトルそのままのオーソドックスな新書。なるほど非常に分かりやすい労働党解説であった。このタイトルは森嶋通夫の『サッチャー時代のイギリス』から拝
借したらしい。あまりよく覚えていないのだが、森嶋はサッチャー批判に終始し、労働党へのレクリエムを掲げていた様な記憶がある。その森嶋の遺志を継いだ
のか、岩波に森嶋の後継者に指名されたのか分からんが、労働党政権の「人間の顔をした社会民主主義」政策を讃えている。批判的なのは対米追従の対イラク、
対テロ戦争とポピュリズム政治くらい。例えば「ゆりかご」の時に国が18になったら引き出せる貯金通帳をくれるらしいが、これがニート対策だとか。なんと
イギリスというのは素晴らしい国かと思ってしまうが、それが実態を表しているかというとそうではなかろう。他にも「マニフェスト」とか「説明責任」とか
「小選挙区」といったよく知らないまま日本人に必要以上に持ち上げられている政策の実際も書かれている。北朝鮮、ブラジル、イギリス。これが思い付くまま
に挙げた「労働党」が政権を担う国だが、儒教長子継承の金正日。組合運動から身を起こし、大統領になって初めてスーツを着たルーラ、そしてオックスフォー
ド卒の弁護士ながら「労働党」のブレアと、何ともお国柄が出ている様で面白い。
★★
悪役レスラーは笑う
- 森 達也
- 悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷
岩波っぽくないテーマだが、やはり岩波だった。
素材がすごく良いのに、著者の思想信条と強引に結び付けられて、つまらないものになってしまった。
その「思想信条」も唖然とするくらい単純で、日本のナショナリズムのみを断罪する浅はかなもの。
★
歴史認識を乗り越える
元電通社員の韓流先生という顔はあるが、この著者の書くものにはいつも「異議なーし」だ。一点「ナンセンス」があるとしたら、著者は儒教好きで、私は儒教
嫌いという点だが、だからこそ、著者の韓国人の日本人に対する精神的優越感の説明には説得力があると感じる。「強制連行」された訳でもなく、「従軍慰安
婦」にされた訳でもない現代の若者の反日感情が、はたして「歴史認識」によるものなのか、或は「中華思想」によるものかを考えると、日本人はあまりにも後
者に鈍感であるという指摘は的を射ている。「反日デモ」で溢れ出た無数の原因探しの言説の中でも、なぜ中国人が好む日本人の蔑称が、他の国に対しては例が
ない「小」日本なのかを考察したものは記憶にない。「理」という道徳的的優越感を持つ者が、下位の者に求めるのは「考」であるって、決して互いの価値観を
認めあう対等な関係ではないことは、日本では理解の限度を超えているのかもしれない。その意味では西尾幹二ら「つくる会系」の人たちもまた韓国人的だとい
うのも正しい(西尾は統一教会の手に堕ちた確信犯という説もあるが)。私が中韓北のナショナリズムに違和感を覚えるのも、それが儒教をナショナリズムに利
用した「大日本帝国」と同質の臭いを感じるからだが、マルクス主義的理解しかできない左翼には日本の過去も中韓の現在も同じ論理に支えられていることは思
いもよらないのかもしれない。「大日本帝国」を断罪して、中韓の愛国主義を賛美するのは本末転倒である。しかし、それを無自覚にしているとすれば、左翼も
また中華ヒエラルキーに則った儒教倫理を受け入れていることになる。ここで右翼も左翼も根は同じという本質が見えてくる。著者が言うところの謝罪して国際
貢献する日本という未来像を受け入れるには、まだまだ準備が足りないような気がする。
★★★★
★★★★
イヌイット
- 岸上 伸啓
- イヌイット―「極北の狩猟民」のいま
著者は日本を代表するイヌイット研究者。といっても全部で何人いるのか知らんのだが、この方面はとにかく女高男低のイメージがあるので、貴重な男性研究者
として頑張ってほしい(とかいって実は女性だったりして)。で、こちらは新書ということで、入門っぽい作りにはなっているのだが、従来の「文化人類文化人
類」した民族ものとは違って、我々現代世界に生きる人間が等しく抱える普遍的な問題を、イヌイット(この呼称の是非については、しつこくなるのでパス)社
会もまた抱えていることを痛感させてくれる。渋い変化球ながらズドンと直球が決まった感じがした。最初に本勝の例の古典を持ち出すのだが、最後に本勝の時
代と現在の変化はどうだ?と、うまいまとめ。その点では特に都市イヌイットの話があって良かった。文化人類学屋さんは基本が自然讃歌だから、こういうもの
には目を瞑ってしまうのだが、著者はむしろ、こっちの方により関心がありそう。でも、それよりスゴかったのが、前に
★★★
日仏カップル事情
- 夏目 幸子
- 日仏カップル事情 日本女性はなぜモテる?
★
米軍再編
- 久江 雅彦
- 米軍再編―日米「秘密交渉」で何があったか
著者は毎日記者。よって記事調の文体で貫かれていて、読みやすいことは、読みやすいのだが、背景を構造的に捉えるのが難しく、連載記事を途中から読んでい
る感じで、イマイチ入り込めなかった。基地問題というと、どうも反基地というより、反米親中という軍事国家に反対しているのか、賛成しているのかよく分か
らないイデオロギッシュな「平和団体」の運動ばかりが想起されるのだが、米軍再編問題は、そうした単純な連中には理解不能な論理で動いている。思えば冷戦
期には中国は在日米軍基地を高く評価していた訳だし、ビンの蓋理論もまだまだ効力はあろう。ここに来て中国が態度を180度変化させたのも、北方領土のソ
レはロシアとの関係改善であるが、在日米軍については資源奪取に全力を尽くし、台湾奪取に手段を選ばぬ「海洋覇権国家」への道程であると考えられよう。著
者もアチソン・ラインの悪夢を振り返っているが、ここで「逆ビンの蓋」の手段を講じないと、例の大陸棚の主張といい、日本もコキントウ・ラインの内側にさ
れてしまうだろう。エサを減らすのは良いが、やはり番犬を手放すにはまだ早い。
★★