司法通訳だけが知っている日本の中国人社会

森田 靖郎
司法通訳だけが知っている日本の中国人社会 (祥伝社新書 88)
ちょっと鳴りを潜めていたと思ったら、半年も待たずに2冊目か。講談社の方にカットした分を祥伝社に売り込んだのだろうか。ということで、相も変わらずの森田節の「実話系」。青龍刀とか話題になって、馳星周とか出てきたのも、もう10年くらい前の話で、歌舞伎町案内人もその稼業から足を洗ったというのに、この著者は実直にもこれ1本だ。ここに出てくる話も別に「司法通訳だけが知っている」話という訳ではないのだけど、研修生、偽装残留孤児、爆窃団、蛇頭、地下病院に地下銀行と在日中国人事件簿のエッセンスを程よく散りばめ、更に「データ装備費」とか、ホットな日本の「格差」キーワードなどまで入れて、「実話系」に仕上げている、これでエッチシーンがあればセオリー通りなのだが、一応新書なので、その辺はNG。プロローグがいきなり「こんな中国人を、私ははじめて見た」なのだが、その中国人に「人間は信頼する相手にしかホンネで話さない」と言われたことがショックだった様だ。こんな稼業で、しかも中国人相手の商売を長年してきて、そんなことを言われてショックを受けるというのも変な話だが、著者が当の中国人司法通訳に信用されたのか、その中国人を一人称とした語りが本編。となると、この主人公は不特定多数の読者を信用しているのかという疑問が生じるのだが、その辺が著者一流の芸なのであろう。つまり「日本の中国人社会」はどこまでも闇の中というところで。
★★
「正義の国」の日本人

安井 健一
「正義の国」の日本人 なぜアメリカの日系人は日本が“嫌い”なのか? (アスキー新書 (037))
これは久々の当たり本。マイク・ホンダを切り口にアメリカ日系人の屈折した感情を論じていくのだが、結果的に副題にある「なぜアメリカの日系人は日本が” 嫌い”なのか?」という単純な問題提起を超越している。著者は「放送局」の元ロサンゼルス特派員という肩書きになっているが、どうもNHKらしい。例の従軍慰安婦問題と関係してくるので、局名を伏せたらしいが、本名を出しては意味ないじゃん。しかし、これも同じ畑の金平の本とはえらい違いだ。ファミレスをドリンクバーだけで粘って書いた本とのことで、取材ノート起こしが主なのだと思うが、アメリカの日系人が世界の日系人の中で、最も日本との精神的な結びつきが希薄であることを理解するのは十分なものであると思う。それが「帝国」アメリカの同化圧力に起因するものというより、多文化社会アメリカの民族カテゴリーである「アジア系」への同化圧力にあることは、その通りだと思う。ホンダの行動原理をその様に説明するのは「定説」だが、問題は「アジア系」のコンセンサスがアメリカのモデル・マイノリティーの枠を超え、「アジア系」内マジョリティーの「母国」である国の政治に影響され易いという点にあろう。著者は韓国系の具体例をあげているが、中国系移民にしても、ホンダをアメリカの「東史郎」に祭り上げることは「祖国」への貢献であって、アメリカの「アジア系」の地位向上とは全く関係のない話であり、チベットやウイグル、北朝鮮の人権問題に「アジア系」のコンセンサスがある訳でもない。そのことを押さえた上で、日系人が「母国」に貢献しようとしないのは何故かということを考えると、やはり移民の歴史が終了したからということであろう。言うなれば中韓移民は現在も「キベイ」や「ノーノーボーイ」の時代にあると言うことで、あと数十年もしたら、「アジア系」もまた別のベクトルを示すのかもしれない。著者は最後に田麗玉まで肯定的に捉えていたりして、かなり陳腐な結論でまとめていたりもするのだが、それも、どうせ「時間」が全てを解決するから、あえて批判的なことは抜きにしたいというところに達観したからではないかとも思う。「アジア系」は無理に連帯する必要はないのだが、「人種の海」の中に放り込まれると自然に結びついてしまうものだということは否定できない事実である。
★★★★







