僕が心臓のネジを巻く時 -25ページ目
自分が可愛くなったのか
あるいは罪の重さに気付いたのか・・・
その様子を見た時
僕は昔、聞いた
ある話を思い出しました
「魔物と戦う時は
その魔物の心をのぞいてはならない
その魔物の返り血を浴びてはならない
なぜならば悪の心に吸い寄せられたり
悪の血に染まってしまうから」
それを処刑人も考えたのでしょうか
あるいは、ただ何かを待っているだけか
僕はその話には
その話にはもう1つ意味があると
教えられました
魔物と戦う時は
その魔物の心をのぞいてはならない
その魔物の返り血を浴びてはならない
なぜならば、もしもその魔物の心に
少しでも善の心が残っていたのなら
倒すことをためらってしまうから
あるいは倒した後、自分が
罪の意識にさいなまれることになる
悪は悪のまま倒されるから
自分の行いが正義だと言える
だから悪は悪のまま
葬り去らなければならない
僕はそう教えられました
そして、もしかしたら処刑人も
それを知っていたとしたら・・・
罪人の涙を見た時に
その心の中に善の心や
罪の意識を見たとしたら
ましてや彼の恵まれない環境や境遇
心の叫び、痛み、報われない悲しみを
知ってしまったとしたら
大男は処刑することをためらうでしょう
あるいは処刑したあと罪の意識に
さいなまれるかもしれません
道徳は時に人の心をむしばむ
正義は時に人の心をさいなむ
過去の過ちや失敗は拭い去れない
それがずっと消えない過去だと知りながら
正義や道徳を教えられ
自分の罪に苦しめられる
そうして自分で自分を傷つける
僕らはそれを自業自得と呼んできた
それは分かっている
それが分かっているからこそ僕は
斧を振り下ろさずにいる
処刑人に対して
祈らずにはいられませんでした
どうか処刑人が罪の意識を感じませんように
罪人に対して情けをかけませんように
罪人の心の叫びや心の痛みを
知らずにいられますように
どうか処刑人が、その仮面の下で
涙を流していませんように
悪が悪のままでいられますように
幼い時に与えられた武器で
生きるために人を殺し
大人になって
それが過ちだと教えられた人達が
一生、苦しむなどということが
ありませんように
自分の心を満たしたくて
本当に欲しいのはお金ではないけれど
それ以外に自分に価値を見出せなくて
自分を売る人達が
その過ちに気付いて
心を痛めることがありませんように
僕が処刑人で
魔物の心をのぞいた時
そこに少しでも光が残っていたのなら
あるいはその魔物を作っているのが
誰よりも深い悲しみならば
僕はきっと、その斧を振り降ろせない
僕は自分の手を汚さずに
世界をきれいにしようとする王様に
あなたが本当の悪魔だよと
教えてあげたいけれど
そんなことをいう僕も
結局、偽善者でしかない
どうか、その処刑人が
魔物の心をのぞくことがありませんように
自分を責めることがありませんように
心を痛めることなく
一生を終えることができますように
斧が振り下ろされ
処刑が行われた時
それを見ていた人達が
興奮の雄叫びを上げる中
僕は必死に祈りながら
悲しみの雄叫びをあげた
分かり合いたくても
分かり合えなくて
知りたいのに
聞けなくて
笑わせようとして
怒られて
喜ばせようとして
泣かせて
何度言っても
伝わらなくて
何度聞いても
信じられなくて
遠くにいるのに
素気なくて
近くにいるのに
もっと素気なくて
大事なことなのに言えなくて
愛しい人だからこそ言えなくて
そうやって僕らは
いくら同じ時間を過ごしても
いくら向き合っても
分かり合えなくて
同じ場所で違うものを見て
同じ時に違うものを聞いて
僕らはすれ違って行く
それでも分かり合いたくて
それでも伝えたくて
そうやって時は流れ
僕が彼女の事を分かったのは
彼女がこの世界を去った後
その時言った彼女の
「ありがとう」が
すべてだったのに
それを素直に受け入れられた時
僕の「ありがとう」を伝えるべき
彼女はこの世界にはいなくて
上を向いて泣きました
涙がこぼれないように泣きました
彼女にだけ見えるように泣きました
何時間も泣きました
彼女と向き合った時間を思い出して泣きました
彼女が怒った顔を思い出して泣きました
彼女が泣いた顔を思い出して泣きました
そんな風にして
彼女のことだけを考えて
生きていたい

